【完結】閃光と隼と風神の駆ける夢   作:そとみち

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6 魂の鼓動

 スマートファルコンを寮まで送り届けて家に帰る。

 スマホを取り出すと、エイシンフラッシュからLANEが届いていることに気づいた。

 

『私もレース観戦に同席していいですか?』

 

 ふむ。なるほど。確かに同室の子がGⅠのレース観戦に行くとなれば自分も見に行きたくなるだろう。

 息抜きをしてメンタルを整えるように、と助言をした手前、断る理由は一つもない。

 

『かまわないよ。お昼のケーキバイキングの予約、追加で1席取っておくよ』

 

『ありがとうございます。楽しみにしていますね』

 

 LANEに返事をして、ゆっくりと体を伸ばす。今日はちょっと走りすぎた。

 筋肉痛になるほどではないが、ストレッチはしてから寝ることにしよう。

 …ああそうだ、寝る前に猫の飼い方について調べないとな。明日は猫を飼うための道具とかも買ってくるか。

 

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 そうして2日後、朝11時に寮に二人を迎えに行くと、二人とも私服で寮の前で待っていてくれた。

 その服はこれまでの周回でもよく見たことのあるものだ。

 エイシンフラッシュは大人びた、シックな雰囲気がよく彼女に似合う服。

 スマートファルコンはピンク色を基調とした、ウマドルとしての可愛さにあふれた服だ。

 

「やぁ、おはよう。待たせたかな?時間通りだと思うけど」

 

「おはようございます。まだ待ち合わせ時間の2分15秒前です。私たちもつい先ほど寮を出たところですよ」

 

「トレーナーさんおっはよー!今日はよろしくね☆」

 

 挨拶を交わして、二人を連れて東京レース場へ向かう。

 車を出してもよかったが…トレセンから東京レース場まではそこまで遠いというほどでもない。電車を使えば1時間もかからないで到着する。

 せっかくの休みをのんびり散策するという意味も込めて、歩いてレース場まで向かうことにした。

 

「…今日はいい天気ですね。レース日和です」

 

「そうだね、晴れてよかった」

 

「……トレーナーさん、まっすぐレース場に行くの?」

 

「いや、まず食事にする。途中でいい店知ってるから、そこでな」

 

 …若干空気が固い。

 いや、それも当然か。担当になったわけでもない男性トレーナーの引率なのだから。ここ数日で距離が詰まったとはいえ、まだ肩肘張らずに喋れるほど関係性を構築できているわけでもない。

 ただ、空気の固さがフラッシュとファルコンの間にも若干あるように感じる。…いや、気のせいだろう。二人とも、どの世界線でも大変仲が良かった記憶がある。

 はてな、と内心で首をかしげながら、俺たちは店に向かって歩いた。

 

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「さて、ついたぞ。ここだ」

 

「わ、すごくいい雰囲気のお店!ウマスタにあげちゃおー!」

 

 レース場に向かう途中途中にある、都心に近いところのカフェショップにやってきた。

 ここはウマ娘向けのメニューもあり、かつ休日には予約制だがケーキ類食べ放題の催しもある。もちろん3名分の予約を取ったうえで来店した。

 これまでに何度も世界をループした結果、全国各地のウマ娘向けの穴場の店は把握している。

 

「ケーキも…かなり品質のいいものを作られているようですね」

 

「連れ出したのは俺だからな、お代は全部持つから。気にせず食べてってくれよな」

 

「はい、ありがとうございます。…私は後からついてきた身なのに、恐縮です」

 

「気にしない気にしない。先行投資ってやつ。ファルコンも食べ過ぎない程度にな」

 

「…あ…うん!えへへー、何から頼もうかなー☆」

 

 先ほどまでの若干堅かった雰囲気が、ケーキバイキングの魔力でやんわりと溶かされていく。

 やはりウマ娘には甘味は特効だ。困ったときは甘いものを食べさせてあげるのがいい。

 ウマ娘はケーキを食べるとやる気が上がる。古事記にもそう書かれている。

 

「フラッシュさん、このいちごムースが期間限定なんだって!もってっちゃう?」

 

「そうですね…そちらもかなり興味を惹かれますが、ドイツ菓子のシュトーレンがあるようです。こちらもいただきましょう」

 

「俺の一押しはガレット・デ・ロワだな。ここのはアーモンドの風味が素晴らしい。最高だよ」

 

「…!それも選びましょう。ファルコンさんもほかに何か持っていきますか?」

 

「うーん、一応主食も入れたいからサンドイッチかな?第一陣はこんなもんで行ってみよー☆」

 

 俺は自分用にイカ墨パスタを注文しつつ、二人が楽しんでケーキを選ぶ姿を満足して眺めた。

 ああ、やはりウマ娘には笑顔が一番似合う。

 願わくば、これよりも素晴らしい、満面の笑みを…レースの結果で、と。そう心から思った。

 

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 さて、そうして昼食を楽しんだのち、電車を乗り継いで東京レース場にやってきた。

 時間はちょうど3時を回ったところ。

 今日はこれから、ここでフェブラリーステークスが開かれる。

 GⅠのレースが近づいてきたことで、観客席のボルテージも徐々に熱を帯びたものになっている。

 その雰囲気に、二人はウマ耳をそわそわとさせながら、砂のターフを眺めていた。

 

「…冬だというのにすごい熱気です。これがGⅠへの観客の皆様の期待なんですね…」

 

「そうだね…ダートのレースでも、こんなに…」

 

 この雰囲気を感じさせたかった。

 これから身を投じていくことになるトゥインクルシリーズ、その中でもGⅠという最高峰のレースがどれだけ注目を浴びて、どれだけ重圧があるか。

 

「君たちも、いずれこの歓声の中に立つことになる。ラチの内側、ターフの上でね。君たちにはそれだけの力がある」

 

「……………私たちが…」

 

「……………いつか、この歓声の中で…走る……」

 

 そうしているうちに、パドックにフェブラリーステークスを走るウマ娘たちが現れた。

 一人一人が、仕上がり切った肉体を観客の前でさらし、アピールを行う。

 俺の目から見て、素晴らしい仕上がりのウマ娘たち。この日のために、今日の勝利のために磨き上げられた宝石たち。

 しかしその宝石たちの中で、勝者の権利を得るものは一人だけ。

 

(……セイコーフランケンの仕上がりがダントツだな。他にはギャンブルビートとフジマサマーチもよく仕上がっている。この3人か…ほかのウマ娘も十分以上の仕上がりだが…)

 

 パドックで見える足と雰囲気から、俺はフェブラリーステークスの勝者を予測する。

 レースに絶対はない。

 だが、長年…と表現するにはいささか永すぎるほど、俺はパドックに上がるウマ娘を見てきた。

 これは走る、というウマ娘はパドックで足と顔を見るだけで理解る。おそらく今年はこの3人だ。

 

 そして、ゲート入りが始まり、レース場全体が静寂に包まれていく。

 それを眺める二人も、ごくり、と息を呑んで、ゲートが開かれる瞬間を待った。

 

『さぁ、最後のウマ娘がゲートインしました。今年のフェブラリーステークス…………スタートです!!』

 

 バカン!と音を立てて開かれるゲートと共に、16人のウマ娘が一斉に駆け出し、そしてレース場全体が爆発的な歓声に包まれる。割れるような大歓声だ。

 

「っ…!す、ごい…!」

 

「こんなに…こんなに、キラキラしてる…!」

 

 ウマ耳をぺたりと閉じて音に耐えながら、二人はレースに集中した。

 スマートファルコンは、その歓声、熱気、そして何より全力でダートを走るウマ娘たちを見て…そわそわと、しっぽを揺らしていた。

 その揺らぎは、果たしてどのような意味を持つのか。

 

 今まで知らなかったダートのレースの素晴らしさに触れたから?

 芝のレースだけがウマ娘達の輝ける場所じゃないと知ったから?

 大歓声の中全力で走るウマ娘達のその強さに目を奪われたから?

 

 それとも───自分も、ダートのGⅠを走ってみたいと思ったから?

 

 

『───第四コーナーを抜けて飛び出してきたのはギャンブルビート!しかしフジマサマーチがくらいついていくっ!ここでセイコーフランケンがさらに加速!3人が並ぶ!並ぶ!叩き合いだ!!残り100m、ここでギャンブルビートが伸びるか!?いやセイコーフランケンだ!セイコーフランケンだ!!ギャンブルビートを交わして、フジマサマーチ粘る!だがセイコーフランケンだっ!セイコーフランケン一着でゴォーーールっ!!!』

 

 

 大接戦となった今年のフェブラリーステークスを勝利したのは、パドックで一番の仕上がりを見せていたセイコーフランケン。

 息を整えながら、笑顔で高々と勝利の握り拳を掲げるセイコーフランケンに、惜しみない歓声が送られる。

 

「これが……これが、ダートの世界……()()()()()()…」

 

 スマートファルコンは、内なる衝動を抑えきれないかのように…惚けたような小さく口が開いたままの状態で。

 その輝かしい、キラキラした勝者の姿を見つめていた。






この話フラグしかない。
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