『───さぁ来たッ!!やってきたっ!!とうとうゲート前に姿を現しましたチームフェリスの三人ッ!!クラシック三冠!!凱旋門賞覇者!!漆黒の閃光エイシンフラッシュ!!!ダート世界レコード2つを保持!!ダートレースの常識を破壊したウマ娘!!砂塵の王スマートファルコン!!!全距離GⅠ制覇!!世界最速の1ハロン!!風激電駭アイネスフウジンッ!!!この三人が、この年末のグランプリで覇を争うのですッ!!誰もが見たかった!!この三人が一堂に会する瞬間を待っていたッ!!!』
有マ記念のゲート前に姿を現したチームフェリスの三人に、満員の観客から万雷の拍手が送られる。
革命を果たした世代の、筆頭たる三人。
その名を歴史に永久に刻みつけた、伝説の三人の登場に、中山レース場のボルテージは最高潮に高められた。
「やー……さっすが。盛り上がるよねぇ、そりゃねぇ」
「当然、だね。アタシ達だってこの瞬間を待っていた。フェリスの3人と一緒に走れるんだからね」
「全員の恐ろしさを知っていますからね、私たちは。…うん、調子も絶好調みたい。今日もめいっぱい楽しめそうですね」
そんな3人を見て、気だるげにコメくいてー顔で肩をすくめるウマ娘が一人と、熱を高める世代の友が二人。
ナイスネイチャと、メジロライアンとヴィクトールピスト。
彼女たちはドバイで共に夢の夜を過ごしたウマ娘達だ。
戦友ともいっていい、その関係。
ネイチャはトレーナーという視点で、ライアンとヴィクトールピストは世代のライバルという立場で、彼女たちの恐ろしさを身に染みて味わっている。
何度、あの走りに穿たれ破れたか、数えるのも馬鹿らしい。
閃光の末脚の切れ味を何度味わったことか。
芝の上だろうと関係なく羽搏く隼の恐怖は筋肉が覚えている。
どの距離だろうがあの風を止める手段は余りにも少なく。
比類なき怪物が、3頭。
「ふふ……今日は、何があっても負けられません。誇りある走りをお見せします」
「久しぶりの芝だけど……私が勝つよ。絶対に油断しないでかかってきてね☆負けないから」
「有マ記念の最終直線310m……この意味は、3人なら理解ってるよね。ブチかましてやるの!」
そんな3人が、ゲート前に歩いてきながら、迸る様な気迫と共に、
これが並みのウマ娘であれば、それだけで委縮してしまいそうなほどの気配。優駿が見せる圧。
しかし、そんな3人の怪物たちに揉まれながら走り抜けてきた彼女たちには、それに怯む様な軟弱な神経は最早残っていなかった。
彼女たちも、怪物に肩を並べる怪物であるがゆえに。
「あっはっは、お手柔らかにお願いしますよぉ先輩方。ネイチャさんはもうだいぶ現役も長いからしんどいんですよねぇ~……勝ちに行くのも、さ」
「またそんなこと言って……欠片も諦めてないくせに。ま、それはアタシも同じなんだけどね。今日の筋肉の張りはいいよ……全部叩き込めそうだ」
「先輩方……有マ記念の連覇、頂きに参りますので。チームフェリスに勝つのが私達の目標ですからね。譲りません」
既に会話による牽制を交えるネイチャに、筋肉をどっくんと震わせ戦意を溢れさせるライアン、そして崇高さすら感じさせる強い眼差しを向けるヴィクトールピスト。
あいさつ代わりの視殺戦だ。レース前、ゲートの前で日常的に行われるようになったそれ。
彼女たちは学園で過ごす日常の中では間違いなく親友とも言える関係で、仲良くJCJKをしているが─────ことレースとなれば、そこに交わされるのは真剣での勝負。
本気で、真剣に、競い合い、磨きあったからこそ、高みにたどり着いた。
一強とは呼ばれない。三強とも呼ばれない。
革命世代と呼ばれる理由はそこに在る。
最高のライバルたちがいたから、彼女たちは強くなった。
「俺達も忘れちゃいないでしょうね、先輩方!!今度こそぶっちぎってやりますよ!!」
「絶好調そうで何よりです。そんな先輩たちに勝って、アタシが一番になるんだから!!」
「『フェリスを超えろ』。…そう、東条トレーナーにも会長にも言われてきましたからね。先輩たちの世代が一年前にクラシック期でシニアを超えたように、今年は僕が貴方たちを超える…!!」
「お三方の戦歴……いえ、革命世代のみんなの走りを心から尊敬してます。私の目標です!!今日、まずは私の全部をぶつけさせていただきます!!」
ああ、そして、勿論忘れてはいけない。
同世代で競い合うことで強くなったのは、何も革命世代だけではない。
その上の世代であるウオッカとダイワスカーレット。
その下の世代であるベイパートレイルとデアリングタクト。
彼女たちも、革命に感化され、高めあい、強くなった。
それは革命世代の圧に負けないほどの気迫を、勝利への執念を持って。
バチバチの視殺戦に介入し、獰猛な笑顔を見せるほどに、彼女たちもまた高まっていた。
「勿論、忘れてはおりません。クラシックの三冠ウマ娘のお二人と走るのは初めてですね。……私にも、三冠ウマ娘の誇りがある。負けません」
「私はライアンさんとヴィイちゃん以外は初めてだね……ダートの最強が芝でも最強だってコト、見せてあげる。ファル子が逃げたら、追うしかなくなる……追いつかせることは、ないよ」
「ふふ、トレイルちゃんとタクトちゃんはフェリスのメンバーと走るのは初めてだよね。どんな走りをするか楽しみだったの!全力で来てね……負けないから」
そんなライバルたちを前にして、フェリスの三人がさらにテンションを高める。
これだ。
これが、革命世代なのだ。
どんな相手を前にしても、そこに侮るという言葉はない。
敬意を持って。
そして、これまでに走り勝利してきたすべてのレースの誇りを持って。
数多のライバルとの激走が、彼女たちの走りに無限の可能性を生み出し続けていた。
すべては、勝つために。
『ファンファーレも高らかに鳴り響き、ウマ娘達がゲートに収まっていきます!!全員落ち着いている様子です……一人ずつゲートに入って行く!場内に静寂が生まれます……もう間もなく始まります、年末の芝の大一番、今年の最後を飾るウマ娘は誰になるのか!!……今、最後のウマ娘がゲートに入った!!』
『有マ記念────────スタートですッッ!!!』
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─────天翔ける先駆けは、やはり、このウマ娘。
『っ行った!!スマートファルコンが行ったーッ!!抜群のスタートダッシュから加速して先頭を取りに行きますスマートファルコンッ!!芝の上でも彼女のスタートは陰らないっ!!ファンの期待に応えてくれますスマートファルコン!!そしてその後ろにはアイネスフウジンも続くっ!!やはり予想通りの展開か!!今回は大逃げとはならないかスマートファルコン!!アイネスフウジンが1バ身ほど後ろをキープしています!!』
まず飛び出したのはスマートファルコン。
彼女の代名詞とも取られるようになった猛烈なスタートダッシュはこの芝のレースにおいても問題なく繰り出され、そこから加速してハナをとった。
だが、大逃げとはなっていない。芝の上だからこその判断なのか、距離を考えての判断なのかは後続のウマ娘はこの時点で読めなかったが、少なくともスタートから続く爆速の逃げを見せることはなかった。
その後ろ、アイネスフウジンが続く。逃げウマ娘としてはハナを取らなくとも問題なく実力を発揮できる彼女が二番手。
チームフェリスの誇る逃げ脚質の二人が、ウマ娘達を率いてグランプリレースの先達を担う。
『逃げの二人に続く先行集団、ダイワスカーレットが先行集団の先頭にいます!!そして今日はここにいるぞヴィクトールピスト!!前目のレースを展開するか!!続くようにベイパートレイル!!彼女も前目からの好位追走が得意なウマ娘ですっ!!』
そして逃げ二人の後ろから、ダイワスカーレット、ヴィクトールピスト、ベイパートレイルが続く。
前の二人……特に先頭を行くスマートファルコンの走りが芝の上では不確定要素が大きかったため、落ち着いてレースを見ることを選択し先行位置につけたダイワスカーレット。尤も、その根本の気性は変わっていないので、どこまで我慢できるかは分からない。
ヴィクトールピストもまた、あの余りにも危険すぎる原子炉のような逃げ二人にペースを併せて走ることは最終直線での不利を招くと判断し、逃げは諦めた。
だが、差し集団もある事情で特に最初の500m、己の領域を展開するまでは少なくともあそこにいられないため、先行策という手段を取った。
ベイパートレイルは己の力をすべて発揮し、その上で限界を超えてようやく勝利の道のりが見えてくるということを前回のジャパンカップで如実に味わったため、己の実力が遺憾なく発揮できる得意な位置取りをキープした。
逃げの極致ともいえる二人が
『そうして後方集団、ここにはメジロライアンが位置する!すぐ隣にナイスネイチャ!ウオッカはその1バ身後ろ、デアリングタクトもここにいる!少し下がってエイシンフラッシュが後方から様子を見ています!最後方とは行かないまでもかなり後ろ目につけたぞエイシンフラッシュ!!中山の短い直線に彼女の末脚は輝くのか!』
さてその後ろ、差し集団。
まずメジロライアンだが、彼女も自分に有利な位置取りをキープした。先行も差しもできる彼女だが、その実、余りに前の方や後ろの方に位置すると、適切に領域からくる加速を繰り出せない。
先行と差しのちょうど中間、レースの真ん中あたりがベストな位置取りだとこれまでの激戦を潜り抜けて覚えている。そして、覚悟と共にそこを走ることを選んだ。
ウオッカも同様だ。差し集団の中団あたりから、向こう正面で位置を上げていき、最終直線で包囲を突破してぶち抜けるのがベストな選択だからこそ、やむなく取ったその位置取り。
エイシンフラッシュは説明不要であろう。彼女は例え追込みの位置取りまで下がってしまったとしても、最終直線で全てをひっくり返す末脚を放てる。レース全体を俯瞰するために、今回は位置取りを後方にとり、レース後半に放つ
そして新鋭デアリングタクトは差し戦法を得意とするウマ娘。ベイパートレイルと同様の思考の元で、まず己の出来る最高の走りをするために、この位置取りを選択した。
ああ。
だが、そんなデアリングタクトが最初に味わったのは、グランプリレースの洗礼。
有マ記念という舞台において必ず現れる、伏兵の存在。
なぜヴィクトールピストが前目の先行を選んだのか。
なぜ差し集団の全員が、スタート直後から覚悟を持った眼差しをしていたのか。
それを、如実にその身で味わうこととなっていた。
(────なによこれっ!?足が重い!?緊張……じゃ、ないっ!!これは牽制だ!!しかも、こんな重さっ……スタートからまだ最初のコーナーなのに!?)
深く重く響く、すぐ隣から放たれている牽制が、スタミナを、速度を奪いにかかってくる。
デアリングタクトはそれに抵抗するために、気を引き締め直して芝を深く踏み抜いて駆ける。
彼女も無敗で三冠を獲得したウマ娘。無論の事牽制への抵抗力はあり、三冠レースを戦い抜く中で牽制を武器とするウマ娘と鎬を削りあい、勝利した経験もある。
その時に競ったライバルの牽制が弱かったとは欠片も思っていない。自分にも、胸を張って誇れるライバルたちがいたからこそ、その誇りを持ってこの舞台に挑んでいる。
だが、しかし。
その牽制は、何というか、根本の質が違った。
(これッ─────
愉悦のままに放たれている、強力な牽制の数々。
しかも、自分一人にではない。差し集団、先行集団───否、レースを走る全体に、自由自在に放たれている。
これが、全て。
ナイスネイチャ一人によって、起こされていた。
(あハッ……タクトちゃんは素直でいいね~、驚いてる驚いてる。…右脚、左、はいヴィイにどーん。500mまでは楽に走らせないよー、今年は相方少ないんだから。んでもって前の二人はちょっと勢い足らなくない?もっとノリノリで行こうよ……ほらっ、ほらッ!いけっ、いっちゃえ!!)
デアリングタクトにプレッシャーをぶつけながら、先行集団のヴィクトールピストの進路を僅かに動かしてダイワスカーレットの進路とクロスさせて踏み出しを躊躇わせて、それがベイパートレイルへの牽制にもつながって。
さらに逃げの二人が余り後続から距離を空けない現状を見届けて、それでは後ろが走りやすくなりすぎるからと逃げ焦りを連発で飛ばしていく。稀代の優駿二人を相手取り、しかし少なくない効果がそこに生じた。
そんな自由なやり取りを隣で見ていたメジロライアンに、余裕を見せつけるかのようなウインク一つ。牽制に絶大な抵抗力を持ち世界でもそれを見せつけたライアンだが、しかし予想外のネイチャの表情で戦意を僅かに削がれて足が鈍った。ウインク一つでそれを成す。
またやってるよ、とため息すらつきかねないウオッカに対しても流れ作業で牽制。むしろその雑さがウオッカのプライドを見事に刺激する。
トドメにコーナーで速度を落とさぬままに放つ独占力。今回はエイシンフラッシュもそれに合わせて独占力を放ったことで、先行差し集団の悉くが圧に叩き込まれた。
それにより自然と逃げ二人との距離が広がることで生まれる精神的な焦りもカバーだ。重ねてそんな逃げ二人のチームメイトであるエイシンフラッシュに、独占力発動直後に頭を引っぱたくような牽制を繰り出した。
────この有マ記念という舞台に全てを備えて出走してきた、最強の伏兵。
自由自在、傍若無人のレース支配。
ナイスネイチャがいなければ、有マの地獄は始まらない。
『最初のコーナーを回る各ウマ娘、ここまでは落ち着いたペースか!!大きく位置取りは変わっていきません!!中団でメジロライアンが少しずつ上がっていく!!ダイワスカーレットが逃げる二人に徐々に距離を詰めていくか!!まだまだ先は長いぞ!!向こう正面に入って行きますっ!!』
はた目には気付かぬ恐ろしい地獄が展開されながら、ウマ娘達がコーナーを曲がり終えた。
しかし、だが、ナイスネイチャもまたそこで気苦労を覚えている。
牽制を一通り走る全員に放ち終えるという偉業を成したのちに、全員のコンディションを理解したからだ。
(……まっずいなぁ。一番厄介なフェリス三人がまずい)
ナイスネイチャの中で、今回のレースで一番注意を払っていたのは、チームフェリスの三人だ。
初めての、世代のチームメンバー全員でのレースということで、間違いなく気合が乗ってくるであろう。
3人のチームの絆で、普段以上の力を見せてくるだろう、と思われ、その通りの走りを見せてくるであろうと考えられていた、その三人が。
(牽制、
自分の牽制を、しっかりと受け止めているのが実にまずい。
……通常の思考であれば、何を言っているのかと思われるだろうそのネイチャの判断。
牽制が効いているのであれば、それがベストではないか。
しかしこれは、彼女の中では織り込み済みの、出来ればそうあってほしくない事態であった。
チームフェリスの三人は絆が深い。
そして、それぞれが比類なき優駿。革命世代と数えられてはいるが、じゃあ誰が世代の代表か、と言われたら、いの一番に名前が挙がるであろう最強の三人。
そんな三人がライバル心を満載で、共にレースで走るなら……考えられる可能性が一つ、あった。
お互いが、お互いを徹底マークして走る事。
そうなると、逃げの二人は隣のもう一人の逃げと、後ろからくるフラッシュのみ気を付けていればいい。
フラッシュは、逃げる二人だけを気を付けていればいい。
その自分以外の二人に負けないようにだけ、走ればいい。
何故なら、自分が負けるならば、その二人のうちどちらかなのだ。
自分以外の二人に勝てたならば、それは一着と同義なのだ。
3人がお互いにお互いの実力を分かっているからこそ、そんな作戦も取れる。
いわば精神的なチーミングと言ったところだろうか。
そして、実際にそれをされれば、極めて有効な手段になり得ただろう。
何故なら注意を払う相手が二人で済むのだから。その二人のどちらかが一着を取るのだから、二人にだけ勝てばいい。
省エネで最高効率の勝利への方程式は、その思考にあったはずだ。
(────で、そうだったら私が根っこからブッこ抜いて3人ともバ群に呑ませてやろうと思ってたのにさぁ!!全っ然そんなことないじゃんね!!ばっちり周り全員意識して走ってるじゃん!!
そして、そうはならなかった。
三人とも、レースを走る他のウマ娘を一切無礼ることなく、油断ならないライバルとして向き合い、挑んできている。
しっかり向き合っているからこそ、ネイチャの牽制も効果が出ている。ネイチャこそが最も厄介な曲者だと認識しているからこそ、そこに油断は無く、正面から受け止めていた。
ナイスネイチャにとっては、勿論考えていたレース展開の一つだが、歓迎できる流れではない。
三人による精神的共謀があれば、それこそナイスネイチャのやりやすい展開である。
強いウマ娘を一人一人ひっくり返す手間よりも、三人まとめて一気にうっちゃるほうがはるかに楽だ。
その作戦も事前に考えて来ていたし、もしそれが成せれば他のウマ娘も相当に動揺するだろうから、自分が一番勝利に近づけるのはその展開だったはずだ。
だが、やはり楽はさせてくれない。
牽制が通じてしまったことで、ナイスネイチャは己の策を改めて練り直す必要に駆られていた。
(つまりはまぁ、このあたしのへなちょこな末脚で、アイネスさんの乱気流からの世界最速の末脚と、ファルコンさんの速度落ちない超ハイペースと、フラッシュさんの閃光の超加速3ハロンと戦わなきゃいけないってわけですよ。地獄か?……地獄だったわ。地獄にしたの、あたしだったわー!!うっひょーアガるー!!やってらんねー!!!)
絶望的な状況に陥りつつも、しかしナイスネイチャの表情に浮かぶのは笑顔であった。
先程デアリングタクトがそう感じたように、そこには楽しむ心があった。
ナイスネイチャは己の牽制技術を磨きに磨き上げ、至高のそれとして、その名刀をさらに切れ味を高めながら、この有マにだけ備えて今年一年を走っていた。
重賞レースで切れ味を試すことはあり、そこにこれまでの彼女ならば似つかわしくないような自信を持っていたことも確かだった。
そして、元来の弱気癖、湿度の高い皮肉癖は南坂トレーナーのメンタルケアにより鳴りを潜めて、その代わりに出てきたのがこの開き直りに近い笑顔だ。
まず、そもそも周りのウマ娘は自分より速いんだから、無理ゲーからの開始。
だったらまず楽しもう。
楽しんでどうにもならなくなったら、それすらも楽しもう。
自分の実力のなさを嘆いて、遅い脚を嘆いて沈むよりは、もう受け入れて、破れかぶれでもやれること全部やってやる。
一人でも多く引きずり降ろして泥沼にぶち込んでやる。
あたしと走ったレースを後悔しやがれこんちくしょー。
そんな破滅的ともいえる思考を覚えたことで、むしろ、末脚に輝きが生まれてしまったのは皮肉と言うべきか。
さらに、開き直ったことで周囲のウマ娘からも好感を覚えられるようになったのは、本人の人当たりの良さ故か。
少なくとも言えることは、今のナイスネイチャはこの有マ記念を走るに相応しい、稀代なる優駿の一人であり。
そんな彼女が生み出した混沌は、レースを走る全員に、負けてなるかと強い意志を生み出すきっかけとなっていたのだった。
まもなくレースは中盤を迎えるところ。
誇りと野心、夢と希望をミキサーにかけてブチまけた、ここは年末の有マ記念。
今年もネイチャと