(12月……あと少し。まずはこの月にあった大きなレースから書いていきましょうか)
活動記録が今月に入ったので、私はまずこの月にあった大きなGⅠから書き記すことにした。
と言っても、12月に存在するGⅠはジュニア期の3つと、ダートの2つ、そして有マ記念しかない。
このうち有マ記念と年末のダートレースである東京大賞典はまだこれからなので、残る4つについて記していこう。
まずジュニア期の3つ、阪神ジュベナイルフィリーズ、朝日杯フューチュリティステークス、ホープフルステークスについて。
このうち、朝日杯フューチュリティステークスについては既に書き記しているところで、我らがチームのキタサンブラックが見事な一着を決めている。
残る二つについて、まず勝ったウマ娘は以下の通り。
阪神ジュベナイルフィリーズでは、ショウホクアデル。
ホープフルステークスでは、チームリギルのブリュスクマン。
(この二人のうち、ショウホクアデルはまだこれからの活躍次第と言ったところ。早熟タイプかもしれない……けど、ブリュスクマンは本物だわ。東条サンの教えもあって、これから間違いなくさらに成長してくる。来年のクラシック路線の最大のライバルと考えられるわね)
私は愛バであるキタのライバルとなり得る存在について、現時点の一番のマーク対象であるブリュスクマンにチェックを入れる。
学園では私にも懐いてくれているウマ娘で、あとリギルで言えばエアグルーヴとも深い付き合いのある子だ。真っすぐな姿勢に好感が持てる、個人的には気に入っているウマ娘だが……だが、トレーナーとしてはライバル側のウマ娘であることは間違いない。
あの子の成長具合、レースへの姿勢など、注目はしておかなければならないだろう。
(今の時点の実力と、伸びしろの見込みだけで言えばキタのほうが上。けれど、ライバルが強ければ強いほど、追う側が諦めなければさらに成長を果たしてくる。革命世代が……これまでのウマ娘達のレースがそうだったようにね)
勿論私もキタを丹精に仕上げていくことは間違いなくて、この子の才能をもってすれば長距離レースがGⅠとして出てくる菊花賞以降ならば、長距離のレースでは無敗、2000m以上でも心配ない走りを見せてくれるはずだ。
もちろん、そこはキタともよく話して、どんなレースを走りたいか、どんなウマ娘になりたいかを決めていこう。
兄さんとも、フェリスの3人とも違う……私達にしか歩めない道がきっとあるはず。
(私とキタは、これからが本番ね。頑張っていきましょう。……さて、ではあとレースで行くと、チャンピオンズカップだけど……これは、まぁね。私達にとっては、そうこなくちゃ、という結果だったわ)
ジュニア期のGⅠについて記述を終えたところで、私はダートのレースについても記録していく。
チャンピオンズカップについては、主な参加メンバーは去年と大きく変わらず、ファルコンを除いたようなメンバーとなり。
そして、一着はハルウララが勝ち取っていた。
彼女の脚に合致したマイル戦、JBCスプリントの敗北の悔しさを燃料に変えて、彼女は力強く駆け抜けて、チャンピオンの冠を戴冠された。
その走りには、次こそは頂の砂の隼に勝つという、熱い意志が感じられた。
私はそれを見て、少しだけ、安心した。
ファルコンとの決着、JBCスプリントで全てを籠めた勝負で敗北となった彼女が、挫折して思い詰めてしまわないかと危惧していたからだ。
一般的なウマ娘には、ままあることだ。勿論、革命世代と呼ばれる8人、それぞれがいろんな悩みや葛藤を抱えながらも、それを乗り越えて強くなってきた。
ウララだってその一人であり、負けで落ち込みすぎてしまわない強さも持っているとは思っていたが、しかし彼女の優しい性格が、己への自罰的な方に向かないか、不安ではあったのだが。
(…けど、それは私の思い違いね。ウマ娘の事を、そのパートナーである彼の事をよく見ていなかった……ウサキのメンタルケアによって、ウララは前向きにまた歩み出した。……見習うべき、ね。ウマ娘が落ち込んだときにどんなケアをしてやれるのか。後でウサキにどんなケアをしたかアドバイスを聞きに行きたいわね……)
私はまだ、挫折やスランプに陥ったウマ娘への対応……メンタルなども含めた対応について、しっかりとそれに向き合ったことはない。
兄さんの愛バ、という意味であればアイネスが去年の秋ごろにそれになったが、それは兄さんが主導となってケアをして、最後はアイネスが己の力で超えていったし、凱旋門賞に挑むフラッシュが若干見せていたそれは、兄さんがフランスで何とかしていたという話だった。
もしキタが……もしくは、この先私が担当するウマ娘がそのような状況になったときに、私はどんなことが出来るのか。どんなふうに、接してやればいいのか。
それはいつか、私が必ず向き合わなければならないトレーナーとしての登竜門だ。今のうちから、先達からアドバイスを受けておくことは大切なことであろう。
私はそうした未来への備えを考えつつ、チャンピオンズカップの記録を終えた。
(……あ、そうだ。ダートレースと言えば、来年からGⅠ扱いになる全日本ジュニア優駿についても少し触れておきましょうか。いいレースだったからね…)
そこで私は一つ思い出して、来年からはGⅠに昇格する地方交流重賞の全日本ジュニア優駿についても記録にとどめておくことにした。
来年から本格的に整備されるダートレース。来年からはクラシック期にダート3冠となるレースも扱われており、世間的な注目も高くなっている。
そして、そんなダートレース界に新しく頭角を現してきた、ジュニア期のホープが3人。
私が目をつけて、しかしスカウトには至らなかった……コパノリッキー、ワンダーアキュート、ホッコータルマエが、全日本ジュニア優駿でバッチバチにやりあったのだ。
(最終直線200mからは3人のデッドヒート……勝敗はハナ差クビ差でコパが一着、タルマエが二着、アキュートが三着。うん……私の目から見ても、あのレースは素晴らしいものがあった。来年のあの子達の活躍が楽しみね……まぁ、最も先達のウマ娘が、ファルコンとウララとマーチに追いすがるためにと益々の成長を見せてるから、シニア混合になったら楽勝とは行かないでしょうけれどね)
私の目に狂いはなかったと確信する、3人の仕上がり。
それぞれがカノープス、スピカ、カサマツで期待の新人として鍛えられており、これからのダート戦線の更なる盛り上がりが期待できそうだ。あの3人は、もっと世間に知られてもいい。学友としても仲が良いようだし。
どこか注目される場で3人一緒にインタビューとか、世間に知られるようなイベントでもあればいいのだが。*1
(……今年のジュニアにも光るウマ娘がいっぱいで、来年のクラシック期も盛り上がること間違いなし。そんな期待が出来そうなレースが多かったわね……)
さて、ではレースについての記録はこれくらいだろうか。
残るは年末の本番、有マ記念と東京大賞典だけである。
(……あとは12月中のチームでの練習について……と言っても、こちらももう、この時点においては全員が脚が仕上っていた……黙々と、淡々と、自分たちが挑む一つの決着たるレースに……体と心を備えていた。ファルコンの芝への走りも全く心配はなくなって……私の目からは、誰が勝つかは全く分からなくなった)
レースの事を書き終えた私は、続いてチーム内での練習について軽く記述した。
凱旋門開けから、11月を2500mの距離、ラスト330mの直線で末脚を発揮できるように脚を仕上げたフラッシュ。
芝と長距離の適性を見事に克服し、2500mでも逃げ切れるスタミナを搭載したファルコン。
短距離中距離マイルのGⅠ連戦を超えてなお脚が力に満ち、実戦勘を落とさなかったアイネス。
3人の仕上がりは、12月に入った時点で過去最高の状態に。
その熱をさらに高めるために、3人とも真剣に、真摯にトレーニングに打ち込んでいた。
シニア級ともなれば、練習にある程度の慣れや余裕が生まれる。それは怠惰にならなければ決して悪いものではなく、ピークを長く維持する意味でも、余力は残しながら少しずつ高めていく練習というのは珍しくないのだが……しかし、この最後の1ヶ月においては、彼女たち3人は、本当に真摯に練習に向き合った。
まるでデビュー前のウマ娘のように。兄さんの指示する練習を、心から噛み締めるように。
(……ここは、これ以上は私が書くべき内容じゃないわね。彼女たちのその練習は、兄さんのためだけに。あの子たちはレースを通じて、兄さんに証明しなければならない。兄さんの教えを受けて過ごした3年間が、どんな形を描いたのかを。駆け抜けた夢の形を、走りで見せるために……)
練習内容については、この活動記録にあまりに詳細に記述しても興が削がれると思い、そこまでにした。
この有マ記念については……私とキタは、あくまで見守り支える側だ。
そこに私達から、必要以上に意志を介在させることに躊躇いを覚える。
脚で語ろうとする彼女たちの、その想いに水を差すわけにはいかないからだ。
(…頑張りなさい、三人とも)
レースのスタート時間までもう24時間を切っている。
私は、3人が実力を発揮しきれるように、後悔のないレースが出来るように……ただ、小さく、祈りを果たした。
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「……よし、と」
これで活動記録は大体書きあがった。
この後は有マ記念と東京大賞典の結果を記録し、推敲して、来年には兄さんに見せることが出来るだろう。
結構な時間がかかったが、書き上げること自体は中々楽しんで取り組めたし、自分が改めて振り返るためにもよい経験だった。
来年も頑張って書き上げよう。あと、兄さんの活動記録も見せてもらわないと。
私はふーぅ、と背伸びをして、上書き保存をしたことを確認して、タブレットを閉じた。
「……あ、トレーナー、お仕事一区切りついたんですか?お疲れ様です」
「ん。ようやくな。結構かかっちまったなァ……今何時だ?」
「20時ですね。後1時間で日本に着きますよ」
「っと、もうそんな時間か……いけね、タチバナに連絡入れねェと」
隣に座るキタから労りの声をかけられて、時間を見ればもう日本に着く時間だ。
到着前に一度、空の上からLANEを入れることを伝えてあったので、私はウマホを取り出す。
するとそこには、既に15分前に兄さんからのLANEの着信があった。サイレントマナーモードにしていたので気付かなかったようだ。
私は兄さんから送られてきたその内容を見て……まったくあの人は、と軽く苦笑を零した。
「……タチバナのやつ、空港まで迎えに来てくれるってよォ」
「え、本当ですか?今日は先輩たち3人と一緒に、少し遅れたクリスマスパーティをやるって話でしたよね?」
「あァ。まぁ時間的にはあんまり遅くまでやらねェだろうから、終わってから来てくれるのかもな。つってもタチバナだって忙しいだろうに……ホント、気が利きすぎるぜ。ウマ娘のためなら何でもやるからなァあいつ」
「ですねぇ…たまにはゆっくり4人の時間を過ごせばいいのに。明日には有マが控えてるんですから」
LANEには、彼が車で空港まで迎えに来てくれることの報告があった。
今日は確か、レース前日にはなるが私たち二人を除いて、チームの始まりの3人と共に数日遅れのクリスマスパーティをやる、と言っていたのだが。
まぁ3人とも明日にレースを控える身だ。余り遅くまで盛り上がれないのはその通りで、終わってから車で迎えに来てくれるという事なのだろう。もしかすれば寮まで車で送り届けたついでにこっちに来てくれるのかもしれない。
しかし、それはそれとしてトレセン学園から成田空港はそれなりに距離がある。本当に、無理をしてほしくはないのだが。
まぁ、あの男の事だから、それを面と向かって言っても「全然負担になってないから」とでも返してくるのだろうが。
「……ま、もうこっちに向かってきてくれてる頃だろうしなァ。有難く車に乗せてもらおうぜ」
「ですね」
日本に到着するまでの少しの時間を、私はキタと過ごしたのだった。
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成田空港に着いた。
チームフェリスは海外への遠征は慣れており、そこで学んだ海外渡航のコツとして大きな荷物は既に寮に直接配送しているので、私達の荷物は簡単に持てるハンドバッグくらいのものだ。
レースのために遠征したわけでもないので待ち構える記者などもいない。
寒く、夜の帳を落としている空港内を歩き、私たちはターミナルに向かう。
そこに、私達を迎えてくれる人が待っているから。
かつ、かつ、とヒールの音を鳴らして空港内を歩く。
探していた人は、近づけばすぐに見つかった。
遠巻きに、一人の男性を見ている客がそのあたりにいたからだ。
本人もようやく自覚し始めた、世間への知名度。
誰だって一目で注目する、その佇まい。
肩に猫を乗せた、顔の整った若い男性。
私は、少し早足になって、彼に近づいていく。
これ以上周りから彼が注目され過ぎないように。
待たせてはいけないから。
明日もあるから、早く帰らないといけなくて。
─────会いたかったから。
どうやら、向こうもこちらに気付いたようだ。
顔を向け、笑顔を見せて、彼からもこちらに歩み寄ってくる。
お互いの距離が近づいて。
『─────ただいま、兄さん』
『お帰り、SS』
私の帰省は終わりを迎え、第二の故郷へと帰ってきた。