「サブトレーナーがつくことになりました」
「さっきも聞きましたね」
「サブトレーナーがつ く こ と に な り ま し たっ!!!」
「どうして強調したんですか…?」
俺は9月に入っての初日、夏休み明けに早速理事長室に呼び出され、対面に座るたづなさんからチームにサブトレーナーがつくことの説明を何度も受けていた。
急な話である。
これまでにも何度かたづなさんからチームに新しく担当を増やさないか打診を受けており、その度に「サブトレーナーがつかない限りは増やすつもりはないです」と回答してやり過ごしていたのだが、とうとうその言い訳が使えなくなる時が来たというわけだ。
まぁ、正直に言えばたづなさんや理事長の気持ちもわかる。
このトレセン学園は、常にトレーナー不足という問題を抱えている。チームを率いるトレーナーや、個別に専属となるトレーナーがいるわけだが、その絶対数が足りていない。だからこそ選抜レースなどでウマ娘達は自分を担当してくれるトレーナーを探して努力しているわけだ。
トレーナーという業務の多忙さ、そしてメンタルへの負担を考えれば、確かにトレーナー業というものは厳しい仕事である。中央トレセンへの配属に必要な中央資格の難易度の高さもあり、新人トレーナーは増えても年に2~3人だ。試験に合格者がおらず、新人0人の年だって珍しくない。
しかしそれに対して寿退社で退職したり*1、残念なことだが中々成果が上げられずメンタルを病み休職するトレーナーも少なからず存在する。
そういった事情もあって、俺の様にチームを運営するトレーナーに対しては、出来る範囲で担当を増やしてもらいたい、というのが上層部、たづなさんや理事長の想いであろう。
その現状を当然俺もわかってはいるし、彼女たちの想いを蔑ろにするつもりもない。
とうとうこの時が来たか、という具合の気持ちである。
しょうがない。3人だけをずっと担当し続けたい、という気持ちも俺の中に確かにあるが、これは俺の甘えの部分だ。
トレセン学園に勤める社会人である以上、上層部からの指示というのは基本的に受けるのが大人というものである。
愛バ達の努力の甲斐もあって実績をたたき出し続けている俺が、いつまでも担当を増やしたくないという我儘は通じないのだ。それはわかっている。
それに、考えてみればこれはとても有難い話である。
俺のような、世間的に見ればまだ経験の浅い新人トレーナーの、その下についてもよいというサブトレーナーを探してくれたわけだから、まずその時点で感謝するべき話だ。
実際サブトレーナーがつけば仕事に関しては負担も減るわけで、その分を愛バたちの更なる指導に充てればよい。
新しく担当するウマ娘を増やす、という点も、一気に複数人増やすわけでもない。一人ずつ見込みのある子を誘って、地固めという名の地獄を潜り抜けられた子を丁寧に育てていけばいい。
「わかりました。むしろ有難い話です。それで、誰がサブトレーナーになるんですか?」
「………それがですね…」
一先ずの承諾の下に誰がサブについてくれるのかたづなさんに聞いたところ、しかし彼女が返した表情はどうにも申し訳ないといった面持ちだ。
えっ。どうしてそんな表情になるんです?
「その、9月からトレセンに配属となるトレーナーさんでして…試験はしっかりとパスしているので実力は確かなんですが…」
ちょっと待って?
転入となると北原先輩のような感じですか?
地方でトレーナーやってたベテランの人とか?気を遣うが?
「…トレーナー歴は約5か月という所で…重ねて、アメリカ出身の方でして……」
今年からの新人じゃないですか?
しかも何?アメリカ?まさかの海外から日本のトレセン学園に?
不安が……不安がすごい!!たづなさん!?もしかして体のいい厄介払いですか!?
「さらに、ウマ娘なんです…」
あ、なんだ。ウマ娘か。
それを早く言ってくださいよもう。なんだ、安心した。
ウマ娘なら何とでもなるわ。
「なんで最後の情報ですごい安心した表情になったんですか…?わかってます?立華さんと同い年くらいのウマ娘さんなんですよ…?」
「ははは。ウマ娘のことを一番よく知ってる職業についてるんですよ?変にベテランな年上の方なんかよりはずっと気が楽になりました」
「いえ、そうではなくて…チームの皆さまとか……ああ、いえ。
「謎の信頼。でも一先ず事情は分かりました。つまり…言葉の壁に苦慮しない自分が適任、というわけですね。判りました、後は実際にチームで働いてもらって判断しますよ」
俺の言葉にたづなさんが同意をもって頷いた。
成程、アメリカから遥々転入試験を経てやってきたトレーナーとなれば、やはり日本語は不得手としていると考えてしかるべきだろう。
オベイユアマスターや、うちのチームのフラッシュ、リギルのグラスのように完璧に日本語を話せるほうが稀なのであって、やはり海外ウマ娘は日本語の難しさに躓くことも多い。
そういう面から、自分の様に英語も話せるトレーナーの下でサブトレーナーとして経験を積んでもらい、いつかは一人前のトレーナーとして…という考えも理解できるところだ。
その後、たづなさんから試用期間も兼ねて今年中は様子を見てもらい、チームとしてやっていくのが厳しそうならいつでも言ってくれていい、と太鼓判を頂いた。これで何の懸念もない。
俺もそのウマ娘さんに日本の良さやトレセンの素晴らしさを伝えられるように一層努力しようという気になってきている。
ウマ娘がトレーナーを目指す、というのは俺にとって嬉しい事である。ベルノライトの様にウマ娘でありながらトレーナーを目指すという子は少なく、しかしそれは勿体ないなと以前の世界線から思っていたことなのだ。
ウマ娘である以上、ウマ娘の体のことは人間よりもよく理解できるし、気持ちも共感できる部分があると思う。練習でも併走なんかできたりするんだから、むしろ羨ましいまである。
結構な乗り気になってきた。
さて、それではどんなウマ娘が俺の下についてくれるというのだろうか。
「試験をパス出来るくらいには日本語も読み書きはできるのですが、まだ不慣れな様子ではありますね。その点は立華さんのほうでよく助けてあげてください」
「わかりました。…それで、そのサブトレーナーについてくれる方はどちらに?」
「奥の部屋で理事長と一緒に待機しています。立華さんのご了承を得てからご紹介をさせていただくつもりでしたので…今、お呼びしますね」
そうしてたづなさんが一度奥の部屋に入り、件のサブトレーナーになるウマ娘を連れて戻ってきた。
理事長の後ろについてきた彼女を見て、俺は眼を見開いた。
黒鹿毛の、腰まで伸びる長いストレートの髪。
マンハッタンカフェに酷似したその容貌。
彼女を知らないアメリカ人はいない。
無論、俺もよく知っている。
そのウマ娘の名は。
『こんにちは、
────────────────
────────────────
サンデーサイレンス。
その名前は、アメリカのレース界隈では極めて有名である。
この世界線では数年前に、彼女はアメリカクラシック2冠を達成し、そしてその年に米国年度代表ウマ娘と最優秀クラシックウマ娘のW受賞を果たしている。
彼女のレースを俺も何度もこれまでの世界線で見たことがあった。海外のレース、そこで強い走りを見せるウマ娘は、得てして指導に活かせるヒントが得られるからだ。
そうして、全ての世界線で彼女の走りを見た俺の結論はいつも一つだ。
『っ…お会いできて光栄だ、サンデーサイレンス。初めまして、立華勝人だ。…君のレースは全部見させてもらってるよ』
『あら、嬉しいわね。……でもね、タチバナ。私とあなたは初めましてじゃないわ。こうして実際に会うのはそうだけれども、これまでに何度もお話したじゃない』
『…え!?立華さん、サンデーサイレンスさんと知り合っていたのですか!?』
『驚愕ッ!だからサンデーサイレンスは、君のチームへの配属を望んだのかッ!?』
『いやちょっと待って?…え、ごめん、俺も初耳なんだけど。これまでに何かやり取りしたこと、あったっけ?』
サンデーサイレンスに合わせて英語を使ってくれているたづなさんと理事長が彼女の言葉に驚く。
もちろん、俺も驚いた。
この世界線では、彼女と会うのは初めてのはずだ。いや、過去の世界線を振り返っても間違いなく初対面。彼女が来日し、日本でトレーナーを営んでいた世界線はいくつか経験したことがあるが、縁が生まれたことはない。
この世界線では確かに俺はアメリカに遠征したが、その時だって会ったことはないはず。お話なんて一度もした覚えがないのだが…?
『つれないわね。…あんなに熱いラブコールを送ってくれたじゃない。3万文字も。DMで。あれ、本当にびっくりしたのよ?』
『…ッ!ああ、そうか!!あの卒業論文を書いたのは君だったのか…!!』
俺は彼女の言葉に合点がいって思わず手を叩いた。
3万文字のDMと言えば心当たりは一つしかない。あのアメリカの体幹トレーニングに関する論文だ。
あれを書いた卒業生の頭文字は『S・S』。
この子だったのだ。
成程、確かにそういう意味では俺と彼女は随分とお話をしたことになる。
3万文字のDMを送った後、相手方から返事があり、その後それなりの頻度でお互いにトレーニング論についてのやり取りを交わしていた。
しかし当然ながら英文のやり取りで、そこに性別を感じさせるようなものはなく、ましてやウマ娘であるといった情報も特に相手からは開示されなかったので、俺はすっかり若手の男性トレーナーをイメージしてその文通を行っていたのだ。
そんな事情があったことを理事長とたづなさんに説明したところ、なるほどとご納得を頂いた。
「…ああ。なるほど。立華さんらしいとしか言えませんね。まさか無意識で海外のウマ娘まで…」
「得心ッ!しかし君はもう少し、こう、なんというか…自重をするべきだと思うッ!」
でもなぜか返ってきた言葉は日本語で、しかも俺の求める納得と若干ずれている気がする。
なぜだろう。俺は彼女とただ熱いトレーニング論について語り合っただけなのに。
『…しかし、サンデーサイレンス。君という実力のあるウマ娘がサブトレーナーについてくれるのは本当に嬉しいんだけどさ』
さて、そうして挨拶を交わし終え、サンデーサイレンスと向かい合う形でソファに座った俺は、正面から彼女を見据えて疑問を口に出す。
ここだけはまずこの場で聞いておかなければならない。
それは、彼女がなぜ日本に来たのかという事。
『どうして日本のトレセンへ?確か君は、アメリカでサブトレーナーを務めていたはずだ。あのマジェスティックプリンスが所属する強豪チームのね。そのまま経験を積むことだってできたはず。…理由を聞いておきたいな』
『…OK。実はね、先日のベルモントステークスを観させてもらっていたのよ。貴方の育てたウマ娘が奇跡を起こした、あのレースを。貴賓席でね。…ねぇタチバナ。あの時貴方たちが起こした奇跡について、貴方はどう捉えてるの?』
『…質問で返されてしまったね。どう、と言われても…ファルコンが、絶対に海外で砂のGⅠを勝ちたいという強い想いを持って走ったからこそ起きた奇跡…だと思っているけれど』
『そう。…あの奇跡の走り、私が心当たりがあると言ったら?』
『…なんだって?』
『…
『だから…って、しかし君は、まさか、それだけの為に?』
『失礼ね。
ふんす、と鼻を鳴らすサンデーサイレンスに、しかし俺は魂消てしまい呆然とした顔になってしまった。
まず、あの奇跡に心当たりがあるという彼女。
しかしこれは言われてみれば…俺が見ても全く理解できない彼女のそのレースでの速さ、それに関係があるのだろうか、と思考が及ぶ。
彼女は、走るのが速い。
…こう表現すると何を言っているのか、と思われるかもしれない。
しかし彼女は、俺の見立てでは…いや、いわゆるウマ娘を見て走るかどうかを判断できる一般的なトレーナーであれば、一目見て理解するのだ。
このウマ娘は、走らない。
原因は彼女の脚にある。
その脚、流石にあの体幹トレーニングに関する論文を書き上げたこともあって、俺の眼から見ても素晴らしい密度の筋肉が搭載されている。見本にしたいくらいのそれだ。
しかし、なんというか……形が、悪いのだ。
こう表現するのは本当に心が痛むが、事実だ。
彼女の脚は外反膝と呼ばれる形状となっている。いわゆるX脚だ。それも構造的X脚と呼ばれる、生まれつき骨格がそうなってしまっている物。内側に膝関節が湾曲してしまっている。
しかも湾曲がかなり大きい。腰の位置が高く、脚がとてもすらりとしているため、見た目の印象としては内股を強調して女性らしく、はた目には美しくも見えるそれなのだが、こと走ることになればそれはハンデにしかならない。
力がまっすぐに地面に伝わらない。
そのせいで、走る時に必ずハンデになりうる。
どれだけその脚を体幹的に見て完璧に鍛え上げたとしても、スピードの限界が他のウマ娘より先に来る。
極めて才能ある鍛え上げたウマ娘…そう、例えばオグリのスピードを1200としよう。
次に、一般的に走れるウマ娘を極限まで鍛え上げたとして、おおよそスピードの頭打ちは1000程度とすれば。
彼女は、どれだけ足を鍛え上げても800~900がいいところだ。1000にはたどり着けない。1200は遥か彼方の存在になる。
はずなのに。
彼女は、レースで勝っている。
その秘密が、体幹トレーニングだけではなく、彼女の言う…俺とファルコンが成したあの奇跡、そこにあるとするならば、それは是非とも教えてもらいたい所である。
この場で詳しく聞き出すのは流石にアレだが、今後サブトレーナーとして仲を深めていく中で聞かせてもらうとしよう。
さて、少し思考が間延びしたが、しかしそうした理由で日本に来ると決意してからの彼女の行動が余りにも早すぎる。
ベルモントステークスで貴賓席にオベイユアマスターがいたのは事実だ。俺たちを案内してくれたのだから。
そんな彼女がいきなりサンデーサイレンスにつかまってしまい、その後2か月も付きっ切りで日本語を教えることになってしまったらしい。
若干申し訳ない気持ちが生まれてしまう。いつか機会があれば俺の方から詫びておこう。大変だったなオベ。
…しかし、中央トレセンの転入試験は簡単なものではない。
日本語もその時から覚え始めたという彼女の、その努力自体は否定できないものだ。それほどの熱をもって、俺という存在を選んでくれたのならば…俺は、彼女を受け入れるべきだろう。
俺はウマ娘の想いを否定するのが心底苦手だ。
『…オーケー、わかったよ。サンデーサイレンス、君なりの強い想いがあってこうして来てくれたことは歓迎するよ。でも、前のチームとの兼ね合いとかは大丈夫なのかい?流石にこれでアメリカのほうから何か言われるのは困ってしまうが…』
『そう言われると思って、前のチームのトレーナーと学園から手紙を預かってきてるわ。どうぞ』
彼女が懐から便箋を取り出して俺に渡してくる。
俺はそれを受け取って、中に書いてある英文を読んだ。
読み終えて、もう一度読んだ。
もう一度読み終えて、脳内でよーく咀嚼をして、もう一度読んで、天井を仰いだ。
内容を簡潔にまとめよう。
『ウチじゃ無理。頼んだぞケットシー。何とか気性難な彼女の手綱を上手く引いてやってくれ』
これやっぱ厄介払いかなぁ!?
『…うん、サンデーサイレンス。キミが前のチームで何をしてきたのか…聞かないことにしておこうか。これからよろしくね』
『ええ。大丈夫よ、ちゃんとチームの為に働こうって思いはあるのだから』
『期待してるよ』
内心でため息をつきつつ、俺とサンデーサイレンスの挨拶は一先ず終了となった。
その後、理事長とたづなさんから改めて今後の案内があったのち、俺は彼女を連れて学園内を案内する役目を頂いた。
チーム『フェリス』に新しく担当ウマ娘を増やす件については、サンデーサイレンスがまだ学園に慣れていないこともあるし、試用期間である今年を終えて、チームでやっていけることが分かってからでよい、とお話を頂いている。
これから長く世話になる相手である。中央トレセン学園のことをよく教えておこう。
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『ところで、君の事をこれからなんて呼べばいいかな?』
『…なんで?何とでも呼べばいいじゃない。サンデーでも、サイレンスでも、サブトレーナーって呼ばれたって構わないわ』
俺は学園内を彼女に案内しながら、そうしてふと思ったことを彼女に聞いてみた。
返事はそっけないものだったが、俺としては結構重要な話だ。
俺は長い名前のウマ娘は短縮して呼ぶ癖がついている。
ウオッカみたいに一息で呼べるくらい名前が短く無ければ、基本的には愛称で呼ぶ。
フラッシュだったりファルコンだったりアイネスだったり。他にもスズカ、スペ、マックイーン、ゴルシ、テイオー、ルドルフ…まぁ大体のウマ娘は、そうして区切って呼ばせてもらっている。
しかしこのサンデーサイレンスというウマ娘をどう呼ぶべきか俺は悩んでいた。
サンデー、と区切るか?しかしそれだとマーベラスサンデーなど、サンデーの冠を名前に入れているウマ娘が多いことから若干わかりづらい。
ならばサイレンスか、とも思うがそれだってスズカがいるし、そもそもサイレンスと女の子の名前を呼ぶのはどうなんだ?沈黙って。いや彼女は気にしないだろうけど。
そうして少し悩むが、そういえば彼女を彼女と知らずにDMのやり取りで接していたころに愛称があったことを思い出す。
俺はそれで彼女を呼んでみることにした。
『じゃあ……
『……ッ。………構わないわ。好きに呼べばいい』
『そう。それじゃあSSって呼ばせてもらうよ』
俺はサンデーサイレンスの愛称をそれに決定した。
SS。うん。これで名前を呼ぶウマ娘は少なくとも学園にはいない。彼女だと一発でわかる呼び方だ。
ウマ娘と距離を詰めるためには、まず呼び方から変えていかないとな。いつまでもフルネーム呼びだと距離が縮まらないものだ。
『あっちがグラウンドで、そこから校門があって…それを抜けて東に行けばウマ娘達の寮だね。…あれ、そういえばSS、今君はどこに住んでるんだい?』
『トレーナー寮よ。貴方が前に使っていた部屋が空いていたからそこになったって聞いたわ』
『そっか。もし寮の生活で困ったことがあったら周りのトレーナーに良く聞くんだよ』
『…子供じゃないのよ?』
『ははは』
ジト目で見てくる彼女に俺は苦笑を零して返す。
なんだ。気性難のウマ娘だって噂があったけど、別にそんなことはないじゃないか。感情表現も大きくて、話してて楽しいウマ娘だ。
しかも実績と、確かな理論も持っている。まだ教えてもらっていないが、俺の知らない領域も体験している。
もしかして当たりでは?彼女は素晴らしいサブトレーナーなんじゃないか?
ぜひともうちの子たちとも仲良くしてもらって、さらにチームとして成長していきたいところだ。
『じゃあ次は学内施設の案内かな。北棟から回って時計回りに歩いて、そのままカフェテリアで昼食もとろうか』
『任せるわ』
そうして俺は学内に彼女を案内する…が、もうすぐお昼の時間である。
ちょうど今、授業終了を告げるチャイムが鳴った。そうなれば廊下にウマ娘達が出てくることになる。
サンデーサイレンスが初めて学園のウマ娘の目に晒されることになるわけだ。
「うおおおおー!!お昼だああああ!!!…お、猫トレだー!!こんちわー!!」
「チケット、廊下をそんなに速く走るな!…おや、立華トレーナー、と……む?」
「ん、猫トレ、と……誰?マンハッタンカフェじゃないよね?」
まず出会ったのがBNWの三人だ。この世界線では3人とも俺は仲良くなっている。タイシンもオニャンコポンのおかげでだいぶ砕けて話せる仲になっており、オニャンコポン様様だ。
しかし、はて。俺の危惧していた予想と違うな?
俺の隣に並ぶサンデーサイレンス…黒い服に身を纏った彼女だが、俺は彼女がマンハッタンカフェに間違われるものかと思っていた。
まず、顔が瓜二つだ。双子と言っても信じられる。
黒鹿毛の長髪もほぼ同じ。耳の形もそっくりだ。
身長だけはSSのほうが若干低いが、それだって大した差ではない。
夏だというのに黒いコートはマンハッタンカフェの勝負服をイメージさせる。
そんな彼女が外見でマンハッタンカフェとはっきり違うのは、その額部分の流星。
一滴零したようなその流星は、俺はこうして間近に見させてもらって、涙のようだ、と印象を受けた。
しかし一目見てその流星の有無で別人と察することが出来るかというと……
…いや、ああ。
もう一か所、明らかに違う所があったか。
「…え!?ええ!?!?いや、カフェじゃないよね!?!?ダレーーーッ!?!?」
「ああ、明らかに違う…ええと、立華トレーナー。そちらはどなただろうか?」
「似てるけど絶対違うよね。どこがとは言わないけど。どこがとは…!」
「ああ。こちらは今日からこの学園に勤めることになったトレーナーのサンデーサイレンスさんだ。うちのチームのサブトレーナーになってくれる予定でね」
BNWの三人の、その視線の角度を見て俺は察した。
彼女たちの視線は、SSの胸元へ向いている。
────────彼女は豊満であった。
タイキ以上、クリーク未満。
その身長に過積載であるアメリカンな武器を携えていた。
『ねぇ、タチバナ。なんで彼女たちは私の胸を注視してくるの?あの葦毛の子だって大きいのに』
『ノーコメントでいい?』
俺はコメントを控えさせていただき、肩を竦めるのみに留めたのだった。
事前に述べておくと、SSちゃんはサブキャラの枠を超えては来ないです。
あくまでフェリスの3人が中心の物語なので、この後3話くらいメインを務めた後は解説役とか遠征時の留守番とかツッコミ役とかそういう細々とした役割で動いてもらう予定です。
でも筆者が大好きなウマなので胸と話は盛るペコ。