【完結】閃光と隼と風神の駆ける夢   作:そとみち

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175 活動記録③ 五月の出来事

 

 

 

 

 

(…このころのチーム活動としては……キタの練習が中心になってたのよね。3人とも脚の疲労を抜いてたから)

 

 5月のGW中に行われた天皇賞春の激戦の後、チームフェリスではシニア級の3人はおおよそ脚の負担を抜くことに務めていた。

 ファルコンはドバイから1か月が経過し、走ることもできる程度に回復はしていたが、まだ本格的な走行練習には復帰させられず。むしろ、回復後に衰えがないように全身の体幹を改めて仕上げ直す時期に充てていた。

 勿論、3200mの長距離レースを終えた後の二人も脚の負担を抜かなければならず、3週間は疲労回復のマッサージとプール運動に留めていた。

 このころ、ドバイで好成績を残せた理由に炭酸泉やサウナなどの疲労回復施設がとても良い効果を果たしていたのでは?というトレーナー陣からの提起立案があり、実際にドバイに視察に行っていた理事長やたづなサンも温泉効果により肌艶が良くなったりしていた結果、試験的に学園に炭酸泉が設置されることになった。

 これが中々の効果を見せる。設置して一か月、レースに出走するなど疲労が深いウマ娘が予約制で交代で使用したのだが、明らかに体の回復が早まったという意見が出てきている。

 炭酸泉やサウナの楽しみに目覚め、近くのスパ施設などに通うウマ娘も出てきたくらいだ。この辺は記事にもなり、疲労回復の湯治、という日本でだいぶ前に流行ったブームがまた再来することとなった。

 勿論、チームフェリスの3人も恩恵にあずかっている。ファルコンの体が1カ月半程度で回復したのはこの温泉効果が大きい。下手すれば3ヶ月は走れないほどの怪我であったからだ。

 

(……怪我なく、走る。ウマ娘にとっては、それが何より……本当に、そう思うわ。回復が早まるのはいい事ね…)

 

 体幹を仕上げることで転倒や練習中の怪我は減るが、それを差し置いてもやはりウマ娘の脚というものは消耗品だ。己がウマ娘で、かつトレーナーとしての勉強もしているからその重要性は誰よりも理解している。

 それの回復を高める効果のあるものであれば、どんどん設備を整えてほしいものだ。日本の中央のみとは言わず、地方でも、世界でも。

 

(まぁ、この辺りは革命世代が及ぼしている影響の所にまとめておきましょ。さて、それでキタの練習についてだけど…)

 

 改めて私は、キタ……私の愛バであるキタサンブラックへの指導について筆を伸ばす。

 あの子の体は、とにかくタフだ。天皇賞春の距離に合わせた練習を経て、なお翳り無し。

 どれほど走っても不調の兆しが見えず、私も本当は痛みを隠して走っているんじゃないかと心配してしまったが、何度触診してもあの子の脚は無事だった。

 勿論、体幹を早い段階で仕上げられていたのが大きい。まだまだ発展途上だが、十分な密度の体幹がこの時期で既にあの子の体には搭載されている。

 身長も、体躯まわりも随分と伸びて、その度にフォームなどの改善などにも努め、あの子の才能を腐らせない様に全霊を注いだ。

 メイクデビューで、この子を負けさせるわけにはいかない。

 この才能、この脚で、負けさせるようなトレーナーがいたら、それは無能の証明だ。

 あの子が信じてくれた私を、裏切らないためにも。

 6月にメイクデビューを控えるキタを、私は集中的に見て仕上げていた。

 

 ……と、そのあたりを黙々とタイピングしていたあたりで、隣の席から私に声がかけられた。

 

「……ん、ふわぁ……あれ、トレーナー、あれからずっと書いてたんですか?」

 

「ん、起きたかキタ。途中で休憩挟みながらやってっから気にすんなァ、まだ8時間はフライトだからのんびりしてていいぞ」

 

「ふぇー……トレーナーって大変ですよね。いつもありがとうございます」

 

「何言ってんだ、お前が期待に応えてくれるから楽しくてしょうがねェよ」

 

 ちょうど書いていた内容の、当事者。キタサンブラックだ。

 私を労わる様なキタの言葉に、本心からの言葉を返したところ、どうやら喜んでくれたようで眠そうな顔から破顔するキタ。

 まったく可愛い子だ。

 この子はいつだって生真面目で、まっすぐで、元気なウマ娘だ。負けん気も強いし、優しい。

 私なんかには勿体ないくらい。

 きっと、誰がトレーナーについても、大成したであろう、才能と素質の塊。

 

 でも、私はこの子と運命の出会いを果たした。

 ああ…キタをスカウトしてから、1年近く経とうとしているのだが、このころになって、ようやくあの頃にタチバナが言っていた言葉の意味が、分かるようになってきた。

 運命的な出会い、という言葉の意味を。

 

 あの日に見たこの子の輝きが、私にとっての祝福だった。

 

「む、コーヒー飲まれてますか?あんまりカフェイン取っちゃだめですよー、後に残るんですから!」

 

「お前はアタシのママか。わぁってるよ、この一杯だけだ。後は白湯でも貰うさ」

 

「えへへ……あ、トレーナー、実はちょっと私、仮眠から起きたら結構お腹が減っちゃって……ご飯っていつごろです?」

 

「ん?そっか?じゃあ……30分後にすっか。お前も寝起きですぐに腹いっぱいになっちゃ消化に悪いしなァ。水飲んで顔洗ってきな。こっちもキリのいい所まで仕上げちまうからよ」

 

「はい!」

 

 お腹をさすりながら照れたような顔を浮かべるキタに私は苦笑を零し、キリのいい所まで整えたら食事にする約束を取り付けた。

 キタはよく食べる。その体の大きさに見合った量であるし、体重の管理はしっかりとやっているので別段太り気味とかにはなっていないが、それにしたってよく食べる。フェリスのウマ娘の中では一番の大食漢だ。

 何よりだ。食べられないことの辛さも知っている私としては、ウマ娘は出来る限り、食欲が旺盛な方がよい。健康的で素晴らしい事だ。

 

 

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 さて、それでは5月の分はササっと仕上げてしまおう。

 ちょうどチーム練習にかかる部分は記述し終えたところだ。

 あとは他のイベントとしては……ああ、一応当時のGⅠレースについての所感は書いておくか。

 

 少し遡るが、クラシック級の皐月賞と日本ダービーについて。

 この二つは、今年のクラシック級のエース、ベイパートレイルが共に一着を達成している。

 彼女の才能も凄まじいものがあるが、しかし、彼女が所属しているチームがまた問題なのだ。

 ベイパートレイルの所属するチームは、チームリギル。

 あの東条サンが率いる、GⅠ常連のチームだ。

 

 私がトレセン学園に転籍してくる少し前には、東条サンのチームがGⅠを荒らしまわっていた。

 しかし月日は流れ、ちょうど今年に現在チームに加入しているウマ娘が全員ドリームリーグに移籍したことで、チームリギルは新たな世代のスカウト、および育成に力を入れている。

 

 今年のクラシック級の覇者たるベイパートレイル。

 また、キタと同期になるジュニア期では、ブリュスクマンが彼女のチームに所属している。

 そして、青田買いとしてデビュー前のウマ娘も何人かチームに所属させている。

 チームが実施する選抜レースで選ばれた二人、芝のアーモンドアイズとダートのブラックシップ。

 

 その全員が、余りにも優駿だ。

 タチバナと一緒に偵察に行き、その脚の秘める才能に共に大きくため息をついたものだ。

 私のキタも、彼の愛バ3人も、いつかはチームリギルと雌雄を決する時が来るであろう。その時に負けない様に、こちらも存分に牙を研いでおかねば。

 

 

 さて、話を戻して、他のGⅠレース。

 桜花賞とオークスについても、またしてもここも二冠ウマ娘が生まれている。

 デアリングタクト。

 専属トレーナーと歩む彼女は、11月のメイクデビューにて見事勝利し、2月のエルフィンステークスでも一着を取ったうえで、桜花賞、オークスと無敗の二冠。

 彼女の脚は本物だ。ティアラ三冠も全く夢ではないその才能。

 革命世代の輝きが、次の世代にも及んでいるのかと言いたくなるほどの、様々な才能の萌芽が見られている。

 

(本当に……まったく。来年だって、大変なレースになるわね、これは。下の世代も上の世代も、一切油断できない猛者ばかりで……)

 

 そう、上の世代と言えば……ヴィクトリアマイルについても記述しておかねばなるまい。

 VMには、シニア二年目からダイワスカーレットが出走してきた。

 また、革命世代からはサクラノササヤキがここマイル戦に挑んでいる。マイルイルネルは安田記念でウオッカと対決するのだが、それはまた6月の活動記録で示すとして。

 

 ヴィクトリアマイルの結果。

 ダイワスカーレット一着、サクラノササヤキ二着。

 革命世代が一歩及ばず、アタマ差でダイワスカーレットが勝利を勝ち取った。

 

(でも、あのレース……決してササヤキの株が落ちるような内容ではなかった。レースを知るものが見ればね)

 

 ゴールの後、ダイワスカーレットは勝利の喜びのほかに、明らかな驚愕を以てサクラノササヤキを見ていた。

 レース展開としては、お互い逃げウマ娘として先頭争いをする中で、キラーチューンともいえる位置取りの上手さをダイワスカーレットが見せて、サクラノササヤキのペースを乱し、そのまま領域に突入して最後まで速度を落とさず駆け抜けた。

 そして、己の設定するビートを崩されたサクラノササヤキは領域に入る事が出来なかったのだが。

 その結果が、アタマ差なのだ。

 残り200m、加速するダイワスカーレットから全く距離を空けずに猛追したサクラノササヤキが、ドバイで見せた獣のような闘争心を発揮して、ダイワスカーレットに意地でも追い縋ろうと襲い掛かった。

 あそこから逃げ切ったダイワスカーレットも流石の優駿と言ったところだが、しかし、領域抜きで世代のエースと言えるダイワスカーレットにそこまで追い縋ったのだ。

 素の実力が相当なレベルアップを果たしていたことを、ダイワスカーレットも感じ取ったのだろう。ゴール後に流した汗は、冷や汗も存分に混ざっていたものだと私の眼には映った。

 

(本当に、カノープスの二人も強くなったわ……いつ寝首をかかれるか。最強の伏兵が集まるチームね、あそこは)

 

 ドバイで共に戦った戦友たる彼女たち。勿論私も、トレーナーであるミナミサカ、およびネイチャ、ササイルへの信頼を覚えている。

 今年はダートの優駿としてコパノリッキーが加入したし、夏休み明けには未デビューのウマ娘を青田買いして、ディープポンドが新たにメンバーに加わっている。

 間違いなく面白いチームになる。いつか戦う時が来れば、心底から注意しなければなるまい。

 

(……さて、レースについては大体書けたかしら)

 

 最後にNHKマイルの勝者、ラムダシオンについて簡単に書き上げ、4月から5月にわたって開催される大きなレースについてはおおよそ活動記録に書き終えた。

 あとは、他に何かイベントはなかっただろうか……ゴールデンウイーク中はメンバーの3人それぞれがタチバナと時間を過ごして、私も夜の飲みに付き合って…キタとも遊びに行って、あとはアメリカから日本に遊びに来たゴアとも夜に呑んで……あ。

 そうか。それがあったな。

 

(ゴアに絡んだ、()()()()の件……あの事件があったわね)

 

 私は5月にあった、とある事件の顛末を思い出す。

 私も巻き込んだ、アグネスタキオンの暴走。その件があった。

 まぁタキオンは学園でもそれなりの問題児だ。研究の為に大なり小なりの事件を起こすことは珍しくないウマ娘だが、しかし、その内容がそれなりに私も絡んだもので、実際に被害にもあっている。

 そして、この事件の顛末が、もしかするとレースに革命を及ぼしかねない物でもある。

 書いておくべきであろう。

 

(まぁ、実害はなかったし……あの子の研究が本気でモノになれば、それは面白いし、ね)

 

 私は新たに5月の出来事の項目を作り、あの時の事件を書き始めた。

 

 

 

 






(アプリ)
とりまバレンタインチョコはフフフシスターズとカフェキタウララライアンから貰えました。よき。

しかし新ウマ娘追加かぁ(幻覚)
マジでいつヴィイが来ちゃうかわからないなぁ(願望)
SSまだ?(無想転生)
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