※※注意※※
この話は特にエビデンスとかはなく妄想の産物です。
「詳しく……」
「説明を…してほしいかな☆」
「私たちは今、冷静さを欠こうとしているの」
「しっかり説明するからそんな目で見ないで」
ホワイトボードに書かれた『体幹トレーニング』という文字。
それ以外の練習はメイクデビューまではしないと言い切った俺に、これでもかと困惑した6つの瞳が向けられる。
オニャンコポンを放つことでその視線から逃れながら、しかし俺はしっかりと事情を説明する。
ここでこの子たちがどれほどこのトレーニングの重要性を理解するかが、この先のトレーニングへのやる気と、爆発的な成長に直結するからだ。
何百年もウマ娘の指導を繰り返し続けた俺が出した、一つの最適解であるこの指導法について。
「えっとな、ウマ娘が…速く、怪我なく、長く走るために、絶対に必要なトレーニングなんだ。それをみんなにも
「…いえ、体幹トレーニングの重要さは、もちろん私たちも存じ上げていますが…」
「それだけしかやらないほど、なのかな?ファル子走りたいなー」
「トレーニング不足なのに、それだけで大丈夫かなって流石に不安になるの」
皆が困惑の色を隠せないままに、どうして?と話の続きを促してくる。
気持ちはわかる。
なので、説明が長くなるからよく聞くように、と前置きして、俺は話を続けた。
「理由はいっぱいあるんだ、一つずつ説明していく。まず大前提の知識だが……体幹が強いウマ娘は、走りも速い」
「それは…その、速いウマ娘が、しっかり鍛えられていて、体幹も強くなっているという話ではないのですか?」
「違う。はっきり言うと、
勉強が苦手なファルコンにもわかりやすいように、ホワイトボードにイラストも添えながら話を続ける。
「俺は前にフラッシュとアイネスには言ったな、いい脚してるのにもったいない、って感じの話」
「ええ、お伺いしました」
「聞いたの」
「あれな、もうちょっと実は意味がある。そもそもだが、君たちは3人とも才能があるウマ娘だ。脚の筋肉のつき方だけで言えば、余裕でジュニアのレースで勝てるくらいには発達している」
「え、そんなになの?でも…」
「…実際に私たちは、貴方に指導を受けるまではレースで勝ち切れませんでした。そこに秘密が?」
俺は3人と話しながら、ホワイトボードに文字を書いた。
『スピード』、そして『体幹』。
「ウマ娘が全力で走る時に、スピードを出す元は足の筋肉。だが、その速度を維持する、加速する、臨機応変にコースを変える、足をくじきにくくする…これらすべてに、体幹がかかわってくる。体幹が発達していないと、思い切りスピードに乗ることができないんだよ」
「……ふむ、なるほど…?」
「うーん…?」
「言ってることはわかるけど……」
ここまで理屈を並べるが、我が愛バ達はまだ吞み込み切れていないといった雰囲気だ。
わかる。だから、ここからは彼女たちの実体験をもとに、納得と理解を深めていく。
「…そうだな、例えば。フラッシュ、この間の選抜レース、見事な走りだったな」
「はい?あ、いえ…ありがとうございます。あれは自分でも、全力で走り切れたものと…」
「そう、それ。
「え?は、はい。その通りです。走り終えた後、とても爽快な気分でした」
望んだ回答を得られたことで、俺は次にアイネスに顔を向ける。
「アイネス。こないだの最終の選抜レース
「え?…あ、うーん、そう言われればそうかも…?勝ち負けもあるけど、練習でも、走っててあんまり楽しくなかったかもなの」
話を繋げていく。続いて全員に向けて。
「君たちが子供のころってさ。グラウンドでも、野原でも、山道でもいい。
「あ、それはわかるの!」
「ええ、そうですね。子供のころは…ただ走っているだけで楽しかった記憶があります」
「わかるー!どこでだって全力で走って、疲れ切って、すっごい気持ちよかったよね☆」
「そう、ここにヒントがある」
ホワイトボードにいろいろ追加の情報やらイラストやら書きながら、みんなの理解を深めていく。
「ウマ娘が子供の頃ってな。脚の筋肉の発達と、体幹の発達のバランスが取れているんだよ。筋肉はまだ未熟だけど、全身運動をよくするから体幹はみんな同じくらい発達する。だから、子供のころはみんな自分の筋肉を全部使って、全力で走ることができてたわけだ」
ここで、ホワイトボードに以下のように書く。
『スピード』30 : 『体幹』30
「けどな、体が成長していって…ウマ娘が種族的に一番発達著しいのが、脚の筋肉だ。人間のものとは比べ物にならない力がそこには生まれる。本格化もすれば当然上乗せ。しかし、体幹は人間と同じ肉体構造の都合で、なかなか成長しない。するとどうなるか……」
『スピード』100 : 『体幹』50
ここまでホワイトボードに記載して、みんながピンときた表情になる。
「…体幹が未発達なせいで、自分が本来持っているスピードが出し切れてない?」
「あ、そっかぁ!私達ウマ娘って早く走るために脚は強くなるけど、バランス感覚とかは人間と大差ないもんね」
「あー、だからあたしも走っててあんまり楽しくなかった、ってこと?
「アイネスのそれで大正解。ついでに重ねるとフラッシュ、君が選抜レースで走ったときに気持ちよかったのもこれが正解」
「…!なるほど、トレーナーさんから頂いていたトレーニングメニューですね!」
「ああ。脚に負担をかけないように、って理由もあったけど。あれ、
そう、実のところエイシンフラッシュには事前に仕込みをしていた。
彼女は、彼女たちの脚はすでに成長は現段階では十分な発達。これからもちろんスピードも上げていくが、その前に体幹を仕上げる必要がある。
いわばビル建設工事の基礎固めだ。
この基礎がでかければでかいほど、その後の伸びも著しくなっていく。
「さて、さらに理解を深めようか。ファルコン、君はダンスが得意だよな?流石ウマドルだ」
「え?なんか急に褒められた?えへへー、でもありがとー☆!子供のころから練習してたからね!」
「うん、いいことだ。…で、はっきりと言っちゃうと、この3人の中で現時点において、一番体幹が発達してるのは実は君だ。ファルコン」
「…そーなの?」
「そうなの。ダンスって、全身運動なんだよ。体幹が必要になってくる。君は子供のころからそれを鍛えてたから体幹が結構伸びてる。得意なダートに鞍替えしただけで、特に俺の指導とかなしに、全力で走れて気持ちよかっただろ?」
「あ、うん。それはそう☆この間のダートのレース、すっごい気持ちよかった!」
この3人の中で現時点で、一番体幹が成長しているスマートファルコン。
唯一、彼女だけがダンスの練習にも力を入れていたことで、体幹もそれなりに発達していたからこそ、彼女はダートのレースで全力で走ることができた。
とはいえ、俺の目から見たら
そのためにも、重ねて彼女たちの興味を引くために俺は話を繋ぐ。
「逆説的な話でこれを証明しようか。みんなの理解を得られる話だと思うけどさ…レースの勝者って、ウイニングライブでめっちゃ輝かしく歌うじゃん」
「そうですね、私たちもいつかあの場所で歌いたいものです」
「もちろんセンターでね☆」
「その意気。…で、だ。レースのグレードが上がっていくほど、ウイニングライブのウマ娘達の踊りのキレってすごくなっていかないか?ほら、ルドルフとかマルゼンとか、それこそプロ顔負けのキレのあるダンスしてるだろ?」
「あー、すっごいわかるの!GⅠレースとかのウイニングライブだと、バックダンサーも含めてみんなキレッキレなの!」
「だよな?それはなぜか。ダンスの得意苦手を語る前に、そもそもGⅠで勝ち切るようなウマ娘は、全員
「…なるほど。筋の通った話ですね」
「はー……そういうこと、全然考えないでライブ見てたよー」
ウイニングライブを疎かにするものは学園の恥。
そう言い捨てた某会長がこの学園には存在するが、それはレースの勝敗とイコールにつながる。
そもそも、ウイニングライブが疎かになるようなものは体幹が未発達でレースに勝てないという意味だ。俺はそう受け取っている。
なお田舎出身で野山を駆け巡ることで体幹を鍛え上げダンスに触れる機会がなく醜態を曝してしまった
「……何となくわかってきたか?体幹を鍛え上げることが、どれだけ重要なことか」
「はい。大変わかりやすい理論構成でした」
「ファル子もしっかり理解できたかも!トレーナーさん、教師の才能あるよ☆」
「体幹が未発達だと、そもそも走るスピードが出せないの…F1カーが速く走るためにはエンジンだけじゃなくて、足回りや車体の剛性がしっかりしてないと、って理解なの」
「お、アイネスの表現はいいな、わかりやすい。この理論の論文作る時に使わせて」
目論見通りに、体幹トレーニングの重要性は理解を得られたようだ。
続けて、このトレーニングをすることでどのような効果が得られるのかを俺はホワイトボードに書いていく。
「じゃあ次は、体幹…バランス感覚、って言い換えてもいいかもな。これが成長することで、走りにどういった影響を与えるかだ。フラッシュ」
「はい」
「この中では君が一番、体幹を鍛えた効果について実感できているだろう。選抜レースの最終直線、君は見事な末脚を繰り出したわけだが……踏み込むとき、パワーが地面にしっかりと伝えられてる感じがしなかったか?」
「!そうですね、そういった表現で適切かと思います。これまでの私にはなかった、確かな踏み込みを感じました」
「そうだろう。まず踏み込みが強くなる。…で、踏み込みが強くなると、加速、コース取り、コーナーを走る時などに顕著に効果が表れる」
ホワイトボードにどんどん追記していく。
『加速力』
『コース取り』
『コーナーワーク』
「姿勢もよくなるから、フォームも改善されてスタミナの余計な減少も抑えられる。転倒もしにくくなる。足首への負担も減って、怪我もしにくくなる」
『スタミナキープ』
『転倒防止』
『怪我防止』
…と追記し、その次に【ポイント!】と強調して。
「そして一押しの効果が2つある。一つは────バ場を選ばず走れるようになるんだ。重バ場でもどこでも、踏み込みの確かさと転倒しないバランス感覚のおかげで、速さが出るようになる。もっと言えば……ファルコン」
「ん、はい?」
「
「っ!!」
「…オグリキャップとかタイキシャトルとか、芝もダートも強いウマ娘は、全員体幹が仕上がっているからこそだ。君も、それを目指していってほしい」
『場所を選ばない』
…かつて俺がスマートファルコンに伝えた約束。
芝も走れるようにする。
その約束を果たすためには、体幹トレーニングが必須なのだ。
「…私……うんっ!わかった!ファル子、頑張るね!」
「ああ。実際には体幹を磨いた後にフォームとかも色々調整していく必要があるが…それでも、約束は守るからな」
「うん!」
これがぜひとも伝えたかった重要なことのうち、1つ目だ。
そしてもう一つは、3人全員に関係のあること。
3人が、これからのトゥインクルシリーズで勝ち切るために絶対に体幹トレーニングが外せない、その理由。
「さて、もう一つの重要なことだけど。…体幹は、しっかりしていればしっかりしているほど、
「…そうですね。体幹に優れるということは、全身、あらゆるところで力を入れるのが上手になるということで…」
「トレーニングでも力を使い切れる、って感じ?」
「どんなことをやっても、応用が利く…ということなの?」
「そんな感じ。…裏を返せば、体幹が未成熟なままにハードな走行トレーニングをすると、恐ろしいほど結果が伴わない。…これは体験してるのが何人かいるな」
「……
「耳が痛いの」
体幹が未発達なままに、がむしゃらにトレーニングをして調子を崩したエイシンフラッシュと、練習不足によってさらに体幹が磨かれず全力で走れていなかったアイネスフウジンの、二人の耳がへにょっと垂れた。
「はは、悪い悪い。…が、事実だ。だから俺は、君たちの体幹をこれから徹底的に鍛え上げる。君たちの持ち前のスピードが出し切れれば、メイクデビューは難なく勝てる。体幹がしっかりと育ったら、今度は当然、スピードやスタミナ、パワーを伸ばしていく。これも、体幹がしっかり仕上がっていけばどんどん上乗せができるようになる。具体的にはこれくらいまでは鍛え上げてもらう」
これからみんなが目指す体幹の目標値、イメージとして…俺は最後に、最初に書いたスピードと体幹の欄に目標値を追記する。
足し算ではなく、0を一つ追加するだけ。
『スピード』100 : 『体幹』500
「「「そんなに!?」」」
そう、そんなに。
「ってことで、これから2週間は地獄を見てもらう。キツいが我慢してほしい。2週間後には一度併走をすることでその成果を確かめるから。で、また2週間鍛えて、フォームチェックやスピードのチェックでまた併走…このルーチンを、メイクデビューまで繰り返す」
「2週間…ですか。頂いたあのメニューを、また…」
「いや。エイシンフラッシュに渡したメニューは体験版みたいなものだから」
「
「あれの10倍くらいはきついトレーニングを予定しているから」
「えっ?」
「筋肉痛もすごいけど大丈夫、日常生活がギリギリ送れるレベルには抑えるから」
「ヤベーの!」
「インナーマッスル全部一度生まれ変わるくらいに仕上げるから、そのつもりで。一番きついのは最初の2週間でそのあとは少しずつ楽になるし、結果はすぐに目に見えてくるから…騙されたと思ってまずは最初の2週間だけ!がんばってみよう!!」
「……が、がんばります!」
「お、お~…?」
「バイトの休み入れたほうがよさげなの…?」
十分にトレーニングへの理解を得られたところで、俺はこれから愛バ達を存分に鍛え上げるために、改めてトレーニングメニューを説明していくのだった。
SSRサポートカード 立華勝人
取得金スキル 『地固め(真)』
スキル効果
・B以下のバ場適正、距離適性がすべて1段階成長する。
・全ステータス+100。
・全てのトレーニング効率が30%上昇する。
・『練習上手◎』と同等の効果が得られる。
・『良バ場◎』と同等の効果が得られる。
・『道悪◎』と同等の効果が得られる。
・『臨機応変』と同等の効果が得られる。
・『直線加速〇』と同等の効果が得られる。
・『コーナー加速〇』と同等の効果が得られる。
・『スタミナキープ(作戦・全)』と同等の効果が得られる。