【完結】閃光と隼と風神の駆ける夢   作:そとみち

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オリウマ娘、オリトレが出てきます。ご注意を。
なお今後メインで出演するオリトレはこの人だけです。だいぶ先の話ですが。

(VM)アカイイト軸で行きます。


33 相対する者たち

『エイシンフラッシュ、脚色は衰えない!素晴らしい末脚っ!!後続を突き放して今、ゴォーーールッ!!これでデビューから数えて3連勝!見事!!京都ジュニアステークスを制しましたっっ!!』

 

「…よしっ!!」

 

 俺は、エイシンフラッシュが見事な末脚で初の重賞に勝利したのをゴール前で見届けた。

 これで彼女はデビュー戦、芙蓉ステークス、京都ジュニアステークスと3連勝を遂げたことになる。

 鍛えあがった体幹と、最近とくに力強くなってきた彼女の末脚は、GⅢ重賞でも危なげなく勝利することができた。

 

 ウイニングランを終えて、観客席から飛ぶ歓声に向けて、フラッシュは彼女らしく、きりっ、と後ろ腰に手をあて、気を付けをして応える。

 その姿に、また爆発的な歓声が彼女に贈られた。

 

「フラッシュ、おめでとう!!よくやったぞー!!」

 

 俺もその歓声に負けないように、俺の愛バに向かって大きな声を上げて彼女の勝利を祝福する。

 どうやらあちらも俺に気づいたようだ。

 気を付けの姿勢から、ふふっ、と笑顔を見せてくれて、どうでしたか?と前屈みになり挑発するようなポーズをとってきた。

 やだかわいい。

 俺は片手でOKサインを作り、彼女のその誇らしげな表情に応えた。

 

「…………さて。ウイニングライブまでは間があるな…」

 

 この後は勝利者インタビューがあり、エイシンフラッシュがウィナーズサークルのほうに向かっていくのが見えた。

 GⅠであればトレーナーもそこに加わって複数の記者からインタビューを受けることがあるのだが、今回はGⅢのため彼女のみでの受け答えだ。インタビュアーもURA傘下の公的な新聞記者しかいないので特に問題は起きないだろう。

 フラッシュはしっかりした子だしな。

 

 しかしそうなると、彼女を待つために若干の間が空く。

 控室に先に足を運んでおこうか、それとも次のレースまで見ていこうか…とオニャンコポンのお腹を撫でながら考えていたところ、後ろからふと声をかけられた。

 

「あ、あれもしかして猫トレじゃない!?ほら、猫ちゃん構ってるし…!」

「そうだね、今日はフラッシュ先輩が走っているから間違いない…顔も噂通りだ」

 

 俺は声をかけられたほうに首を向ける。

 そこには、見知った顔の二人がいた。

 

 かつてアイネスフウジンが選抜レースで相手した二人のウマ娘。

 中等部のサクラノササヤキとマイルイルネルだ。

 

「やぁこんにちは、サクラノササヤキ、マイルイルネル」

 

「あっ、こ、こんにちは!聞こえてました…?」

「ササちゃんは声が大きいよ。…こんにちは、トレーナーさん。僕たちの名前、知ってるんですね」

 

「当然だろう、二人ともうちの子のライバルだし。…ササヤキは先日のアイビーステークス1着おめでとう。強い走りだった。イルネルは先日のファンタジーステークスで1着だったね。重賞制覇、お見事」

 

 俺は二人に声をかけて、それぞれが先日勝利したレースの名前を挙げながら勝利を祝う。

 二人とも、ジュニア期では短距離~マイルで見事な活躍をみせている。

 伊達にアイネスが最初の壁として戦った相手ではない。トゥインクルシリーズが始まって、二人とも結構な数のレースに出走し、そしてそれぞれよい成績を残していた。

 

「わー…出走してるレースまで見られてる!?ねぇイルイル!これって私達猫トレに注目されてるってこと!?」

「バカ言うんじゃないよ。敵情視察が正しいだろうね…それに、トレーナーさん。勝ったレースの話なら、アイネス先輩はどうなんだって話じゃないですか」

 

「はは、まぁね」

 

 そう、二人と競い合ったうちのアイネスは既に9月までに3つの重賞に勝利している。

 11月には4つ目の重賞であるデイリー杯でも勝利して、これで重賞4勝目。

 12月の朝日杯に向けて意気揚々と言ったところだ。

 

「二人とも、朝日杯に出走するんだろう?今のアイネスはあの時とは違うからね。覚悟してかかってくるといい」

 

「むっ!もちろんそんなことはわかってます!けど私達だっていっぱい練習しましたから!」

「うん、あの時のようなミスはもうしない。悪いけど、僕が勝ちますよ」

「私が勝つの!」

「いや僕だ」

 

 二人に発破をかけるためにも朝日杯のことを口にしたつもりだったが、どうにも二人はそれぞれでもライバル心があるらしく、ずいぶんと騒がしくなってしまった。

 いや騒がしいのはササヤキだけか。君の名前が泣いてるよ?

 

 そんな姦しい二人にオニャンコポンが不機嫌そうに尻尾をゆらゆらさせていると、いつの間にそこにいたのか、二人の背後から彼女らのトレーナーが声をかけて窘めていた。

 

「─────観客席であまり騒いではだめですよ」

 

「…わ!?ちょ、急にびっくりさせないでくださいよトレーナー!?」

「うわ?!…急に出てこないでください……()()トレーナー」

 

 二人の所属するチーム『カノープス』のトレーナーである、南坂先輩だ。

 俺はオニャンコポンを肩に乗せて立ち上がり、先輩に一礼する。

 

「お疲れ様です、南坂先輩。今日は観戦ですか?」

 

「ええ、うちのチームから走る子がいたもので…ついでと言っては何ですが、この二人にもレースを見せようと思って連れてきたんです。騒がしくして申し訳ないですね、立華トレーナー」

 

「お気になさらないでください、こちらも彼女らを挑発するようなことを言って申し訳ない」

 

 南坂先輩は、その穏やかな笑顔を携えたままで俺と挨拶を交わす。

 この人もまた、大手チームを指揮する敏腕トレーナーだ。

 どの世界線でも、重賞ウマ娘を多数輩出している。GⅠではなかなか勝ち切れていないが、それにしたってポンポン上位に食い込むほどの仕上がりだ。

 レース出走もウマ娘の希望を最優先としており、最早チームメンバーを同じレースに出走させることに何のためらいもないと言った具合だ。

 結構な出走回数になるのだがその数に対してウマ娘の故障も少ない。適切な練習管理と脚、およびメンタルのケアが出来ていることがわかる。

 

 先日、東条先輩や沖野先輩に教えを受けたそれではあるが、この人から学ぶこともとても多い。

 できれば今後もよい関係を築いていきたいものだ。

 たとえうちのウマ娘と彼女たちがライバル関係にあるとしても。

 

「そちらのアイネスフウジンさんの成績も拝見させていただいています。立華トレーナー、当日はよろしくお願いいたします」

 

「恐縮です。こちらこそ、胸をお借りする気持ちです。ウマ娘達を万全の調子でレースに出せるようにお互い頑張りましょう」

 

 お互いにぺこり、と頭を下げて遠慮を込めた大人のあいさつを交わす。

 その横で彼の愛バである二人がなんだかそわそわしているのが横目に見えた。

 

「…イケメンとイケメンがお互いに遠慮しあって頭下げてる…ヒョエエエ…」

「解像度高いね…目の保養だよ…」

 

 なんかやる気が絶好調になってない?

 どうなんですか先輩、と目線だけで問いかけると、南坂先輩はさぁ?と困ったような顔で苦笑を零した。

 

「…さぁ、次のレースの観戦に向かいますよ。では立華トレーナー、私たちはこれで」

 

「あっ、はーい!それじゃ猫トレ…じゃなかった、トレーナーさん!失礼します!」

「失礼します。次は朝日杯で」

 

「ええ、お疲れ様です。ササヤキもイルネルも、またな」

 

 俺は3人に小さく手を振って別れる。

 そうして去っていく3人…いや、ウマ娘2人のトモを後ろから少しだけ観察する。

 …いい仕上がりだ。恐らくはアイネスでも楽勝とはいかないだろう。流石南坂先ぱ────

 

「────────」

 

 ───見られていた。

 南坂先輩がわずかに首だけ振り向いて、俺を見ていた。

 え。なんでバレたの。

 怖。

 

 俺は慌ててオニャンコポンで南坂先輩からの視線をガードする。

 その様子にくす、と苦笑を零して、南坂先輩らは改めて次のレースを観戦する場所に向かっていったのだった。

 怖い。

 あの人どの世界線でも思うんだけど、なんかこう…時々怖い。

 なんか特殊な訓練を受けてませんか?

 俺は冷や汗をぬぐいつつ、オニャンコポンを肩に戻したところで、インタビューを終えたフラッシュが近づいてきた。

 

「……トレーナーさん?そんな汗をかいて、どうしたのですか?」

 

「ん、フラッシュか…いや、特に何も。ちょっと先輩のトレーナーとお話ししてだけさ」

 

「そうでしたか。……それで?まず私に何か言うことはありませんか?」

 

 どうやらフラッシュは若干ご機嫌斜めのようだ。

 それはそうか。重賞に勝利したというのに他のウマ娘やトレーナーと話をしていたと聞けばそうもなるだろう。

 しかし俺の内心はフラッシュの勝利の喜びでいっぱいである。俺は素直に、その気持ちを形にして口にした。

 

「君への勝利の祝福の言葉なら、星の数ほど零れるけどね。でもここでそれを零したら勿体ないだろう?」

 

「ッ…そう、ですね。では、控室でいっぱい誉めてくださいね?」

 

「もちろんだ。行こうか」

 

 その言葉を受けて尻尾が嬉しそうに揺れるフラッシュに俺は微笑みかけてから、一緒に控室に戻っていった。

 控室では思いつく限りの祝福を彼女に送り、そしてその後のライブも全力で応援した。どんなに世界線を跨ごうとも、愛バの勝利は本当に嬉しいものなのだ。

 

 彼女の次のレースは、ホープフルステークス。

 ジュニアウマ娘の頂点を決める戦いに向けて、俺たちはまず今日の勝利を祝いあうのだった。

 

 

────────────────

────────────────

 

 

「よし、いい走りだ!そこから姿勢を上げるなよ!」

 

 トレセン学園のグラウンドで、沖野は自分のチーム『スピカ』に所属するウマ娘たちに併走練習をさせていた。

 走るウマ娘は3人。その中でも特に熱を入れて指導しているのは、今年チームに入部した新入りの生徒だ。

 長髪の黒鹿毛が風に流れて、そのしなやかな体躯を躍動させて疾風のように走る、中等部2年生のウマ娘。

 

「───ふぅ────────ッッ!!」

 

「くっ、いいノビしてるぜ!けど俺だって!」

「アタシだって、負けてらんないっ!」

 

 そのまま競いあってゴール板の前を走り抜ける3人。

 今回の併走は、1着ダイワスカーレット、2着ウオッカ、そして2バ身差で3着───────ヴィクトールピスト。

 

「……っだー!スカーレットに負けた!クッソー!」

「ふふん!!バカねウオッカ!アタシが一番なんだから!」

 

「はぁ、はぁ……二人とも、流石ね…」

 

「いや、お前もジュニア期の末脚にしちゃ十分なノビだ。この二人に張り合っていけるんだからな」

 

 沖野は併走を終えた3人にそれぞれ労りの言葉をかけつつ、改善点やよかった点などをアドバイスしていく。

 今、彼女たちは年末の大舞台に向けての最終調整を行っていた。

 

 ダイワスカーレットとウオッカは有マ記念へ。

 そして、ヴィクトールピストはホープフルステークスへ。

 年末のGⅠに挑む彼女たちは、今まさに仕上がりが絶好調を迎えようとしていた。

 

()()()。お前のどの位置からでも抜け出せる脚は強い武器だ。どこに位置取りして、どこで抜け出して、どこで全力を出すかは常に考えて走るようにしろよ」

 

「ええ、わかってます。…自分に一番有利になる位置取り、ですね」

 

「ああ。恐らく次のホープフルステークス、一番のライバルになるウマ娘は……」

 

「エイシンフラッシュ…先輩、ですね」

 

「……だな。……まだ引きずってるのか?選抜レースのタイム」

 

「いえ別に。自分が当時最高に走れたと思ったレースの記録を抜かれましたが。もう前のことです。別に気にしてないです」

 

 沖野は、言葉だけは強がりを言うこのヴィクトールピストの、しかしその負けん気の強さは知っていた。

 なにせ尻尾がぶんぶん揺れている。

 普段は冷静沈着に見えるこのウマ娘だが、かなりの負けず嫌いであり、そのあたりはウオッカやスカーレットにも似て、いい刺激をお互いに受けていた。

 

「はは、確かにあんときのお前の走りは見事だった。俺が思わずトモを触りに行っちまうくらいにな」

 

「……あの時のことはまだ根に持ってますからね?」

 

「いや、そういうなって。そんだけすげぇ走りを見せてくれたってことなんだよ。…だが、その走りを超える走りをエイシンフラッシュはやってのけた」

 

 沖野は、先日飲みに出かけて親交を深めた新人トレーナーのことを思い浮かべる。

 立華勝人。新人にして3人のウマ娘を担当する、若き天才トレーナー。

 そして今、その天才トレーナーという肩書を本物にしようとしている。

 何故なら、彼が担当しているウマ娘達は今年のレースにおいて、11月末の現在まで()()しているからだ。

 

「…沖野トレーナー。その、フラッシュ先輩のトレーナーというのはどのような方なのですか?仲良くされていると噂を耳にしましたが」

 

「ん、気になるか?そうだな……とにかくウマ娘を心の底から信じられるようなやつ、かな」

 

「……信じる…」

 

「ああ、そしてその「信じる」ってのが意外と莫迦にできない。多分あいつの担当ウマ娘達は、その想いを乗せて走っている。こういうウマ娘は強い」

 

「……沖野トレーナー。私は、勝ちたいです。フラッシュ先輩に…あの末脚を、私は()()()()()()

 

 ヴィクトールピストは己の脚に自信があった。

 自分が最強であるという自負を持って走っていた。

 だが、選抜レースのタイムでも……現状の成績でも、自分の上を行くウマ娘がいる。

 そんな相手に、だからこそ。

 

 勝ちたい。

 

「…ああ、勝つぞ。俺だってウマ娘を信じる気持ちは負けてないし、ヴィイ…お前の勝ちたいって気持ちも負けてない。勝ちに行こう!」

 

「はい!」

 

「よし!そんじゃ息も整ったところでもういっちょ併走だ!」

 

「お、再開か?よっしゃやるか!次は負けねーからなスカーレット!」

「ふん!次もアタシが一着に決まってるじゃない!」

 

「私も、二人には負けない!勝ちきるくらいの気持ちで……!」

 

「いい気合っすね!全力でかかってきてください!」

「絶対に負けませんから!」

 

 チーム『スピカ』の練習は、さらなる熱をもってその後も続けられていった。

 

 

 

────────────────

────────────────

 

 

「やったやったやった~!いっちゃ~~く!!」

 

 11月末。とあるレース場での、未勝利戦。

 ダート競走となるこのレースで、一人のウマ娘が3戦目にしてようやくの初勝利を挙げた。

 

「やった…やったな!!よくやったぞ、()()()!!」

 

「えへへ…トレーナー、みてた!?わたし、頑張ったよ~!!」

 

 彼女の専属である新人トレーナーが、喜びのあまり走り終えた彼女を抱え上げて、共に勝利の喜びを分かち合う。

 それは未勝利戦とは思えぬほど……いや、未勝利戦だからこそ見られる、ほほえましくも暖かい光景。

 

「ああ、ああ…!本当に、よくやった…!!俺は、俺は……!!」

 

「あ、トレーナー!泣いちゃだめだよー!ウララ、よろこんでほしいの!」

 

「これは喜んでるから出る涙なんだよ…ウララ、君が勝ってくれて、本当に…よかった」

 

 ぐす、と袖口で涙をぬぐうそのトレーナーに、ハルウララが困ったような怒ったような顔でとがめる。

 それに何度もうん、うんと頷いて、ぎゅ、と己の愛バを抱きしめる。

 

「もー、トレーナーったらあまえんぼさん!えへへ、今日のレースも楽しかったー!」

 

「そうか…?うん、ウララが楽しんで走れてよかった…これからも、頑張っていこうな」

 

「えへへ、それはもう、こちらこそだよ!これからもよろしくね、初咲(うさき)トレーナー!」

 

 

 彼らの物語のはじまりは、近い。

 

 

 

 

 

 




ウララのこと書こうとすると勝手に涙が溢れてくるのどうにかならない?
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