【完結】閃光と隼と風神の駆ける夢   作:そとみち

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43 隼の逡巡

 年明け3が日も終わり、普段通りの生活が戻ってきているトレセン学園内。

 スマートファルコンは、午前中の授業も終えて昼食もとり、この後のチーム練習までの空き時間を何をして過ごそうかと考えながら廊下を歩いていた。

 

(早めにチームハウスに行ってオニャンコポンと遊んでようかな?それともウマドルのダンスの練習でもする?)

 

 特に予定があるわけでもない、しかし1時間後にはチームで今年最初のミーティングが始まり、その後はガッツリ練習も入ることから、あまり体力を消耗するような時間の潰し方はできない。

 エイシンフラッシュは図書館で催眠についての本を読むとか言っていた。年末になにやら立華トレーナーにやられたらしく、それの仕返しの為に催眠術を覚えようとしているらしい。平和で何よりだと思う。

 

「うん、オニャンコポンと遊んでよっと。トレーナーさんの顔も早く見たいし…☆」

 

 ウマドルとしてのライブの練習よりかは、しっかりとこれからのレースに向けた練習に精を出したい、という結論を出して、早めにチームハウスに向かうことにして、そちらに足を向けた。

 その矢先である。

 

「お、見っけ。やっほーファルコンちゃん、あけおめ!今年もよろしくね」

「あけおめー。去年はチーム『フェリス』すごかったねー、お疲れさん」

「あけおめー。去年はGⅠ制覇もおめでとー。早速抜かされちったねウチらの戦績」

 

「あ、ノルン先輩、ルディ先輩、ミニー先輩!あけましておめでとうございます!」

 

 チーム『カサマツ』の三人組と廊下でばったりと出くわし、新年のあいさつを交わす。

 昨年は彼女らチームには大変にお世話になり、何度も併走を共にさせていただいて、先輩でもある事から、スマートファルコンも日常生活の中でもとても親しくさせてもらっていた。

 しかし気になることを最初にノルン先輩が言った気がする。「見っけ」と。

 

「えっと、ファル子に何か用でしたか?」

 

「あー、まぁそう。うん。大したことじゃないんだけどねー」

「まだそっちのチーム練習まで時間あるっしょ?ちょっと付き合ってくんね?」

「そんなに時間は取らないからさー、うちのチームハウスにちょっと寄ってくれるだけでいいんよ」

 

「ええ。…いえ、もちろん行きますけど…?」

 

 スマートファルコンは、これなんか漫画で見たシチュエーションだ、不良先輩たちにカツアゲされるやつだ…と若干の危機を感じて、しかし尊敬する先輩方である、NOとも言えず、そのまま3人についていく。

 まぁ、カサマツの先輩たちはみんな口調は荒いがその実とても優しく、そして根っこは真面目であることをスマートファルコンは知っているので、そのような失礼な想像は頭から振り払って、そうしてチーム『カサマツ』のチームハウスまでやってきた。

 

「おー、マーチ、ファルコンちゃん連れてきたぜー」

 

「ん、来たか…あけましておめでとう、ファルコン。今年もよろしくな」

 

「マーチ先輩?あ、はい、あけましておめでとうございます!こちらこそよろしくです!…ええっと、それでどんなご用件が…?」

 

「まーまーまー。とりあえず座りなよファルコンちゃん」

 

 中にいたのは、フジマサマーチ一人であった。

 北原トレーナーやオグリキャップ、ベルノライトの姿はなく…いわゆる、ダートウマ娘達のみがここには集まっていた。

 促されるままにパイプ椅子に座る。何だろう。何か聞かれるようなことあったっけ。

 対面に座るフジマサマーチ。その顔が、なんだろう、ちょっと怖い。

 

「さて…急に呼び出して悪かったな、ファルコン。今日はお前に聞きたいことがあってな」

 

「私に?ええっと…どんなことを?」

 

「……お前が昨年に走った、阪神ジュベナイルフィリーズの件だ」

 

 フジマサマーチが話し出すそれは、去年スマートファルコンが勝利したGⅠレース。

 ()のレースのことだ。

 

「まずは…勝利、おめでとう。……しかしだ、ファルコン。私はお前がダートしか走れないものだと思っていた。あれほどのダートの走りを見せながら、まさか芝まで走れるとはな」

 

「あ、ありがとうございます…?………あ、うん、それはそのー…トレーナーさんが良く教えてくれたから…」

 

「いや、フツーはトレーナーに教えてもらっても簡単に走れるもんじゃないよ芝は」

「アタシらてんでダメだったしね」

「猫トレやっぱ天才か…?」

 

「ふ、流石は立華トレーナーといったところか。…それで、聞きたかったのは()()だ、ファルコン。貴様……今後は芝のレースに鞍替えするのか?」

 

 フジマサマーチが今日の本題を問いかけてきて、スマートファルコンは呼び出された理由になるほどと合点がいった。

 彼女たちとダートを並走している中で、何度か交わした話。

 いつか、自分もフジマサマーチたちと同じように、ダートの重賞に出ていくと。

 そして、雌雄を決しましょう、と。

 将来のライバルともいえる自分が、しかしジュニア期で芝のGⅠレースに勝利した。

 であれば、彼女たちも自分が今後、どんなレースに出ていくのか心配しているのだろう。

 なるほど、と得心して……しかし、スマートファルコンは自分の本心を素直に吐露することとした。

 

「いえ、ダートのGⅠレースには必ず出ます!私もダート走りたいし、先輩たちとも走りたいし!そっちメイン…の予定、です!」

 

「…そうか、なら一先ずは安心だ。戦えないということがないならいい…私たちもまだまだ現役を続けるつもりだからな」

 

「あーしらみんな、オグリよりも長く走るのが目標だかんね」

「オグリはドリームリーグに逃げちまったしなー」

「ドリームに移籍する実績積み上げねーといけんしね」

 

 その言葉に、フジマサマーチ達はひとまずの安心で息をつく。

 今後、彼女が完全に芝に鞍替えして…戦えなくなる、ということはないとわかったからだ。

 可愛い後輩でもあり、そして怪物でもある彼女とは、どうしたって雌雄を決したくなる。

 それがウマ娘の本能というものであり、さらに言えばカサマツ出身の意地のようなものもあった。

 

 しかし、スマートファルコンから最後に漏れた一言のニュアンスが気にかかり、フジマサマーチがそれを拾う。

 

「……ファルコン。何か悩んでいるのか?先ほどの言葉の最後、わずかに逡巡があっただろう」

 

「………わかります?」

 

「わかるさ。何度一緒に走ったと思ってる。お前はもっと素直に猪突猛進するタイプだろうに」

 

「結構ファルコンちゃんわかりやすいよな」

「尻尾もよく揺れてるし」

「なんかあったら相談に乗るよ?こーして無理やり呼びつけちゃってんのもあるし。言ってみ?」

 

「ふふ、先輩たちにはかなわないなぁ!それじゃ…そのー、ものすごく傲慢な悩みだって自分でもわかってるけど、相談していいです?」

 

「構わん。言ってみろ」

 

 言葉の切れ端や尻尾などのしぐさで、自分の中にあるわだかまりを見抜かれ、素直に先輩たちのその優しさに感動し、そうしてスマートファルコンは今自分が感じている、一つの悩みを打ち明ける。

 

「……この間の阪神ジュベナイルフィリーズ。勝っても、あんまり嬉しくなかったんです」

 

「…ほう?」

 

「なんていうのかなぁ…ダートのレースを走り切って勝った時よりも、達成感って言うか…()が納得してないような、そんな違和感があって…」

 

 それは、先日のGⅠレースのこと。

 スマートファルコンがそのレースに出走したのは、チームの他二人が重賞やGⅠに出走するような中で、自分だけがOPしか走れないことへの抵抗、という意味が強かった。

 もちろん、大舞台に出てみたいという気持ちもあったし、芝のレースも走れるようになって、()()()()()()()輝ける舞台に立ちたい、という想いもあった。

 そうしてトレーナーと共に芝も走れるようになって、見事に一着を取り、輝かしい栄誉を勝ち取った……はず、だったのだが。

 その勝利に、謎の空虚感をスマートファルコンは感じてしまっていた。

 

「…面白い話をする。この学園の、芝を走るウマ娘には絶対に相談できん話題だな」

 

「フラッシュちゃんに言ったらキレそう」

「いやキレはしないっしょ優しいし。でも相談はできないよなー」

「フラッシュちゃんも惜しかったもんなーホープフル」

 

「そうなんですよね…なんで嬉しくなかったのか、自分でもわからなくて…でも、フラッシュさんやアイネスさんには相談できないし、トレーナーさんにも、ファル子の我儘で出走したレースで勝たせてくれたのに、そんなことを言えないし……」

 

 うーん、とスマートファルコンは首をかしげて悩む。

 他のカサマツの4名も、可愛い後輩の悩みに真剣に考える。

 だが、それに答えは出ない。

 出せない。

 何故なら、彼女ら4人は、芝のレースで勝ちきれたことがないのだから。

 

 だから、レースの経験ではなく、人生経験から…フジマサマーチは答えを少し考えて、紡いだ。

 

「…ファルコン。私たちは芝のレースで勝てたことがない。だから、芝のレースに勝っても喜べない、というお前の気持ちは正直に言えば、わからない」

 

「それな」

「実績積み上げてないアタシらが何言ってもな」

「ウチらだったら勝てたら普通に喜びそうだし」

 

「そっか……そうですよね」

 

「ああ。……だが、相談には乗ってやることができる。私たちも、内容は違うが…同じように思い悩み、くすぶっていた時期があったからな」

 

 そう、それはカサマツにいたころの彼女たちの想い出。

 オグリが中央へ行ってしまい、しかしノルンを筆頭として奮起した彼女らは、しかしその熱い想いをどこに、どうやってぶつければいいか悩んでいた。

 

 勝ちたい。

 けれど、どうすればいいかわからない。

 これまで以上にハードな練習をする、だけでは意味がない。

 気持ちはあるが、その気持ちを形にする方法が見つからない。

 そうして彼女たちは悩んで、悩んで、悩みぬいて。

 そして出した結論と行動を、スマートファルコンに伝える。

 

「いいか、ファルコン。お前のその悩みも、想いも……全部、()()()()()()()()()()()()。まずはそこからだ」

 

「…え?で、でも…」

 

「でも、じゃないんだなファルコンちゃん。マジでそっからなんよ、全部」

「そーそー。アタシらってさ、まぁこうしてレース走ったり、頑張って背伸びしよーとするけどさ。結局、ガキなんよ」

「ガキだから、気持ちは強いし想いもあるけど…結局やり方がわかんなくて、だから悩んでるんよ。ウチらもそーだったし」

 

「そう…どんなに思い悩んでも、まだ大人ではない自分だけでは答えが出ないことも多々ある。だから、まずお前の信じるトレーナーによく相談するんだ。…立華トレーナーのことは、心から信じているんだろう?」

 

「う、うん!それはもちろん、信じてます!」

 

「だろう?なら、相談しろ。私たちもそうした。…お前ほどトレーナーを信じていた時期ではなかったが、とにかく想いをぶつけてみた。そうしたら、奮起したヤツがいてな」

 

 カサマツにいた時代、彼女たちの指導において。

 彼女らが、オグリに勝ちたい、オグリに負けないくらい強くなりたい、そしてレースに勝ち、中央を目指したい…そんな想いを、それぞれのトレーナーに思い切りぶつけたことがある。

 もちろん、地方のトレーナーの全員がその想いを受け止めきれたわけではない。分不相応な望みだと言った人もいる。

 だが、ウマ娘達の強い想いを受け止めて……自らも変わり、導いてくれた、そんなトレーナー(北原)も、確かにいた。

 

「人に伝えることで、自分の中でもどれほどその想いが強いか…お前の場合は悩みが強いか、か。それもわかる。そして、気持ちの整理もつくし、目標がはっきりと出来ればそれに向けて努力ができる。トレーナーも、その想いを受けて改めて自分のことを考えてくれる…悪い事にはならん」

 

「………マーチ先輩…」

 

「お前の悩みは、きっとお前だけが持つ複雑なものだ。だからこそ、トレーナーと共有し、共にどうすればいいか考えろ」

 

「猫トレ、ファルコンちゃんのこと大切にしてくれてんじゃん?相談した方が猫トレも喜ぶと思うよ、あーしは」

「だねー、3人に首ったけって感じだもんな猫トレ。ホントいいトレーナー捕まえたよあんたら」

「カサマツ時代のキタハラもまー熱入ってたけど、あれはどちらかっつとオグリ相手への熱だわな。ま、アタシらも乗ったけどさ」

 

「みなさん……うん、わかった!私、トレーナーさんによく相談してみる!」

 

「それでいい。…ふっ、私たちに相談してみろとか言っておきながら、全部立華トレーナーに投げるようなことになってしまったな」

 

「いや全然いいっしょ。相談しないままで終わるよりは」

「むしろ猫トレにもっとどんどんウマ娘の世話焼かせるべきだって」

「猫トレは絶対ウマ娘の世話焼かないと生きていけないタイプだってあれ」

 

 スマートファルコンの悩みについて、解決とはいかなかったが解法を示せたことで、フジマサマーチらは全部彼女のトレーナーに丸投げした結果になったことに苦笑を零したものの、しかしスマートファルコンが一先ずは悩みを内に抱え込むようなことがなくなったため、安堵の表情となった。

 スマートファルコンもまた…自分が、かつて立華と出会った初めのころ、彼に直接、自分の生の感情をぶつけたことで…それに応えてくれた、そのころの想いを取り戻した。

 あの人は、思い悩んだときに助けてくれる人だ。

 

「うん、なんだかすっきりしました!先輩たちに相談できてよかったです!」

 

「そうか?そう言ってくれれば私たちも嬉しいな。……さて、時間もだいぶとってしまったな」

 

「お、そーいやもうすぐチーム『フェリス』の練習始まるんじゃね?」

「ウチらがファルコンちゃん捕まえてたってバレたら猫トレに怒られちゃうわ」

「早速相談してきなよファルコンちゃん。後で結果わかったら教えてねー」

 

「あれ、もうそんな時間!?急がなきゃ!それじゃあ先輩方、今日はありがとうございました!行ってきますっ!」

 

「ああ、また砂の上で会おう」

 

 チーム練習の時間が迫っていることに気づいたスマートファルコンが慌てて席を立つ。

 その様子を笑顔で見送り、彼女の悩みが上手く解決することを願うチーム『カサマツ』の4人。

 今後、彼女がクラシック戦線を潜り抜け…鍛え上げられたそれと、恐らく秋口から争うことになるはずだ。

 そんなライバルが、可愛い後輩が、燻ってしまっていては()()()()()()()

 最高の状態で、ダートのGⅠに臨んでほしい。

 私たちと戦ってほしい。

 

 チーム『カサマツ』の彼女らは、常に、いつでも、どこまでも。

 『挑戦者』なのだから。

 

 

 




スマートファルコンのヒミツ②
実は、併走でノルンエースに並びかけられると目線がどうしても胸元に行く。
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