ソダシは文句なく強かったですね。かっこよ。
12月の初旬。
俺はチームハウスに集まる3人の愛バ達に、本日届いたそれぞれの分の段ボール箱を渡した。
中身はもちろん、これからGⅠに出走する彼女らが待ち望んだ物である。
「予定の通り、以前にデザインして発注してた勝負服が届きました。今日はこれ着て軽く走ってもらいます」
「勝負服…この時を待っていました!」
「えへへ、可愛くできてるかな?」
「今日届くって聞いてたからすごい楽しみにしてたの!トレーナー、開けてもいい?」
「もちろん。とりあえず着てみてくれ。俺は10分ほど時間潰してくるから」
それぞれが楽しそうに段ボールを開ける中で、俺はチームハウスから出るために足を出口に向けた。
チームハウスの中はだいぶ広いので衝立でも立てれば着替えを見えなくすることもできそうだが、流石に彼女たちが着替える時に男の俺が同室にいるわけにはいかない。
わいわいと盛り上がる3人を尻目に、俺はオニャンコポンと共にチームハウスから退席する。
…いやオニャンコポンは置いてきてもよかったか?メスだし。…まぁいいか。猫の毛が新品の服についてもな。
「さて。ぶらつくか」
俺はどこに行ったものかねと呟いて、当てもなくぶらつくことにした。
他のウマ娘の練習を遠目に見に行くか、それとも三女神の像の噴水でのんびりするか…まぁそんなに時間があるわけでもない。
いいや花壇の様子でも見に行こう、と思って足を向けたところで、正面からこちらに向かってくるウマ娘と目が合った。
知っている子だ。
…まぁ全生徒の名前と顔はこれまでのループのおかげで覚えているので知らないウマ娘はこの学園にはいないのだが。
そうではなく、今回の世界線でそこそこ話す仲、という意味での知っている子。
「立華トレーナー!こんにちは、今日はチームの練習日じゃなかったんですか?」
「やぁ、こんにちは。練習日で間違いないよ。ただ今日は勝負服が届いてね。みんな着替えているところだからちょっと時間をつぶしてる」
「ああ、なるほど。そういえばアイネスが楽しみにしてましたね」
「君も阪神ジュベナイルフィリーズに出走するんだ。もう勝負服の準備はできているんだろう?
彼女の名はメジロライアン。
アイネスフウジンと同室であり、彼女もまた今年からトゥインクルシリーズを駆けるウマ娘だ。
アイネスつながりで何度か話をしたことがあり、その度に効率のよい筋トレの仕方で話が盛り上がり、意気投合していた。
どうやらアイネスから俺の指導する体幹トレーニングの内容を聞いていたようで、そのあたりが彼女の興味を引いたのだろう。
「ええ、あたしの勝負服もつい先日届きました!動きやすくてお気に入りなんです!」
「それはよかった、レース場で見れるのを楽しみにしているよ。ただ……勝ち負けについては譲らないけどね」
「ふふ、こっちだって負けませんよ?ファル子ちゃんでしたよね、チーム『フェリス』から出走するのは」
俺は頷いて返す。
彼女、メジロライアンは今年開催される3つのジュニアGⅠのうち、阪神ジュベナイルフィリーズへの出走登録をしていた。
アイネスとぶつかるように朝日杯に出てくるかと思っていたが、そこは相部屋の中でもきちんとお互いに出走レースを洩らさなかったようで、後でお互いの出走レースを知ってがっかりしていたのだとか。
余談になるが、この話は最初は「レースに出るまでお互いに一言も喋らなければ緊張感が生まれるのでは?」という提案から始まったものだという。
しかし同室で年頃の仲の良い二人が喋らないというのは無理というもの。妥協案として、お互いの次走のレースを秘密にしようということになり、そうして見事にすれ違うという結果となった。
俺としては、記者に漏れなければ出走予定のレースを友人に話すかどうかは自由にしていいと言っているので、次以降は悲しいすれ違いが生まれないことを祈るのみだ。
さて、そうしてファルコンと戦うことになったメジロライアンだが、彼女の適正は本来はマイルよりは中距離、もっと言えば2200m前後が一番彼女の筋肉が輝く距離である。そのことを彼女自身、まだ自覚していないようだ。
彼女が己の距離適性を自覚すれば、クラシックでいずれアイネスやフラッシュと相まみえることもあるだろう。
「ファルコンは随分と仕上がってきてるからね。当日はよろしく頼むよ」
「はい!全力でお相手します!」
お互いに笑顔を交わしてから、それでは、と挨拶をしてライアンが去っていった。
彼女もこれからGⅠに向けて仕上げていくのだろう。
ちらりと立ち去るライアンの体を一瞥すれば、まだ未成熟とはいえど十分な
俺の指導論である体幹の発達が、どの世界線でも自然と成されるのが彼女の特徴だ。
彼女の知らない、彼女自身の距離適正というこちらに有利な面があるとしても、ファルコンが必ず勝てるとは言い切れない。
油断すればその筋肉で差し切られる。
「絶対はない、か…」
俺は、ループする世界線の中で時折出そうになる気の緩みを意識して排し、勝利に向けてより一層の心構えを、と改めて気を引き締めなおしたのだった。
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そうしてチームハウスに戻ってくれば、すっかり愛バ達は勝負服を身にまとい、俺を待っていてくれた。
マ子にも衣装という言葉があるが、やはりどの世界線でも、担当するウマ娘達が初めて勝負服を着た時には高揚感を覚えるものである。
たとえそれがかつての世界線で見覚えのある服であっても、愛バが着ているというだけで、感動はひとしおだ。
「トレーナーさん、いかがでしょうか。私の勝負服は」
エイシンフラッシュの、その勝負服を身にまとった姿を見る。
黒を基調とした、ドイツの伝統服であるディアンドルをモチーフとしたその勝負服は、まず一目見て美しい、という感想しか零れない。グッドルッキングウマ娘、その最たるものであろう。
胸元の露出に躊躇いのないそれは、多くの男性ファンを魅了する蠱惑的な雰囲気を作り、さらに肩も惜しみなく見せて彼女の美しい体、素材の味をさらに引き出している。
腰回りにはゴシック調を思わせるデザインのベルトが装着されており、腰をよりしなやかな物に見せ、そこから広がるエプロンとチェック柄の赤いスカートはフリルをまとって彼女の雰囲気をふんわりとしたものに醸成させる。
二の腕から手先まで覆う箇所は手に向かうにつれて広がりを見せ、これが走る時に大きく揺れて彼女の存在感をアピールするのだ。黒鹿毛の髪に白と黒で全体が整えられた彼女の勝負服は一層の輝きを見せつけるようである。
一言で表そう。
最高。
「これで2度目の一目惚れかな。君の名のように光り輝いて見える。よく似合っているよ、フラッシュ」
「ッ…!」
エイシンフラッシュは喜んでくれたようだ。
「トレーナーさん!ファル子の勝負服にもコメント欲しいな☆」
次はスマートファルコンの勝負服をじっくりと見せてもらう。
全体に桃色を基調とする、ウマドルらしい彼女の勝負服。
フラッシュの服と同じかそれ以上に、彼女もフリルを多用している勝負服だ。そのフリルにより彼女の愛らしさ、可愛さがより一層の強調を見せている。
スカートはかなり短めにあしらわれており、そこから見える彼女の健康的な生足、見るものを魅了する太ももがまぶしいくらいだ。その先の赤い靴下から、しかしダートを走りぬくために活動的なスニーカーを履いていることも走りに対しての真摯さが感じられてトレーナーとしての好ポイント。
個人的に好みなところが彼女が手首周りに巻いているシュシュのような赤いリボン。これがあることで彼女が走る時にその腕の振りに色を生み、目を引き付けるのと合わせて、彼女がよくするポーズである胸の前に手を持ってくる構えの時に、白の胸元と赤の手首と腰の桃色がいい具合にマッチしてカラフルな彩を見せてくれる。
一言で表そう。
最高。
「永遠にコールできるくらい素敵な勝負服だ。全世界、いや全宇宙のファンを魅了できるだろうね」
「…☆」
スマートファルコンは喜んでくれたようだ。
「トレーナー?あたしの勝負服はどうなの?」
最後にアイネスフウジンの勝負服を確認する。
最初にデザインをしたときには「動きやすいジャージとスパッツでいいの」と彼女らしい地味な遠慮を込めていたが、俺が「君は綺麗なんだからもっとかわいらしい服でもいいんじゃないか」とアドバイスしたところ、大きくそのデザインが変わることになった新しい勝負服。
彼女の象徴であるサンバイザーに引かれたラインに基調を合わせた桃色のベストの下に、薄緑のラインをクロスしたインナーがこれでもかと彼女の
インナーは腹部までは覆わず美肌とおへそを見せるようにして、その下のスカートは大きな星のモチーフなどの飾りつけで快活な彼女の様子が一目でわかるナイスデザイン。
スカートの下にスパッツも穿いており、動きやすさという点では最初の案から一切その機能を削がれることなく、フリルも少なめなつくりのそれは、しかし彼女の女性らしさ、可愛らしさを十分に引き出し、活動的な印象を与える逸品となっている。
一言で表そう。
最高。
「綺麗…いや、可愛いという表現が適切かな。君の可愛らしさがよく表れてる。レースで走る君から目を離せなくなりそうだ」
「…もう♪口が上手いんだから」
アイネスフウジンは喜んでくれたようだ。
三者三様に素敵な勝負服を見せつけてくるものだから脳内でだいぶ早口になってしまったが、一先ずは俺の感想にそれぞれ喜んでくれたようだったのでよかった。俺は口下手だからな。
そうしてお互いにも感想を言い終えたのち、今日はその勝負服で一度走り、動かしにくいところなどないか、走ったときの感触などを確かめる一日となった。
とはいえ、勝負服とは彼女たちの魂に響く衣装であり、文字通り勝負の為に特化したつくりになっている。
走らせた感じで特に問題が出ることはなく、GⅠに向けた勝負服の調整は万全に終えられたのだった。
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そうして一日の練習を終えた後のミーティングで、俺たちは改めて今月の予定について目線合わせをする。
「まず最初に開催されるのが、来週の阪神ジュベナイルフィリーズ…ファルコンが出るレースだな」
「うん!ファル子、頑張るからね!」
「その意気だ。随分芝でもタイムが出るようになったからな。自信をもっていこう」
ホワイトボードにレースの日程を記入しながら、俺はファルコンに改めての活を入れる。
ファルコンはこれまでに、なでしこ賞に出走して大差のレコード勝ちの一着を取り、しかしその後はレースに出走せずただひたすらに芝を走る練習を続けていた。
世間的にはダートウマ娘と思われているだろうその成績だが、俺は彼女が芝でも舞えることを知っている。
同じレースに出走するライアンが主なライバルとなるだろうが、油断がなければ勝てるだろう。
「で、次は朝日杯フューチュリティステークスが翌週にある。これはアイネスだな」
「はいなの!これまでの重賞でも勝ち切れてるし…かなり、自分でも仕上がってきてるって感じるの」
「いい感じだな。俺ももちろん、君が勝ち切れると信じている。油断だけはしないようにな」
次のレースはアイネスの朝日杯。ライバルになるウマ娘は、先日レース場で会ったサクラノササヤキとマイルイルネルになるだろう。
この二人の走り自体も油断できるものではないが、むしろその後ろ、南坂先輩がどのような策をもって来るかが俺の中では一番の懸念点になっていた。
俺と話したときに、あえて「アイネスフウジンのレースを見ている」ことを告げてきた先輩。
つまりは、こちらのことを分析し、対策を考えているということに他ならない。
それに負けるわけにはいかない。気を引き締めていこう。
「…そして、最後にはフラッシュのホープフルステークスが待っている」
「はい。私たちが出走する、今年最後のレースですね。必ず、誇りある勝利を」
「ああ。君が一番にゴールを駆け抜ける姿を見せてくれ」
最後のレースとなるのはフラッシュのホープフルステークス。
ライバルウマ娘は間違いなく、ヴィクトールピストだ。選抜レースの時点で彼女の脚は素晴らしいものがあった。
そしてそんなウマ娘を、尊敬する沖野先輩が磨き上げている。
もちろん、俺はフラッシュの勝利を信じており、数字から見える能力で比較すればこちらに分が上がるだろう。なにせ俺はループ系トレーナーだ。特にジュニア期の育成では周囲よりも大きなアドバンテージがある。
しかし、そんな油断は一ミリもできない。なにせ相手はあの沖野先輩だ。彼の育てるウマ娘が、これまでの世界線でも何度も奇跡を起こしているのを見てきた。
それが今回はないという保証はない。レースに絶対はないのだ。
だからこそ、俺はフラッシュに…いや、3人に対して、言葉をかける。
それは先日思いだした、俺のトレーナーとしての原風景の意志。
彼女たちと共に夢をかける俺の、想い。
「…ライバルは強力なウマ娘ばかりだ。でもな、俺は君達を信じてる…必ず勝てると、心から想っている。俺は、みんなが勝ち切って、輝いている姿を見たい」
担当するウマ娘を、心から信じること。
それが、何よりも大切なことだから。
「…だから、勝とう!俺が育てた君たちが、誰よりも強いことを俺に見せてくれ!」
「はい!」
「ファル子、がんばる!」
「絶対負けないの!」
これから始まる年末のGⅠ戦線に向けて、俺たちはさらに戦意を高めたのだった。
───────彼女たちの勝負が、始まる。