「それじゃ、君達の明日の好走を祈って……乾杯!」
「乾杯です」
「カンパーイ☆」
「乾杯なの!」
「ニャー」
俺は自宅のリビングで、ケーキが準備されたダイニングテーブルに座る3人に向けて簡単に乾杯の音頭を取った。
今日は12月最後の土曜日。明日には有マ記念が控えている。
午前中は学園で脚の調子だけ整えて練習を終えている。
その後、お昼を取って15時ごろから俺の家にチームの3人に集まってもらい、遅れたクリスマスのパーティと、明日の
ちなみに勿論というべきか、ケーキはフラッシュの手作りである。
俺の肩から降りたオニャンコポンも、自分の前に配膳されたケーキを嬉しそうにつついている。最近はフラッシュがとうとう猫用のケーキの作り方も覚えてくれて、ちゃんと配慮がされている。有難い限りだ。
なお、今日集まってくれているのはこの世界線の俺の始まりの愛バたち3人である。
SSは一週間前からアメリカに里帰りし、キタもそれについて行って海外経験を積んでいる。
今頃は帰りの飛行機の中になるだろうか。今日のパーティが終わったら成田空港へ車で迎えに行く予定だ。
このパーティも、明日がレース当日ということもあり、遅くまでやる予定はない。
ケーキを食べて、談笑し、俺の方で軽い夕飯を振舞ったら寮まで送り届けるというプランが立っていた。
「明日に有マが控えてるけれど……今年一年も、3人ともよく頑張ってくれたな。本当に……よく走ってくれた。最高のレースばっかりで、俺は随分と脳が焼かれたよ」
「有難うございます。私は一時期、思い悩んだこともありましたが……今はすっかりと悩みも晴れて、明日には今年の、いえ、これまでの集大成を見せられることでしょう」
「私も走り回ったなぁ、ダートのレース……今年最初のレースは負けたけど、あのおかげで今があるって感じ。芝にも半年で脚は慣らせたし……明日は負けないよ☆」
「あたしは去年ジャパンカップで吹っ切れてから、今年一年はとにかくレースが楽しかったなぁ……勝ったレースも負けたレースも、全部が想い出なの!」
「ニャー……モッモッ……ンナンァー」
俺は皆に、今年一年を振り返る言葉をかけてから、壁掛けの大型テレビのディスプレイにタブレットの画面を映し、あらかじめ準備しておいたこれまでのレースの戦歴を振り返る。
今年一年のデータと、勿論、これまでのデータを全て揃えてある。タブレットを弄って画面を編集し始める。
既にオニャンコポンは自分用のケーキをもっちゃりもっちゃり食べ始めている。お気に召したらしい。
「……せっかくだし、みんなのこれまでの戦歴を振り返りながら話そうか。ちょっと待ってな……これと、ここと……」
「ふふ、トレーナーさん。振り返りもいいですが、私の作ったケーキもちゃんと味わってくださいね?……はい、あーん♪」
「お、すまんすまん。あむ。んむ。……んむ、ンマい!やっぱフラッシュの作るケーキが一番美味いな」
「あっ!ずるい!」
「ハナを取られたの…!」
タブレットを弄っていると、フラッシュがケーキを切り分けて俺の口元まで運んでくれたので、俺はそれを有難く頂戴して口で受け止めた。
彼女の作るケーキはやはり絶品だ。最近は和菓子の作り方も参考にして日本人の口に合うケーキを研究しているらしく、前よりもしっとりした食感がして俺の好みの味になっている。
くすりとはにかむフラッシュに、残る二人が負けじと俺にあーん攻撃を仕掛けてくる。俺は勿論それを有難く頂戴した。
なんか餌付けされてるヒナの気分になるが、ウマ娘は信頼する相手にあーんをすることで走る調子が上がるケースがあるからな。これくらいはお安いもんだ。
普通に俺も嬉しいし。
「あむ……ん、っと。よし、出たぞ。メイクデビューから先、みんなが走ったレースの一覧だ」
タブレットの操作を終えて、モニターに映るレース結果一覧にみんなの目が向けられた。
【エイシンフラッシュ】 14戦10勝 GⅠ5勝
・メイクデビュー 2000m 芝 1着
・芙蓉ステークス 2000m 芝 1着
・京都ジュニアステークス 2000m 芝GⅢ 1着
・ホープフルステークス 2000m 芝GⅠ 2着
────────(クラシック期)────────
・弥生賞 2000m 芝GⅡ 1着(レコード)
・皐月賞 2000m 芝GⅠ 1着
・日本ダービー 2400m 芝GⅠ 1着(レコード)
・神戸新聞杯 2400m 芝GⅡ 1着
・菊花賞 3000m 芝GⅠ 1着(クラシック3冠)
・有マ記念 2500m 芝GⅠ 2着(レコード)
─────────(シニア期)─────────
・ドバイシーマクラシック 2410m 芝GⅠ 1着(レコード)
・天皇賞春 3200m 芝GⅠ 3着
・宝塚記念 2200m 芝GⅠ 4着(レコード)
・凱旋門賞 2400m 芝GⅠ 1着(日本初凱旋門賞制覇)
【スマートファルコン】 14戦12勝 GⅠ8勝
・メイクデビュー 1400m ダ 1着(レコード)
・なでしこ賞 1400m ダ 1着(レコード)
・阪神ジュベナイルF 1600m 芝GⅠ 1着
────────(クラシック期)────────
・ヒヤシンスステークス 1600m ダ 1着(レコード)
・皐月賞 2000m 芝GⅠ 3着
・ベルモントステークス 2412m ダGⅠ 1着(世界レコード)
・シリウスステークス 2000m ダGⅢ 1着(レコード)
・JBCレディスクラシック 1800m ダGⅠ 1着
・チャンピオンズカップ 1800m ダGⅠ 1着(レコード)
・東京大賞典 2000m ダGⅠ 1着(レコード)
─────────(シニア期)─────────
・フェブラリーステークス 1600m ダGⅠ 2着(レコード)
・ドバイワールドカップ 2000m ダGⅠ 1着(世界レコード)
・帝王賞 2000m ダGⅠ 1着(レコード)
・JBCスプリント 1200m ダGⅠ 1着(レコード)
【アイネスフウジン】 18戦13勝 GⅠ6勝
・メイクデビュー 1600m 芝 1着
・函館ジュニアステークス 1200m 芝GⅢ 1着
・新潟ジュニアステークス 1600m 芝GⅢ 1着
・小倉ジュニアステークス 1200m 芝GⅢ 1着
・デイリー杯ジュニアS 1600m 芝GⅡ 1着
・朝日杯フューチュリティS 1600m 芝GⅠ 1着(レコード)
────────(クラシック期)────────
・きさらぎ賞 1800m 芝GⅢ 1着(レコード)
・桜花賞 1600m 芝GⅠ 1着
・日本ダービー 2400m 芝GⅠ 2着(レコード)
・紫苑ステークス 2000m 芝GⅢ 1着
・秋華賞 2000m 芝GⅠ 3着(レコード)
・ジャパンカップ 2400m 芝GⅠ 1着(レコード)
─────────(シニア期)─────────
・ドバイアルクオーツS 1200m 芝GⅠ 1着
・天皇賞春 3200m 芝GⅠ 1着(全距離GⅠ勝利達成)
・宝塚記念 2200m 芝GⅠ 2着(レコード)
・スプリンターズステークス 1200m 芝GⅠ 4着(レコード)
・天皇賞秋 2000m 芝GⅠ 1着(天皇賞春秋連覇達成)
・マイルチャンピオンシップ 1600m 芝GⅠ 2着(レコード)
「……改めて、凄まじい成績だなぁ」
俺は表示した一覧を見て、思わずつぶやいてしまう。
3人とも、どこを見ても欠片も恥ずかしく無い成績。
時代を、歴史を作るウマ娘が3人。本当に、心から自慢できる愛バたちだ。
「……懐かしいですね。ジュニア期はチームで無敗、GⅠ全勝を狙っていましたね。惜しくも届かず、でしたが」
「クラシック三冠路線は熱かったねー……あの皐月賞で吹っ切れて、ダートで暴れまわったなぁ……」
「今にして思うとあたしのジュニア期のレーススパンがやべーの。半年で6戦はだいぶ走ったなぁ……GⅠ勝利数はやっぱりファル子ちゃんが一番だね」
「ダートレースなら負けないもん☆やっぱりベルモントステークスが一つの切っ掛けだったかな……アメリカのタイキちゃんのファーム、楽しかったねぇ」
「海外遠征も何度もしましたが、一番落ち着いて過ごせたのはタイキファームでしたね。タイキさんのお父様ともまた会いたいですね、お元気になさっているでしょうか」
「いい人だったのー。でも一番盛り上がったというか、熱かったのはドバイかな……革命世代みんなで挑んだドバイワールドカップデーは一生忘れられない想い出なの!」
「ドバイには長くいたので観光もできましたからね。あれはよい経験でした。フランスも……トレーナーさんと二人きりで廻ったパリの街並みが忘れられません……」
「おっとぉ~?急にマウント取ってくるのやめよ☆??」
「そーなのそーなの。あたしだって、毎週末に立華さんと二人きりの時間過ごしてるし……」
「マウント重ねるのやめよ☆??私も語りだすよ???」
「ははは………」
俺は皆が思い思いに零す感想に苦笑を零しつつ、しかし、彼女たちの話がレースの勝敗だけではない、そのレースに至るまでの、至った後の想い出の感想が多いことに、温かい気持ちを覚える。
俺が彼女たちにそうあってほしいと求める部分だ。
レースの勝敗だけではない、走りだけではない……日常も、学園生活も、心から楽しんで、想い出を作ってもらいたいというそれ。
今回の世界線では、3人のウマ娘を担当し、チームとして共に過ごしたことで……また、ファルコンをきっかけとして海外遠征も多かったことで、日常的ではないイベントが多かった。
それはチームとしての応援やレース場への遠征もそうだし、海外への遠征もそうだ。夏合宿も合同合宿所でのそれではなかったし……また、世代全体が革命世代と呼ばるほどに国内、国外問わず強力なライバルが多くいてくれたからこそ、普通は経験できないような経験ができて、交友関係も広がっている。
そんな想い出を彼女たちが尊く思ってくれていることに、俺は喜びしかなかった。
達成感、と言ってもいいだろう。
俺はこの3年間で、彼女たちの心に残る何かを与えられたのだ。
それがトレーナー冥利に尽きなくて、何だというのだろうか。
「……みんな、楽しかったかい?俺と出会って、俺の担当になってから……走ったレースは、日常は、楽しかったか?」
俺は改めて、みんなの想いを確かめたくなって、そんな質問を零してしまった。
俺の事情を知っている3人が相手だからこそ零せる話だ。
有マ記念を終えて、来年になれば……きっと、俺の中の時計の砂が尽きて、ひっくり返る時が来る。
俺の意識の片割れは、その先の彼女たちを見届けることができないからこそ、この場でそれを聞いておきたかった。
しかし俺の問いに対して、彼女たちは俺の想像とは違う答えを返してきた。
「……愚問です。トレーナーさん、貴方と出会って私は随分と苦労させられたのですから。ええ、本当に」
「ファル子もそうだよ。トレーナーさんと河川敷で出会って、変えられちゃったんだから!ホントーに苦労したんだよ?」
「あたしも。あの時トレーナーの家に家事代行で来なかったら、こんな未来になってないんだから。まさかここまで、ねぇ?」
「……え?泣きそうだけど?」
なんと、みんな何かしら俺に不満があったようだ。
なんてこった。もうすぐ別れようというこの瞬間にそんなカミングアウトがあるなんて。
割とマジで泣きそうになって涙腺が緩み始めるが、しかし、彼女たちは動揺した俺の姿を見てくすりと笑い、すぐに訂正してくれた。
「…ふふっ、冗談です。いえ、苦労したのは本当ではありますが……その苦労が心地よかった。貴方と、私達と、サンデートレーナーとキタちゃんと、チームのみんなで歩んだ道が一筋縄でいかなかったのは確かですが。でも、その歩みを出来たことが、何よりも嬉しかった。私も……もう一人の私も。貴方とまた出会えたことに、欠片の後悔もありません」
「トレーナーさんと河川敷で出会って、貴方の指導があって……私は、ウマドルとしての自分じゃなくて、ダートを走る私を見つけられた。ダートで走るのが何よりも楽しくて、やりがいになったの。世界の頂まで高く飛べたのは、トレーナーさんのおかげ。フラッシュさんの言うように、大変なこともあったけど……だからこそ、今、この時を過ごせるのを、幸せだなって思うよ」
「あたしの家族の事、あたし自身の事……全部変えてくれたのは、トレーナーなの。選抜レースの時、悩んでいたあたしを助けてくれた……そして、レースでも勝たせてくれた。お金に困らなくなって、モチベが下がってスランプになった時も……寄り添ってくれた。もう立華さんなしじゃ駄目な体にされてるんだからね?それくらい、立華さんには感謝してるの。貴方の教えを受けられてよかったの」
「お、おお……ワッ……ワァッ……ウッ」
その言葉に、俺の涙腺は決壊した。
滝のように涙を流しながら、言葉にならない声を零す。
なんて、出来たウマ娘達なのだろう。
サプライズ気味に、そんな嬉しい言葉を聞いてしまえば、俺は嬉しさで何もできなくなってしまう。
俺の三年間は、間違っていなかったのだ。
「ふふ、泣かないでください、トレーナーさん。しっかりしているように見えて、いつも涙もろいんですから」
「ダービーの頃から、よく泣いちゃうようになったよねートレーナーさん。ふふ、可愛い」
「ほら、涙拭うのー。よしよし」
俺はアイネスにハンカチで涙を拭ってもらいながら、三人からしょーがないんだからー、という雰囲気で言葉をかけられる。
オニャンコポンからもニャー、と俺を心配するような鳴き声が聞こえてきてしまった。
仕方ないのだ。何年ウマ娘を育てたって、こればかりは慣れることはない。
ウマ娘の為にやってきたことを、ウマ娘が肯定してくれることほど、トレーナーにとってうれしいことはないのだから。
その後、俺の涙が止まり、落ち着くまで、だいぶ時間を要したのだった。
────────────────
────────────────
「……ふぅ。すまん、いきなり取り乱しちまったな……」
ようやく感情が落ち着いて、ケーキを改めて味わえるほど回復したところで一息ついた。
本当に俺ってやつは、ウマ娘に感情を引っ張りまわされてしまう。
もっと大人にならねば……と思う反面、何度世界を繰り返してもこうなのだから、たぶん俺にとっての大人レベルは今が頭打ちなのだろう。成長率の低い男だ。
でも、それを受け入れてくれるくらいウマ娘と絆を結べているのだから、悪い事ではないのだろう。
大人になり過ぎて、心が擦り切れたくはない。
新鮮な強い感情を、いつでも味わっていたい。それを我儘とは誰も言わないだろう。
「トレーナーさん、大人びて見えますが結構ナイーブなところがありますからね。まぁ、それは私達もそうなのですが……」
「完璧超人ではないよね☆……そんなところがいいんだけど。隙が多い…っていうの?」
「去年の夏合宿思い出すの。ひやっとしたね、あの時のトレーナーは。困ったらお姉ちゃんにいつでも相談するの!」
「ニャー」
「仕方ないだろ……まだ20代中盤だぞ俺は」
「どの口で?」
「マジで言ってるの?」
「心構えはそうありたいと思っている…!」
「うんうん☆そういうの、大切だと思うな☆」
そうして、チームのいつもの雰囲気の雑談が始まった。
雑談の内容はいくらでも、止めどなく零れ続けた。
俺の話、フラッシュの話、ファルコンの話、アイネスの話、オニャンコポンの話。
俺たちの出会い、選抜レース、チーム結成、体幹トレーニング、チームカサマツとの出会い、メイクデビュー、ジュニア期連戦、ジュニア期GⅠ、ライバルの存在、年末年始のお泊り会、バレンタイン一回目、クラシック戦線、皐月賞の死闘、日本ダービーの死闘、アメリカ遠征、タイキファームの想い出、ベルモントステークスの奇跡、革命の始まり、夏合宿開始、ジャパンダートダービーの俺の葛藤とそれを晴らしてくれた3人の女神、その後の合宿の練習、合宿明けのSSとの出会い、クラシック秋GⅠ戦線、アイネスのスランプ、フラッシュのクラシック三冠、ファルコンの覚醒、アイネスのジャパンカップでの覚醒、フラッシュの有マ記念の記憶の邂逅、シニア戦線、ドバイの招待、キタのチーム加入、フェブラリーステークスの初敗北、ドバイ遠征、ドバイの想い出、伝説の一夜、春GⅠ戦線、天皇賞春のアイネスの全距離GⅠ達成、宝塚のライアンの衝撃、夏合宿中のセクレタリアトの伝説、アイネスのスプリンター最強決定戦、フラッシュの凱旋門挑戦、ファルコンのウララとの勝負──────
─────ああ、いくらでも想い出が零れてくる。
この三年間で彼女たちと共に歩んだ、尊くてかけがえのない想い出が、無限に溢れてしまって。
そして、そんな話をする中で、ふと、気が緩んで、俺はその言葉を零してしまった。
「──────寂しくなる、な」
その言葉を、本当は零すつもりはなかった。
これまでの世界線でも、これは言ったことがない。当然だ。
三年をループするなんてことを知らないままの愛バの方が多かったのだから。
彼女たちにとって、俺はその後も歩んでいくトレーナーであり、別れなんて全く意識はしていないだろう。
そんな彼女たちに、寂しいという想いを零すことはなかった。困ってしまうから。
いや、ループしていることを知っていてもそれは伝えるべきではないことだ。
事実、寂しいという気持ちはあるし、別れを惜しむ想いは間違いなくある。
だけど、その感情は想い出として昇華していくものだ。
別れを惜しみつつも、否定はしない。それも前向きに受け入れて、俺は次の世界線に歩んでいかなければならない。
これまでも、そうであったように。
しかし─────この3年間は、
担当が3倍の人数に増えたことで、チームとして運営したことで……そしてSSとも、キタとも、他のチームトレーナーや世代のウマ娘達とも縁を結び続けたことで、寂しいという想いがより強く、表層化してしまったのだ。
そうして、思わず零してしまった一言。
しまった、と。
そう思い、伏せていた顔を上げ、3人の顔を見ると、やはり驚いたような表情で。
俺が初めて零した、ループすることに対する弱音。
別れを惜しむ言葉。
それに大層驚いているのだろう。
いかん。訂正しなければならない。
少なくともすぐに消えることはないし、君達の有マ記念は必ず見届ける。
そして来年、恐らくすぐに俺は分かたれるだろうけれど、これまでのパターンからしても、分かたれる瞬間は皆といるタイミングだ。
そもそも俺という意識はその先も君達と一緒にいられるのだから……と、そこまで話す内容を脳裏に一瞬で思い描いて、しかしその時間が致命的だったらしい。
「……あー、その─────っておわぁ!?!?」
俺は三人に襲い掛かられて、ソファに押し倒されるような形となった。
リビングは広く、またウマ娘が遊びに来る機会も多いので、大きなソファにしていたのだがそれが仇となった。
頬を赤く染めて呼吸が荒くなった3人に、俺は見事に押し倒されて、見下ろす3人の顔を見あげることになった。
「ッ…!そんな、顔で……そんなことを、言わないでください、トレーナーさん!……貴方を、離したくなくなってしまいますっ……!刻みつけてッ……ふーッ……!ふーッ……!」
「ダメ……そんな、寂しいなんて……言われちゃったら、私、我慢できなくなっちゃう……繰り返しちゃうほうのトレーナーさんに、私を、もっと忘れないでほしいってッ……ごくっ……ふぅー……!」
「ズルい……ズルいのっ!!そんな気持ちを抱えた立華さんが、行っちゃうの、すごく嫌だって思っちゃう……!!あたしがいないと駄目だって……ッ、わからせてやるの……!まんじりともせず受け入れるの……!!」
いかん…!(ギュッ)
どうやら俺の零した弱音がきっかけで、何がどうなったか知らないが………完全に、
これはいかん。明日は有マ記念という大一番が待っているのに、その前日に掛かり癖なんて笑い話にもならない。
俺の服を破り取らんと手を伸ばしてくる三人に、しかし俺はふと、ウララやそれ以前に担当したウマ娘達をふと思い出す。
そういえば彼女たちも何故かシニア級の12月が近づくと急に掛かり癖が発症することが多くなったな。
なんでやろ。バイタルのリズム的な物があるんかな。
さて、しかし、相手がただのトレーナーならここで掛かり癖を発症させたままになるだろうが、しかし俺はループ系トレーナーである。
対処については全く問題ない。
─────三人いれば勝てると思ったのか?
「んみゃっ!?」
「ぎゃあ☆!?」
「ミ゛ッ…!?」
右腕はフラッシュが、左腕はアイネスが抑えていたので、俺は脚の関節を外して自由になった可動域を用いて、足指による秘孔突きを敢行。フラッシュを見事に落ち着けることに成功した。
その勢いで右腕を抜いて、ドスドス、とファルコンとアイネスにもツボ押しをお見舞いする。
尻尾の付け根付近の落ち着けるツボを見事に撃ち抜かれた3人は、そのまま俺に被さる様に脱力して倒れた。
表現はあれだが、まるで事後のように乱れた髪と息と服で、俺たちはソファの上に横たわることになった。
なんだこれ。
「……落ち着いたかな?レース前日だからね。変に体力使っちゃだめだよ。少し休んだら夕食を食べて、今日はお開きです」
「…………はい。いえ、ええ。冷静になれました……人間はウマ娘には勝てませんが、トレーナーさんは例外でしたね……」
「ウマ娘3人に襲われても何とかされるこの人なんなの……?☆」
「久しぶりにやられたの……でも、うん、そうね。そっちの勝負はその後って話だったもんね。掛かっちゃった……」
そして3人がそれぞれ体を起こす。明日のレースへの影響はなさそうだ。割と回復が速い。
この冷静になるツボ押しだが、なんでか知らんけど徐々に効果が薄れていくんだよな。
効かなくなったらどうするか。
ま、なんとでもなるか。ウマ娘にトレーナーが負けるわけないだろ。
「……改めて言うけどさ。次が俺にとってある意味、君達の走る最後のレースになるのは、寂しいよ。それはマジな。だけど……その先を歩む俺は君達のその後のレースも見れるし、次の世界に旅経つ俺は、君達のレースを想い出として持っていける。だから、俺としては……君達が、最高のレースを見せてくれるのを心から願ってる」
そして最後に、改めて俺の気持ちを彼女たちに伝える。
俺がこの三年間、君達に注いだ愛を。
歩んできた道のりを、レースの走りで、脚で語ってほしい。
俺はトレーナーで、君達はウマ娘なのだから。
「─────期待してるぜ、俺の愛バ達」
その言葉には、3人ともが笑顔で頷き返してくれた。
────────有マ記念が、来る。
────────最後のレースが、来る。