【完結】閃光と隼と風神の駆ける夢   作:そとみち

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あいさつ代わりのギャグ回。


173 活動記録① 春のファン感謝祭

 

 

 

 

 

『─────チームJAPAN、グランドスラム達成ッッ!!!ここに伝説が刻まれました!!ドバイワールドカップGⅠの全ての冠を!!我らが日本の革命世代がッ─────』

 

 

 ドバイワールドカップの映像を視聴し終えて、ウマ娘用のイヤホンを外し、ふぅ、と一息ついた。

 何度見返しても、このドバイワールドカップデーの5戦の映像は色褪せない。

 努力と、夢と、奇跡の結晶。

 いつまでも語られる、永遠の夢物語。

 

 

 ──────そんなドバイワールドカップデーが終わり、もう9か月が経とうとしている。

 

 

(……一先ず、これで3月までの活動報告は大体書けたわね。あとは、レース後の事を軽く記載して、と……)

 

 私……サンデーサイレンスは、現在、空の上、飛行機の中でタブレットを開き、今年のチームフェリスの活動報告を作成していた。

 時期は12月の下旬。既に、今年残っている日本のGⅠはあと有マ記念と東京大賞典を残すのみとなっている。

 今年は暦の都合で有マ記念よりもホープフルステークスが先に開催されており、後は年末の大一番が最後に控えていた。

 

『……ん、んっ、ふぅ~……っ!』

 

 ビジネスクラスとはいえ、機内の椅子にずっと座り続けてレポートを作成するのは肩が凝る。

 人一倍その悩みを抱える私は、大きく背を伸ばし、軽く肩の筋肉をマッサージして筋肉をほぐした。

 

 なぜ今、この師走の大切な時期に、私が飛行機に乗っているのか。

 理由は、私が一度アメリカへ帰省したからだ。

 

 12月の下旬。私の故郷、アメリカにある修道院では、クリスマスのミサが行われる。

 昨年は日本に来てすぐだったこともあり、帰省はしなかった私だが、しかし今年は既に私の愛バたるキタサンブラックが朝日杯フューチュリティステークスで一着を勝ち取っており、担当ウマ娘のレースに同伴できないということはなかった。

 また、有マ記念についてもクリスマスの後に行われる珍しい日程となっており、そこで私はタチバナに1週間の休暇を申請し、年明けまでレースの予定のないキタサンブラックを連れて、一度アメリカに里帰りをして、ミサの手伝いをしていたのだ。

 勿論、有マ記念の当日には間に合うように帰れる日程にしてある。現在は帰りの飛行機の中だ。

 

(……それにしても、キタの修道服、似合ってたわね。黒めの鹿毛だからやっぱりこの子には黒が似合うわ)

 

 自分の隣の席で、旅先の疲れもあってかぐっすりと眠っているキタサンブラックを見る。

 その寝顔は年相応に愛くるしい表情を見せ、しかしその体は自分がスカウトした1年前と比べてもさらに身長が伸びている。180cmの大台はとっくに超えた。

 そんな彼女が、私の帰省に一緒に行きたい……と言ってくれたのは、本当に嬉しかった。

 自分の故郷を、愛バに紹介することが出来た。修道院のシスターたちも私専属の担当が、教え子が出来たことを喜んでくれていた。

 いつか、フェリスのみんなを連れて、また帰りたいものだ。

 

 なお、修道院ではもちろんの事私は修道女として働き、キタもいい経験だと修道服を貸し出してミサの手伝いをしてもらった。

 流石にキタは聖歌までは歌えなかったが、私達シスターが歌う姿を見て感涙するほどに喜んでくれていたのでよしとしよう。

 この子にとっても、この旅がいい経験になっていればよいのだが───────っと。

 

(いけないいけない。気を取られちゃ駄目。ちゃんと活動報告を書き上げなくちゃね……あと10時間か)

 

 思考が逸れてしまった。今はチームフェリスの今年の活動報告をまとめる仕事を果たす時である。

 スリープモードに入ってしまったタブレットを再起動し、改めて私は今年一年のチームフェリスの活動記録の作成に戻った。

 

 

 活動記録。

 これは、タチバナから指示があり、毎年作る様に言われている、一年の振り返りの記録だ。

 練習内容、レースの内容、結果、その後どんなことがあったか。

 もちろんレースだけではなく、チームでやったイベントや出来事など……そういった一年間の振り返りを、己の主観で文章にまとめておいた方が良い、と。

 それを自分で読み返したときに、当時の事を想い出せるように。

 また、チームでもそれを読めるようにして、過去の振り返りや、新しいチームメンバーが加入したときにはどんなことをしてきていたのか、わかるように、と。

 そのような理由で、私なりの活動記録を作成するように指示を受けていた。

 

(タチバナらしい、といえばそうなのかもね…私の主観で振り返ることはとても大切なことだわ。作っているうちに理解できてきた……)

 

 勿論、チームのサブトレーナーである私としてはその指示に異を唱えるはずもなかった。

 彼のやる事、出す指示は全て意味がある。

 己の成長につながる。万感を込めてそう信じられる。

 

 それくらいには、もう、私は彼を心から信頼していた。

 他の大人の誰よりも、彼の事を信頼している。

 

 ……彼との関係性も、この一年でだいぶ変化があったと言っていいだろう。

 それについては、私なりの活動記録の中で記していくことにして……ああ、いや。

 

(……流石に全部は書けないわね)

 

 流石にこれは書けない内容も多い。生徒の目にも触れるものなのだ。

 赤裸々に書いてしまったら、私は来年の修道誓願の更新が出来なくなってしまうかもしれない。

 楽しいことも、大変なことも、嬉しいことも、恥ずかしいこともいっぱいあった。

 大切な想い出は私の胸の内にだけ残しておいて、書ける範囲で書いていこう。

 

(さ、て……それじゃあ、続きね)

 

 ドバイワールドカップの決着、その後の内容から執筆を再開した。

 

 

────────────────

────────────────

 

 

 あの奇跡のドバイワールドカップが終わり、インタビューを終えてから。

 私達チームJAPANは、最後の大トリとなるライブに備えるために、脚の負担が強かった4名……ドバイターフを走った3人とスマートファルコンの脚にタチバナ流のテーピングを施した。

 当然包帯の上から黒タイツを履かせたわけだが、4人だけタイツというのも…と意見が出て、結局は全員が黒タイツを着用して合わせることになり、これがまたウケた。

 大歓声の中行われたライブで、全員が誇らしく胸を張り踊り切った。

 

(よかったわね……あのライブは。もっとも、その後が本当に大変だったけど……)

 

 ライブの後、まず今度こそ一歩も動けなくなったファルコンと、他…ゼロの領域に新たに目覚めたヴィクトールピストとそれに追いすがったササイルの二人を病院へ搬送。

 ファルコンは入院はしなくて済んだが全身が極度の筋肉疲労。

 ヴィイとササイルも両足に軽度の筋肉炎症。

 それなりに甚大なダメージではあったが……骨折等、致命的な怪我はなくて済んだ。

 ドバイで過ごしたもう一日を炭酸泉に浸からせて筋肉をほぐしたうえで、日本でしっかりと治療をしたことで、1週間ほどで何とか全員普通に生活を送れるくらいまでは回復した。

 それだって、奇跡と言っていいだろう。

 

(ファルコンの最後の100m……守ってくれていたもんね。本当に、奇跡の100mだったわ…)

 

 私は改めて、あのドバイワールドカップの最後の100mを思い出す。

 ファルコンの周囲……いや、マジェスティックプリンスの脚までも、あの子の魂が守る様に支えていた。

 あの子たちの想いが、奇跡のレースを奇跡の決着とし、悲劇にはしないと支えてくれていた。

 きっと、今後彼女たちが走るレースでも、あれ程のタイムはもう出ないであろう。それほど特別な一夜だった。

 

(……で、日本に戻ってきたからがまた大変だった、と……ウマ娘のレースの常だけれどね、この辺りは…日本はまだ優しい方ね……)

 

 そして日本に戻ってきてからだが、まぁ取材やらなんやらが凄かった。

 文字通り大スターの凱旋となったわけで、それはもうどの記者も写真の一枚でも撮らんと空港に詰め寄った。

 そこはしっかりと法的規制を強いている日本なので、事件やらにはならなかったが…ウマ娘達にとっては、喜びのほかに疲れもあっただろう。

 まぁ、それほどの大事件を起こしたわけだから仕方がない部分もある。いろんな雑誌に特集が組まれたが、それらもよい想い出となってほしい所だ。

 

(あ、そうだ。うちの子達のレースばっかり書いていても駄目ね……その年の主要レースについても記述しておかないと……)

 

 活動報告の内容に『チーム外レース』と前置きし、日本であったGⅠレースについても記述しておく。

 ドバイワールドカップデーの翌日、みんなが炭酸泉やお風呂で体をほぐし、また他のホテルからブラックベルーガ、ミサイルマン、ウィンキス、ブロワイエなどが祝福に来てくれていたころに……日本で大阪杯のGⅠが行われていたので、みんなでタブレットで視聴したのだ。

 現地からぱかちゅーぶを実施していた元気なゴールドシップの実況も聞きながら、大阪杯を観戦した。

 

 結果をまず記入しよう。

 結果は、一着がダイワスカーレット。二着がアタマ差でウオッカ。

 東京レース場を得意とするウオッカに対し、ダイワスカーレットは阪神レース場を得意とするウマ娘だ。その分の差が出た、という所か。

 詳細なレース内の攻防については割愛する。

 しかし、このレースには凄まじい結果となった点があり、そこはきっちりと記入しておかなければならないだろう。

 

 今年の大阪杯は、レースレコードを達成している。

 それも、出走した17人のウマ娘のうち、レコードを達成したのは1()5()()

 

 ゴールの瞬間、先頭のダイワスカーレットから最後尾まで、7バ身と離れていなかった。

 そのレースに出走した全員が。

 革命世代の、GⅠの冠を取れずにシニア級になった、中堅層の実力者たちが。

 ウオッカ達以降のシニア世代の、革命世代の余波を受け奮起した歴戦のウマ娘達が。

 迸るような気合で、己の限界を連なる様に超えていった。

 

 間違いなく、前日のドバイの影響だろう。

 あれを見て昂らないウマ娘はいない。

 さらに異様さを記すならば、その日行われた中央主催の未勝利戦から重賞のレース、および地方で開催されたファームのレース、それらの8割以上のレースでレースレコードが叩き出されている。

 

 奇跡、としか言えないだろう。

 Miracle of Miracle。奇跡が呼んだ奇跡、と日本では呼ばれている。

 日本のウマ娘全員が、ドバイの奇跡を目の当たりにし、T-S論文を取り組んだ結果、革命が始まったのだ。

 

(その後の今年のレースでも、タイムが速くなったり、高レベルの展開が見られたり……全く、とんでもないことになっているわね…日本……いえ、世界中が、かしら)

 

 どこか他人事のように私は一つため息を零した。

 芝もダートも、今年からレースの常識が壊れていってしまっている。

 その原因の筆頭があのクソボケであることは間違いないが、まぁ、自分もその一端を担っていることは否定できない。

 であれば、せめてもの責任として、私が送り出すキタサンブラックは、その革命の中でも輝ける様に磨き上げるのみだ。

 

(本当に、兄さんのせいよ。苦労ばかりかけるんだから……まったく)

 

 ふんす、と鼻を鳴らして、兄さんのクソボケな笑顔を脳裏に浮かべ、一発キックを見舞っておく。

 あの男と共にいると、学ぶことも多いが、苦労することも多い。フェリスのメンバーなどその最たるものであろう。

 まったく。

 本当にまったく。

 

 

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────────────────

 

 

(……さて、と。それじゃ、4月の出来事を書いていこうかしらね…)

 

 そうして私は、活動記録の頁を切り替えて、新たに4月の出来事について書き出すことにした。

 チームフェリスとしては、この月に走るレースはない。

 帰国して1週間はキタと私を含む全員の脚のダメージを抜いて、5月初旬に開催となるGⅠ、天皇賞春にフラッシュとアイネスを出走させるための練習をして、ファルコンはまだ走れる状態ではないのでとにかくリハビリをして。

 後は適宜インタビューなども受けて、ドバイの後の祝賀会やテレビの生放送とかにも出て…この辺りはまぁ、特段大きな出来事は起きていない。軽く触れるのみでいいだろう。

 となると、次は天皇賞春の事を触れるべきか……あ、いや。

 

『……ファン感謝祭があったわね。4月上旬の…』

 

 そういえば、大きなイベントがあった。

 4月上旬に行われたファン感謝祭だ。

 そこで、私も巻き込まれてかなり恥ずかしい思いをしたのが、鮮明に記憶によみがえってきた。

 

『あー………あぁー…………思い出したくない……!!』

 

 私は黒歴史が脳裏によみがえり、頭を抱える。

 ファン感謝祭は、学園の生徒と、ファンに向けて行われるものであって、決してトレーナーが主体となるものではない。私はそう思っている。

 

 勿論、トレーナーズカップは第二回が開催され、ドナドナは廃止されて普通にエントリー式になり、トレーナー男子の部、女子の部、サブトレーナーウマ娘の部で開催されているのだが、それはそれ。

 ちなみに男子の部は専属トレーナーも参加可能になり、ドバイの英傑の一人、初咲トレーナーが一着。

 女子の部は桐生院トレーナーが殿堂入りし不参加だった。結果は小宮山トレーナーが一着。

 サブトレーナーの部は資格取得の勉強中のウマ娘も参加可能になり、ナリタブライアンとマヤノトップガンがデッドヒートを繰り広げ、ナリタブライアンが一着となった。私はドバイの脚の疲労もあったため参加していない。

 

 そして、問題はそこではないのだ。

 問題は、私たちチームフェリスで行った出し物である。

 

 今回のファン感謝祭では、秋に行われた時以上に、チームフェリスへの世間の注目度が高まっている。

 ドバイで3つのGⅠを制覇したチームが、ドバイで疲れたからファンに対して何もしません……は通らない。

 しかし、サイン会などまた開こうものなら今度こそ人数がパンクするし、実際にドバイから戻ってきてすぐに大きな出し物をやるというのは時間的な都合でも難しかった。

 どうしようか、とチームで考え、そしてタチバナの出した案を採用してしまったのだ。

 確かに、準備も容易であり、覚えるようなこともそんなに多くはなく、かつファンは見るだけでいいので当日に会場を手配してしまえばよい。

 また、その内容は大人向けではなく、むしろファンとしてきてくれた子供向けで、広い世代に喜んでもらえるだろうから……と言うことで、その内容でやる事が決まってしまった。

 フェリスのウマ娘4人は賛成していたし、私もそこに特に悩まず安易に同意をしてしまったのだ。

 日本の文化をもっと知っておくべきだったと後から深く後悔した。

 

 ああ、だが、その後悔、この感情こそ、まさしく活動報告に書いておくべき内容なのだろう。

 同じ思いをしないためにも。そして、これを読むであろうウマ娘が、チームフェリスはこんなことをしているんだ、と理解するためにも。

 

『はぁ………忘れたい……』

 

 私はため息をつきながら、イヤホンを付け直し、ファン感謝祭のチームフェリスの出し物の映像、うまちゅーぶにアップロードされているそれを開いて、再生ボタンを押した。

 

 

────────────────

────────────────

 

 

 

「だーーーーーはっはっは!!!たこ焼き星人参上やーーーっ!!悪い子はたこ焼きにしてまうでーーっ!!」

 

 ファン感謝祭のイベントブースで、チームフェリス主催の演目が始まった。

 内容は『ヒーローショー』。

 ファン感謝祭に来てくれた子供たち向けに、チームフェリスのウマ娘メンバーで、ヒーローショーを実施することになったのだ。

 

 そして今、その演目にゲストとして呼ばれているタマモクロスが、たこ焼きの着ぐるみを着て、悪役としてのセリフを演じてくれている。

 ドバイから戻ってきたチームフェリスの立華トレーナーより依頼を受けて、あの夜の奇跡を実況していたタマモクロス側の積極的な支援の気持ちもあり、快諾したというわけだ。

 タマモクロスは関西人の魂がインストールされており、ノリの良さでは学内でも随一だ。

 凡そのヒーローショーの流れを説明されたところで、「おう、任せえ!!アドリブでしっかり演じ切って見せるわ!!」と大見栄を切ってしまい、しかし実際に演じ切れるであろう自信もあった。

 立華もまたそんな彼女のアドリブ力の高さを知っており、彼女なら何とかしてくれるだろうという信頼の下で、深い打合せはしないままに出演してもらっていた。

 

「きゃーっ!!たこ焼き星人が襲ってくるー!!」

 

「ぐへへへへー!!ほーれそこのポニーちゃん!早く逃げないとたこ焼きビームでたこ焼きになってまうでぇ~~??」

 

「いやーっ!!助けてぇー!誰かーっ!!」

 

「ぐへへへへぇ~!!今からお前はウチの好物になるんや~~!!」

 

 さてしかしそんなタマモクロスが、同じく立華から依頼を受けて子役として出演しているニシノフラワーに襲い掛かる。

 それを見守る観客席の子供たちも息を呑み、ヒーローは来ないのか、と呼び始める。

 タマモクロス(たこ焼きの姿)の魔の手がニシノフラワーに掴みかからんと言ったタイミングで、とうとうヒーローたちが現れた。

 

 

「待ちなさいっ!!!」

 

「ん!?何や!?ナニモンや!?」

 

 

「「「「とうっ!!」」」」

 

 

 舞台セットの裏側から戦隊スーツを身に着けた5人が飛び出してくる。

 見事なヒーロー着地を決め、ダイ○ンジャーの丸パクリのキレッキレの登場ポーズを見せながら、名乗りを上げる。

 もちろん効果音付きである。また、ウマソウルパワーによる領域の発現で、その姿は輝いて見えた。

 

 

「─────フェリスブラック!!」

 

 まず一人目。黒のスーツを身にまとう、エイシンフラッシュ。

 名乗りのポーズをしっかりと決め、完璧な名乗りを上げた。

 

 

「─────フェリスピンク☆!!」

 

 続いて二人目。ピンクのスーツを身にまとう、スマートファルコン。

 名乗りのポーズをしっかりと決め、完璧な名乗りを上げた。

 

 

「─────フェリスピンクなの!!」

 

 そして三人目。ピンクのスーツを身にまとう、アイネスフウジン。

 名乗りのポーズをしっかりと決め、完璧な名乗りを上げた。

 

 

「─────フェリスブラック……」

 

 重ねて四人目。黒のスーツを身にまとう、サンデーサイレンス。

 高難易度な名乗りのポーズをしっかりと決め、死んだ目で名乗りを上げた。

 

 

「─────フェリスブラックです!!」

 

 最後に五人目。黒のスーツを身にまとう、キタサンブラック。

 名乗りのポーズをしっかりと決め、完璧な名乗りを上げた。

 

 

 

「────────天に輝く、猫の星!!!」

 

 

「「「「五人揃って!!フェリス☆ファイブ!!!」」」」

 

 

 

 わぁっ!!!とその大スターである5人の登場に、子供たちから歓声が沸く。

 何故か大人からは大爆笑が生まれているのだが、何故だろう、と舞台裏から見守っているクソボケは首をかしげていた。

 

 

「さあっ!!今のうちに逃げるんです!!」

 

「あ、ありがとうございますっ!!」

 

「早く逃げるのー!!!」

 

 

 すぐに被害にあっていたニシノフラワー(子役)を逃がし、臨戦態勢をとるフェリス☆ファイブ。

 ここから悪役であるタマモクロスとのバトルが始まるのか、と子供たちが期待したその時。

 

 

「───────違う。」

 

 

 タマモクロスのツッコミが炸裂した。

 

 

「…違う。自分ら違う。自分ら、何?」

 

「……フェリス☆ファイブ!!!」

 

 

 問いかけに応えたエイシンフラッシュが元気に返事を返す。

 

 

「フェリス☆ファイブやないやろがい!!おかしいやろ!?おぉ!?アイネス!!自分何色や!?」

 

「フェリスピンク!!五人揃って─────」

 

 

「「「「フェリス☆ファイブ!!!」」」」

 

 

「ちっがぁーう!!!違う違う!!ファルコンお前何色や!?」

 

「フェリスピンク☆!!」

 

「なんでピンクが二人おるんじゃい!?なめとんのか!?」

 

「フェリスブラック!!!」

 

「キタが黒なのは見れば分かるわ!!アホなんか!?」

 

 

 どうやらタマモクロスの芸人魂がツッコミを抑えきれなかったらしい。

 完全にコントの流れが作られ、大人たちは大爆笑、子供たちもその面白さを理解して笑顔を浮かべている。

 

 

「おかしいやんか明らかに!?なんで黒が3人ピンクが2人やねん!!」

 

「何故、と言われましても……私の勝負服のカラーは黒ですから」

 

「おお……そうやな?フラッシュは黒やな?漆黒の閃光。ええやん。二つ名カッコエエやん」

 

「ふふっ、有難うございます」

 

「笑顔でお礼言うタイミングじゃないんやなぁ!?なんで黒で揃えたねん!?キタぁ!!お前なんで黒と黒で揃ってんねや!?」

 

「え、だって私キタサンブラックですし……」

 

「どっちか譲れやぁ!!!ってかそれ言ったらサンデートレーナー!?なんでアンタまで黒やねん!!あと申し訳ないけどその服は無理があるやろ!?効いとるで……!!!」

 

「………殺してくれ……」

 

「─────フェリスピンク☆!!」

 

「仲間が困ったからって勢いで誤魔化そうとすんなやファルコン!!」

 

「あたしもフェリスピンク!!五人揃って─────」

 

 

「「「「フェリス☆ファイブ!!!」」」」

 

 

「ちっがぁーう!!色がおかしいっつっとんのやぁ!!なんや、アイネス!!自分とファルコンのピンクのどこが違うねん!!違うところ言ってみろや!!」

 

「え…?いや、あたしはほら、逃げウマ…?なのがアピールポイント、みたいな?」

 

「それはファルコンもやろがぁ!!」

 

「私は逃げシスやってるよ☆」

 

「アイネスもやろが!!話聞いとらんのか!!」

 

「私は逃げシスに入ってないです!!」

 

「キタは今話振っとらんよなぁ!?元気か!!元気やったわなぁ!!デッカくなりよったなぁ!?」

 

「五人揃って!!」

 

 

「「「「フェリス☆ファイブ!!!」」」」

 

 

「やかましいわ!!いちいち効果音鳴らすな裏方ァ!!やっぱどう考えてもおかしいねん!!せめてもうちょっと色を分けろや!!フルハウスやんか!?」

 

「エアグルーヴ副会長と同じこと言ってるの」

 

「ね☆」

 

「そりゃエアグルーヴが正しいわぁ!!なんで助言を大切にせんかったんや!?」

 

「……そこまで言うなら仕方ありませんね。私がフェリスホワイトになりましょう」

 

「…お?ええんかフラッシュ?そうやな、勝負服にも白はあるし、調理服とかも白やもんな?ええで、その調子や」

 

「じゃあ私もフェリスホワイトになります!!!」

 

「キタまで白になってどうすんねんてぇ!!!自分さっきキタサンブラックや言うとったやないか!?」

 

「えへへ、なんか白い勝負服も似合うかなーって……」

 

「己の名前を裏切るな名前をォ!!色を分けろ言うてんねんてぇ!!!」

 

「ねぇ、そろそろ戦わない☆?」

 

「時間が押してるの。本当に申し訳ないんだけどタマ先輩のわがままにこれ位以上付き合ってられないっていうか……」

 

「ウチか!?ウチが悪いんかそれェ!?」

 

 

 観客席が見事なキレのあるタマモクロスのツッコミとチームフェリスの天然ボケに抱腹絶倒しながらも、しかしやはり演目上のタイムスケジュールもあるため、お互いに臨戦態勢を取り始める。

 やることはやらなくてはならない。

 タマモクロスもまた悪役として綺麗にやられてやらなあかん、とこの舞台がヒーローショーであることを思い出し始めたところで。

 

 

「─────では、参ります」

 

「ちょっと待てェ!?フラッシュお前ガチやんか!?なんで領域エフェクト使ってレイピア取り出しとるんや!?」

 

「風神VS雷神……楽しみにしてたの、タマ先輩」

 

「アイネスまでちょっと待てや!?その風はアカンて!!たこやき切り裂かれてまうって!!!」

 

「私はまだドバイの疲れが抜けてないから……武器になるね☆!後はよろしく、キタちゃん!!」

 

「お任せくださいっ!!クワガタファル子先輩の自慢のアゴで!!たこ焼き星人を真っ二つですっ!!合体ッ!!!」

 

「装備品みたいになんやなファルコン!!頭の所に『E』ついとるがな!?たこ焼きは丸いからええんやぞ!?切り裂かれたら台無しや!!」

 

「……………………死にたい……」

 

「サンデートレーナーがゆでダコみたいに顔真っ赤でへたりこんどるぞ!?仲間を助けてやれやお前ら!!!」

 

「問答無用!!」

 

「駄目か!?問答駄目かなぁ!?せめて作麼生(そもさん)させてくれんか!?説破は諦めるからせめてツッコミをやな!?」

 

「悪は滅びる定めなの!!」

 

「いっけー☆!!キタちゃん☆!!」

 

「行くぞぉーーーーっ!!!」

 

「やめろぉーーーーーーーーーッ!!!」

 

 

 そしてフェリス☆ファイブ(一名戦線離脱)からの一斉攻撃により、タマモクロス…いや、たこ焼き星人は打倒された。

 正義の勝利である。

 ズタズタに切り裂かれたたこ焼き星人の着ぐるみが横たわる壇上で、もう一度五人で正義の名乗りを上げて、見事にチームフェリスの演目は大成功を収めたのだった。

 

 

────────────────

────────────────

 

 

 停止ボタンを押し、イヤホンを外す。

 そして赤くなった自分の頬をぺちぺちと叩いて、羞恥を散らす努力をする。

 

 

 ──────何やってんの私。

 

 

『……せめて、どんな服を着ることになるか聞いておけばよかった……』

 

 戦隊といったらコレだ、と当日になって示されたコスチュームが、まさか全身タイツのような服だとは思っていなかった。

 これまでも同じように戦隊ものをやったことがあるらしく、既に何着も揃っていたというそのコスチューム。

 修道女としてあそこまで体のラインが出る服に袖を通すのは、最早恥以外の何物でもない。勝負服は廃熱効率なども考慮した高級な布素材を使っていたからあれはまた別として。

 現役を退いてからサイズが増えてしまっていた腰のラインまでぴっちりと出てしまい、その羞恥で私は終始死んだ目で演じ続けていた。

 何度思い返しても、恥ずかしい。

 成人した大人のウマ娘がやっていいそれではなかった。

 アクターという仕事に心からの敬意が生まれてしまった。生まれてほしくなかった。

 

(……これも、いつか、いい想い出になるのかしら……?)

 

 動画へのリンクを活動記録に添付し、ファン感謝祭の内容について記述しながら、私は内心で首をかしげる。

 いつ見直しても恥ずかしい映像で、あの後映像を見たというイージーゴアとオベイユアマスターから爆笑したという旨のLANEが入り、さらに羞恥を覚えたことは記憶に新しいのだが。

 この羞恥も、いつか、想い出に昇華されるのだろうか。

 トレーナーという仕事は、これほど身を削る仕事だったのだろうか。

 

(……ああ、いやでも……タチバナも他のトレーナーも、そんな感じよね……やっぱり、トレーナーって大変な仕事よ、神父様)

 

 しかし改めて思い返してみれば、日本で自分が知るトレーナーのその全員が、トレーナーズカップやらなんやらで日常的に大変な様子を見ている。

 一流のトレーナーを目指すのであれば、この程度の苦労は買ってでもしなければならないのだろう。

 であれば、立派なトレーナーになるために、自分も泣き言は言っていられない。

 恥ではなく経験と捉えられるよう、努力しよう。

 

 

(……さ、て。それじゃ、続きはまともな活動記録になるからね。切り替えなきゃ……)

 

 

 ここまで作成した活動記録を一度保存し、バックアップを取り、改めて私は執筆に戻った。

 

 

 

_──いや絶対日本がおかしいだけだと思うぜ?

 

 

 

 





お待たせしました。投稿を再開していきます。
ここからはこのように、SSが語り部になる形式で、描きたい描写を中心に物語を進行させていく予定です。
これならシンプルに内容がまとまりますね(初回1万文字越え)(絶望)

物語の終結まで、今しばらくお付き合いいただければ幸いです。


寸劇の元ネタはアカレンジャイでyoutubeでググってください。
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