【完結】閃光と隼と風神の駆ける夢   作:そとみち

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()!!(ウララサポカSSR完凸しました)


49 猫好きの曲者達

 

 

 

 

『さあ桜花賞も残り400m!!直線コースの攻防!!現在先頭はアイネスフウジン!!じわりじわりと差を詰めていくサクラノササヤキだがこれは届くか!?ここで大外からマイルイルネル!!素晴らしい末脚!!だがここからアイネスフウジンは二の足があるぞ!!さらに加速!!マイルイルネルいい脚を見せるがアイネスが止まらない!!サクラノササヤキも届かないっ!!アイネスが速いッ!!まさに風神ッッ!!リードを守り切ってそのまま一着でゴーーーールッ!!強いっ!!無敗の8連勝!!この疾風は速すぎるッ!!!まずは1つ目の冠を被ったーーーーっ!!』

 

 

 アイネスフウジンは、これまでのレース通り…その磨き上げられた豪脚を思う存分にぶん回して、桜花賞を一番に駆け抜けた。

 以前朝日杯を駆け抜けた時よりもタイムは抑えられているが、それでもハイペースを作り出すその脚は同じレースを走るウマ娘にとってあまりに脅威。

 さらに、今回はレース後にも朝日杯ほどの疲労を見せていない。今後のトリプルティアラ…オークスに出走しても勝ちきれるよう、スタミナも増しているのがわかる。

 ただ速い。レースが始まった瞬間から優れたスタートでハナを取るか、取れなくても徐々に加速を始めて無理やりにハナを取りに行く。

 そうしてそのまま速度を落とさずに駆け抜けて、しかも最終直線では二の足をぶっ放す。

 これに近い走りはダートを走るスマートファルコンも見せることがあり、そしてその二人の走りは、実力差を埋めさせない最も有効な走りであった。

 最後まで速度を落とさずに逃げ切れる彼女ら逃げウマ娘には、先行も差しも出来ることは少ない。ただ純粋に彼女らのタイムを超えていかなければならない。

 そしてそのタイムは、レコードに近い超高速のタイムなのだ。

 かつてサイレンススズカが、マルゼンスキーがそのレースを恐れられたように、チームフェリスの逃げウマ娘2人もまた、驚異の対象として恐れられていた。

 

「……っふー!!まず1つ、なの!!へへ、まだまだ後輩に先頭は譲ってやらないっ!」

 

「んにゃああああああ!!!先輩に勝ちたあああああいっっ!!!ぐやぢいっ!!!」

 

「ぜーっ、ぜーっ……くそ……次は、オークスでリベンジですよ、先輩……!!スタミナ勝負です…!」

 

 レースが終わればノーサイド、走り終えた彼女らがお互いの健闘を称えながら、そうして次のレースの話を進める。

 アイネスフウジンの次の出走レースについて、まだ正式に発表があったわけではないが、こうしてトリプルティアラの一冠目を取っているのだから、次走はオークスであろう。

 NHKマイルに出走するという話もあるが、流石にあの立華トレーナーがこの短期間にGⅠ3つを走らせるとは思えない。恐らくはどちらか、可能性が高いのはオークス。

 そこであれば、彼女がまだ公式レースでは走ったことのない中距離となる。マイルを走る以上にスタミナが要求される距離だ。

 その条件であれば、これまでのハイペースな展開にさせられたマイルよりも勝率は高くなると踏み、マイルイルネルもまた次走での勝利に向けて鍛えなおしていこう、と意識を新たにした。

 

 

『アイネスフウジンまず1冠!!止まらないフェリス旋風!!!』

 

 

 翌日のレース新聞の一面に、そんな見出しと共に満面の笑みでオニャンコポンに頬ずりするアイネスフウジンの写真が張り出され、彼女の家族が10部ほどそれを買ってみんなで大喜びをするというほほえましい光景が見られたのだが、それはまた別の話。

 

 

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 アイネスフウジンが桜花賞を勝利し、そうして今週末に皐月賞を控える現在。

 チーム『フェリス』のウマ娘であるエイシンフラッシュは、最終調整のため、更なる熱を入れて練習に臨んでいた。

 

「……ふぅーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 

「……いい加速っ!!でもまだまだぁ!!」

 

 チーム『フェリス』からは、皐月賞に2名のウマ娘が出走する。エイシンフラッシュとスマートファルコンだ。

 ただし、彼女たちは一緒に併走していない。二人が皐月賞の条件で併走をすることは、2週間前から立華トレーナーの方針で中止させていた。

 二人が併走を繰り返してしまえば、お互いにお互いの攻めるタイミング、出せるであろうスピードがわかってしまい、対策や心構えが容易にできてしまう。

 また、お互いの実力を理解することで、そこに甘えが出る懸念もある。

 大舞台の勝負に適切な緊張感をもって挑ませるためにも、彼女らの併走では、それぞれ立華のほうで併走を依頼した別チームのウマ娘が一緒に走っていた。

 

「……っはぁ、はぁ…!……仕掛けるタイミングが、まだ、早かったですね…!」

 

「…っふー。や、どーでしょね?アタシが見るに、十分いい感じには見えますけどね?その辺はクセというか、フラッシュさんが納得できるところからの加速でいいと思いますが」

 

 今、エイシンフラッシュと2000mを走り終えて、しかしフラッシュよりも先に呼吸を整え終えて、仕掛けのタイミングについて相談しているのは、チーム『カノープス』所属、シニア級を走るウマ娘、ナイスネイチャだ。

 彼女もまた、この世界線で立華トレーナー…の、肩に乗っているオニャンコポンに特にお世話になっており、その縁でチーム同士で、また個人的に声をかけられたりしてチーム『フェリス』の練習に参加することが多かった。

 シニア級の重賞で常に上位入賞という素晴らしい成績を残す彼女は、もちろん走力の面でもエイシンフラッシュたちをまだ上回る他、何よりもレース中の頭の回転が他のウマ娘と比べて群を抜いている。

 特に、同じ差しを主体として走るエイシンフラッシュにとっては、レース中の考え方、走り方などで大変に参考になるところが多く、よき併走相手として仲を深めていた。

 

「…いえ、これでは駄目なのです。ファルコンさんを差し切るには……()()()()()、必要がある。そんな確信があります」

 

「あー…そっすねー、芝のファルコンさんはダートに比べると道中で大きく差を開かないし、一定のペースで加速したまま駆け抜けますから、最終直線で一気にブチ抜くくらいのほうが他のウマ娘の動揺を誘いつつファルコンさん自身の再加速が重ねられる前に抜き切れるかも?となると加速し始める位置が重要かな…」

 

「そうですね…間違いなく、最終直線で先頭を走っているのは彼女です。そう信じられます。それを差し切るための、ここ一番の加速力と、位置取りを。……ネイチャさん、もう一周いいですか?」

 

「アイアイー、お任せくださいよ。ネイチャさんはスタミナが自慢ですから。じゃ、()りましょっか!」

 

 ナイスネイチャの冷静な分析眼の講釈を受けて、改めてエイシンフラッシュは今回走る皐月賞の、その戦法について練り直し、再度の併走を乞う。

 エイシンフラッシュは、今回の皐月賞での相手…親友であり、本来はダートを得意とするウマ娘であるスマートファルコンを相手するにあたり、奇妙な確信があった。

 

 彼女は必ず最終直線で先頭を走っている。

 走り切れると信じている。

 何故なら、私は彼女がそこまでやれることを知っているから。

 

 

 

 最終直線で、先頭を走っているのは彼女だと、そう信じられた。

 

 

 

「…ッ…」

 

 ここ最近、とみに起きる既視感。

 それを瞬き2つして振り払い、改めてナイスネイチャとの併走を再開するのだった。

 

 

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「…はぁぁぁぁ……!!」

 

「…む、いい感じ!そのタイミングぅ!」

 

 別のコースで、エイシンフラッシュと同じように、芝の2000mを走るスマートファルコンの姿があった。

 その併走相手もまた、チーム外から立華が呼んだウマ娘。現在シニア級で中~長距離の芝のレースを走るそのウマ娘は、かつて芝3000mで世界レコードを達成したこともあるほどの猛者。

 皐月賞での勝利も経験している彼女…セイウンスカイは、ナイスネイチャと同じく、立華トレーナーの愛猫であるオニャンコポンとよく昼寝をさせてもらった結果、立華とも縁が出来て、オニャンコポン吸いを条件に時々併走をお願いされる仲になっていた。

 

「……ふぅー!セイちゃん、やっぱりすごいね、その脚…☆!最終直線で自由にさせたら、敵わないなぁ…!」

 

「いやいや~、ファル子先輩も中盤の伸びは本気でビビりましたよ初見の時は。あれは私にもできないなぁ~…もっとも、その分私は最終コーナーで全力ですけど」

 

「そうそれ☆それのタイミングをモノにしたいんだよね。2000mの距離、きっと必要なのは中盤での加速だけじゃなくて、終盤での再加速…だって、トレーナーさんも言ってた」

 

 セイウンスカイと並走する中で、立華トレーナーから言われたことは、「彼女の加速の技術を盗め」というもの。

 本来、セイウンスカイは先のナイスネイチャと同じく、レース中に頭を回し、後方へのけん制や駆け引きを駆使して走るのがスタイルだ。学ぼうと思えばそう言った技術の点も望める部分はある。

 だが、立華の考えとしては、スマートファルコン自身がそういった駆け引きなどで頭を回すよりは豪脚で捻じ伏せるのを得意とするウマ娘であることもあり、実際のレースでは自分が作戦を伝えることで駆け引きはできるため、彼女から学ぶべきはその最終コーナーからの見事な加速、その一点に絞った方がスマートファルコンにはいいだろうというものだった。

 そうして今、砂の隼はトリックスターの真の武器である突き放すような終盤の加速を、その脚に覚えこませていた。

 

「ん~…自分ではあんまり明確に認識してるわけでもないんですよねぇ、この加速。領域(ゾーン)って、明確に入るぞ!ってなって入るもんでもないじゃないですかぁ」

 

「あー、それはファル子もわかるかも…☆必死に走ってるといつの間にか、って感じだよねぇ」

 

「ですよね~。でも、そーだな…私の場合は、後ろのウマ娘達が掛かったり策に堕ちたりして、してやったり!って瞬間にざっぱーん!ってなるようなイメージ…ですかね?」

 

「う、うーん?その感覚はちょっとファル子よくわからないかもかなぁ!?あまり後ろのこと考えて走らないし…☆」

 

「ですよねぇ。ま、何度も走る中で、私が加速するタイミングでも掴んでもらえればですかね~。流石にファル子先輩と私は今後、同じレースでは走らないでしょうし。いっくらでもセイちゃんの技術盗んでってくださいよ」

 

 セイウンスカイのその加速、領域(ゾーン)に至る感覚の説明を受けて、しかしファルコンもまた領域(ゾーン)を知るウマ娘だからこそ理解する、その感覚の難しさについてお互いに語り合い、苦笑を零す。

 あんなのは、言葉で説明できるものではないのだ。

 勝ちたいと思い、極限の集中を伴って、そうして走っているときに自然と出てくるものであり、意識してそれに入ることは難しい。

 意識して入れるのはまた特殊な才能がある一部のウマ娘のみであり、基本的にはスイッチの切り替えのように入れるものではない。ましてや、他のウマ娘が他人の領域(ゾーン)を使えるような話など聞いたことがない。

 だが、それでも加速のタイミングや、その時の力の入れ方、姿勢の変化などは学べる。疑似的に加速を継承することはできる。

 スマートファルコンはそれを求めて、今彼女と併走をしているのだ。

 

「うんっ、しっかり学ばせてもらうから!それじゃ、今度はセイちゃんが前になって走ってくれる?1600mまではギリギリついていけると思うから…」

 

「は~い、そんじゃお言葉に甘えて全力でぶっちぎらせてもらいますかねぇ」

 

 先ほど自分で試した加速のタイミングを、今度はセイウンスカイの実演を見ることでさらに理解を深めるために、改めての併走をスマートファルコンが持ちかける。

 長距離も走れる…いや、むしろ長距離でこそ輝くセイウンスカイのスタミナの回復は抜群に早く、整った息でうーん、と背伸びをして、改めて二人が併走に戻った。

 

 

 皐月賞まで、あと数日。

 親友同士の決戦は、目前に迫っていた。

 

 

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 皐月賞前日。

 俺は、自宅のPCで今日までのフラッシュ、ファルコンの練習結果をまとめたデータを見比べて、明日の展開を予想する。

 

「…二人に、俺のできる最高の指導をできた…とは思うが…」

 

 タブレットのアプリはPCでも動かすことができる。

 より大きな画面で見るそのデータは、彼女たちの成長曲線と、叩き出せるであろう最高速、タイム、上り3ハロンの数字の見込みなどが見えるようになっていた。

 ここまでの練習内容や併走のタイムなどを入力して導き出された皐月賞のタイムは、ほぼ同値。フラッシュがコンマ2秒ほど速いが、これは当日のテンション、バ場、レース展開で容易に変わるレベルのわずかな差。

 二人の走りに、ほぼ差はないと言っていい。

 スマートファルコンは阪神ジュベナイルを走った時よりも、さらに芝への適性を上げ、かつ2000mという距離にも適応できるスタミナをつけ、最終コーナーからの加速も新しい武器として覚えた。

 エイシンフラッシュはこれまでも見せていた閃光の末脚の切れ味がさらに増して、上り3ハロンはなんならシニア級のウマ娘と比較しても頭一つ抜け出るほど。適切なタイミングで加速した彼女はすべてのウマ娘を撫で切るだろう。

 

 勝敗についての結論は出ない。

 二人は、それぞれが十分に勝ちきれる能力を持っている。

 後は、それが当日どうなるか。

 

「……ここまでやって、あとは当日見守るのみ、か」

 

 俺はPCをシャットダウンさせ、椅子に深く座りなおして頭の後ろで手を組み、天井を見上げる。

 明日には彼女たちのレースが始まる。

 そして、どちらかが勝ち、どちらかが負ける。

 この、これまでの世界線でもなかった初めての経験。

 覚悟が試されている。そう思った。

 

「……沖野先輩や南坂先輩は、どんな気持ちで送り出してんだか。判ったようなわからんような…」

 

 この内心を人に説明しろ、と言われても難しい。

 勝ってほしい。当然、二人には勝ってほしい。負けてほしくない。

 だが、どちらかは必ず負ける。どっちも負ける場合だって、当然ある。

 その時、俺はどんな顔をして、どんな声をかけてやればいいのか。

 

 今日に至るまで、悩みに悩み、考え抜いていたが、やはり()()()()()

 

 そして、だからこそ。

 

「…愛バ達を、信じる、か」

 

 そう、明日は俺の愛バたちを信じようと。

 信じて、俺の本心から彼女たちと接して…勝った方を褒めて、負けた方を慰めてやろうと。

 そんないつもの行き当たりばったり作戦から一歩進んで、信念の籠った行き当たりばったりで二人に接してやるしかないな、と結論付けた。

 

 今日は早めに寝よう。

 きっと、明日の緊張もあって、目が冴えて眠りに入れるまでに時間がかかるだろうから。

 そうして、明日の準備を終えて、俺はオニャンコポンと共に布団に潜り込んだ。

 

 明日は皐月賞。

 クラシック一冠目を誰が取るのか。

 彼女たちが紡ぐ、彼女たちだけの物語が始まる。

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