俺は拉致監禁されていた。
「うん……見事に縛られてるなぁ。椅子に」
時は5月の中旬。午前中の業務が終わり、昼飯を食べにオニャンコポンを肩に乗せてカフェテリアに向かって移動していたら、唐突に視界がズタ袋によりふさがり、縛られ、ドナドナされてしまったのだ。
移動速度と呼吸から、学園のウマ娘による蛮行だというのはすぐに分かったので、特に抵抗もせずそのまま連れて行かれ、そして気付けば椅子に座らされて見事に縛り付けられていた。
なお俺の肩の上には変わらずオニャンコポンがいるが、こいつもだいぶ学園しぐさに慣れてきたようで、呑気に毛づくろいをしている。
ふむ。
まぁ、学園ではこれくらいの事はよくあるからな。
今回はさて、何が起きたのだろうか?
俺だけに被害が及ぶような物であればいいが、もしチームにも影響が出る様なものならそこはしっかりと諭さねばなるまい。
さて、誰がこんなことをしただろうか?俺は脳内で謎の人気投票を行った。
一番人気ゴールドシップ、しかしこの世界線では彼女はかなり頼れる姉御系に成長しています。
二番人気マチカネフクキタル、今日の占いに猫が出ていたら彼女はやりますよ。
三番人気アグネスタキオン、何か妖しい研究を閃いていなければいいのですが。
「……やぁ。驚くほど動揺していないんだねぇ、猫トレ君」
「ん……タキオンか。まぁね、特に危害を加えられる心当たりもないし。ウマ娘によるものだとはわかってたからね、別に取り乱すようなことじゃないかなって」
「ふゥん。キミは本当にそういう所だと思うよ」
「なんで……?」
そして俺が拉致された教室に入ってきたのは、アグネスタキオンだ。
成程。彼女だったか。一番人気ゴールドシップではなかったがまぁおおよそ予想は的中と言ったところだ。
これまでの世界線でも彼女に同じようなことをされたことは多い。そして、大事になったこともない。
根っこが善良な子なのだ。ただ、研究への熱意が変な方向に向くことが多いだけだ。
さて、そしてタキオンによる所業だとわかれば俺もリラックスして彼女の話を聞くことにした。
「それで、どうしたんだい?俺に何か用があったんだろう、タキオン?話を聞くよ」
「ふむ。それじゃあ聞いてもらおうか……キミにも責任がある話だからねぇ。度し難い事だよこれは」
「……そこまで言う何かをした覚えがないんだが」
「覚えがないとは言わせないねぇ!!話というのは、あの女狐の事だよ!!アメリカのイージーゴアだ!!!なんだい彼女は!?いつの間に私のモルモット君と仲良くなっていたんだい!?!?どうして止めてくれなかったんだい猫トレ君!!!聞いているのかね猫トレ君!!!!!」
「────────あぁ」
そして話を聞き出し、彼女の口からイージーゴアの名前が零れて、俺はすべてを察した。
なるほど。小内先輩とイージーゴアの関係がタキオンの知るところになったのだろう。
ドバイで過ごす中で、小内先輩に一目惚れしたイージーゴアが、その後それなりのアプローチをかけているのを俺は眼にしている。
LANEも交換していたし、何やらSSに聞いたところによると、ゴールデンウイークで日本に遊びに来ていたイージーゴアが、小内先輩とお会いしてデートのようなことをしていたと聞いている。SSはそれを夜の呑みで聞かされて辟易していたとかなんとか。
しかし、なるほど、それが耳に入れば独占欲が強めのタキオンとしては面白くないだろう。
だがそれで俺が拉致される理由が全く分からなかった。
「……ドバイでイージーゴアと仲良くなってたからな、小内先輩。なるほど、タキオンとしてはそれが面白くないわけだ」
「察しがいいじゃあないか猫トレ君!!その通りだッ!!モルモット君は私のモノなのに…あの女狐は!私に知られない様に!!モルモット君とゴールデンウイークにデートをしていたらしいじゃないかっ……!!」
「いや、大人同士でトレーナー同士だし会って話をするくらいは……お互いがデートと思ってるかどうかは怪しい所で……」
「君の意見は聞いていないねぇ!!モルモット君は兎も角あの女狐は確信犯だよ!!」
「ひどい。……でも質問くらいはさせてくれ。なんでその件で俺は拉致されたんだ?ドバイじゃ特に何もしてないぞマジで?むしろイージーゴアと日本の関係って意味なら、SSでも連れてくるべきだったんじゃないか?」
「ああ、その質問には後で答えるとも。ちなみにサンデートレーナーを拉致しなかった理由は勝てる気がしなかったからだねぇ。普通に抵抗されそうだし」
「そう……因みに俺を拉致したのは誰?」
「デジタル君だよ。同室のよしみでお願いさせてもらってねぇ」
「ちょっとぉ!?なんで名前出しちゃうんですかタキオンさぁん!?」
その言葉で、空き教室の隅っこに隠れていたアグネスデジタルがひょっこりと泣き顔で出てきた。
なんかこのパターンぱかちゅーぶで見たことあるな。
まぁデジタルもウマ娘愛のためなら割と何でもする傾向にある。今回はタキオンの圧に負けたという所だろうか。
タキオンはSSにもかなり懐いているウマ娘だが、デジタルは恐れ多すぎて近づけない、と前に言っておりまだ仲は良くはない。そんな彼女にあの体幹の神であるSSを攫えというのは酷な話だろう。なるほどね。
さて、しかし質問については答えてくれるらしいということで、その話を待つことにした……のだが。
その時、空き教室に乱入してくるウマ娘がいた。
バァン!!!と音を立てて教室の扉が開かれる。
そこにいたのは、まさしく先ほど話題に出していた彼女。
親愛なる妹、SSがそこにいた。
「────おォ、状況は理解した。説明してもらおうかタキオン。お前、アタシのタチバナに何してんだァ……?」
妙だな。レースをするわけでもないのに彼女の背中に鬼が宿っているように見える。
ドバイを経て身近に鬼を宿すタイプのウマ娘増えたからな。彼女も継承してしまったのかもしれないな。
ドスの効いたSSのその声にデジタルは昇天し、タキオンも流石にうっ、と言葉を詰まらせたが、しかしモルモットを奪われた怒りはそれで収まるほどのものではなかったらしい。
「ああ、ちょうどよく来てもらえて有難うサンデートレーナー。貴女にも責任がありますし、深く関係する話ですから、是非とも話を聞いていただきたいねぇ。まず断言しておきますと、猫トレ君に危害を加えるつもりは一切ないからそこはご安心ください」
「……ア?この状況でどの口が───」
「───SS。俺も今の時点で特に何もされてないし、事情が事情だから君も聞いていった方がいいと思う。俺のためを想ってここまで追いかけてくれて来たのは嬉しいけれど、まずは生徒の話を聞いてあげよう?……頼むよ」
「………………ハァ。タチバナに言われちゃ仕方ねェな……けど、内容次第じゃ生徒会とたづなサンに報告はするからな」
俺が縛り付けられているという状況でSSも気が昂ってしまっているが、俺はそれをなだめる言葉を彼女にかける。
今の所、話を聞く限りではタキオンの暴走によるものなのだが、しかし自分に何か危害を加えるとか、恨み言を言うためにここに呼んだわけではないらしい。
であれば、まずはすべての事情を聞くべきであろう。
俺の考えにSSも一先ず留飲を下げてくれて、俺の隣に椅子を持ってきてどかっと腰を掛け、話を促す。
「……で?タチバナに何の用があってこんなことしたんだタキオンよォ。普通に呼ぶんじゃ駄目だったのか?」
「普通に呼んだら面白くないでしょう?ちょっとした八つ当たりも込みですねぇ」
「キレていいか?」
「どうどう。…まぁ、事の発端からもう一度説明してあげてよ、タキオン」
改めてタキオンの口から、小内先輩とイージーゴアの関係についての熱弁がSSにも送られる。
親友の名前が出てきたときには驚いたが、SSもそこは察したのか、内容を聞いて盛大なため息をついた。
「………はぁ~っ……あのなァタキオン。ゴアの件なら、むしろアタシに感謝するべきところだぞ、そりゃ」
「ん?どういう意味ですかねぇ、サンデートレーナー?」
「ゴアは日本にGWに遊びに来た。アイツは飛行機の時間を除いて、一泊二日だった。んで、その初日にコウチと会ったんだろ?予定はアイツから聞いてたからな。……
「…?………!!!!ッあの、女狐ぇ……!!」
「……?どういうこと?」
「タチバナは何もわからなくていいぞォ」
「どういうこと???」
俺はSSとタキオンの会話の意味が全く分からずに首をかしげるのみであった。
肩の上でオニャンコポンが何故かため息をついたがさっぱりわからない。女性にしか、ウマ娘にしか察せない機微が先ほどの会話の中にあったのだろうか。
うーん。難解。
「……うむ、やはりイージーゴアは私にとって敵だ!!そして、そんな敵をこてんぱんのおたんこにんじんにするために、君を呼び出したというわけだよ、猫トレ君!!サンデートレーナーにもご協力を頂きたいですねぇ!!」
「…うん。成程ね?とりあえず話は分かったけど……」
「アイツをコテンパンに、っつってもよォ。どうやるつもりだよタキオン。アタシもタチバナも、喧嘩には付き合わねェぞ?友人以前に、大人としてそれは止めるぞ?」
そしてようやく話の命題が見えてきた。
自分のトレーナーを取られたと思ったタキオンが、イージーゴアに一泡吹かせたい、という……まぁ、学生らしいというか、女子らしいというか、そんな作戦であったようだ。
なるほど。
なんで俺が呼ばれたん?
いや、まず喧嘩とかはそもそも国際問題になるし、もし彼女が本気でそんなことを考えているようなら全力で止める。
とはいえタキオンは頭がいい。そんな発想にはならないだろう。一服を盛る……とかそんなことは考えているかもしれないが、それも勿論止めるとして。
じゃあ、どのように勝敗を決するのか?というところだ。
純粋に、まぁ、タキオンはまだ学生だがあえてこう表現する……恋路のライバル、という意味であれば、積極的に介入などはしたくないところなのだが。
恐らくはSSも同じような結論に至ったのだろう。怪訝な表情を浮かべている。
だが、そんな俺たちに対して、タキオンは既に自信満々と言った表情を浮かべている。
何か考えがあるようだ。
昇天から戻ってきたデジタルも、わかりみの深い角度でタキオンの後ろでサムズアップしている。どうした急に。
「わかっているとも、暴力に訴えるなんて言うのは下種の極みの発想で、そんなことをするつもりは毛頭ないさ。薬とかそういう話でもない。もっと分かり易い話だ……私たちはウマ娘だ。ウマ娘であれば、ウマ娘らしい勝負のやり方があるだろう!私はレースで彼女と勝負し、決着をつけるっ!!」
「そうです!そうです!」
「アン?……タキオン、お前……ゴアとレースでケリつけるつもりかァ?」
「え。いや、それは……難しいんじゃないか?」
タキオンの口からは、なるほど天地明察、分かり易い勝負の方法が示された。
レースで勝負をつける。
ああ、それはとても健全な決闘方法だ。それなら自分からも全く反対はない。デジタルが全自動そうですBOTになりうんうん頷いている。
だが、それを成すには大いなる壁が彼女たちの間に存在している。
横にいるSSなら。また、そこにいるデジタルならば越えられる壁。
だが、タキオンが、イージーゴアが超えるには余りにも高い壁。
芝とダートの適性の違いだ。
「ゴアはアタシと違って、芝まで走れる脚じゃねぇ。ダートに特化した脚だ。タキオンとアイツが走れるバ場がねェだろ。芝ならお前が勝つし、ダートならゴアが勝つ。勝負にならねェだろうが」
「同意見だね。オールウェザーでも、砂地に適性のあるゴアに分が上がるだろう。タキオン、君の走りはもう完成されているから、今からダートに脚を併せる……と言うのは、無茶だ」
「ふゥむ。……まぁ、そうだね。そんなことは分かっているさ。このデジタル君のように、サンデートレーナーのように、私はダートを走れない。それは間違いないねぇ」
「そうです!そうです!」
「うん……もしかするとタキオン、君は俺に、ダートも走れるような指導を…と思ってこうして呼んだのなら、申し訳ないけど力にはなれないよ。今の君をダートに慣らすってのは流石に、無理だ」
「分かっているさ。理解っているとも。─────ああ、だが。その程度で諦めるほど意志が弱くもないからねぇ」
二人で説明した通りだ。イージーゴアはダート専門のウマ娘で、タキオンは芝を専門としている。
二人とも説明不要の優駿であるが、しかし、その軌跡が交差することはない。
俺ならばもしかして……と思ってタキオンが俺をこうして呼び出したのなら、大変申し訳ないが……既に走りが完成されている今のタキオンをダートに慣らせ、と言われても無理だ。俺にだってできないことはある。
だが、それを聞いてもなお、タキオンの瞳からは光が失われなかった。
そして、その後に続く彼女の言葉を聞いて、俺は心底から驚愕することにある。
「まず、そもそもだ。なぁ、猫トレ君。教えてほしい。───
「…え?……そりゃ、はっきり言ってしまえば適性がないから、だな。君は芝を走るのが得意なウマ娘だ。ダートウマ娘じゃない……」
「そう、私は芝を得意とするウマ娘だ。しかし、だ。改めてよく考えてみてくれよ?
「……っ」
「………踏み込みの角度。そのウマ娘にとって一番力の入れやすい地面。そういったモンが適性を決める……」
「サンデートレーナーの仰るそれは、いわゆる常識の部分です。トレーナーとして過去に学ばれたのだろう教本の。そして、実際に私たちウマ娘は、例えダートに適した走りを真似たとしても、適性がなければダートを速く走れない……
「そうです!そうです!」
「…………」
「…………」
俺とSSは、タキオンが言うその内容に、押し黙ってしまった。
常識なのだ。ウマ娘にとって、芝とダート、どちらに適性があり、そしてどちらが早く走れるか、それを見極めるのが重要……などということは、常識中の常識。小学生だって知っている。
そして、それは勿論走りやすいバ場であることや、踏み込みの力の入れ方、フォームなど、色んな要素があり……また、俺なんかは特に、これまでの世界線でもその芝とダートの適性の壁に絶望し、しかし諦めずにその壁を乗り越えた経験もあるのだが。
だが、その根幹の部分。
なぜその違いが発生しているのか?
それに、俺たちは明確な答えを出せなかった。
「……ああ、すまない。答えに困らせるつもりはなかったんだ。この問いには、今の私も答えは持っていないさ。けれど、私の言いたいことは分かってきただろう?……芝とダート、その違いがどこにあるのか?逆に言えば、そんな違いのないような、
「……タキオン、それは……君が、そのバ場を発明しよう、ってことか?……本気で言ってるのか?」
「本気も本気さ。私はどんなウマ娘も全く同じように走れる、新たなるバ場を作り、そこでイージーゴアと決着をつける!!何年かかろうと…ああいやあまり時間をかけすぎると歳を取るから、出来る限り急ぎはするが!私は、芝でもダートでもない、オールウェザーのように適正も求められない……まっさらなバ場を作りたい!!!そして、その研究にご協力を頂きたいというわけだよ、猫トレ君!!君の知識……ファルコン君を芝で走らせた君ならば!革命世代を率いる君ならば!!答えに一番速く近づけると思ったからねぇ!!」
「……ぶっ飛んだコトを考えやがるな、タキオン……出来ると思ってんのか?」
「誰も不可能を証明していない。ということは、可能性はあるという事ですよサンデートレーナー。ああ、勿論貴方にも助力を頂きたい。芝ダートを走れるウマ娘は貴重ですからね。このデジタル君にも骨を折ってもらうつもりだ」
「そうです!そうです!……え!?聞いてないですよ!?」
「他にも芝の適性を乗り越えたファルコン君や、先ほど挙げたような芝ダートを両方走れるウマ娘達からも走りのサンプルを提供してもらわないとねぇ。……今日呼び出した結論はここだねぇ。どうかな、猫トレ君?協力してくれないだろうか?」
俺は、ようやくタキオンの真の目的を理解した。
彼女は、芝とダートに関係のないバ場を生み出そうとしているのだ。
それは、もし完成したならば─────これまでのレースの歴史に、大きな波紋を起こすことだろう。
芝でしか走れない、ダートでしか走れない、そんなのは当たり前で、その二つの歴史があり、だからこそ先日のドバイワールドカップでもその差を無くした世界レコードに驚愕したのだ。
間違いなく世間からはあらゆる意見が飛び交うだろう。重賞レースにそのバ場を設定することも難しい。完全なエキシビション用になる。
ああ、だが、しかし、それでも────────俺は、思ってしまった。
「……いいだろう。協力しよう、その研究に」
「っ!!有難う!!君ならそう言ってくれると信じていたよ、猫トレ君!」
「そうです!そうです!」
「……おい、タチバナ?マジで言ってんのか?途方もねェ話だぞ、これは」
「ああ。……面白い話じゃないか。もしこれが完成すれば……ウマ娘にとっての新たな可能性になるかもしれない。そんな面白い話を聞かされちゃあね。勿論、俺はトレーナーで、チームの為に働くのが仕事だから、それを最優先とはするけど……それに影響が出ない範囲でなら。タキオン、君のその野望、手伝わせてもらう」
「心配しなくていい、私もそこまではしないさ。もしそれをしてしまえばサンデートレーナーにもフェリスのみんなにも恨まれてしまうからねぇ。手が空いたときに手伝ってくれればいい」
俺は関節を外して縛られていた縄から抜けて関節を戻し、こきこきと体の調子を確かめながら、タキオンのその願いに応じることにした。
面白い試みだ。これまでの世界線でも、一度も耳にしなかったそのタキオンの発明の案。
それが出来たことで、これまでの……ウララと歩んだ過去を否定されるような気持ちにもならない。あれは俺とウララだけの物語で、この世界線には全く関係のない話だ。
そして、それが完成すれば……完成途中の研究のデータを俺がループする前に知識として蓄えられるなら、今後のループにも活かせるかもしれない。
これが出来ることで損をするウマ娘はいない。レース界を大きく変化させる発明ではないのだ。VRウマレーターと同じように、新たな可能性が生まれるモノ。
俺に反対はなかった。
「うん。君とイージーゴアとの争いについては首を突っ込むつもりはないけれど……その研究を手伝うってところならOKだ。約束する」
「ふゥん。君の決断に心から感謝するよ、猫トレ君。是非とも私の野望を達成するためにご協力いただきたい。そしていつかは、その新たなる、究極のバ場……そう、仮に名付けるならば『
「…ゴアのやつも大変だな、こりゃ…」
「そうです!そうです!」
これで話は終わった。
俺は縄抜けして自由は取り戻していたので、お昼に向かうだけだ。タキオンとはまずLANEで研究のプロットを共有するようにお願いしておいた。
肩の上のオニャンコポンの喉を軽く撫でながら、俺は席を立つ。
SSも共に立ちあがり、どうせなら一緒に昼食でも取りに行くかと声を掛けようとしたところで。
教室の扉が炸裂した。
「─────トレーナーさん!!無事ですかっ!?」
「─────トレーナーさんが拉致されたって聞いて飛んできたよ☆!!」
「─────無事なの!?何があったの!?」
「─────サンデートレーナーまでついて行って、戻ってこなかったって聞いて……!!」
俺の愛バたる3人と、SSの愛バたるキタが俺たちを心配して匂いなどを頼りに追いかけてきたのだろう。
緊急事態と察したらしい彼女たちは、フラッシュがファルコンを背負いロングホーントレイン*1で扉に突っ込んだらしく、粉々になっていた。
ふむ。
この場合、始末書を書くのは俺になるのか小内先輩になるのか、際どい所だな。
俺は肩を竦めて苦笑し、迫るたづなさんの気配に恐怖するのだった。
────────────────
────────────────
……そんなことがあった。
(結局、研究はあの後どうなったのかしらね……)
その後に飛び込んできたたづなサンに(なぜか私も含めて)みんなこっぴどく叱られて、しかしその後はタキオンの研究に私が付き合ったのは一度のみ。
ダートと芝それぞれを走るデータを取られたのみで、研究がどれくらい進んでいるのかは私は知らない。
ただ、タチバナが時々タキオンと情報交換をしているのも見ているので、着々と研究は進んでいる様だ。
尤も、この12月に至っても特に進捗が出ていないことから、まだまだ時間はかかるのだろうけれど。
(まぁ、そもそもバ場を作る、と言ってもそれを敷くコースや設備だって膨大な手間とお金が必要だしね……すぐに結果は出ないでしょうね)
その辺りはタチバナに任せよう。
ゴアがコウチに猛アタックをかけているのはその後も続いているが、今現在はまだコウチのほうが靡いていないようだ。あの先輩は随分と堅物のようであり、しかしそんなところがゴアに刺さってさらに燃え上がっている。
勿論タキオンから牽制もあるようで、随分と面白面倒なことになっているようだ。二人から愚痴を聞く身にもなってほしい。
(……いつか、タチバナとあの子達もあんなふうに……ならない、わよね?)
今のチームフェリスの3人、タチバナに懸想するあの子たちが恋路で醜く争うような姿は見たくない。
いや、自分の懸想を棚に上げておいて何なのだが、もうここまで来たらタチバナにはきちんと責任を取ってほしい。ウマ誑しの責任を。
それがどのような結果を結ぶかは……きっと、彼のループを超えた先、なのだろうけれど。
(……まぁ、タチバナがタキオンと協力して新しいバ場の研究に取り組んでいる……くらいの記録にしておきましょうか)
かたかた、とタブレットに簡素に内容を書き込んで、5月分の活動記録を一旦完成とする。
そして時計を見れば、ちょうど30分が過ぎたところだ。
私は隣に座るキタに声をかける。
「よし……すまねェ、待たせたな。メシにしようぜ。サービス呼んで、好きなモン頼んでいいぞ。お前はちゃんと肉も食えよ」
「はいっ!!もうお腹ぺこぺこでした!」
少し、食事休憩をとるとしよう。
タブレットの電源を落とし、愛バとの食事を楽しむために、一度思考をリセットした。