TSシナリオ並のどうでもいい話ってことで一つ。
ある日、高等部の教室で数人のウマ娘達が仲良く噂話に興じていた。
ここはトレセン学園、ウマ娘達の集う女の園である。
彼女らは現役のアスリートでもある傍ら、当然JCJKでもあり、それはもちろんの如く、
「ねぇ聞いた?噂の猫トレ」
「聞いた聞いた!こないだの選抜レースで、3人の担当に着いたんだって!」
「フラッシュさんとファル子ちゃんとアイネスちゃんでしょ?すっごいよね、新人で3人って初めてじゃない?」
彼女らの噂話の内容は、先日行われた選抜レースで、とある新人トレーナーがいきなり3人もの担当になったという、その話題であった。
通常、新人のトレーナーと言えば一人を担当するのが慣習である。
そんな中で、しかしその猫を肩に乗せて顔立ちも整った、生徒の間では以前から噂になっていたその新人の男性トレーナーは、なんと一気に3人も担当することになったのだ。
「ねー、でも猫トレ、顔がいいからねぇ。こないだなんて中庭で猫ちゃん抱えて昼寝してたよ?」
「やだー!絶対目の保養じゃんそんなのー!」
「私も見たかったなー、どうせ写真撮ってんでしょー?見せてよー!」
きゃいきゃい、と教室内で騒ぐ3人。
ここは高等部の授業後の教室、生徒たちもまばらではあり、そして先ほど話題に上がった3人は既にチームの練習に行っているので、彼女らに聞かれる心配はない。
猫トレ…立華トレーナーの外見は、一般的な女子の感性から見れば十分に整った顔立ちと言えて、そんな若いイケメンの青年が可愛い猫を抱えて学内を歩いていれば、それはもはや目に毒であった。
「ふふ、見せてあげなーい!あー、でもいきなり3人も担当するのってどうなんだろうね?やっぱ大変なのかな?」
「そりゃ大変でしょうよ、単純に考えて3倍仕事するわけでしょー?それだけあの3人に惚れ込んだって話なのかなー」
「逆じゃない?噂で聞いたよ?なんか、フラッシュさんたち3人のほうがあのトレーナーを選んだんだって」
「えーほんとー!?やだ、面食いじゃん!あーあたしもデビューしてなければ猫トレさん選びたかったなー」
「ちょっ、それは今のトレーナーに失礼でしょー。チーム所属とはいえー」
「あはは、でも気持ちわかるー。ね、それでね、猫トレさん、やっぱり理事長さんに目をつけられて、こないだ呼び出し食らったんだって!」
話は二転三転し、次の話題は理事長に猫トレーナーが呼び出されたことにつながる。
どうにも目撃証言では、彼はチームを結成して数日後、理事長室に呼び出しを食らっていたとのこと。
しかしそこは噂話が大好きなウマ娘達である。収音性の良い耳も兼ね備えている彼女らの誰かが、扉の前で中の会話を僅かながら聞き取っており、それがまことしやかに噂として流れていた。
「えー、猫トレかわいそー。やっぱりお叱りの言葉とかあったのかな?」
「いきなり3人だもんねえ。もしかして実績あるトレーナーが3人を担当する形で、猫トレがサブになったり?」
「それが違うの!なんかね、噂だけど……猫トレさん、理事長さんとたづなさん相手に、『俺はあの3人を愛しています!』って言い切って、押し切ったんだって!!その剣幕にお二人もメロメロになっちゃって、そのまま許可が下りたって話!!」
「うっそー!!きゃー!!素敵ー!!」
「私も猫トレに愛してるって言われてみたーい!!」
尾ひれがこれでもかとつきまくったその内容に、しかしそんなシチュエーションはJKにはぶっささる。
彼女らウマ娘はトレーナー以外の男性と殆ど接する機会がなく、ほとんどのウマ娘は少女漫画とドラマでしか培われていない純粋培養の男性観を持ち合わせていた。
「情熱的だよねー!それで、3人もその前に生徒会に呼び出されて経過を聞かれてたらしくてね!そこでもなんと!3人とも『トレーナーのこと大好き』って言ったんだって!!」
「きゃーきゃー!!ヤバー!!もう両想いじゃん!!」
「運命的な出会いってやつ!?しかも3人も!?やだもー、風紀の乱れじゃん…!」
そして同時期、3人のウマ娘が生徒会室に呼ばれたことも彼女らのテンションの上昇に拍車をかける。
そちらはそれぞれがどんな話をされたのかは友人らにも話しており、それぞれ、
『選抜レース前に、とても真摯な練習スケジュールのアドバイスをいただきまして。それで信頼するきっかけになりました』
『あの猫ちゃんね、ファル子が見つけたんだ!でも、トレーナーさんはそれを拾って育てるって言ってくれて…ファル子が走ってる姿見たいって言ってくれて…』
『実はバイト先の雇用主って関係が最初なの。けど、選抜レースの最終レースで、あたしにしっかりしたアドバイスをくれて…それで勝てたの。恩もあるし、トレーナーとしての技量もすっごいの』
と、まぁそういう内容できちんと周囲には説明をしていたはずなのだが、ここは女の園である。
バイアスがかかった彼女らの恋愛脳の中では、どうやらすっかり一目惚れ×3なのだという認識に陥っていた。
とはいえ、これは猫トレーナーの様子を語る3人の表情が、なんとも味わい深い、強い信頼がわかる表情をしていたのも原因の一つであろう。
「そんなわけで、そのまま猫トレが3人の担当になって、チーム結成していくって話らしいよ?」
「うわー、なんか超ヤバー!3人とも周りがライバルじゃん!チームの雰囲気すごくは…あー…ならないかな?フラッシュさんまじめだもんね」
「ファル子ちゃんも恋愛クソザコ勢だし、アイネスちゃんが逃げ切りかも?猫トレ誰選ぶんだろ、君は誰とキスをする?って感じー?」
「3人一緒に、なんて言ったらヤバいよねぇ…甲斐性見せるかなぁ猫トレ?家に呼ぶときも3人だと寮は狭いよねー」
「あ、知らない?猫トレ、学園の近くで一人暮らししてるんだって。しかも結構いい一軒家!」
「嘘、お金もあるの!?スパダリじゃん!いいなー、私も猫トレに飼われてみたーい♪」
「ちょっと、その発言マジヤバー!ウケるんだけど!!」
「なんか女の子の扱い知ってそうだよねー猫トレ。新人トレーナー特有の女慣れしてない感じが一切ないもん」
「これまでにいっぱい女の人泣かせてるとか?やだー!あの顔でー!?」
「あの顔だからこそでしょー、あれに落とされた女の人は数知れず…!みたいなー!」
「超ウケるんだけどー!あ、そういえばさ、あの猫ちゃんの名前だけど────────」
きゃいきゃい、わいわい。
新人の、猫を連れておりさらに3人も担当することになった新人トレーナーの噂話は尽きることなく。
そんな、学園のどこにでもあるような、女子高の日常の風景がここトレセン学園ではよく見られるのだった。
ちょっと話の順番変えました。
19が本日更新分、本話20が思い付きで書いた閑話になります。