EXTRA-R カーテンコール 前編
『────明日開催のエクストラドリームトロフィーに出走されるウマ娘たちの枠番が、くじ引きにより決定しました!!ここからは皆さまに、明日のレースに掛ける意気込みをインタビューさせていただきますっ!!』
ここはURAが準備した高級ホテルのパーティ会場。
明日に控えるエクストラドリームトロフィーに出走するウマ娘達が、ドレスに身を包んで壇上に並んでいた。
先程まではそれぞれが枠番の抽選を引き当て、今は明日出走する番号の通りに並び直している。
俺は、その並びを見て思わず言葉を零してしまう。
「……海外の子達が外枠に集まっちまったな」
大型スクリーンに映された枠順を見て、若干の懸念を零した。
海外勢……うちのチームから出走するSS、アメリカから来日したマジェスティックプリンスとイージーゴア、そしてフランスのブロワイエとオーストラリアのウィンキスが見事に外側の5列に並んでしまったのだ。
この枠番の決定は生放送で、不正などないように純粋なくじ引きで行われている。流石にこれで何か世間が言うことはないだろうが、ちょっと懸念になることも確かだ。
「まーでも、大丈夫じゃねぇかな?全然、外枠引いたからってウマ娘達の気勢は落ちてないみたいだし」
「初咲さん……ま、そうかもね。別に枠番が全てじゃない…それに沿ってみんな走りも決めるところだろうしな」
そんな俺の隣に来て、声をかけてくる同期の初咲さん。
今やGⅠウマ娘を何人も育て上げる、チーム『ブロッサム』を運営する敏腕トレーナーだ。
「俺としちゃ、よくこのレースにサンデーちゃんが出るのを決めたなって方が驚きだけどね。どうやって口説いたのさ立華さん」
「口説くって……普通にお願いしただけだよ、どうしても君が走るレースが見てみたいって、本心からね。それに、ゴアもこないだのタキオンとのUGコース試走のマッチレースで僅差で負けたのが悔しくて参加するって知ってたから……SSもまた公式レースでゴアと走りたいってのもあったのかもな」
「クソボケがよ」
「急な暴言」
俺は最近はすっかり慣れてしまった唐突な暴言に肩をすくめる。
その動きで驚いたのか、俺の肩の上に載っていたオニャンコポンがぺしぺし、と尻尾で俺の頭を叩いてきた。なんでや。
「……しかし、UG…アルティメットグラウンド、なぁ。タキオンが開発したってやつだけど、まさかここまで夢に溢れた素材が発明されるとはね」
「あー……そうね。タキオンは本当にすごいよ」
そのまま、インタビューの準備が進む舞台を見ながら初咲さんと雑談を交わす。
アルティメットグラウンド。タキオンと俺の共同開発でとうとう実装に至ったそのバ場は、芝、ダートの適性を問わず、そのウマ娘の最高の走りを引き出せるという夢のバ場だ。
砂に似た素材を敷き詰めるのだが、走る感覚はダートのようで芝のようで、しかも脚にかかる負担も少なく、さらに整備まで楽ときた。
素材を作るのが大変なので、今は日本のトレセン学園と東京レース場に新しく設営されているだけではあるが……いずれ、世界にも普及していくだろう。
練習にも、エキストラレースにも、極めて有用なバ場となっている。
だが、勿論のこと、こうして世間に理解されてドリームリーグの舞台にも採用されるのは、簡単な道のりではなかった。
効果をウマ娘が理解しても、それを実際に走ることがない世間の皆様に理解を頂くのは中々簡単にはいかない。
タキオンと俺は打合せの中でそれを危惧していた。実際、二人の力だけでは、世間の理解は進まなかっただろう。
タキオン自身は、イージーゴアと決着さえつけられればいいから、日本のトレセン学園にあるだけでも……と、言っていたそれなのだが。
しかし。
意外なところから、救いの女神達は現れた。
『……改めて、今回開かれるエクストラドリームトロフィーについて解説させていただきます。東京レース場、左回り、2000m……そして、今回はアルティメットグラウンドという新素材のバ場でウマ娘達が走ることになります。このバ場については─────先日行われた
今、MCが言った通りだ。
このUGという新素材を敷いたトレセン学園のコースを用いて、先日、
まず出走ウマ娘の名前を挙げていこう。
セクレタリアト。
シンザン。
トキノミノル。(飛び入り)
フランケル。
ニジンスキー。
パーソナルエンスン。
ゼニヤッタ。
ミルリーフ。
ダンシングブレーヴ。
ロンロ。
ドバイミレニアム。
サンライン。
ドクターフェイガー。
エーピーインディ。
シアトルスルー。
フライトライン。
アメリカンファラオ。
ザルカヴァ。
うん。
何度聞いても頭がおかしくなったとしか思えないメンバーだ。
タキオンとイージーゴアのマッチレース初戦がタキオンの僅差勝利に終わり、その悔しさをSSにぶちまけて帰国したイージーゴアがセクレタリアトにその事を話したらしく……それを聞いたセクレタリアトが日本の知人であるシンザンとイギリスの知人であるフランケルに連絡を取り、その流れであれよあれよとレジェンドウマ娘達に話が広まり、「そこならあたし達ガチバトルできるんじゃね?」というノリになり、全員が日程と脚を整えて緊急来日し、学園にアポなし突撃してきて、理事長が目を廻しながらもレースを即日企画したのだ。
本来はシンザンがアポを取っておく予定だったらしいが、松風のように気ままに生きる彼女はすっかり連絡を忘れていたらしい。「すまんなザンちゃん」と理事長に謝っていた姿が印象に残っている。
さて、その日の午後に2000mで開催されたレジェンドレース。
学園の生徒及びトレーナーは当然にして、すべての授業、練習、業務を中止して観戦に駆け付けた。
しかし、なにせ何の連絡もなしにやられた事である。
勿論テレビ局などの知る所ではなく、カメラも回っていなかったのだが……このトレセン学園には、ゴールドシップがいた。
「うおっしゃー!!!これを生放送しねーで何がぱかちゅーぶじゃーい!!ゴル戦車突撃ィーーーっ!!」
「なんで俺ドナドナされてんの!?沖野先輩じゃないの!?」
出走するウマ娘達全員に了解を取ったうえで、緊急ぱかちゅーぶを開き、解説に俺を添えて実況解説した。
映像はドローンを使って俯瞰で撮影し……神話のレースが、世界の知る所となったのだ。
レースの結果はあの動画を視聴済みでご存じだと思うので割愛する。
さて、そんなレースが開かれたのち、ゴールドシップと俺で各ウマ娘の言語に合わせてレース後に聞き取ったインタビューで、全てのウマ娘がこの新しいバ場を賞賛した。
「実力の100%で走れる最高のバ場だ。夢の舞台ならば、使ってもいいのではないか」と。
その風評がネットを通して日本に、世界に広まり……世論は一気に実装を望む形に流れ、日本がまず先駆けとして東京レース場に特別レーンを設置し、そして今日のエクストラドリームトロフィーに繋がっている。
そこにはダートも芝もない。
ただ、伝説を紡いだウマ娘達が、全力でぶつかり合える場所。
夢を超える夢の舞台。
『…では、一番に入りましたヴィクトールピストさんから意気込みを聞いていきましょう!』
インタビューが始まった。
『まず、この舞台を走れることに感謝しています。私のライバル……革命世代の皆様には、負けたくありません。特に、フラッシュ先輩とは現役時代に五分五分の勝敗なので……決着をつけたいですね』
『三冠と、凱旋門の誇りを背負って、私らしく走ることを誓います。ライバルは……そうですね、やはりヴィイさんと、ブロワイエさんと、チームの皆様には勝ちたい。心からワクワクしています』
『新しい砂の上でも、先頭は譲りませんっ!スズカちゃんには絶対に負けたくなくて……あと、前にダートで負けたことのある3人には、二度の敗北は許したくないです☆……誰にも前を譲るつもりは、ない』
『ウララと共に、中距離に向けて脚を仕上げたので、自信はあります。誰がライバルかと言われれば……やはりファルコンとウララかと。随分と久しい己の昂りを覚えています』
『とにかく楽しく走りたいなって!チームメンバーで公式で初めて走るサンデーチーフには勝ちたいの!それと、ササちゃんとイルイルちゃんにも借りを返したいなって。やっちゃうの!!』
『とんでもないメンバーに囲まれてますが、私は私のペースを刻むだけです。心頭滅却……応援よろしくお願いしますっ!!!イルイルとウィンキスさんには負けないっ!!!!』
『……あ、はい?あっ、すみませんちょっと鼓膜がやられてて……えーと、まずササちゃんには勝ちたくて。あと、ネイチャさんには個人的に負けたくないですね。どっちが真の曲者か勝負です』
『恐懼感激。この舞台で、革命世代や……世界の優駿たちと競い合える立場にあることを、何よりも幸せに感じています。全員がライバル……現役時代の気持ちが蘇ってくるようです』
『初咲さんと黒沼トレーナーと立華トレーナーにお願いして、2000mを走る練習をがんばったよ!!またファルコンちゃんに勝ちたいなって!!マジェプリちゃんにも、マーチ先輩にも負けたくないっ!!がんばるぞーっ!!』
『メジロ家の誇り…というよりは、アタシがアタシの誇りを背負って走りたいです!革命世代の、特にフェリスにはいっぱい辛酸舐めさせられたので、リベンジしたいですね!!』
『当日は走りながらGoProで撮影してぱかちゅーぶ実況すっからよろしくなーっ!!船酔い注意だぜっ!!あー、ライバル?んー、まぁとりま同じチームのスズカとヴィイには先輩の威厳見せっかなーって』
『こんなに心が躍るドリームのレースは、スピカとリギルで走ったあの時以来です。先頭は譲りません。ファルコン先輩と、ササちゃんと、アイネス先輩と…逃げで走るウマ娘には、前を譲らない』
『絶対アタシがここにいるの間違ってると思うんですよねネイチャさんは。ファン投票枠で入ったから勿論頑張って走りますけれどね?……まぁ、とりあえずアタシがここにいることを後悔させますよ、一緒に走る全員に』
『あー……一先ずは、引退後のピークを維持する体幹練習を積んだウマ娘が、どれくらい走れるのかを世界に見せたいと。体幹トレーニングの凄さをアタシの脚で証明する。……ライバル?二つ隣のデカい喪女デス』
『おちっ……落ち着いてくださいゴアトレーナー!?サンデートレーナーも煽らないで!?私を挟んでやらないで!?ヤメロー!!グワーッ!!!………失礼、取り乱してしまったね!ハッハッハ!!勿論挑むはチームフェリス!!彼女たちにしか負けたことはない私が、彼女たちを再び越えたいと思うのは当然の事さ!!特に隼には、2度目の敗北をプレゼントしたいね!』
『サンデーをボコるのは明日のレースの後に取っておくわ。勿論レースでも私が勝つ。……あとはやっぱりファルコンちゃんかな、セクレタリアトを超えたあの子と真剣勝負で走りたいって思ってたから』
『フランスの誇りを背負って……と、言いたい所なのだが。随分と子供のように今の私の心はときめいていてね。純粋に私が、ただ全力で走りたい。ライバルは無論、フラッシュ君だ。楽しみで今夜の寝つきが心配だな』
『親友であるヴィイとササヤキ、イルネルには勝ちたいです。その上で、全員に私は勝ちたい。勝率は65%程度の計算ですが……それよりも、まず楽しんで。この舞台を走らせていただきます』
ウマ娘達が、それぞれの想いを、レースに掛ける想いを雄弁に語った。
そして、その全員が、戦意みなぎる笑顔で。
この夢のレースで、勝ちたいと……己が一番速いことを証明したいのだと、叫ぶように。
明日は、熱いレースになる。
そう確信が出来る様な熱気が生まれていた。
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「日本の料理は大変美味ですね。止まらなくなりそうです」
「ここに来てウィンキスさんに大食い属性がつくとは僕の目でも読めなかったよね」
「オグリ先輩やスペちゃんといい勝負ですよこれ!?!?」
インタビューを終えた後、会食が開かれる。
バイキング形式の立食テーブルが広げられ、ウマ娘向けに調理されたにんじんをふんだんに使った料理たちが並べられている。
その机の一つに、皿の上に料理をメガ盛りにして一心不乱に食べるウィンキスと、それを呆れた様子で眺めるサクラノササヤキとマイルイルネルの姿があった。
今この場にいる海外ウマ娘たちは、既に何度も日本に訪れ、トレセン学園の生徒とも親交を深めているウマ娘だ。全員が問題なく日本語を話せるようになっていた。
「食事量は普段と大きく変更なし。全く問題ありません。このにんじんハンバーグは美味……」
「…大したものだ。それだけ食べて、明日のレースは大丈夫なのかな、ウィンキス君」
「……ブロワイエ。心配頂いたことは感謝しますが、私の心配よりもあちらの心配をするべきでは?」
「あちらか?……それこそオニャンコポンも食わぬだろう、あれは」
そこに優雅に食事を楽しんでいたブロワイエが混ざり、やはり呆れた色を見せながらもかつてドバイで共に過ごした戦友に向けた微笑みを見せて声をかけた。
真ん丸なお腹を撫でながらもウィンキスが示した先では、若干の諍いが起きようとしていた。
『ねぇサンデー?壇上で煽った貴女の言葉一生忘れないわよ?元は貴女の方がオベにそう呼ばれてたんじゃなかったっけ?』
『は?コウチに振られたアンタの事を表すのに最適な一言だったでしょ?オベに日本語教わっててよかったって初めて思えたわよ私は。早く次の男見つけたら?』
『自分が男捕まえたからって余裕見せるようになったわねサンデー?それにあのレースはまだ1回目よ?5回勝負で1年を通して走って決着をつけるってタキオンとも約束したし?』
『アンタ最初に負けた時いつも何回勝負かに持ち込むわよね?ケンタッキーダービーでももしかして同じこと考えてた?』
『あの時はアンタが子供みたいに泣いてたの慰めてやったでしょうが!男を賭けた勝負で一本負けたくらいで煽ってくるなんてGⅠ6勝程度のウマ娘は懐が狭いのね?そんなんじゃケットシーに愛想つかされちゃうんじゃないの?他にも3人もライバルがいるみたいだしー?』
『蹴飛ばすわよ?』
『やってみなさいよこのチビ!』
『試してやるわよデカブツ!!』
『どうどう!!どうどう!!!!売り言葉に買い言葉が過ぎますよお二人とも!?明日がレースで気が昂ってるからっていけません!!淑女たる者常に優雅たれ…!!!頼むから私を挟んでやらないで……!!』
明日に、久しぶりの宿命のライバルとの公式レースということで現役時代の気性難が蘇りだすサンデーサイレンスと、男を賭けたレースに僅差で破れて傷心のイージーゴアが今にも掴みかからんと言った具合に火花を散らしていた。
その間に挟まり、両手で二人の体を押さえて喧騒を止めようとするマジェスティックプリンスが苦労人の様相を見せている。この二人を両腕だけで抑えているのだから、体幹が極限まで研ぎ澄まされていることがありありと分かる。
尤も、サンデーサイレンスもイージーゴアも根本の部分で親友であることは間違いなく、こんな喧嘩は日常茶飯事。放っておけば静かになるであろう、猫も食わぬ女の喧嘩ではあるのだが、しかし時と場所は選ばなければならない。
レース出走者の中で一番の年長者がこれでは威厳も薄れるというもの。
勿論にして、それを止めるためにそこに近づくものがいた。
『……SS。魂のライバルを相手にすることで気が昂るのは分かるけど、最初に煽った君が悪いよ。ちゃんと謝ろうね。キタがまだトゥインクルを現役で走ってるから今日はいなくて、その分の寂しさでゴアに甘えてるんだろうけど……喧嘩は駄目だ』
『あ……兄さん。ごめんなさい、軽い冗談のつもりだったのよ』
『急にメスの顔になるじゃんサンデー……』
『悪かったわね、ゴア。私が大人気なかったわ』
『重ねて煽ってくるじゃん…!!』
『ゴアトレーナー、どうどう!サンデートレーナーとの決着は明日!!明日にしましょうね!!まぁレースに勝つのは私になりますが!!ハーッハッハッハ!!』
『教え子まで煽ってくるんだけどぉ!?私の味方どこにいるのよ!?』
『……ゴアさん。目立っていますから、それくらいで……』
『っ!コウチ!!聞いてよ酷いの!!サンデーが私の事喪女だって煽ってきて!!プリンスにまで裏切られて!!』
『はい……胸は貸しますから一先ず落ち着いてください。タキオンさんもこれくらいは許すでしょう』
立華と小内がその騒動を諫めにかかり、何とか無事に落ち着いたようだ。
わんわんと小内の胸の中で泣くイージーゴアに、彼女の教え子であるプリンスと、小内のチームに所属するメジロライアンもついてきて、苦笑を零した。
「……ねぇ、プリンスちゃん。なんていうか、ゴアトレーナーって……実は結構、子供っぽい?」
「グムムーッ、普段はそうでもないのだライアン=サン……しっかりされている大人なのだが。ただ、サンデートレーナーが混ざるとこう、時々、ブレイコウになる……ヤンナルネ」
「あはは……お疲れ」
苦笑を零すしかないメジロライアン。
彼女の脳内はメジロのお花畑であり恋愛事情には初心な一面を今も持っているが、最近は同室の友人といいこのサンデーサイレンスとイージーゴアと言い、なんだか生々しい関係を見せつけられて価値観が崩れようとしている。
清涼剤を取り入れなければならない。ライアンは努めて見る方向を変えて、優しい関係を生んでいる方に目を向けた。
「はい、初咲さん、あーん!美味しい?」
「ああ、美味しいよ。でもウララもちゃんと食べるんだぞ。遠慮はしなくていいからな」
初咲トレーナーとハルウララ。
この二人は、ハルウララがトゥインクルシリーズの引退レースであるフェブラリーステークスでスマートファルコンにレコード勝利した際、泥だらけで泣きながら、熱烈に抱きしめあう姿を日本中に見せつけている。
そこにはトレーナーとウマ娘という絆を超えた何かを感じられ、二人もその噂を否定していない。ハルウララが成長して卒業後はすぐゴールインするのでは……などと噂が立っていた。
微笑ましい関係だと思う。メジロライアンのメンタルは少し回復した。
「……いやぁ、お二人ともアツアツですねぇ。南坂トレーナー、あたしたちもやってみない?」
「ネイチャがやりたいのなら構いませんよ」
「んじゃ、はい」
「はい。……うん、美味しいです」
「そ。……いつもの手作りの弁当褒められる方が嬉しいねコレ」
「そうですか」
そしてその傍、当てられたかのように二人を真似するナイスネイチャと南坂トレーナーの姿があった。
この二人も、長くトゥインクルシリーズを駆け抜ける中で絆以上のものが生まれているように見える。
ナイスネイチャの唯一の勝利GⅠ、革命世代やそれに続くダブル三冠世代、まつり世代らを捻じ伏せて勝利した有マ記念において、やはりこの二人も涙の抱擁を見せつけていた。
最近はナイスネイチャが南坂トレーナーに似てきて、どんな言語も喋れるようになり、さらに忍者のような恐ろしさすら垣間見せる。初咲とウララの関係とも違い、二人だけの世界を構築しているようにも見える。
その関係は尊い。メジロライアンのメンタルはまた少し回復した。
「……沖野トレーナー」
「やらねーぞ?」
「そう遠慮すんなってー!!このゴルシちゃんが直々にあーんってしてやるからよぉ!!」
「やめろ!!にんじんを口に直でブッ刺しにくるんじゃねぇ!!」
「負けない…!!」
「スズカもなんで手ににんじん抱えてんだよ!?せめて普通に料理にしてくれよ!?」
「うーん……いつものスピカで安心する……」
そしてさらに熱伝導は進み、チームスピカの面々がコントのような惨状を見せている。
ゴールドシップがいるからやむを得ないといった具合か。あそこには正妻がいるが、大体ゴルシがかき混ぜてしっちゃかめっちゃかにするのだ。
そしてその空間でも心を落ち着けて居られるのがスピカというもの。ヴィクトールピストが冷静ににんじんジュースを飲む姿を見て、あそこは相変らずだな、とメジロライアンはため息をついた。メンタルに少しダメージを受けた。
「……ってか、いつのまにかあーん大会みたいになってるし」
メジロライアンはその光景に危機感を覚える。
確かに、革命世代を筆頭に、トレーナーと絆をはぐくみ、そこに想いを乗せ、己の走る力に変えているウマ娘は多い。
かくいう自分も、今のトレーナーである小内トレーナーとそのチームであるレグルスのみんなとの絆はあるし、その前……自分を見つけてくれた女性のトレーナーとも、恋愛感情ではないにせよ強い絆があると確信している。
それ自体は問題はない。特に問題はないのだが、しかしこういう恋愛事になるとちょっと特異点が過ぎる存在が革命世代にはいるのだ。
「さ、それじゃあたし達もトレーナーにあーんしに行くの」
「順番はどうします?明日の枠順でいいですか?私が一番で」
「ズルくない☆?ここはGⅠ勝利数で行かない?」
「喧嘩は駄目なのー。3人で一緒に行こうね、後腐れないように」
先程SSにあーんされていた立華に向けて、3人の花嫁が向かっていった。
とうとう始まったチームフェリスの恋のダービーの走者たちだ。
学園ではどんな決着になるかもはや風物詩のような物になっており、ここ何年かは様々なイベントがあったが……なんだか最終的に全員に対して立華が責任を取るのでは?という風潮が高まっている。
先日、噂レベルではあるが、立華がアラブの国籍を取得したという話まで耳にする。たしか一夫多妻制度をとっている国だ。
メジロライアンはまたやってる…とため息交じりに彼女たちの進む先を見送り……そして、その先で、なんと、その3人に先んじているウマ娘がいた。
サンデーサイレンスではない。彼女は既に愛する者に向ける笑顔で立華との談笑を終えて、イージーゴアと仲直りして食事を楽しんでいる。
今、立華の隣にいたのは─────シンボリルドルフだ。
「立華さん、このドリームリーグの立食では寿司が美味しいんだよ。老舗の職人さんが握ってくれている。立食は
「あーん。……んむ、ホントだ。こりゃうまいな!」
「あっ!」
「む☆!」
「やったの!この泥棒猫!!」
「おや、泥棒猫とはひどいなアイネスフウジン。私は敬愛するトレーナーに、この寿司のおいしさを知ってほしかっただけだよ、裏表なしにね」
「どの口でそれを言いますか…!」
「やっぱり要注意人物の一人だね、会長さん…!!」
「なの…会長とタイキちゃんとベルノ先輩*1だけはマークを外しちゃダメなの…!!」
間隙を突いたシンボリルドルフに、立華に聞こえないレベルの小声で3人娘が警戒心をあらわにする。
彼女たち3人とサンデーサイレンスによるクソボケ包囲網が構築されて久しいが、しかし時々その壁を超えてアプローチをかけてくるウマ娘もおり、3人はそれに特に注意を払っていた。
その回数が多いのがシンボリルドルフとタイキシャトルとベルノライト*2なのだ。
まったく、油断も隙もあったものではない。
「ほらオニャンコポン、お前も寿司食べるか?美味しいぞー?」
「ニャー……フガッ……モグモグ……ニャー!」
「お、旨いか?よしよし……で、何か言ってた?」
「いえ、何でもありません」
「そうそう、ナンデモナイデス☆」
「あたし達もトレーナーにご飯食べさせたいなーって、ね?」
そして結局クソボケは不治の病で治らず、まったくそんなアプローチに気付かなかった立華は、純粋に寿司が美味かったので小皿に取り分けてオニャンコポンに分け与えた。勿論寿司を握る職人にも許可を取っている。
それを見て、自分のあーんが全く伝わっていないことを察してシンボリルドルフがはぁ、とため息をついた。
やるならば直接、ダイレクトに、全力で想いを伝えなければならない。
既にそれを成している者が3人、いや4人いるのだが、それでもこのクソボケは眼を離すとすぐにウマ娘が寄ってくる。
そろそろ身を固めさせるか、と4人で画策しているところだ。3人が学園を卒業するころが年貢の納め時であろう。
「────────ふっ、若いっていいもんだな」
「キタハラが言うと洒落にならんぞ」
「まだハゲてねぇし!」
「そこまでは言ってない……」
そして、そんな騒がしい会場の隅。
若さについていくのに疲れてアイスティーを煽る北原と、その隣で後輩たちの暴走を眺めるフジマサマーチが、相変らずな様子を見て盛大にため息をついた。
その後も思い思いにウマ娘達が騒ぎ、楽しみ、仲を深め─────明日に備えて英気を養うのであった。
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翌日の東京レース場。
エクストラドリームトロフィーが開かれるここに、満員の観客が押し寄せてきていた。
老若男女、ウマ娘を問わず、彼女たちの走りを期待して人々が集っていた。
無論の事、周辺の施設でライブビューイングも開かれている。ここ数年のレースの人気はうなぎ上りの様相を見せており、ファンの数も爆増していた。
そのきっかけとなった革命世代の集う、夢のレース。
嫁を質に入れてでも見に行かなければならないレースであった。
『……っだぁー!!どこに行っても人、人、人!!どっちにいきゃレース場に出るんだよ!?』
『落ち着きなさいよミサイルマン。まだレースが始まるまで時間があるんだから……人の流れに乗って行けばいいんじゃない?』
『そうは言うけどよォベルーガ、どの国のレース場に行ってもここまでの人入りはなかったぜェ?ニッポンのウマ娘人気ってすげぇんだなー』
『そうね……革命世代が走るからって言うのもあるんでしょうけれど』
そして、そんな中に二人の外国のウマ娘が人の波に辟易しながら、軽く迷子になっていた。
ミサイルマンとブラックベルーガ。
世界最強の短距離ウマ娘の二人だ。
今日、この日に開かれるエクストラドリームトロフィーをぜひ観戦しようと、母国から日程を併せて日本に旅行に来ていたのだ。
レース後は1週間ほど滞在し、懇意の日本のウマ娘達とも遊ぶ予定を立てている。
さて、しかしそんな二人だが、ここは広大な東京レース場。
今までスプリンターズステークスの開かれる中山レース場か高松宮記念が開かれる中京レース場しか経験したことのない二人が、日本最大のレース場に来て、満員の来場者に呑まれて、レース場への出入り口を見失っていた。
いわゆるおのぼりさんのような状態だ。
二人とも、特にミサイルマンの方がハルウララと十全に意思疎通するべく日本語は喋れるくらいにはなったのだが、漢字の読みはまだ怪しい。場内案内図も広すぎてよく読み取れていなかった。
『あー……ウララは今頃レース前の準備中だろうしなァ。呼びつけて案内させるわけにもいかねーし』
『ウララだと逆に呼び出したほうが迷子になりそうじゃない?バクシンオーかカレンチャンでも呼んでみる?』
『ゼファーだと風の向くまま行かれそうだしな。フラワーはこの人込みじゃ上背足りねぇし……あいつ等もレース場来てっといいけどな……っと、お!!知り合い発見!!』
『え?……あらホント。目立つわね彼女は……ドバイの頃よりずいぶん背が伸びてる』
そうして途方に暮れた二人は、何人かLANEを交換していた日本のウマ娘に連絡を取り案内をお願いするべきかと考え始めたところで、しかし、人垣の中からでもよく目立つウマ娘の姿を見かけて、そちらに向かう。
あの子ならば間違いはない。絶対に、レースをベストな場所で観戦できるところまで案内をしてくれることだろう。
二人は人垣をかき分けて、そのウマ娘に……身長が190cm近くまで伸びた、チームフェリスのウマ娘であるキタサンブラックの元へ歩いて行った。
『よーぉ!!キタぁ!!いい所にいてくれたぜ!!でっかくなったなぁお前!!』
『お久しぶり。元気みたいね…見事な成績を残してるのは知ってるわ。ごめんね、ちょっと迷っちゃって。観客席まで案内頼める?』
『あ、ミサイルマンさんにブラックベルーガさん!お久しぶりです!!案内なら勿論OKですよ、ついてきてくださいっ!』
二人を見かけて笑顔を見せ、お互いに挨拶を交わす。
キタサンブラックにとっては、ドバイのレース後に親交を深め、その後も日本に来た時の交換留学の際にお助けキタちゃんによっていろいろと手助けをした経験もあるレースの先達。
サンデーサイレンスに影響を受けて英語もネイティブレベルで話せるようになっているキタサンブラックが流暢な英語を披露し、二人を観客席まで連れていく。
「……英語わかりません!!き、キタ先輩、通訳お願いしていいですか…!?」
「あら、ジーフちゃん英語できないの?今どきの一流ウマ娘は英語は基本スキルよ?海外レースに出走することも増えているのだから」
「シャフちゃん、それファルコン先輩やウララ先輩やササ先輩に刺さるからやめてあげよ?僕も覚えてるけどさ」
『あら……見ない顔ね。キタ、この子たちは?』
『ええ、チームフェリスでデビュー前から育ててる3人なんです!今年からデビューの予定!』
『ほーん。……ふむ、良い脚してんじゃねェか。次代を担うエース候補ってやつか』
キタサンブラックに付き添うように歩く3人……ジーフォーリア、シャフラヤール、タイトルホールドがそれぞれ二人に挨拶を交わし、二人も笑顔で返す。
チームフェリスの次代を担うウマ娘達、その3人にエクストラドリームトロフィーを見せて勉強させるために、キタサンブラックが引率となり応援に来ているのだ。
勿論、チームメンバーが走るそれを応援することも理由の一つだ。
控室には立華が向かっている。キタサンブラックは若手のまとめ役として引率するようサンデーサイレンスから依頼を受けていた。
そうして、6人が東京レース場の観客席に入る。
そこには更なる人の群れ。20万人近いウマ娘ファンが所狭しと集まっていた。
『うおっ……すげェなこれ。お前らいつもこんな観客の中で走ってんのか』
『フレミントンレース場よりも広いわね……キタ、案内ありがとね。ここからは……』
『ああ、いえ、ここからですよ?一番いい所で見たいでしょ?しっかりついてきてくださいね?』
そうしてキタサンブラックがすぅ、と一息ついてから……声を、出す。
「……すみませーーーーん!!!通してもらえますかーーーーーー!!!」
「え……おお!!キタサンブラックだ!!」
「マジ!?マジだ!!すげ、遠くからでも分かるな……流石のバ体だ…!!」
「あれが伝説のGⅠ7勝ウマ娘!!」
「あら、隣にいるのブラックベルーガとミサイルマンじゃない!?」
「おー、海外勢の応援か!?お前らの走りも好きだぞー!!」
「キター!!次の有マ記念は信じてるぞー!!」
「またウイニングライブでまつり歌ってくれよー!!」
「傍にいる子達ってフェリスの新メンバーだっけ?記事で写真見たな」
「ああ、確か今年からデビューするって……トモがいいな、これは期待しかないぜ」
キタサンブラックの大声に周囲の観客が振り向き……そしてその巨体を見たとたんに、人垣がざあっと割れてゴール前までの道を作り出した。
日本のレース場ではまま見られる光景だ。
ファンの民度の高い日本では、有名チームやそのウマ娘が望めば、ゴール前までの道を譲る文化が存在する。
「今にして思うと、私達って昔の有マで相当空気読めないことしてたかな……?」
「あら、それは違うと思うわよ?譲る権利もあれば、最高の場所でレースを見る権利だってみんなあるのだから。私はあの時、立華トレーナーと一緒に観戦出来てよかったって思ってるし」
「そうだね、お互いに譲りあえるからこそだと思うよ。トレーナー達だって普通にファンの人がそこで見たいって言えば無理強いしていないもんね」
「あはは……大丈夫。私も子供の頃はダイヤちゃんやお兄さんたちと一緒に、ぜんっぜんゴール前譲らなかったし」
『……なんていうか、文化の違いがすごいわね』
『これはシンガポールじゃァ出来ねェなぁ……』
先導するキタサンブラックについていく5人。
ゴール前に歩いていく際中……人波をかき分けていくキタを見つけて集まってきたのか、学園のウマ娘がその波に紛れるように、合流を果たしてきた。
「ん、キタか。ちょうどよかった、共にレースを応援しないか?今日はカサマツからはマーチが出るからな、全力で応援したい」
「あっ、オグリ先輩とカサマツのみなさん!ええ、勿論!!一緒に行きましょう!!」
「今日の府中は人が多すぎだろォ!……っと、あそこにいるのはキタじゃねぇか?」
「みたいね。目立つわね、あの身長。ちょうどいいからアタシたちもついていきましょうか」
「あ、スピカの皆さんもこんにちは!スピカからも3人出走しますもんね、よければ一緒にどうです?」
「おや…キタサンブラック君じゃあないか。ゴール前のいい位置を取りに行く算段かな?私達も一緒させてもらいたいねぇ。ライアン君の勇姿を全力で応援しないとねぇ……あと、UGのデータも取らなければ」
「タキオン先輩に、レグルスの皆さんも!一緒に応援しましょうねっ!!」
「おや、これはよいところに。ターボさんが今にも人の群れに突撃しそうになっていたのです。よければ先導願えますか、キタサンブラックさん」
「先頭で応援するもん!!ネイチャとササヤキとイルイルの晴れ舞台だから一生懸命応援しないと!!」
「全力で応援するぞ~!えい、えい、むん!!」
「カノープスの皆さんもこんにちは!!そっか、南坂トレーナーは控室に行ってますもんね!行きましょう!」
「ぐぬぅぅぅ……この人垣に向かってはバクシンできません……おや!!あれは我が永遠のライバル、ブラックベルーガさんとミサイルマンさんッ!!そしてキタサンブラックさんっ!!奇遇ですねッ!!」
「えへへ、今日はプライベートだからチェキは遠慮してるの、ごめんね?……あ、ちょうどよかった!カレンも一緒に、いい?」
「おや、これはなんと雄大な時つ風……この天狗風に乗らせていただくことにしましょう」
「マジ人垣ぴえん……前に出れねーし…って、おー!キタちゃんタイミング最&高かー!?フッ軽かー!?爆ノリテン上げうぇーい!!ウチもかまちょでおけまるー!?」
「ライアンの応援で、良い所取りたいのよね……あと、私に勝ったササちゃんも応援したいし。キタちゃん、ちょっとご一緒させてね?」
「おや~、これはこれは大名行列ですねぇ~。ちょうどいいや、セイちゃんもご一緒させてくださいね~、ファルコン先輩応援したいし」
「このキングを先導する権利をあげるわっ!!ウララさんをみんなで応援するのよ!!」
「ふふ……勿論、ウララちゃんも応援はしますけれども、やはりチームリギルとしては会長も応援したいところです」
「相当気合入ってましたからネー!!リギルもこの波についていきますデスよ!!エルの推しはブロワイエデース!!エルに勝ったウマ娘が世界最強デース!!」
「oh!それならワタシの推しはスズカデース!!アメリカでも共に過ごしましたからネー!!きっとファルコンにも負けまセーン!!」
「では、ウィンキスさんの応援は私が全力を以て。チームベネトナシュはウィンキスさんを推しています」
「そうでもないよブルボンさん!?ライスはネイチャさんを応援したいかなって…!」
「どぅへへへ……推しが推しを推す姿、尊いッ!!ミ゛ッ……っは!!今日だけで何度目かの尊死を!あっすみません、迷惑かけないからついて行っていいですかぁ!?ゴールドシップさんにぱかちゅーぶのつなぎの実況するようにデジたんは指示されてましてぇ…!!」
ウマ娘がウマ娘を呼び、そうして人垣を進む数はどんどん増えて、いつの間にか相当の集団が形成されて。
そして、その先頭を導くように進むキタサンブラックは……そう、今の世代を担うウマ娘として、誰もが認めるリーダーのような存在となっていた。
新しい時代は、既に芽吹いて大きく花を咲かせていた。
時代は変わり。
そして、だからこそ。
今日、革命の始まりの世代が魅せる夢のレースを見届けるために、ウマ娘達がゴール前に集まってきていた。
夢の舞台が始まる。
貴方の夢は?
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ヴィクトールピスト
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エイシンフラッシュ
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スマートファルコン
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フジマサマーチ
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アイネスフウジン
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サクラノササヤキ
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マイルイルネル
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シンボリルドルフ
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ハルウララ
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メジロライアン
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ゴールドシップ
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サイレンススズカ
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ナイスネイチャ
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サンデーサイレンス
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マジェスティックプリンス
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イージーゴア
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ブロワイエ
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ウィンキス