【完結】閃光と隼と風神の駆ける夢   作:そとみち

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182 活動記録⑨ 夏合宿 アメリカ編

 

 

 

 

 

 ここからは夏合宿期間、7月から8月に起きた出来事について記録を綴ることになる。

 夏合宿……勿論チームフェリスのメンバー4人をこれからのレースに向けてさらに脚を仕上げていく練習が主なのだが、しかし。

 

(キタはまだまだ伸びる時期だけど、他3人は……ほぼ仕上がり切ってるのよね。一気にレベルアップ、は難しい。所謂ピークを維持するためのそれや、スタミナの増強、レース中に掛からない判断力……そういう所を重点的に練習してた形、ね)

 

 私は改めて夏合宿中の練習内容を思い起こす。

 詳細な練習プランは、この活動記録では書かない。当然にして当時の練習内容は別途練習記録に残しているので、そちらを確認すればいいからだ。

 そして、先ほど述べた通り……フラッシュ、ファルコン、アイネスの3人については、スピードの更なる上乗せ、という点では期待はしにくい部分となっている。

 もう、彼女たちは世界の頂点レベルのそれを脚に備えているのだ。ドバイで完成した、と言ってもいいだろう。

 だからこの夏合宿では、彼女たちそれぞれの弱点、まだ仕上がり切っていない部分を補填するのと……あとは、それぞれの色に合わせた練習を繰り返した、という所か。

 

 フラッシュは、凱旋門賞に挑むにあたり、洋芝を過不足なく走れるような、バ場を選ばない強靭な踏み込みの練習。これは海岸の波打ち際、砂浜に波が寄せるあたりを何度も走らせることで仕上げていった。

 ファルコンは、有マ記念を走るにあたって、芝への適性の向上と、長距離ヘの備え。ここはタチバナが主導で行っていたが、少なくとも私の想像にはない練習ばかりだった。タキオンにも例のバ場の研究のためにデータを提供していたようだが、下手にこの情報が世間に漏れればまた世界が革命されてしまいかねないほどのそれだ。

 アイネスは全距離に対応できるよう、スタミナ管理を意識させた走り。ラスト300mに発動するゼロの領域、その効果が距離が伸びても高水準をキープするためにも、スタミナの上昇に加え、道中のペース意識を改めて再構築した。

 

 ……彼女たち3人の練習については、あまり深く記述しすぎても間延びしてしまう。これくらいにしておこう。

 これ以上を確認したい場合は練習記録を見ればいい。私はそちらのページへのリンクを作成し、活動記録での練習描写はこれくらいに留めた。

 キタについては、去年3人がやったような、色んなウマ娘を呼んでの練習だ。夏合宿で更に走りにキレが出て、シニア級でもいい勝負が出来るくらいには脚は仕上がった。

 

(……練習はこれくらいでよし、と。あとは活動記録だから、チームとして、どんなイベントがあったか、ね……まぁ色々あったのだけれど。2か月だものね。あり過ぎたと言ってもいいくらい……練習もだけど、日常も、遊びも精一杯に、だった。……こういうのがアオハル、っていうのかしらね)

 

 私は改めて、当時に起きた出来事を思い起こす。

 何とも濃密な2か月だった。練習もだが、とにかく精力的に活動する彼女たちに巻き込まれ、私も随分と……まぁ、楽しんだ、と表現していいだろう。

 夏合宿は楽しかった。

 これを青春と呼ぶのなら、私の現役時代にはなかったものだ。

 己を追い詰めるようにして極限まで仕上げ、レースに勝つ。それ以外の事は、修道院の手伝いをしていたくらいで、私は現役時代にあまりこう、日常を楽しんでいた記憶がない。

 それを……まぁ、周回遅れではあるのだが、こうして楽しませてもらっている。

 成人し、トレーナーという立場ではあるのだが……そんなことを忘れてしまいそうなくらいには、楽しかった。

 

 砂浜でやった、スイカ割り。

 波打ち際でビーチボールで遊んだこと。

 トレセン主導の肝試し。

 夜に旅館の部屋のウマ娘に混ざってやったトランプ。

 近くの山でやったキャンプ。

 砂浜でのバーベキュー。

 

 他にも、数えきれないほどの一杯の想い出。

 そうした想い出を重ねることで……それが、ウマ娘の走りに、確かな力を与える、とタチバナは言っていた。

 日常が充実することで、尊い想い出があることで、最後の振り絞る力になるのだと。

 

(……今の私なら、理解るわ…兄さん)

 

 そして、それを体験した今の私も、そのことを理解できるようになった。

 ウマ娘は、想いを背に乗せ、走る存在なのだから。

 

 

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 さて、それでは7月から……大きな出来事を書き始めるとしよう。

 まず最初の一週間だが、フラッシュとアイネス、キタは練習に早速入っていたが、ファルコンは帝王賞の脚の疲労を抜く期間に充てており……本格的な練習は2週目くらいから、になると考えられていた。

 そして、その時に一つの懸念があり、そしてその懸念が解消される出来事が起きたのだ。

 

(ダートを走る練習をするファルコンの、その経験……彼女の走りに釣り合うウマ娘の、不在。これが、現実としてどうしても存在してしまっていた)

 

 練習を始めた6月ごろから既に問題としては表層化していた、それ。

 ファルコンの、特に中距離以上の併走練習において……相手になるウマ娘が、日本では少なすぎた。

 まず私。あとは、アグネスデジタルやノルンエース、イナリワンなどもいるが……じゃあそれ以外は?となると、かなり数が少なくなる。

 ダートに合致した脚を持ち、中距離以上も万全に走れるウマ娘、というのがまだ日本では育ち始めてなかったのだ。

 もう1~2年もすれば、今年ダートを走り回っている3人……私がスカウトしようとしていた、コパノリッキー、ワンダーアキュート、ホッコータルマエがモノになっただろうが、しかしまだファルコンの本気についてこられるほどではない。

 勿論夏合宿中も彼女たちと併走はさせてもらったが、まだまだこれから。当然である。まだジュニア期のウマ娘達なのだ。

 

(だからこそ……一度、どこかで万全に併走できる相手が欲しかった。中距離を全力で走ってもついてこられるような、ダートウマ娘が。……で、そんなときにちょうど、お誘いがあったのよね。()()()から)

 

 私は当時送られてきたLANEのメッセージを思い出す。

 夏合宿に入った7月の最初に、私の親友にして戦友、腐れ縁のイージーゴアから、LANEが入ったのだ。

 内容は『ファルコンちゃん連れてアメリカに暫く遊びに来ない?併走相手に困ってるんじゃない?こっちもなの。プリンスと併走しない?私んち泊っていいから。あとコウチも連れて来てくれない?』というもの。

 最後の一文は華麗にスルーしたが、しかしお誘いの内容はとても有難いものだった。

 ファルコンの懸念点であったダートの併走。それを、イージーゴアとマジェスティックプリンスと出来るというこのお誘いは、今のファルコンにとっても必要なこと。

 タチバナ達チームメンバーとも相談して、私とファルコンは2週間弱ほど、アメリカに遠征してイージーゴアの率いるチーム、私の古巣でもあるそこと、併走練習をすることになった。

 勿論、練習だけではなく、ゴアやプリンスとも改めて交友を深め、遊びに行くことが出来る。

 反対はなく、私とファルコンは7月の2週目からアメリカに飛んだ。

 

(……でも、ね。ええ、まぁ、確かに最高の練習にはなったわ、ファルコンにとっても、私にとっても………でも、ゴアのヤツ、一つだけ意図的に隠してたことがあった。後でまたどっかで会った時には、絶対恨み言を言ってやるんだから)

 

 だが、そこで私たちは思いがけない事件……いや、存在に会う事になってしまったのだ。

 事件と表現するほどの衝撃的な出会い。

 ファルコンにとってもプリンスにとっても己が糧となったであろうその出会いに、しかしせめて事前に説明してほしかった、と改めて思い、私は親友のデカブツの顔を脳裏に思い浮かべ、グーで殴り掛かった…が身長が足りないので腹に拳を叩き込み、その時の事を思い出していた。

 この併走練習は、映像にすることはできない。この活動記録の記載に残して……それでも、信じられない者もいるかもしれないが。

 

 しかし、ここに記すことは事実である。

 

 

 

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『……私は時々考えてしまうんだ。そう、本当に時々だ。年に一回くらいかな……ふと考える』

 

 アメリカの、イージーゴアの勤務先でもある学園に併設されているウマ娘用のダートコース。

 そこに、幾人かのウマ娘がいた。

 その内、空を見上げながら立っている一人が、呟いている。

 

『……()()()()……と、な。私はお前らが羨ましい。ライバルがいる、というのは……ああ、とても素晴らしい事なのだろう。競い合い、全力を出せる友がいる……私が現役時代に得られなかった存在だ』

 

 そして残る4人は、地に伏せ、立ち上がる気力もなく、大きく何度も肩で息を切り、必死に呼吸を整える。

 先程で、何度目の併走練習になったか分からない。

 その疲労……全力で走り、また余りの重圧に精神的な疲労が積み重なって、疲れ切っていた。

 夏の暑さがさらに疲労を加速させる。ぜぇぜぇと荒い息をついて、滝のように汗が零れている。

 

『私には、そのような相手はいなかったからな……いや、プルーブアウトがそれにあたるか?……いや、ないな。アイツと走って負けたウッドワードステークスでは私は熱発を隠して出走していたからな。今では許されない行為だが……当時はレース前のメディカルチェックなんてザルだった。あのレースは今でも後悔があるな……熱発ごときで脚を止めるなど、つまらないことをしたものだ……』

 

 スマートファルコン、マジェスティックプリンス、サンデーサイレンス、イージーゴア。

 世界レコードを保有するウマ娘二人が。

 アメリカが誇る伝説の英雄ウマ娘二人が。

 度重なる併走で疲弊し、ダートにその四肢をなげうっていた。

 

『……だが、ああ。それでも、私が走ったレース、それなりにやり遂げたという想いもあった。己の青春時代に後悔はなかった……の、だが。つい最近になり、その記録が破られたというニュースが入ってな……年甲斐もなく気になってしまって、イージーゴア、お前に依頼してこうして場を設けてもらったのだ。感謝しているぞ……いいな、やはり若いというのは。成程、これは確かに新しい時代の幕開けだ。大した走りだよ、私に1バ身以上の差をつけられるのだから。よく育てた』

 

『………ぜぇ、……ありがとう、ございます……、はぁ……はぁ……』

 

『ああ。…よし、次は2000mでやろう。世界を縮め芝に並んだお前たちの走りを見たい……10分後でいいか?』

 

『ちょっ……ちょっと、待ってください!』

 

 そして、軽く汗を拭い次なる併走を指示する、そのアメリカの伝説の存在、神話のウマ娘が述べる次走に、慌ててトレーナーであるサンデーサイレンスが異を唱える。

 たとえ相手がどれほどの存在でも、担当ウマ娘のために止めなければならない。

 このウマ娘との併走は、普段の併走の5倍は練習効率が高いが、5倍は疲れる。休憩が必要なのだ。

 

『……いけません。私達の……いえ、現役の二人の疲労が強い。せめて30分はインターバルを取らせてください───────()()()()()()()

 

『ん、そうか?……それもそうか。水も飲まずに走らされた昔の時代とは違うか。わかった、休憩だ』

 

 4人と共に併走を務めていたのは、セクレタリアト。

 アメリカの神話となっているウマ娘であった。

 

 

 

(……っはぁ!!はぁっ……信じられない……!!あれで、現役引退から何年も経ってるって、ホントなの……!?)

 

 スマートファルコンは、水分補給をしてクールダウンをしながら……先ほどから併走しているセクレタリアトの、その存在に畏怖を覚えた。

 勿論、彼女の事は知っている。当然だ。スマートファルコンの名前が世界中に売れた、そのきっかけ。

 己が破ったベルモントステークスの彼女の記録。

 それを印象深く覚えていたのだから。

 

 当時の画質の悪い映像資料で、セクレタリアトの走りを見ている。あの時代においては余りにもオーパーツなその異様なる走り。

 直線でもコーナーでも、あらゆるところで速度が落ちない、()()()()()()()という伝家の宝刀。

 それを、間近で見れるかもしれないチャンス─────この併走の話をアメリカについて初めて聞いたときは、心が躍ったものだ。

 流石に当時の走りはできないだろうが、しかしそれでも、少しでも走りのきっかけが掴めればそれは己の走りにも活かせるかもしれない。

 そんな軽い気持ちで受けて、併走前の挨拶をして、走り始めて、しかし。

 

(……速すぎるし、タフすぎるよっ!!ホント、このオバさん、どうなってんの…!?)

 

 そう、心の中で悪態をつきたくなるほどの、スペックの高さ。

 併走だ。当然、100%の全力でレースのように走る……などということはしない。

 併走前に全員で協定し、特に現役の二人の走りは、領域あり接触無し80%の力で、とセーフティをつけて走っている。

 それなのにこれほど疲労しているというのは、後ろから感じる桁違いのプレッシャーによるものだ。

 その圧は、もうウマ娘と表現してはいけないような何か。怪物に追われる恐怖。

 さらに、その怪物は自分とマジェプリの二人に1バ身差をつけないほどの速度でゴールしているのだ。おまけにスタート自体はそこまで得意とはしていないが序盤から加速して逃げの作戦も取れる。

 世界最強という自負のあるこの二人をして、そこまで追い詰めて来ていた。現役時代からもう何年も……いや、10年以上の時を経ているはずの、彼女が。

 

『……スマートファルコン。私に何か、言いたいことでもあるのか?』

 

『ナンデモナイデス☆』

 

 そして脳内でついた悪態すら敏感に感じ取り、牽制を仕掛けてくるこの年齢不詳のウマ娘。

 スマートファルコンは流れる汗が冷や汗に変わるのを感じつつも、全力で笑顔を作って見せた。ウマドル時代の練習が活きた。

 

『……しかし、流石の回復力ですね、セクレタリアト。これが噂に聞く、常識外れの心臓(unconventional heart)、ですか』

 

『うん?マジェスティックプリンスよ、それは違うぞ。ウマ娘は鍛えれば鍛えるほど早く回復するようになる……と、当時はトレーナーに倣ったものだ。鍛え方の問題だぞ、恐らくな。当時は皆こんなもんだったぞ?』

 

 そんなわけないでしょう、と脳内でマジェスティックプリンスはツッコんだ。

 自分だって、ファルコンだって、サンデーサイレンスだって、イージーゴアだって、回復力は現役の他のウマ娘と比較しても速い方だ。

 それが、ドバイで目覚めたあの謎の領域に起因しているのでは……と言うのは、ゴアトレーナーから聞いたところではあるが、しかし併走だって、それなりに回復スパンは早い方なのだ。

 それだというのに、このウマ娘は回復が早すぎる。

 まるで、ドバイで相まみえたウィンキスのような……いや、彼女だって現役のウマ娘だが、それに並ぶほどの化物のような回復速度。

 その理由が、彼女の心臓にあることを、マジェスティックプリンスは遠い噂で耳にしていた。

 

 セクレタリアトの心臓は、並みのウマ娘の倍の大きさを誇る。

 

 そんな噂がまことしやかに流れており、そして今ちらりと見る彼女の胸元……イージーゴアやサンデーサイレンス以上のバストサイズに、そして全身に厚みのあるナチュラルな筋肉を搭載したその姿を見て、噂は真実だったと確信に変わる。

 自分達4人を相手に、それよりも早く呼吸を整え回復する、現役を引退して何年も経っているような、そんなウマ娘はこの人しかいない。

 赤い長髪を靡かせる、ビッグレッドの異名を持つ彼女の、その恐ろしさを身に染みて味わっていた。

 

(私も、ファルコンも、80%で走ったうえで、一応彼女には併走で先着しているが……セクレタリアトが何%で走っているのか、それすら分からない!!恐怖だよ、これは!!何と恐ろしい併走相手を呼んできたのだ、ゴアトレーナー!!)

 

 相手の底が見えない、そんな恐怖と共に並走を繰り返すプレッシャー。

 実戦以上の疲労すら伴うそれに、しかし彼女の、神話の走りから学べることも多々ある中で、マジェスティックプリンスは必死の思いでこの併走に挑んでいた。

 間違いなく己の成長につながるが、二度と走りたくない。

 そんな想いすら生むような、地獄の一週間がこれから始まろうとしているのだ。

 

『………ゴア。あんたね、あの人呼ぶならせめて事前に連絡寄越しなさいよ……!』

 

『いや、私も見に来るくらいかなって思ってたのよ…!併走にまで参加してくるとか思ってなかったの……!!』

 

『あのオバさんのことは現役時代の表彰式で会ってわかってるでしょ……!!頭の中誰よりも負けず嫌いのバケモノなのよ!!それくらい予想しときなさいよ……!!』

 

『ごめんって……!!』

 

 そして少し離れたところで、小声で愚痴をこぼすサンデーサイレンスとイージーゴアの姿があった。

 この二人は、年度代表の表彰式の時にセクレタリアトに一度会っている。

 現役を退き、今は隠居生活のような物をしているというセクレタリアトだが、しかし表彰式で会った時から、才能あるウマ娘に目をつけては、私の方が速い、とプレッシャーをかけてくるような存在であったことは知っていた。

 まさか自分達よりも随分と歳を重ねているこのババァがこんなに走れるとまでは考えていなかったが、しかし二人にとっては本気で寝耳に水の話だった。

 逢いに来たついでにそのまま併走にも参加し、その上で今の自分達とも、現役の二人とも比べて遜色ない走りを見せつけてくるなどとは。

 等速ストライドの切れ味も、現役時代と一切変わらない。

 当時、彼女と同じ時期に走っていたウマ娘達を心から尊敬するレベルの、化物。

 

『………おーい。お前ら、私の事、何か言ったか?』

 

『言ってないです!今後の二人の練習プランや出走レースを打ち合わせていただけです、セクレタリアト!!』

 

『中々こうして話をできるのも貴重なもので……!!』

 

『ふむ、そうか』

 

 そして遠くにいるというのに地獄耳で悪態に反応するセクレタリアトに、サンデーサイレンスとイージーゴアの二人の尻尾がぴーん!!と逆立つ。

 駄目だ。この人に隠し事は危険すぎる。

 二人は今後一切の悪態をしないことを親友同士のアイコンタクトで意志を伝えあい、己の担当ウマ娘の脚のマッサージに入るために道具を準備するのだった。

 

 まだまだ、併走は続く。

 セクレタリアトの圧に晒され続けた4人は、恐ろしほどの疲弊と気苦労に包まれ、1週間を過ごしたのだった。

 

 

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(……ホント、あの1週間は疲れたわ……あのババァ、今思い出しても頭にくる…………っと。いけない、現役時代のメンタルに戻りかけてるわ……落ち着きなさい私)

 

 活動記録に彼女との併走の事件を記入し終えたところで、私は一息ついて熱くなった頭を冷ます。

 本当に、未知との遭遇だった。

 ゴアが呼んだ、セクレタリアトという化物との1週間の併走。

 これにより、ファルコンもマジェスティックプリンスも、それはもう凄まじい経験を積むことが出来たのだが……それを代償に、めっちゃくちゃ疲れた。

 私もゴアも疲れた。

 併走も気苦労も、色々とあり過ぎたのだ。

 とりあえずもう二度とあの人とは併走したくない。

 

(……でも、勉強にはなった。等速ストライド……それを間近で見られたことで、それぞれの走りの長所が明確に成長したものね。限界を超える成長、いいきっかけになったわ……私にとってもね)

 

 ただ、併走の効果自体は本当に高いものだった。

 ロストテクノロジーともいえる走りの技術を、全員が間近に見たことで、吸収した。

 圧に耐える訓練にもなったし、この技術は今のレース論、指導論の視点から解析して、私の知識の糧にもなった。

 この練習記録をタチバナに見せたらものすごく喜んでくれたので、私としてもそこは嬉しかった。

 あれほどの地獄を潜り抜けたおかげで、得られた物も大きかった。

 

(……ま、アメリカの遠征、最初の一週間はそうして練習し……セクレタリアトが帰ってからは、ファルコンとプリンスの二人は練習はほどほどにして、遊んだりして仲を深めるほうで楽しんだのよね。それもまた、いい想い出ね)

 

 2週間弱の遠征日程のうち、最初の一週間がそんな風にとんでもない負担になってしまったため、残りの日程は主に観光や楽しむ方で時間を過ごすことになった。

 ファルコンも、プリンスの事は戦友にして親友と感じている。プリンスだってそうだ。

 二人の仲がいいのは何よりだ。私もゴアとまた話す時間も増えたし、このアメリカ遠征は、全体的に見ればとても得られた物が大きかったと言っていいだろう。

 

(……そして、別れ際。ファルコンは、プリンスとの再戦は来年まで待ってほしい、と伝えた……プリンスも、ファルコンの事情を察してそれを受けてくれた。……一年に一度しか共に走れない。オリヒメとヒコボシみたいな話ね……)

 

 そして、二人の世界最高のライバルの次戦については、来年以降に持ち越しになることを、ファルコンがプリンスに伝え、プリンスもファルコンの表情からその内情を読み、了承した。

 彼女たちのレースは、来年以降。ドバイになるか、日本のレースになるか、アメリカのレースになるかはわからないけれど。

 でも、必ず来年はどこかのレースで走ろう、と約束していた。

 さらにお互いを磨き上げて、全力でぶつかり合おうと。

 

(……やっぱり、良いわね、こういうのって)

 

 現役時代の私とゴアを思い出すような、二人の関係。

 そんなウマ娘らしい、優しくも尊い関係に、私は苦笑を零し、アメリカ遠征編の記録を書き終えた。

 

 次は8月以降の話になる。

 さて、この時期は何があっただろうか。

 

 

 

 

 

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