「トレーナーさん……私、譲らないからね…!」
「そうは言うがな…!」
俺とファルコンは、レースを終えた控室で若干の口論を繰り広げていた。
ベルモントステークス、その決着。
彼女は、奇跡の走りで34バ身差の一着を勝ち取り、そうして世界レコードの伝説をベルモントパークレース場に刻んだ。
フラッシュとアイネスに両肩を支えてもらいながら、彼女はしっかりと観客に笑顔を返して、そうして観客も新たな伝説に惜しみない賞賛を送った。
そうして、ベルモントステークスの勝利者インタビューとトロフィー授与*1を終えて、控室に戻ってきた途端に、ファルコンは倒れた。
意識がなくなるほどのものではなかったが、極度の疲労によるもの。
俺が慌てて介抱し、彼女の脚を診察したところ…奇跡の代償は余りにも大きかった。
骨折は、幸運にも、恐らくない。
だが、その脚の筋肉がまんべんなく破壊されていた。今すぐにでも救急車を呼んで病院に連れて行かなければならないほどだ。
精密検査を必要とする。念入りに触診した結果として、俺の診断としては屈腱炎などの重症には至っていないが、この後無理をすれば筋断裂が起きてもおかしくない。
しかし。
彼女は、震える脚を押さえつけながらこう言った。
「ウイニングライブは、絶対出る…!出たいの!そうじゃなきゃ、何のために練習してたの…!?」
「現実的に難しいって話をしてるんだ、ファルコン。君の今の脚じゃ…」
ウイニングライブに出たいと。
その歌声を、アメリカのファンに届けたいと。
それは、ウマドルとしての彼女の矜持であった。
勝ったからには、ウイニングライブのセンターで歌って踊る権利がある。
しかし今の彼女は自分ではもう立てないほどに疲弊しきっている。
「うー…!」
「ファルコン…!」
気持ちは、わかる。
わかるのだ。
だが、ここでトレーナーたる俺から、ウイニングライブも頑張れ…とは、言えない。
しかし、涙を零しながら譲らない彼女の様子を見て、控室にいる他のウマ娘達も彼女への憐憫を感じているのだろう。
あれほどの勝利を、このアウェーで見せたのだ。
その誇らしいほどの勝利の光景は、アメリカのファンたちすら魅了した。
これで踊れないことが、どれほど悔しい事か。
彼女らもまた、勝利の後にウイニングライブでファンに歌を届けるからこそ、その尊さを俺よりも理解しているからこそ、ファルコンに味方をしたくなる。
レースだけが、ウマ娘の想いが駆ける先ではない。
ライブもまた、同じくらい大切な物。
「…トレーナーさん。なんとか、ファルコンさんにライブで歌わせてあげられませんか?」
「トレーナーの言うこともわかるの!けど、ファル子ちゃんの頑張りを形に残してあげたいの…!」
「…立華トレーナー、私も同じ気持ちです。あれほどの走りを見せて、歌えないのは…辛いです」
「タチバナ…!」
周りの子たちも、何とかできないかと俺に訴えてくる。
フラッシュとアイネスは先ほどからファルコンの脚のアイシングに努めてくれているし、スズカとタイキも汗をぬぐったり、勝負服に着いた泥を落とすことに注力してくれている。
俺は────────
「トレーナーさん。……お願い、あたしをあのステージに連れてって……!」
「……っ!」
────────ウイニングライブを疎かにするものは、学園の恥。
そう、脳内で腕を組んだ皇帝が俺に叫ぶ。
………仕方がない。
これ以上は俺の我儘になる。
彼女がこの後にどうなるかも覚悟の上で、それでも踊りたいと願うのであれば。
その背中を押すのがトレーナーという存在なのだ。
「…………わかったよ。ライブに出よう、ファルコン」
「っ!!トレーナーさん…!」
「だ、が。…俺の言うことに全て従ってもらう。ついでに今我儘を聞いたんだ、後で俺の我儘も聞いてもらうからな」
「うん、うんっ!!出られるなら、ファル子、なんでもするよ!」
「言ったな。…フラッシュ、バッグを取ってくれ」
俺は意志を曲げて、ファルコンをライブに送り出す決意をした。
しかし、ただ送り出すだけではトレーナーの名折れだ。
俺はその辺の一般トレーナーではない。他のどのトレーナーよりも経験の深い、ループ系トレーナーなのだ。
ただでは送り出してやるもんか。
先ほど俺は、ライブに出るのは
「はい、トレーナーさん。バッグです」
「ああ。その中に替えのブルマがあるだろう。それをファルコンに履かせてやってくれ。俺は少し中座するから。……あと、スズカ」
「はい。私には何が出来ますか?」
「タイツ脱いで」
「─────は?」
「はい?」
「んん☆?」
「トレーナー?蹴られたいの?」
「まさかスズカまで誑すデスか!?」
「違う!!…いいか、今から俺はブルマを履いたファルコンの臍から下、腰から足までぐるっぐるにテーピングする!ブルマの上から巻きつける特殊な巻き方だ、可動域は多少制限されるが筋肉を保護して動かしやすくなる!!でもそのままライブ会場に上がるわけにはいかないから、その上からタイツを履いて隠したいって話!!スズカを脱がしたいわけじゃない!!」
俺は急に数度ほど気温が低下した控室内で叫ぶ。
違うのだ。
俺は俺に出来るすべての手段を使って、ファルコンの脚を保護したうえでステージに上がってほしいだけだ。
先ほど俺が説明した通り、俺はテーピングの知識も豊富に備えている。
特に、かつてアグネスタキオンと共に駆け抜けた3年間で、脚に負担のかからないテーピングの仕方を二人で研究し、そうして形に仕上げていた。
腰を起点として、筋肉に沿って巻いたテープが筋肉を支え、普段よりも足を動かしやすく、かつ筋肉への負担を和らげる巻き方。
その上からタイツを履ければテープがずれることもなく、ウイニングライブの一曲だけなら何とかなる。
もちろん、その上でアイシングを念入りに行ってさらに負担を軽減することにも努める。
しかしその巻き方をしてしまうと、両脚がぐるぐるとミイラの様な姿になってしまい、それではステージに上げられない。
それを、腰まで履くタイプの黒タイツで隠す必要がある。
そのためにまず、今この場でスカートの下に黒タイツを履いているのがスズカだけだったため、彼女からタイツを拝借する必要があった。
何度でも言うが、俺は俺に出来るすべての手段を使うつもりである。
どんなにスズカに嫌がられても俺は彼女のタイツを脱がすつもりだ。
何でもするよ今の俺は。
「いえ、そういうことでしたら替えのタイツも持ってきていますので…」
「それを早く言って?」
赤面したスズカが自分のバッグから替えのタイツを取り出すのを見て俺はひどくいたたまれない気持ちになった。
そういえばいつも彼女は準備が良かったな。どこでも走れるように替えのタイツは常備していた遥か昔の記憶が蘇ってきた。
「…じゃあ、俺医務室からテープ貰ってくるから…慎重にブルマ履かせておいてくれ」
だが、ファルコンをステージにあげると決めた以上、時間は残されていない。
俺は逃げるように控え室を後にする。ファルコンにブルマを履く時間を作ってもらうためだ。
「…別に、トレーナーさんだったらブルマなしで巻いてもらってもいいのに……」
「ファルコンさん、それは流石にライン超えてます」
「今日はファル子ちゃんが主役だけど流石にはーなの。とっととブルマ履けなの」
部屋から出る寸前に愛バたちのつぶやきが聞こえた気がするが、直後に扉を閉めたため俺の耳には入らなかった。
────────────────
────────────────
その後、ブルマを履いたファルコンに、俺は全身全霊でテーピングを施すために彼女の靴下などを脱がして素足にした。
彼女の脚にこれ以上の負担がかからないように。
ライブの後も、決して壊れない様に祈りを込めて。
世界で一番価値のある珠玉の脚に、俺の経験と知識を全て注ぎ込む。
「…立華トレーナー、巻きながらでいいんですが…私にもその特殊な巻き方というものを教えてもらえますか?」
「ん、ああ…スズカはサブトレーナーやってるもんな。よし、喋りながら巻くから見て覚えてくれ」
医務室から持ってきた追加のテーピングの封を開けていると、スズカからテーピングについての師事の依頼を受けた。
彼女もまた脚部不安を抱えるウマ娘だし、今はスピカでサブトレーナーとして他のウマ娘の練習を見たり脚のケアをする立場だ。俺の言う特殊な巻き方、というものに興味を持つのも当然のことだ。
俺も急いでいるので一つ一つ丁寧には解説できないが、どういう視点でそれを巻いているかを喋りながらテーピングすることはできる。後日、日本に帰って落ち着いたら詳細に教えてやってもいいかもしれないな。
よし、行くぞ。
「…テーピングの講座で基本は学んでる前提で話すぞ。脚全体を巻くためにアンダーラップ*2を多用しつつ、ズレない様にホワイトテープ*3を使う。アンカー*4としてホワイトテープを使うのが一般的な捻挫等でのテーピングだが今回の巻き方ではホワイトテープを腱や靭帯の働きを補助する形に巻くんだ。アイネス、ファルコンの腰を持ち上げて…そう、少しその高さをキープ。…脚の筋肉の形は全部頭の中に入れておく必要があって…ファルコン、巻くから我慢。…さて、ここ。まず股関節部位から太腿部、通常であれば膝部を支点にする*5が、この巻き方では膝の負担を腰が代用する…そのために、こう、網目状に巻いて…脹脛*6も同様だ。こちらは足裏へ負担を逃がす。そのために足首部の可動域を殺さずに支えるように…スターアップ*7とフィギュアエイト*8のみで足首への負担を流して…そこで、足裏へ、こう…フラッシュ、ファルコンの脚を上げて支えて…そうだ、その高さ。…で、ここからがミソだ。足裏に逃がした負担を、更にその外側にテープで動線を作ることで、最終的に股関節、腰で足全体を支えらえるようにするんだ。*9こうして、こう、だな。*10よし、とりあえずできた。ファルコン、立ってみれば分かるが、両脚が異様に軽く、そして重心が腰に強く感じるようになるはずだ。脚はかなり動かしやすくなるが、可動域自体は落ちているのと、あと動かしやすすぎてキレもよくなるが無理に動かすとテーピングがずれるし転ぶからな。恐る恐る動かしてくれ。────────────────わかった?*11」
「…………………………日本に帰ったら、もう一回お願いします…」
「タチバナ…クレイジーデスねー」
「…流石、ですね。トレーナーさん」
「前に医学の知識もあるって言ってたし…どこでこういうの覚えてくるの…?」
「うー!ミイラみたいになってるぅ!スズカちゃんタイツ履かせてぇ!」
なんかウマ娘達からドン引きの視線で見られた。
なんで?
────────────────
────────────────
ウイニングライブ、その壇上。
スマートファルコンは、タイツを履いたその脚で、何とかキレのあるダンスを見せて、そうして全力でアメリカの三冠ソングを歌っていた。
今週の午前中に…レース研究のほか、彼女はこの歌の練習を繰り返していた。
英語の意味は十全に理解はしていないが、それでも違和感なく歌えるように。
そうして彼女の、砂の隼が奏でる歌は、アメリカのファンたちを魅了した。
(ありがとう…トレーナーさん。脚、動くよ。私、歌える!)
普段よりも可動域は制限されるが、それでも先ほど、控室で横になっていた時に比べれば十分に動く彼女の脚。
臍の下からまるでミイラみたいにぐるぐる巻きにされたそのテーピングは、しかしその圧迫が恐ろしいほどに足の負担を軽減し、腰が脚の動き全てを支えているかのような安定感があり、僅かな力でもよく脚が動く。
やっぱり、私のトレーナーは、優しくて、すごい。
その感動を、歌声に乗せて…そうしていつしか、涙ぐみながら唄う彼女の姿は、アメリカ国民に突き刺さった。
大和撫子。
彼女の瞳から零れる涙に、観客はみな涙した。
『……みんな、ありがとー!!!』
ウイニングライブを歌い切って、そうして拙い英語でファンにお礼を言うスマートファルコン。
観客席から、万雷の拍手が彼女に送られる。
そうしてマイクパフォーマンスの時間だ。
しかしスマートファルコンは英語を喋れない。拙い挨拶と、授業でやったレベルの数単語程度。
どうしようか。英語は苦手で、ごめんなさい、とでも挨拶しようか?
スマートファルコンが困り顔で考えていた時、それを見かねてか隣から声があがった。
『…スマートファルコン!君へ、伝えなければならないことがあるっ!』
本日の二着、マジェスティックプリンスだ。
彼女の流麗な英語に、しかし自分の名前が呼ばれたことだけはわかって、スマートファルコンがそちらへ顔を向ける。
『ファルコン、ああ、その気高き隼よ。君は私を超え、そうしてビッグ・レッドすら超え!世界の頂に立ったと言っていいだろう!』
『あー、えーと、イエスイエス?』
『そうだとも!私はうぬぼれていた…天狗になっていた!今日は絶対に私が勝つだろうと!しかし、君の走りを見て目が覚めた!君と今日戦えたことは、私にとって幸運であった!君の今日の勝利を尊敬し、そして心から祝福するッ!』
『イエス、OK?サンキュー?』
『そして、だからこそ、君に宣言したい!私は…君と、また走りたい!今度は私が挑戦者だ!!私はここに宣言する!!』
『イエス、イエス?』
『ジャパンカップに、私は出るッ!!今度は君の祖国で勝負だ、ファルコン!!』
『イエス?あー……OK?うん?ジャパンカップ??』
マジェスティックプリンスの啖呵と、そうしてそれに「イエス、OK」と答えたスマートファルコンの言葉がマイクに乗って。
そして観客から更なる大歓声が上がった。
彼女たちという最高のライバルが、今度はジャパンカップで火花を散らすというのだ。
これが盛り上がらないはずがあろうか。
しかし、観客席のその最前列。
あぁ、と顔に手を当てて天を仰ぐ、猫を肩に乗せた青年とその周りのウマ娘達の姿は、ファルコンの視界には入っていなかった。
ジャパンカップは芝のレースである。スマートファルコンを出走させる予定は欠片もなかった。
スマートファルコンがその己のトレーナーの苦悩を知らないままに、しかし大盛況をもって、彼女のアメリカでのウイニングライブは帳を下ろした。
────────────────
────────────────
それからは、大変だった。
「……あー………疲れた……」
帰りの飛行機の便、座席から天井を眺めて俺はレース後の出来事に想いを馳せる。
まず、ライブが終わった直後に救急車を呼んでファルコンをウマ娘専門の総合病院へ連れて行った。
精密検査の結果、骨に異常はなし。微細なヒビは見えるが、日常生活の中で治る程度。
炎症も、軽度の物は全体にわたっているが、屈腱炎や骨膜炎、腱鞘炎や爪の割れなど、今後数か月を治療に要するような重症には至らなかった。
奇跡と言っていいだろう。
俺の鍛え上げた彼女のその脚は、あれほどの奇跡の走りを為してなお、壊れなかった。
診察結果を聞いて、俺は涙を流してしまった。
ファルコンはこれからも、走り続けられるのだ。それが何よりもうれしくて、二人で号泣してしまった。
そうして、病院でファルコン用の車いすを買い取って、飛行機に乗ってタイキファームに戻ったが、またタイキファザー他牧場の皆様が全力で祝勝会を開いてくれたのだ。
これがもう夜通しの騒ぎとなった。主役であるファルコンはあまり無理をさせられないため、少し参加させてからしっかりと寝るまで俺がベッドのそばで付き添ってやった。しかし俺自身はその後タイキファザーに引きずり出されて朝まで酒に付き合ってしまった。
俺も改めてファルコンの勝利に酔い、久しぶりに羽目を外し切った。途中から記憶が飛んでて何をやったかちょっと怖い。
そうして本当は翌日に帰国の予定だったところを一日延期することになった。
しかしその一日がまたいけなかった。
タイキファームに、アメリカの記者がとにかく押しかけてきたのだ。
俺は二日酔いに痛む頭を何とか回して、彼らの取材をひとまとめにして無理やり切り抜けた。ファルコンは昨日のダメージで立ち上がれないので療養中と言っておいたがこれは事実だ。
変なことは言っていないと思うが、しっかりと答えられただろうか。俺の二日酔いの顔が向こうの紙面に載っていないことを祈るのみである。
なお、肩になぜ猫を乗せているのか聞かれたが、俺たちチームのマスコットキャッツ!であり、こいつがいたから昨日の奇跡は起きたのさ、と軽いジョークを飛ばしてやったらその後それがめちゃくちゃ記事になり、オニャンコポンもアメリカで顔が売れることになってしまった。
スマートファルコンは、レースの翌日は極度の筋肉痛で一歩も動けなかった。
車いすを買っておいてよかった。恐らく日本に帰ってからもしばらくはリハビリが必要だ。1週間は歩かせることも極力させたくない。フラッシュに彼女の日常生活の介助をお願いしてある。
帰りの飛行機の中で、俺は左に並んで座る愛バと、付き添ってくれた二人の顔を見る。
みんな、お祭り騒ぎのようなここ数日の忙しさで疲れ切っていたようで、仲良く舟をこいでおり、静かな寝息を零していた。
そんな姿に苦笑しつつも、しかし日本に着いたらそれこそまた取材に巻き込まれ、学園でも褒めちぎられるであろう彼女たちの苦労を思い、肩を竦めた。
どうだろうか。
この海外遠征は、彼女たちの人生で…よい、想い出になっただろうか。
少なくとも、俺にとっては最高の思い出になった。
タイキファザーや、牧場の皆と過ごした2週間。
そうして挑んだベルモントステークス。
強敵であるマジェスティックプリンスとの死闘。
ファルコンの見せた、奇跡の400m。
レース後の、一悶着を越えて踊り切ったウイニングライブ。
そうしてタイキファームに戻ってからのバカ騒ぎ。
翌日の取材ラッシュに疲弊しきった俺。
それをなぜか代わる代わる膝枕したフラッシュとアイネス。
そうして日本への凱旋のため、タイキファームを出発。
タイキファザーとの別れ。
娘をやるからここでやってかないかと言われたが、丁重に断った。
『ダンナ。俺は骨の髄までトレーナーなんだ。だからここに来ることは出来ねぇんだ…俺は、こいつらと一緒に学園に戻るよ』
『そうか…そうだな、お前はそういうやつだ。OK、でかい魚を逃がしたがしょうがねぇ!お前のこれからを応援してるぜ、タチバナ!!』
『…サンキュー。世話になったよ、マジで!!アンタがいたから、この旅は最高に楽しかった!!ありがとうな、ダンナ!!』
『おうよ!アメリカにまた来ることがあったら遊びに来いよ!
『ああ、またな!!』
…あの人には、感謝してもし足りない。
無限の明るさを持つ彼は、しかし俺たちに気遣ってくれたのだろう。優しさと気配りと包容力に溢れる大人だった。
ファルコン達にも無理に距離を詰めず、しかし生活で不便はないかといつも気にかけてくれていた。
だからこそ、俺たちは万全の態勢でレースに臨むことが出来た。
今回の奇跡は、タイキファザーの、タイキファームのみんながいてこその奇跡だ。
日本に戻ったら手紙を書こう。俺達みんなからの、お礼の手紙を。
「………いい、旅だったな。マジで……」
俺は飛行機の窓から外を眺める。
そこには、大海原を超えて、陸地が…俺たちの国、日本が見えて来ていた。
アメリカの空気を懐かしく思い、しかしこうして返ってきた日本にもまた懐かしさを感じるのだから、旅というのは面白いものだ。
ただいま、日本。
ただいま、トレセン学園。
こうして、俺たちの…忙しく、苦しく、しかし楽しく、そして栄誉を勝ち取った……最高の2週間は、終わりを迎えた。
※テーピング部分は95%くらい妄想の産物です。