【完結】閃光と隼と風神の駆ける夢   作:そとみち

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EXTRA-R カーテンコール 後編

 

 

 

 

「……スイッチオン!!ヨシッ!!ぴすぴーす!!トレセン学園の宣伝担当ゴルシちゃんだぞーっ!よー、画面の向こうのお前らーっ!今日も元気してっかー!?」

 

『ぴすぴーす!!』

『ぴすぴーす!』

『うおっ唐突に画面代わった』

『ぴすぴーす!』

『さっきまでデジたんがゴール前で放送してたのに』

『視点高くね?』

『これどこ視点だ?』

 

「おー、見えてんなー?よしよし。今日もぱかちゅーぶやっていくぜェーーーッ!!今日は特別生放送、エクストラドリームトロフィーガチで走ってみた企画っ!!映像はアタシの帽子にGoPro装着してゴールまでずっと流すからよー!!お前ら楽しみにしてろよなー!!」

 

『おっ映像めっちゃ動くな!?』

『酔うわコレ』

『これゴルシ俯いてる?ウマホ持った手が見える』

『ウマホに俺らのコメント写ってるやん』

『いえーいゴルシ見てるー?』

『見えてるよー!』

『音も問題ない』

『ウマホ持ちながら走んの?』

 

「酔うのはワリーけどアタシもどーにもならねー!セルフで画面の中央に酔い止めゴルシちゃん置いといてくれ!んでもって今はレース場に向かう通路の途中だぜー、流石にレース場までウマホは持ち込めないからそっから先はアタシもコメントに返事できねーんでよろしくな!!あと、レース中は当然ガチで走っからよ、応援してくれよなー!」

 

『もんのすげぇ臨場感だ』

『ゴルシの靴音が響いてますねぇ!』

『これ歩いていくたびに少しずつ歓声が大きくなっていくのヤバい』

『ウマ娘達はこんな道を歩いてレースに出走してたのか……』

『走るわけでもないのにドキドキしてきた』

『かなり斬新な試みだよねこれ』

『URAの了解はちゃんと取ってるって概要欄にあるからな』

『何よりドリームレース衣装に身を包んだウマ娘達が間近で見られるのが有難い…』

 

「おーし、そんじゃそろそろレース場に出るからウマホはトレーナーに預けるぜー。この後はデジタルの副音声が入るけど画面と音はこのままだからみんな仲良く応援するんだぞーっ!!んじゃまたな!!」

 

『配慮助かる』

『頑張れよゴルシ!!』

『革命世代推しだけどお前の事もマジで応援してるぞ!』

『ゴルシがいなきゃこんなに世間は盛り上がってねぇんだ』

『楽しんできてね!』

『グッドレース期待!!』

『俺たちは見届けるだけだ!』

 

 

 

「…しっかし、よくやるよお前も。史上初じゃないか?ガチのレースを走る側から生放送なんてよ」

 

「いいじゃねぇかよー、せっかくの夢の舞台だぜー?世界初を刻みまくった革命世代のやつらに、アタシも対抗してぇんだよ」

 

「ま、斤量は調整してるしいいけどさ。映像ばっかりにかまけてて走りを疎かにするなよ?ライバルは全員が世界最強だ。欠片でも油断したらやられるぞ」

 

「わぁってら。この日の為に脚も仕上げてきたからなー……行ってくるぜ、トレーナー。アタシの走りに見惚れんなよ?」

 

「見惚れさせてくれよ、是非とも。……よし、行ってこいゴルシ!!」

 

「おうっ!!」

 

 

 

────────────────

────────────────

 

 

 ────────ワアアアアアアアアアアアアアアッ!!!

 

 

 大歓声が東京レース場を包む。

 灼熱の熱気に包まれたスターティングゲートの前に、エクストラドリームトロフィーに出走するウマ娘達が集まってきていた。

 先程はパドックも周り、ウォームアップの試走も終えて……みなぎる闘気を漏らさぬように気勢を落ち着けたウマ娘が、レース前の会話を交わしていた。

 

「……ゴールドシップさん、本当に生放送しているのですね」

 

「おーよ!ここのカメラでお前らの姿も声も全部入ってっかんな!ほれフラッシュー、ぴすぴーすってやってくれよー」

 

「お断りします。ドバイの後にどれほどあれが記事にされて恥ずかしい思いをしたか……」

 

「あはは…人気高かったの、フラッシュちゃんのあのダブルピース。ぴすぴーす、みんな見てるー?今日はいっぱい応援してねー?」

 

「ぴすぴーす☆スズカちゃんにはハナを譲らないからね!!いくよー?ファル子が逃げたらー!?………これコールしてくれてるかな?」

 

「多分してるだろコメントで。流石にアタシも見れねーけどよ。チョーシはどうでぇお前ら。最高の走りが魅せられるコンディションになってっかー?」

 

「愚問ですね」

 

「こんなにアガるレースはそうそうないよね☆?」

 

「風神の暴風、見せつけてやるの」

 

 生放送中のゴールドシップが出走するウマ娘全員を映しながら、声をかけていく。

 まずはチームフェリスの、革命世代に数えられる3人。

 その表情には彼女たちがこれまでのレースでも見せていた、絶好調の表情を浮かべていた。

 戦意も高揚している。あの伝説の有マ記念以来の、3人一緒に出走するレースだからこそだろう。

 

「ゴルシ先輩、放送もいいですけれど、しっかり走ってくださいね。前のドリームのレースみたいにゲートで……なんて、洒落にもなりませんよ」

 

「そうね…ゴールドシップ、沖野トレーナーも心配していたわよ。今日はちゃんと走ってくれるかって…」

 

「心配すんなーい!今日はゴルシちゃんやる気が乗ってっからよー!!むしろ生放送でゲート入りの恐怖をようやく視聴者にも味わってもらえるってもんよー!!素直にガチで走ってやるぜー!」

 

 続いてゴールドシップに話しかけてくるのは、同じチームスピカの二人、ヴィクトールピストとサイレンススズカだ。

 以前にゴールドシップが走ったドリームトロフィーの長距離レースでゲート難を発症し、しかしそれでも2着に食い込むという謎の激走を見せたのだが、それがまた起きないか心配するヴィクトールピスト。

 そしてその心配を沖野から聞かされていたサイレンススズカが改めて釘をさす。

 ゴールドシップというウマ娘は、特にゲートで何をやらかすかわからない。そこに恐怖を覚えるのも当然と言ったところだろう。

 

「やー……今日の観客はすっごいね。グランプリレースの時は東京レース場使わないからあれだけど、ダービーよりも人多いんじゃない?」

 

「かもしれませんね。警備員も通常時の10倍の人員を配置しているってニュースで見ましたよ」

 

「大勢の前でも冷静に……心頭滅却……南無阿弥陀仏……」

 

「ん!ササちゃん、なにやってるのー?しんとーめっきゃくー?」

 

「こら、ウララ。人の集中を邪魔してはいかん。あれがササヤキなりの精神集中のルーティーンなのだろう」

 

「ササちゃんは精神統一に仏教の教えを取り入れてから、ああしてゲート前で集中するようになったんだよ、ウララちゃん」

 

「だいぶ静かになったので僕は助かりますけどね」

 

「こーなったときのササヤキは怖いよー?まぁ尤も、今日はそれを穿たなきゃならないわけですケド」

 

 そしてゴールドシップが首を向ける先、カメラの映像はチームカノープスの3人と、メジロライアンとハルウララ、フジマサマーチが話しているシーンを映した。

 ネイチャとマーチ以外は革命世代の優駿たちであり、そんな革命世代を打ち破った最強の伏兵と砂の麗人が一堂に会する。

 サクラノササヤキがシニア級の後半から見せるようになった精神集中のルーティーンに、隣でハルウララがそれを真似しようとして、桃色の髪が二つ並んで念仏を唱える謎の空間を作り上げていた。

 

 

「あっちもリラックスできてんなー、こりゃ油断ならねぇぜ……、っと────────」

 

 

 ゴールドシップがそれを見ながら感想を零していたところで、唐突にある現象が発生し、ぱかちゅーぶの映像を見ていた視聴者が困惑する。

 大歓声の東京レース場、そのスタート前。

 実況が、解説が、観客が、ウマ娘達の声が響くはずのその映像から。

 

 

 ────────音が消えた。

 

 

 放送事故か?と視聴者たちがコメントする中で、しかし、次の瞬間にコメント欄すらも止まってしまった。

 回線落ち、によるものではない。

 映像がその原因となる場面を映したからだ。

 それを見ている者すべてに、沈黙(サイレンス)を生むその()()

 

 

『────────』

 

 

 サンデーサイレンスが、神に祈りを捧げていた。

 スタート前の彼女のルーティーン。

 現役時代から変わらず、この瞬間は、それを見ている者すべてが沈黙する。

 東京レース場に集まったすべての人から言葉が失われ、その厳格たる祈りの姿に静寂を以て見守った。

 

 ドリームトロフィーのレースということで、サンデーサイレンスの勝負服は現役時代のそれではなく、統一規格の衣装になっている。

 しかし、その衣装も色の指定や細部の調整ができて、サンデーサイレンスはその色を出来る限り修道服に近づけるよう、黒一色に近い装いを見せていた。

 上着から広がる腰回りのヴェールは光を通さぬ黒布を使い、本来は露出される部位であるおへそ周りの腹部と両脚は黒のタイツを纏っており。

 ゴールドシップがそうしているように、頭部の装飾はかなり自由が利くため、シスターヴェールを被ることで、現役時代の勝負服に寄せるデザインに仕上げていた。

 

 

『────ふぅ』

 

 

 そして、数秒か、十数秒かと感じられるような長い祈りを終えて、サンデーサイレンスが片膝をついた状態から立ち上がる。

 その瞬間、彼女の祈りに向けた莫大な歓声がゲート前に浴びせられた。

 

『ヒュウ!相変らずね、サンデー!その雰囲気……この瞬間だけは、現役時代と何も変わらないわね、アンタは』

 

『走りだって錆びつかせてはいないわよ?あの時の悪夢をまた見せてあげる、ゴア』

 

『おお恐ろしい……アメリカの伝説がこの日本に蘇ろうとしているのだっ!!尤も、その伝説は私の走りによって打ち破られるのだがね!!ハーッハッハッハ!!』

 

 そしてその周り、アメリカ出身のウマ娘であるイージーゴアとマジェスティックプリンスが先の祈りに感想を零した。

 現役時代はその祈りを4度も見たイージーゴアが変わらぬライバルの姿に喜色の笑みを見せ、高めあう二人にマジェスティックプリンスが絶対の自信を籠めた高笑いで返す。

 現役を過ぎ、引退からトレーナー業を営む二人の伝説が……この夢の舞台で、どこまでの走りを見せるのか。人々はそこに無限の期待を込めている。

 何故なら先日、神話のラグナロクを見たばかりなのだ。

 伝説は時が経っても伝説のままであるのか。そう、在る事が出来るのか。伝説の証明がこの夢の舞台で行われるのだ。

 

「……やれやれ。日本の伝説の世代と、アメリカの伝説の世代のウマ娘が一堂に会するレースなど、もう今後みられるものではないだろうな。竜驤虎視……だからこそ、私がここを走る理由になる」

 

「おや、残念だな。日本とアメリカの伝説だけで君は満足するのかな、シンボリルドルフ。遠慮は無用だ、是非ともフランスの伝説もその身に刻んでいってくれたまえ」

 

「……オーストラリアの伝説も一緒にいかがですか、お二人とも。世界最強の記録は伊達ではないことを、この脚で証明します。勝率は65%なれど、勝利への執念は120%です」

 

「ふっ……二人とも、言ってくれる。では逆にこちらからもプレゼントしようか。そのウマ娘には絶対があるとまで言わしめた、かつての日本の伝説をな」

 

 そんなアメリカのウマ娘達を見て昂るシンボリルドルフに、さらにフランスとオーストラリアの最強が名乗りを上げて、3人ともに調子を最高に高めあっていた。

 若獅子のような獰猛な笑顔を見せるルドルフに、凱旋門のケルベロスたるブロワイエも連なるように笑みを浮かべて、ウィンキスまでもがそんな二人に感化され、奮えるような笑みを浮かべる。

 いや、3人だけではない。この場にいる全てのウマ娘が、各々の魂の高ぶりを抑えきれず、笑顔を浮かべていた。

 

 

「……へっへっへ、いいぜぇ、アガってきたぜぇ!!」

 

 

 舞台は整った。

 

 これから始まる大レース。

 

 (ひし)めき合って嘶くは、天すら羨む怪物の群れ。

 

 誰もが求めた夢のレースが、間もなく始まろうとしていた。

 

 

 

────────────────

────────────────

 

 

 

『さあっ!!まもなくファンファーレが鳴り響かんと言ったところ!!本日、ファンファーレの旗を振るのは革命世代の伝説のドバイを率いた立華勝人トレーナー!!スターターを務めるのはなんとその肩に乗った猫、オニャンコポンですっ!!今梯子の上の箱に入り……おおっと!!!ここで場内大爆笑!!!それはそうでしょうっ!!肩の上で今日もオニャンコポンが踊っていますっ!!しっかり猫用ハーネスをつけて落ちないようになっているっ!!愛されているぞオニャンコポンッッ!!!』

 

 

 実況が言う通り、今日のエクストラドリームトロフィーでは特別に立華とオニャンコポンがスターターを務めることになっていた。

 万が一にもフェリスに向けた不正が行われないように、スタートのスイッチを押すのは人間である立華ではなく、オニャンコポンになっている。

 夢のレースであり、お祭りのレースだ。URAもだいぶ頭がやられてしまっており、このようなお遊びも許可が下りていた。

 ファンが喜ぶことが一番であるという、原初の目標に向けて設営が進められていた。

 

 はしご車が徐々に持ち上がり、その上で立華勝人が赤旗を持ち上げて、振る。

 それに合わせて、吹奏楽団によるファンファーレが高らかに東京レース場に鳴り響く。

 観客たちの合いの手の拍手が合わさり、まるで津波のような空気の震えがレース場全体に生まれた。

 

 

『ゲート入りが始まりますっ!!最内枠ヴィクトールピストから順番に入って行くウマ娘達!!一人ずつ、かみしめるようにゲートに入って行きます!!……ゴールドシップも素直に入って行った!!今日は波乱は起きないかっ!?』

 

 

 そしてゲート入りが始まる。

 それぞれのウマ娘が、自分の枠へと入って行くが………しかし、この時点で既に、勝負は始まっている。

 スタートを得意とするウマ娘に、圧をかけるウマ娘が存在した。

 

(ひぃぃ……!!マーチ先輩、ドリームあがってから更に圧が強くなってるぅ……☆)

 

(当然だ……貴様だけは素直にゲートを出してたまるか…!!)

 

(こっちにまで余波が飛んできてるの……すっご、やっば。めちゃくちゃゲートが狭く感じる…!)

 

 フジマサマーチが、現役時代に目覚め、ドリームリーグを走る中で磨き上げた、ゲート入りで発する鬼神の圧を隣枠のスマートファルコンとアイネスフウジンにぶちまけていた。

 その圧は今や彼女のフェイバリット。

 ドリームリーグにおいて、彼女の両隣の枠に入ったウマ娘は一着を取れていない。

 音を立てるでもない。何か動きがあるわけでもない。ただ、視線と雰囲気による差し穿つような圧が、両隣の逃げウマ娘二人を楽にゲートから出そうとしない。

 

 この時点で、スタートダッシュが必須となるスマートファルコンにとっては相当なハンデとなる。

 今回のレースはスタートダッシュを得意とするもう一人の逃げウマ娘、サイレンススズカがいるため、スタートの不利は余りにも砂の隼にとって厳しい条件となる……はずで、あったが。

 

 だが、サイレンススズカもまた枠番には恵まれていなかった。

 何故なら、彼女の隣には。

 

(……空気がぬかるんでるみたい。すごいわ、こんなの初めて……流石ね、ネイチャ)

 

 牽制の長老。

 ナイスネイチャがそこには存在した。

 

(ファルコンさんはマーチ先輩がやってくれてますからねぇ~、あたしはスズカさんを殺りますよ、そりゃね。楽なスタートが切れると思わないでくださいよぉ)

 

 刺し穿つような重圧をかけるフジマサマーチのそれとは異なり、空気に粘りすら生まれそうなほどのねっとりとした圧を仕掛けることでサイレンススズカの気勢を削ぐ。

 その表情も、絶好調の時に見せる蕩けたような笑顔だ。

 この蠱惑的な笑みを浮かべる時のナイスネイチャには注意しろ。革命世代以降、どの世代でも語り継がれる彼女なりのキープスマイル。

 

 さて、そうしてスタートダッシュの脚を縛られるスマートファルコンとサイレンススズカだが、無論の事、この程度でスタートが終わるほどこの二人も甘くない。

 今日のは格別に重いそれではあるが、しかしスタート時点で圧をかけられることなど、二人にとっては日常茶飯事。

 それを超えて最高のスタートを切れるからこそ、砂の隼と異次元の逃亡者という、二人だけの二つ名を名乗ることが許される。

 不敵な笑みを浮かべる二人が、スタートへの集中を高めていく。

 

 

『……最後の大外枠にウィンキスが入りました!各ウマ娘ゲートイン完了!!………今スタートしましたッ!!!』

 

 

 

────────────────

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 前振りはあったが。

 それでも、先駆けはこの最速の二人。

 

 

『っ飛び出していったのはやはりこの二人ッ!!芝の上の最速の機能美と、砂の上の最速の機能美がぶつかりあうっ!!これが見たかった!!スマートファルコンとサイレンススズカがまずスタートダッシュを決めっ……なんと!!?』

 

 

 だが、当然にそれだけでは終わらない。

 在り得ない光景に実況が、観客席が困惑の声を上げ始める。

 特に、この舞台には何をしでかすかわからない伏兵が多数存在する。

 その奇策を打ったウマ娘が、やけっぱちの笑顔と共に、先頭の二人に追従していた。

 

 

『続くサクラノササヤキとアイネスフウジンのすぐ前に、ナイスネイチャが来た!!先頭の二人の飛び出しについていきましたっ!これは作戦か!?』

 

 

 ナイスネイチャが、逃げ集団についていく。

 当然にしてそれは、レース全体を泥沼に叩き込むためのネイチャなりの最初の一手であった。

 

(特に大逃げ二人は、最初のタイミング逃したら牽制が遠くなっちゃいますからねぇ。思いっきり削らせてもらいますよっと!!)

 

「……んぐっ☆」

 

「くっ…!!」

 

 飛び立とうとする隼と、先頭を譲ろうとしない異次元の逃亡者が、肩を並べるようにしてギアを切り替えて加速する寸前に、思い切り牽制をぶつけて初速を削ぐ。

 そのためだけに、スタートダッシュに付き合った。

 ゲート内でサイレンススズカを徹底マークする他、彼女の呼吸を盗んでおり……ゲートオープンへの反応を、隣へ意識を飛ばすことで模倣した。

 万が一にでもサイレンススズカがスタートを失敗すれば同時に自分のレースも終わってしまうようなある意味ギャンブルではあったが、例え圧をかけようが素晴らしいスタートダッシュを切るだろうとスズカを信じていたからこその一手。

 そのお礼として捧げられた粘つくような逃げ牽制に、二人の速度は緩まり、レースのペースはある程度ゆるやかになった。

 

「またやってるの……」

 

「ネイチャさんの牽制込みでラップタイムは設定してますからね!!ご自由にっ!!」

 

「お二人も頑張ってねー。ほいっ、ほいっと」

 

 そして、そこからナイスネイチャが位置を下げていく。

 当然だ。大逃げ二人にこの後も付き合えば間違いなく破滅する。

 牽制のためのスタートダッシュは最初だけ。

 その後は、全体に()()()()をしていく必要があるため、むしろ足を緩めて回復に務めながら、すれ違うウマ娘達に牽制を投げかけていくのだ。

 とりあえず今すれ違った逃げ二人にもあいさつ代わりに幻惑を絡めていった。

 

 加速減速によるスタミナの減少は極限までロスを少なくできるようトレーニングしている。

 ナイスネイチャの変幻自在の牽制が、このレースを走る全員に捧げられていく。

 

 

『その後ろには先行集団、フジマサマーチが前目に着けて追うようにマジェスティックプリンス!!サンデーサイレンスもここにいてウィンキスが中団に着けたか!シンボリルドルフとメジロライアンがその後ろ!ナイスネイチャがまるでカメラの映像に追従するように位置を下げていくっ!!』

 

 

 レース映像が横からの画面に切り替わり、先頭から後続に向けて流れるように映していく。

 その映像にずっと移り続けるナイスネイチャが、順々に()()()()を交わし始める。

 

 

「……実際のレースで受けるのはこれが初めてだが、噂に違わぬ曲者だな貴様。そこまでやられれば敬意も湧くという物だ」

 

「どもども~。マーチ先輩も中盤期待してますので~」

 

『ハッハッハ!!ファルコンから聞いていて知っているとも……ああ、幻惑の使い手ナイスネイチャ!!なるほど、初手から驚かせてくれるね!!面白いッ!!』

 

『この子、私と初めて走ったトレーナーズカップからずっとこれだから……日本のレースって湿っぽいのよ。対策立てるのが本当に大変』

 

『アメリカの英雄にご存じ頂き、サンデートレーナーにもお褒め頂き、光栄の極み!なんちって』

 

『囁き技術のためだけに言語まで習得してきている所が極めて厄介。マーク割合45%まで見積もりを修正』

 

『やーん、世界最強にマークなんてされちゃってます?滅相もない、このように光る末脚も何もないウマ娘でして…』

 

「君はあの有マでフラッシュにも負けない末脚を見せているだろう。私とやり方は違えど流石だな、君は……」

 

「ネイチャちゃんと走る時はこの笑顔に注意せよ、ってね……ただの圧なら筋肉で弾けるけれど、すり寄ってくるからなこの子…!!」

 

「あらやだ会長さんからもマークされてる?恐縮ですねぇ~、後ろに引っ込んじゃお。ライアンさん助けて~?なんてね」

 

 

 すれ違う一瞬の会話、視線のやり取り、圧の掛け合いで、僅かずつながら全員の気勢を、脚を削いでいく。

 余りにも器用なナイスネイチャの牽制術。

 それは、全員の性格と戦歴、歴史と関係性をしっかりと把握しているからこそできる、敬意に溢れた全霊の妨害。

 心地よさすら感じさせる開き直りから繰り出される牽制が、これからゴールを過ぎるまで、どのタイミングで仕掛けられるか分かったものではない。

 絶対に意味がないだろうというタイミングでさえ愉悦と共に圧が飛んでくるのだから、走っているウマ娘からすればたまったものではない。

 

 

『……さらに後方集団、差しの位置から伺うはマイルイルネル!ハルウララとブロワイエがその隣!!エイシンフラッシュはその後ろからレースを見ていますっ!!その隣の巨体はイージーゴア!!後ろ目に着けたっ!!しかしここまでナイスネイチャが落ちてきているっ!!何をしている!?あのウマ娘は何をしているんだ!?!?』

 

 

 映像は流れ、差し集団の紹介に入った。

 集団の前方、レースを走るウマ娘のちょうど中間あたりに着けたマイルイルネルが、ナイスネイチャとは違うアプローチで全体のウマ娘に仕掛けるために、大きな耳をぐりぐりとソナーのように動かしている。

 それは今や彼女の走りを象徴する動作で、ぱかプチでもマイルイルネルのものだけは耳が自由に動くようにされているほどだ。

 

「今日も頑張ってるねぇイルイル。アタシ全力で引っ掻き回すけど、盤面はちゃんと見えてる?」

 

「僕を舐めないでくださいよネイチャさん。癖を知ってるウマ娘が多いこの場なら……いや、真似しないで?」

 

「えへへ」

 

 すれ違いざまに、ナイスネイチャがおちょくる様に己の耳もくりくりっと動かす。

 普段とは違い、音を僅かでも拾いやすくするために耳カバーを外した状態のそれが、マイルイルネルと並んで耳を動かして、まるで姉妹のように仲良しの様相を見せる。

 

「あー!二人ともお耳が動いてるー!」

 

「仲良しだからねあたし達っ!」

 

『……空恐ろしいものを見ているよ。まるでラビットのように飛び出したウマ娘が自分の目の前まで降りてきて、悪意を振りまきながら全体を撫でていくなど……世界でも君だけだろうな、これをやれるのは』

 

『はっはっは。買いかぶり過ぎってやつですよブロワイエさん。いつだって全力で走ってるだけですって』

 

『君はフランス語まで覚えてきているのか……!?』

 

 そしてその傍、ハルウララとブロワイエが駆け抜けるところをナイスネイチャは下がっていく。

 実を言うとこの二人のうち、ハルウララへの警戒度がナイスネイチャの中ではかなり高い。

 自由自在の牽制を放てるナイスネイチャだが、その効果は結局のところ、受け手側の理解力にゆだねられるところがある。

 牽制を、圧を、何をしているか理解できる者ほど、素直に牽制が効いてくれるのだ。

 しかしハルウララは、その天真爛漫たる笑顔の中に、レースへの勝利を求める執念の鬼、それ以外のものを何も抱えずに走っているのだ。

 目標は一番にゴールに飛び込むこと。それ以外の悩みを捨て切ったことで、末脚に最後の輝きを生み、スマートファルコンすら一度超えている経験を持つ。

 通常に仕掛ける圧も、ライアンなど圧に抵抗のあるウマ娘に仕掛ける絡め手も、ハルウララは割とスルーしていくのだ。

 純粋に、走ることを楽しむ彼女だからこそ効かないものもある。

 ナイスネイチャの牽制は、ハルウララという相手には相性が悪かった。

 

『……ここまでくると、もしやドイツ語も覚えて来ていますか?』

 

Selbstverständlich(もちろん)!私達もうだいぶマブでしょフラッシュさん!親友の母国語を覚えるくらいはしちゃいますって!』

 

Du machst Scherze, oder(ウソでしょ)……』

 

『こっわ。サンデーがあの子の走りだけは誰にも真似できないって言ってたのが分かったわ……まっ、それでもアタシが勝つけれどね!!捻じ伏せてやるわ、その走りも!!』

 

『やーだぁ。その熱は私にじゃなくてサンデートレーナーに向けてくださいよぉ、人畜無害なウマ娘でーす』

 

 差し集団の後方、そんな様子を見ていたエイシンフラッシュが試しにとドイツ語で語り掛けたら、流暢なそれが返ってきて、その言葉に衝撃を覚えて気勢を削がれた。

 そんなこれまでの様子を見ていたイージーゴアもまた、その恐ろしさに震えつつも、飛ばされる牽制を受けて負けん気を刺激されていた。

 

 

『そうして最後方、ここには追込みの代名詞ゴールドシップ!!そしてその隣になんとヴィクトールピスト!!今日は最後方からのレースを展開するか!ドバイターフで見せた奇跡が繰り広げられるのか!?最初から最後まで映像に映りましたナイスネイチャは二人の前でようやく位置が落ち着いたか!!』

 

 

 最後に、追込みの作戦をとるウマ娘が二人。

 チームスピカのゴールドシップとヴィクトールピストが、仲良く最後方からのレースを展開していた。

 先頭で砂の隼と戯れるサイレンススズカも含めて、スピカのウマ娘が最前線と最後方を繋いでいた。

 

「マジでよくやるよお前……」

 

「いえーい、ぴすぴーす。みんな見てるー?」

 

 ゴールドシップがため息を一つついて前を走るナイスネイチャを視界に収めたところで、全く速度を落とすことなく振り返り、ぺろりと舌を出してウインクを一つ贈るナイスネイチャ。

 ぱかちゅーぶにその瞬間の映像が流れて一度コメント欄が回線落ちした。

 

「……これまで何度も受けたけれど、今日はキレッキレね、ネイチャ先輩……」

 

「あ、ここから500mまではずっとヴィイにねちょるからね。覚悟してね?」

 

「最悪……!!」

 

 今日は最後方に位置取りし、ゴールドシップの走りをペースメーカーとしながらも、最終コーナー付近からのまくりを考えていたヴィクトールピストが、辟易して顔をしかめた。

 牽制から逃れるための位置取りだったというのに。最初、スタートダッシュで前目に着いたナイスネイチャを見て、牽制の長たる3人のうち、少なくとも一人のマークから逃れられたと思ったのに。

 粘着してきやがった。

 荒らし、嫌がらせ、混乱の元となっていたナイスネイチャは、ヴィクトールピストの領域発動までその位置取りで落ち着いた。むしろ領域突入を潰してやらんと言わんばかりに圧が継続してヴィクトールピストに仕掛けられる。

 持ち前の抵抗力で対抗しながらも、しかし重い足取りになる所は避けられない。

 まったく面倒な相手である。このレースを走る全員がそう思った。

 

 

『先頭を走るサイレンススズカとスマートファルコンが共に先頭を譲らない!!逃げます逃げます!!まもなく最初のコーナーが見えてくるぞ!!ここで波乱が起きるのか!?』

 

 

 そうしてナイスネイチャがまず全員に挨拶を交わし終えたところで、レースは200mを超えて最初のコーナーに突入していく。

 抜けるまでに300mほどかかるこのコーナーが、あらゆるウマ娘にとって仕掛け処となる。

 勝負はまだ序盤。優駿たちの輝きはこれからである。

 

 

 

────────────────

────────────────

 

 

 

『コーナーを回るっ!!先頭の二人は未だどちらもハナを譲らずパラレルドリフトを披露っ!!これは恐ろしいスピードだっ!!序盤からこの速度を出して大丈夫か、ぶつからないか!?などという心配は無用!!なぜなら彼女たちは世界最優の二人だからですっ!!後続も負けじとぶっ飛んでくるっ!!』

 

 

 最初のコーナーに突入した。

 先頭を走るスマートファルコンとサイレンススズカが、お互いにハナを譲るまいと肩を並べたままに、姿勢を落として飛び込むようなコーナリングを見せた。

 革命世代、およびそれに連なり影響を受けたウマ娘達がよく見せる、決死のコーナリング。

 体幹が極まっていることを条件に、恐怖心を克服したものだけがこのコーナリングを敢行出来る。

 

「先頭は……譲らないっ☆!!」

 

「くっ……こっちだって!!」

 

 まず先頭を行く二人が水先案内を務め、その後方からは次々と優駿たちが続いていく。

 アイネスフウジンも当然にして等速ストライドを交えたテクニカルなコーナリングを披露するほか、サクラノササヤキもこの加速度についていける走りを習得していた。

 フジマサマーチはカサマツ独特の深く水を掻くようなつま先を用いた走りでそれに対抗し、マジェスティックプリンスとメジロライアン、シンボリルドルフとブロワイエもそれぞれ速度に追従して走り抜けていく。

 その後方からはエイシンフラッシュが多角形コーナリングで独特な軌道を描いてコーナーを攻めていった。

 ハルウララもドバイで習得したコーナリングを如実に用いて加速する。ここで、コーナーでは一歩譲るイージーゴアがハルウララとナイスネイチャに前を譲った。

 ゴールドシップとヴィクトールピストもコーナリングはお手の物。

 それぞれがこのコーナーで余計なロスを生むまいと、当然のようにお手本に近い走りを見せていって。

 

 だが、その走りはあくまでお手本の、理想の近似値にまでしか至らない。

 彼女たち革命世代がコーナーを評価されている理由。

 それは、そのコーナリングを教えた存在がいたからに他ならない。

 

 そう。

 このレースには、全員のコーナー技術の始祖とも言える、サンデーサイレンスが存在していた。

 

 

 ─────────────【天使祝詞(ヘイルメリー・ランナウェイ)

 

 

『ほらッ、どきなさいっ!!最内は私が走るッ!!!』

 

「く……ぬ、これか!!これがサンデートレーナーの本気の走り……!!」

 

『変わっておりませんね、その気性は!!本気でコーナーを攻める時のサンデートレーナーが一番輝いていますよっ!!』

 

「コーナーのたびに入る領域……やはり厄介だな、サンデーサイレンスッ!」

 

『速い……意志が迸っているようなコーナリング。解析不能の速度。サンデーサイレンスの脅威度上昇……!』

 

 

 サンデーサイレンスが、無理矢理内ラチのさらに内側に潜り込むような角度で、コーナーに()()()()()

 ゴールドシップの頭部に積載されたカメラで、ぱかちゅーぶでその光景を見ていた一般市民に衝撃が走る。

 まるで身投げでもしているかのような狂気。

 内ラチと顔面との距離は5cmと離れていない。

 まともな神経ではあの走りはできない。

 冒涜的なまでの加速に、気迫に、ぐんぐん位置取りを上げていくサンデーサイレンスに追い縋れるウマ娘は皆無であった。

 

 サンデーサイレンスはコーナーにおいて最速。

 

 

『黒い影がぐんぐんぐんぐん位置取りを上げていくっ!!サンデーサイレンスのコーナーが速いっ!!流石のアメリカ年度代表ウマ娘っ!!かつてのその栄光は今もなお一切陰りありませんっ!!もう間もなくコーナー出口!!500m地点を超えようとするところですっ!!』

 

 

 そして、500m地点が見えてきた。

 ここを条件として、領域を発動するウマ娘がこのレースには多数参加している。

 

 まず、一人目。

 

 

 ────────【勝利の山(サント・ヴィクトワール)

 

 

「……ちぇっ、入られちゃったか。それじゃネイチャさんは位置を上げていきますので~」

 

「やるだけやって、ズルいんだから…!!」

 

 ヴィクトールピストが、己の第一領域に突入した。

 フランスの地で目覚めた、特異なる領域。全てのデバフを拒む彼女特有のそれ。

 今回はこの500mに至るまで、長らくナイスネイチャに粘着をされ続けていたため、脚は多少削れているが、領域への突入自体は防がれなかった。

 ここからはまき直し。最終コーナーで飛び出すために、脚を溜めていくところとなる。

 ナイスネイチャは一先ずの収穫を経て、次の粘着対象を探しに位置取りを上げていこうとしたところで、しかし。

 

「……って、はぁ!?」

 

「嘘……!?」

 

 しかし、そんなやり取りをしていたナイスネイチャとヴィクトールピストに、凄まじい衝撃が襲った。

 唐突なそれは、二人のすぐ隣のゴールドシップから。

 最後方に位置する彼女が、なんと。

 

 

「いい領域だな、少し借りるぜ!!サマサマサマーターイムッ!!」

 

 

 ────────【Adventure of 564】for【勝利の山(サント・ヴィクトワール)

 

 

 ヴィクトールピストの第一領域を、模倣した。

 

 ゴールドシップがドリームリーグを走る中で目覚めた第二領域。

 それは余りにも唯我独尊たる彼女のみが持ち得る特殊な効果。

 同じレースを走るウマ娘の領域を、寸分違わず模倣するという物。

 特異点の技術であるゼロの領域だけは模倣できないが、しかし、通常のレースでウマ娘達が使う領域であれば、脚質、位置を問わず、1つだけ模倣が出来る前代未聞の効果であった。

 

 それに目覚めた理由は、ああ、ある意味では納得のいくものなのかもしれない。

 ゴールドシップが趣味と実益を兼ねて行うぱかちゅーぶ。

 その中で彼女は、ありとあらゆるGⅠレースを実況し、解説し、目の当たりにしてきた。

 革命世代のレースを、覚醒の瞬間を、誰よりも見届けてきた。

 そんな彼女が、その技術を使いこなす段にまで進化を果たすというのは、不可思議とまでは言えないだろう。

 

「……厄介にもほどがある!まさかゴルシがそれ使うなんてっ!」

 

「私だけネイチャ先輩の牽制を受けてたのズルくないですか!?」

 

「うるせーっ!!勝負にズルいも何もあるかーっ!!アタシだって今日はガチなんだよーっ!!」

 

 ぎゃあぎゃあと言い争う中でも全く走りにブレはなく、スタミナも浪費していない。

 ナイスネイチャは己の走る技術の内にささやきのスキルを秘め、後方二人はともに入った領域でささやきに抵抗しているからこそ。

 後続集団の厄介さがハネ上がったことで、ナイスネイチャもまた今後のレースをどうコントロールするか、またしても難題を突き付けられることになり、にへっととぼけた笑顔を零した。

 

 

 

 

 さて、そんな後方集団のやり取りが会ったタイミングと、同時。

 500m地点で、さらに厄介な領域に突入せんとするウマ娘が、先行集団に存在した。

 

『今日は羽搏き甲斐のある相手ばかりだ……容赦なくっ!!王の羽搏きを御覧に入れようっ!!』

 

 マジェスティックプリンス。

 このウマ娘の領域も、広く知れ渡る所だ。

 かつてクラシック期に用いていた、大勢の速度を奪う尋常ならざる領域【王の箱庭(King's garden)】をさらに進化させ、その重さは世界の優駿を相手取っても十分に影響があり、砂の隼との勝負となった二度目のドバイワールドカップでは羽根を3枚重ねること(トリプルフィンモーション)でスマートファルコンをも撃墜した、彼女のフェイバリット。

 

 

 ────────【王の飛翔(King's Wings)

 

 

 500m地点を踏み越えた瞬間に、マジェスティックプリンスが領域に突入した。

 かつてドバイワールドカップで披露した、赤を深く染める翼のような領域を背中から展開する。

 9対18本の、深紅の羽根がマジェスティックプリンスの背中から生まれ、その片側の9本が()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

『────────は?』

 

 

 一瞬、何が起きたのかわからず、マジェスティックプリンスの思考が停止する。

 意識がスローになり、片側の羽根9本が千切られた精神的な痛みが一瞬遅れてやってくる。

 

 何が起きた?

 なぜ、私の羽根は、片方が千切り取られている?

 

 その混乱に、しかし、答えはすぐ後ろを走っていた。

 まるで若獅子のように闘気を零し、髪が逆立つような圧を見せ、この瞬間に照準を合わせていたウマ娘が、一人。

 それはかつて絶対の称号を戴冠した、日本が誇る()()

 

 

『……シンボリ、ルドルフ……ッ!?』

 

「待っていた……この瞬間をッ!!」

 

 

 生徒会長たる彼女ではない、ドリームリーグを走る彼女でもない。

 現役時代の、獅子のごとき闘気をここまで溜めに溜め、そして必殺の瞬間に牙を剥き出しにして襲い掛かったウマ娘がそこにいた。

 

 日本でのかつての時代に牽制技術にいち早く着目し、レースの支配を覚え、ナイスネイチャやマイルイルネルが出てくるまではこのウマ娘がレースコントロールの象徴ではあったが、実を言えばシンボリルドルフの本質はそこではない。

 

 勝利への飽くなき執念。

 獣の意志が生む、狂暴たる獅子の一撃。

 

 それはナイスネイチャが仕掛けた牽制とは比較にならない重さで、振るわれた牙はマジェスティックプリンスの領域の効果を半減させるに至った。

 無残に散らした羽根を見て笑みを浮かべるシンボリルドルフの、その口からは獣臭すら漂わせるほどの熱い吐息が零れている。

 

 自由自在のナイスネイチャ。

 静謐無音のマイルイルネル。

 一撃必殺のシンボリルドルフ。

 

 日本が誇るデバフ三人衆である。

 

 

『ファルコンですら3枚だぞ……これが日本のトレセン学園の生徒会長の姿か!?あの学園には化物しかいないじゃあないかッ!?』

 

『学園を率いるのも楽じゃなくてね。強くなければ務まらん……常に牙は研ぎ澄ましている。特にアメリカには因縁があるからね、愉悦(たの)しませてもらおうっ!!』

 

『怪物め!だがっ、王は片翼でも羽ばたいて見せるとも!!』

 

 威力は半減してしまうが、しかしそれでもマジェスティックプリンスの翼は凶器の塊。

 縦横無尽にその赤い翼を羽搏かせ、周囲を走るウマ娘達から速度を吸収する。

 かつてファルコンに千切られた経験から学んでおり、一人のウマ娘に長く翼を預けることはなく、撫でるように何度も愛撫することで、断続的に速度を奪い続ける技術にも目覚めていた。

 削がれたが、それで終わるほどマジェスティックプリンスも駄バではない。

 領域を抜いても優駿であるからこそ、アメリカでの常勝無敗の伝説を成している。

 

 

 500m地点での領域発動はそうして一悶着を抱えてそれぞれが放ち終えて。

 ウマ娘達が、コーナーを抜けて向こう正面に入る。

 その先の大ケヤキを目指して走り、もう一度コーナーを回って後は最終直線。

 

 続いての勝負の舞台は、向こう正面のストレートにて。

 

 

────────────────

────────────────

 

 

『コーナーを抜けて向こう正面っ!!ウマ娘達の位置取りは大きな変化はないか!!ナイスネイチャが徐々に位置を上げていっています!!先頭の二人は未だデッドヒートの最中!!どちらが先んじるのか!?その後ろのアイネスフウジンとサクラノササヤキが控えている!!フジマサマーチが先頭を睨んでいるぞ!!ウィンキスはここまで静かに己の位置を守っている!!マイルイルネルがその後方!!エイシンフラッシュも静かに脚を溜めているっ!!ハルウララがその隣!!後方ゴールドシップとヴィクトールピストはまだ控えていますッ!!』

 

 

 直線に入り、ここで加速を繰り出すウマ娘が数人。

 まず、差し集団の最後方に位置するイージーゴアが動いた。

 

『ようやく直線ね……さ、アガっていきましょうか!!』

 

「うわ…!!ゴアおねーさん、足音すごい!!」

 

「来ましたね…!サンデートレーナーが注意しろと言っていた、イージーゴアさんの直線…!!」

 

『なるほど、踏み込む度に震えさえ覚えてしまいかねない圧…!!これが本気の貴方というわけだ、イージーゴア!!』

 

 直線に入り、徐々に加速を始めるイージーゴア。

 彼女はアメリカの現役時代、サンデーサイレンスと何度も鎬を削りあった仲だ。最大のライバルとして世間から見られており、実際に激戦を何度も繰り広げた。

 その激戦が人々に愛された理由のうちの一つに、二人の走りがまったく相反するものであったことが挙げられる。

 コーナリング技術はサンデーサイレンスが秀でており。

 そして、直線ではイージーゴアの走りが勝っていた。

 

 その走りは、ただ、シンプルに。

 190cmを超える筋肉の塊、ギフテッドの肉体を十全に発揮し、真っすぐに駆け抜ける。

 その体に力が溢れすぎているからこそ、コーナーで全力を出せばロスを生む。

 直線でその力を十全に発揮する瞬間こそが、イージーゴアの真骨頂。

 

 そこには特段、特筆するべき技術はない。

 強いものは強い。速いものは速い。

 高身長で筋力にも勝るウマ娘が全力で走れば、それだけであらゆる技術を踏みにじるほどの暴力的な加速を生むのだ。

 

 

『さあさあ!!アガっていきましょうっ!!こんなに楽しいレースなんだもの、全力で走らなきゃ嘘ってもんよ!!』

 

 

 アメリカンな笑顔を見せて、実に楽しそうに、イージーゴアがアガっていく。

 コーナーで少し位置を落とした分を取り返すように、重戦車のような足音を響かせて、暴走機関車が直線を駆け抜けていった。

 

 

 

 そして、視点は移り先頭集団。

 サクラノササヤキが位置取りを上げてアイネスフウジンの隣をキープし、そしてアイネスフウジンがいつもの技術、後方に向けた速度を奪う逆風を繰り出している、さらにその前方。

 大逃げの二人が鎬を削りあう中で、変化が生まれていた。

 

「…!!ファルコン先輩…!!」

 

「ここだけは、譲れない…☆!!」

 

 お互いに己の脚を最終直線に残しつつ、スタミナを管理した上で、溢れる本能で共に先頭を奪わんと走る中で、肩を並べるデッドヒートを繰り広げ、時には内外が変わりながらも走ってきたところになるが、ここに来てスマートファルコンが意識して加速を繰り出した。

 それはサイレンススズカから見れば、明らかな暴走でもあり、そして必殺の一撃でもある。

 それをする理由は分かる。分かるし、止めなければならないのだが、それを止めるために脚を使うことは自分が息を入れられないことと同義であることも理解しているため、どうしようもなかった。

 

 レース中盤が近づくこの時点で、スマートファルコンが僅かにサイレンススズカの先に出る。

 それにより、彼女の領域の発動条件が満たされた。

 

 それも、()()

 

 

────────【砂塵の王】×【キラキラ☆STARDOM】

 

 

「……だあっ!!!」

 

「っ……!!ズルい……!!」

 

 砂の隼が、この芝でもありダートでもあるUGというバ場において、誰よりも恩恵を受けられる側だったのかもしれない。

 なにせ、彼女の領域は芝とダートで使い分けるタイプのもの。そんな特異な領域を持つものは早々いるはずもない。

 そんな彼女がこのUGにおいて、領域の二重領域発動(ダブルトリガー)を成せることに何の疑問もないだろう。

 ハナを取るために使ったスタミナも、この領域が出せればチャラになりおつりがくるほどの効果。

 最前線を走る高速ペースから更に加速度が上乗せされ、サイレンススズカとの距離を徐々に広げていく。

 大逃げの勝負は、これにて決着と相成った。

 

 

 ────────はずがないだろう。

 

 

「譲らない……!!」

 

 今、先頭を走るのが砂の隼スマートファルコンであるならば。

 

「絶対に、譲らない……!!」

 

 その後ろにいるのは、異次元の逃亡者サイレンススズカなのだ。

 

「先頭の景色は、譲らないッッ!!!」

 

 サイレンススズカが、先頭を譲ることなど在り得ない。

 

 

 ────────【大欅を超えてその先へ!】

 

 

 覚醒(めざ)める。

 

 彼女もまた、第二領域へ。

 

 その第二領域の発動条件は、レース中盤、先頭を走るウマ娘から2バ身の距離に位置した際に発動するというもの。

 これまでに、目覚める機会を得られなかったものだ。

 何故なら、彼女がスタート直後から先頭を走り、ゴールまで駆け抜けるのが当然なのだから。

 大逃げという彼女の必殺の走りに、ついてきて、さらに追い越すようなウマ娘はこれまでにいなかったのだから。

 

 しかし、このUGという夢の舞台において、同じように先頭を駆ける砂の隼と相対することになり。

 真剣勝負の中で初めてハナを譲るという苦い経験を経たサイレンススズカが、覚醒した。

 

「っ…!?スズカちゃん…!!」

 

「逃がさないっ……!!先頭は、私が走る!!!」

 

 追いつく。

 サイレンススズカが速度を上げて、前を行くスマートファルコンに再び肩を並べる。

 領域突入前に脚を使ったスマートファルコンの、領域の加速に追いつくほどの速度をサイレンススズカの第二領域は生み出していた。

 無論、そのままハナを譲るほど、スマートファルコンも耄碌していない。

 意地でも先頭をキープし、再びデッドヒートが繰り広げられる。

 

 先頭民族たちの、熱いバトルが展開されていた。

 

 

『向こう正面を走り抜けていくっ!!先頭はスマートファルコンに変わったと思えばサイレンススズカが猛追し再びのデッドヒートっ!!後続との差はしかし5バ身程度!!後ろもこの高速ペースについていくぞっ!!どこまで伸びる!?最終直線のスタミナは残っているのか!!もう間もなく大欅を超える所っ!!革命世代が、世界の優駿が煌き駆けるッッ!!!』

 

 

(……効果が薄まったか。やはり、私一人では中々上手くはいかんな)

 

 駆け抜ける先頭の二人に向けて、逃げ牽制の圧を飛ばし終えたフジマサマーチが一息ついた。

 先程から赤い翼が舞ったり、前方から逆風が襲ってきたり、後方からネイチャの圧がランダムに投げかけられたり、先頭二人がさらに加速したり……と目まぐるしく変化する戦場を俯瞰していたが、しかしここまでの走りは悪くない。

 ウララと共に積んだ中距離の練習のおかげで脚も溜められているし、位置取りも理想的な先行の位置。牽制へも抵抗が出来ている。

 そして今日相対するウマ娘達は全員がライバルにして、全員が最強。

 

 恐らくは己の領域の効果もかつてないほどに高まるであろうという目算も込みで、勝利への道筋も見えて来ていた。

 無論、一切油断はしない。欠片でも油断したら食い殺されることもわかっているからこそ、真剣を下ろさずに構え続ける。

 一振りで撫で切る様な強烈な一閃を、最終直線で放たなければならない。

 

(さて……コーナーが近い。位置は……ッ、っと!?)

 

 しかしここで、油断はしていなかったが、一つミスを犯した。

 コーナーに突入する位置取りを探して走り、前の二人、アイネスフウジンとサクラノササヤキが少し進路を外に向けたので、その内側を狙って入ろうとしたところで、そこにいた先行集団の一人であるマジェスティックプリンスを見逃し、進路がぶつかりそうになったのだ。

 しまった、という思考が一瞬。

 勿論、それでぶつかるほど走りが下手ではない。相手も一瞬驚いたようだが、ここは譲るか……と、そこまでフジマサマーチが考えたところで。

 

 

(────いや、待て!?()()()か!?このウマ娘を!?)

 

 

 その異常さに気が付いた。

 

 いや、それは相手も同様なのだろう。この二人の優駿が、同じ位置取りで走るウマ娘の走行ラインを見逃してしまうことなどありえない。

 ただ、急に─────そう、急に来た。

 意識の外側を、盲点を突くようにして、急に来たのだ。

 

 そうとしか説明が出来ない、異常事態。

 フジマサマーチは急に背中が冷える様な感覚を味わい、ロス覚悟で一度後方を確認するべく振り向いた。

 そこで見た光景は、信じられないものになっていた。

 

 

 走る全員が、動揺した表情を見せていた。

 

 

 恐らくは自分と同じ驚きを覚えたのだろう。

 走ろうと考えていた走行ラインに、他のウマ娘がいつの間にかいて……その驚きで一瞬脚が鈍り、その影響でズレた先で、また誰かの走行ラインを潰してしまうような。

 そんな連鎖が自分から始まって……いや、自分ももしや、アイネスフウジンとサクラノササヤキがそれになった影響で?その二人も、さらに前の二人の挙動を見た影響でそうなった?

 そんな在り得ない思考を零してしまうほどの異常事態。

 最後方からアガってきた二人……領域に入っているはずのヴィクトールピストと、1000m地点から加速し始めたゴールドシップまでもがその混乱に驚愕する表情を見せていた。

 

 そして、フジマサマーチは理解する。

 この一手。

 この盤面を整えるために全てを注いできたウマ娘が、にやり、と笑みを零したからだ。

 

 ───────マイルイルネル。

 

 静謐たる刺客は、刺したことさえ悟らせない。

 それはとても静かに、誰にも気づかれずに。

 全員の位置取り、それを一つのラインに乗せて、連鎖的に走りに躊躇いを、焦りを生ませていた。

 

 逃げ躊躇い、先行躊躇い、差し躊躇い、追込み躊躇い。

 逃げ焦り、先行焦り、差し焦り、追込み焦り。

 逃げ牽制、先行牽制、差し牽制、追込み牽制。

 その全てを盤面に乗せた、神の一手。

 

 僅かな、気付けないほどの無意識の牽制で、少しずつ、全員の走りをコントロール下において。

 そして、最高のタイミングで、導火線たる最前列の二人を動揺させ、躊躇わせ、焦らせて、レース全体の秩序を砕いた。

 

 そして、この一手が決定打となり。

 

 全ての楔は解き放たれた。

 

 

────────────────

────────────────

 

 

 

「よし……行っちゃえ☆!!」

 

「……最後のコーナー!!もう、行くしかないっ!!」

 

「前二人が止まらないの…!!ついていかなきゃ終わるっ!!」

 

「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……!!」

 

 

 レース全体の動揺から、まず先頭の二人が掛かり気味に、ここまで溜めた脚を用いてコーナーに飛び込んでいく。

 それに続くように逃げ二人も、備えていた脚を解放して飛び込む様に続いていく。

 

 このレースは、東京レース場の長い直線を持つ芝コースと違い、ゴールまでの最終直線が400mと設定されている。

 コーナー200m、直線400mの最終局面。

 

 ここに来て、ウマ娘達はその本能を抑えられなくなっていた。

 最強のライバルたちに囲まれて、スタミナと、脚を溜めるペースを考えるほかに、どうしても迸る思いが胸の内に燃えていた。

 誰もが抱えるその想い。

 

 

 勝ちたい。

 

 

 この素晴らしいメンバーが集う夢の舞台で、己が勝ちたい。

 本能から叫ばれるその想いが、これまでのレースの中で抑えきれぬほど高まり、そしてマイルイルネルの全体への動揺をきっかけに、とうとう堪忍袋の緒が切れた。

 

 魂が、ここで勝てと叫んでいた。

 

 

『さあ大欅を超えて最終コーナーッ!!飛び込んでいった先頭二人……いやっ!?!?後続が次々と加速していくぞっ!?止まらない!!まるでなだれ込むかのように最終コーナーに入って行ったァ!?一気にレースは沸点に至ったぞッ!?走る!!!走りますウマ娘っ!!我先にとコーナーを駆け抜けて先頭に躍り出んと!!後続が全員ラストスパートに入ったーーーーッッ!!!』

 

 

 全員が、全てを解き放つ。

 

 夢を魅せ続けてきたウマ娘達の、全力全開、全身全霊がコースの上で乱舞する。

 

 絢爛舞踏。

 

 まるでそれは踊るように、各々が己の領域に次々と突入し、星空のような煌きを生んでいた。

 

 

 

 

 【不沈艦、抜錨ォッ!】

           

  

     【Remember Big Red(赤き血の定め)

 

 

  【MONstre JEUne premier(頂に立つ若き獅子)

 

 

        【金剛大斧(ディアマンテ・アックス)

 

 

【Schwarze Schwert】×【Guten Appetit Mit Kirschblüten】

 

 

  【Go☆Go☆for it!】

 

 

     【113転び114起き】

 

 

            【天使祝詞(ヘイルメリー・ランナウェイ)

 

 

         【闘ヱ、将イ、行進ス】

 

 

  【汝、皇帝の神威を見よ】

 

 

【ゼロシフト=グラン・ドライヴ(大地疾走)

 

 

Zone of ZERO=A King's Resolution(王たるものの覚悟)

 

 

          【翳り退く、さざめきの矢】

 

 

   【Forever Winning Run(誰よりも勝ちを重ねて)

 

 

()()()祈り、()()()夢】

 

 

            【きっとその先へ…!】

 

 

 【僕の歩む道(マイネルドリーム)

 

 

       【先頭の景色は譲らない…!】

 

 

          【刻の実-証(Q/E/D)

 

 

【零式・風神乱気流(ゴッドブレス=タービュランス)

 

 

Zone of ZERO=Eternal Fairy tale(永久に紡ぐ夢物語)

 

 

 

 領域の流星群。

 それは数多の輝きを以て、コーナーを駆けるウマ娘達に虹色の光を生んで。

 

 

 しかし、その最終300m地点で、異変が起きた。

 

 

『一斉に上がってくるッ!!最終コーナーを抜けたッ!!分からないぞっ!!大きく外に広がるッ!!全員が己の進路を、栄光への道を確保するために広がって……っと、何とっ!?風か!?突風で土煙が上がってしまったか!?ウマ娘達の姿が見えませんッ────!!』

 

 

 ウマ娘達が加速して集結するその波に、アイネスフウジンの放った零式から繰り出される暴風に自然の風も重なり、UGのきめ細かい砂がまき散らされ、砂塵を生んだ。

 土煙がコーナー出口付近に生まれ、駆けるウマ娘達の姿を覆い隠してしまう。

 サクラノササヤキの領域効果によるスローモーションも相まって、時が止ったかのような瞬間が東京レース場に生まれた。

 

 

 

 

 そして、一瞬の静寂のあとに。

 

 

 土煙を引き裂いて、轟音と共に飛び出してきたウマ娘は───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────18人。

 

 

 

 

 

 

 

 

響けファンファーレ

 

 

 

『…っ!!来た!!全員が来たッ!!これは激戦ッ!!先頭はまだスマートファルコンとサイレンススズカだが後ろも凄まじい加速っ!!横一線だっ!!!先頭を捉えるのは誰だッ!?誰が抜け出すっ!!全く分かりませんッ!!』

 

 

 

届けゴールまで

 

 

 

 最終直線を、数多の夢が駆ける。

 誰もが夢を見て、憧れて、愛してやまなかった、18人のウマ娘。

 

 革命を築いた世代が。

 それを超えようと奮起したウマ娘が。

 国を超えてつながった戦友が。

 

 誰もが、己の勝利のために、全力でゴールを目指し駆け抜ける。

 

 

 

輝く未来を 君と見たいから

 

 

 

「スズカァーーー!!ゴルシィーーー!!ヴィイーーー!!!俺がついてるぞぉ!!いけェーーーーッッ!!!」

 

「ルドルフ!!行きなさいっ!!貴方の、私達の誇りのためにっ!!行けーーーッ!!!」

 

「ネイチャ!ササヤキさん!イルネルさんッ!!最後まで諦めないで!!走ってくださいッッ!!」

 

『GO!!ウィンキス、GOォォーーーーッ!!オーストラリアの最強を証明しなさいッッ!!』

 

「ライアンさんッ!!そのまま、行けます!!行ってくださいっ!!勝つためにッ!!」

 

『ゴアトレーナー!!プリンスッ!!アメリカ最強チームのプライドを、伝説を見せてーーーー!!!』

 

『ブロワイエーーーーー!!凱旋門ウマ娘が世界最強であると証明してくれーーーー!!!』

 

「マーチィィィーーーー!!!!地方の、カサマツのっ……いや!!お前の為に、走れェェーーー!!!」

 

「ウララァーーーーーーーー!!!!!お前が俺にとっての、最高のウマ娘だ!!頑張れ、走れッ!!ウララァーーー!!!」

 

「フラッシューー!!!ファルコンッ!!アイネスーー!!SSーーーー!!!頑張れェーーーーッ!!行けェーーーーッ!!!」

 

 

 

駆け抜けてゆこう

 

 

 

 そして、それを応援するトレーナー達の、チームメイトたちの、ファンたちの大歓声。

 人々は、ウマ娘の走りに夢を見る。

 その走りが尊いからこそ、心から全力で応援する。

 

 

 

君だけの道を

 

 

 

 エクストラドリームトロフィー。

 その決着を、世界が見届ける。

 奇跡を描く、夢の舞台が決着を迎えようとして。

 

 

 

もっと 速く

 

 

 

 それでも、きっと。

 

 

 

 I believe

 

 

 

 

 ────────永遠に、夢は終わらない。

 

 

 

 

夢の先まで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

────────────────

────────────────

────────────────

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────────────────

────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

──ここで今輝きたい──

 

 

──叶えたい未来へ走り出そう──

 

 

──夢は続いてく──

 

 

 

 

──ライバルがいるほど頑張れるよ──

 

 

──いつか手にしたい 真剣勝負の栄光──

 

 

──どんな時でも笑いあえるよ──

 

 

──君のココロにつながるシンパシー──

 

 

 

 

 

 

「………わぁっ……!!」

 

 エクストラドリームトロフィーのウイニングライブ会場。

 それを、観客席の最上段から眺める、幼さの残るウマ娘の姿があった。

 

 今日の昼に目の当たりにした、世界の頂点の走り。

 数多の夢を描く、憧れの存在たち。

 国もキャリアも関係ない。

 ウマ娘は、夢を紡いでいけるのだと。

 

 そんな確信すら覚えるほどのウマ娘達が描いた走りに、魅せられた。

 いつかは、私も──────と、そんな風に感じながらライブに見惚れていた、そんな時だ。

 

 

 ニャー!

 

「…へ?……きゃっ、猫…?……え、ええっ!?オニャンコポン!?」

 

 

 そのウマ娘の足元に、ライブ会場では見慣れない猫が一匹、歩み寄って身を摺り寄せていた。

 しかし、この猫は見覚えがある。レース場に来る猫など二匹しかおらず、そしてこの三毛猫はその内の一匹で間違いない。

 オニャンコポンだ。

 レジェンドトレーナーである立華勝人の、その肩に乗っているはずの猫が、なぜここに?

 

 

「ど、どうしたの……?オニャンコポンさん、だよね…?」

 

 ニャー!

 

 

 しゃがみ込み、その猫を抱えてみる。

 記事で見た通り、人懐っこい猫のようで、すぐにその胸にすり寄ってきた。

 可愛い、と微笑ましい気持ちを抱いていると、続いてその猫の飼い主がやってきて、そのウマ娘の感情はオーバーフローした。

 伝説の猫と、伝説のトレーナーが、自分の目の前にいるのだから。

 

 

「……っと、ようやく止まったか!!ごめんな、君!全力で愛バを応援してたら大声のせいか、オニャンコポンが逃げちまってさ……捕まえてくれてありがとう!」

 

「あっ、は、はいっ!!」

 

 

 立華が猫を抱えるウマ娘に手を伸ばして広げると、オニャンコポンはぐずる様にウマ娘の胸に頭を撫ですり寄っていたが、それも飽きたのかウマ娘の手からするりと抜けて、ぴょいー、と立華の手の内に戻る。

 もう離れるんじゃないぞ、と定位置である肩の上に戻して、改めて礼を述べて立華がその場を去ろうとして。

 

 

「……あっ、あの!!!立華トレーナー、ですよね!?」

 

「っと?ああ、そうだよ……そうだな、名乗るのも忘れてた。俺は立華勝人……トレセン学園でチームフェリスのトレーナーを務めてる。改めて、オニャンコポンの件は有難うな」

 

「知ってます!!そ、それで……そのっ!!強くなるには、どうしたらいいですか!?」

 

「……ん?」

 

 

 しかし、その脚をウマ娘が声をかけることで止めた。

 改めて振り返る立華が、どうやら急な出来事で随分と慌てている様子のウマ娘を見て、そして投げかけられた質問を受けて、それに真摯に答えるために、トレーナーとしての表情に切り替わる。

 ごくり、とウマ娘が息をのむ音が、ライブの音にかき消された。

 

 

「……君の夢は何だい?」

 

「……夢?」

 

「ああ。強くなるためには、夢が……君が、絶対に成したいって言う夢が必要だ。そして、その夢に向けた想いがあれば……その想いが強ければ強いほど、ウマ娘ってのは強くなる」

 

「……想い……」

 

「そうだ。想いを重ねることで、ウマ娘は強くなれる。俺はそう信じている。……君の脚はいい素質があるから、あとは磨くトレーナー次第、だな」

 

 

 立華勝人が述べるその答えは、正解ではないのかもしれない。

 ウマ娘達が競い合う中には、想いも努力もあるが、才能や運もあり、全員が全員、想いさえあれば強くなって勝てるというものではないことは、レースの結果が証明している。

 綺麗ごとと言えば、そうなのかもしれない。

 

 でも、それでも。

 そんな想いを紡ぎ続けてきたのが、この男なのだから。

 

 

「……わ、私!!トレセン学園に入学希望なんです!!もし入学出来たら、私の走りを見てもらえますかっ!?」

 

「お、そうなのか?そりゃいいな、楽しみが増える……ああ、勿論構わないよ。君と学園で出会えたら、真剣に走りを見ることを約束しよう。オニャンコポンも君が気に入ったみたいだしな」

 

 

 ニャー、と鳴くオニャンコポンの喉元を撫でて、立華勝人が微笑みを一つウマ娘に見せる。

 そのウマ娘は、とくんと心臓を鳴らして、その笑顔を心に刻んでしまった。

 

 

「……ああ、君の名前を聞いておきたいな。忘れないようにしないとね。君、名前は?」

 

 

「私の……私の、名前は────────ヴェラアズールですっ!!」

 

 

 

 

 

 

──遠く離れてしまう時でも──

 

 

──いつまでも変わらないトキメキがあるから──

 

 

──勝利を目指して──

 

 

 

 

──ここで今輝きたい──

 

 

──いつかは憧れも君も越えてゆくよ──

 

 

──step by step もう止められない──

 

 

──specialな勝負で駆け抜けよう──

 

 

──君と紡いでく──

 

 

 

 

──ここで今輝きたい──

 

 

──小さな憧れが君を導くから──

 

 

 

 

 

──ここで今輝きたい──

 

 

──いつでも頑張る君から変わってくよ──

 

 

──day by day さあ 進もう my way──

 

 

──specialな絆で繋がってゆく──

 

 

──specialな毎日へ走り出そう──

 

 

 

 

 

────夢は続いてく────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

F I N

 

 

 

 

 

 







これにて、筆者が描くウマ娘たちの物語は完結となります。

最初から最後まで、自分が書きたいものを書き続け、こうして無事に完結を迎えられたことが心から嬉しいです。

ここまで長らくお付き合いを頂きましてありがとうございました。


よろしければ、最後に評価、感想、読了ツイートなどいただけると嬉しいです。



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