本当にありがたいです。どしどし報告いただけると助かります。
ただ、筆者の癖で意味のない当て字をすることが多々あり(例:答える→応える 思い→想い)、そういったところは味として残したいと考えております。かしこ。
子猫…オニャンコポンを引き取った翌日。
俺はベッドで目を覚ますと、胸元の布団の中で眠っている子猫の重みに気がついた。
「…オニャンコポン、お前かなり人懐っこいな…?」
オニャンコポン。フラッシュがつけたその名前で猫を呼ぶと、ニャー、と小さく返事が返ってきた。
随分と賢い猫のようだ。連れて帰ってきてから家の中に放つと、一度いろんなところを駆けまわってまず下見を始めた。
そしておおよそ見回ってきたかと思うと、今度はすぐに俺のそばに寄ってきた。
猫の飼い方を調べた時には『慣れるまではしばらく人間から構わないほうがいい』と書かれていたが、オニャンコポンはむしろ自分から俺に構ってくれと言わんばかりに近寄ってくる。
トイレも一発で覚えたし、エサなども警戒せずに素直に食べる。1日目にしてとにかくご主人に苦労を掛けない猫であった。
「ま、手間がかからなくていいな。おはよう、オニャンコポン」
喉元を指先でくすぐると、気持ちよさそうにニャー、と鳴くオニャンコポン。
なるほど、これは和む。猫推しの人の気持ちがよく分かる。
俺は朝から気分を良くして、支度を整え、今日も仕事のために家を出るのであっ
───たのだが、しかし。玄関先でものすごく寂しそうな瞳で見てくるオニャンコポンが俺の足を止める。
…俺はこれから家を出るのであるんだが?
「…行ってきます?」
ニャー!とすごい抵抗の色の強い声で鳴かれた。
え、何。行ってきちゃダメ?ダメか?俺これから毎日のように学園に行くんだけど?
「………一人は、いやか?」
ニャー。
肯定の色の返事が返ってきた。
…思えばそうか、こいつ捨て猫だったんだもんな。
ずっと一人で段ボール箱の中で、命の危機にさらされ続けていたんだった。
そう考えれば、確かに引き取ってすぐに一人にしておくのはかわいそうってもんだ。
しかし、となるとどうすればいいだろうか。オニャンコポンの気持ちは分かったが俺にも仕事がある。
若干悩み、しかし解決策はすぐに思いついた。
俺の脳内で、『同伴!!』と扇を広げる理事長の顔が浮かぶ。
あの人、いつも猫連れてるじゃん。
理事長が許されて俺が許されないことがあろうか。いやない。
「……一緒に行くか?」
オニャンコポンの前にしゃがみこんで、そっと手を差し伸べる。
すると、待ってたと言わんばかりに手のひらから腕を駆けのぼり、俺の肩に乗ってしっかりと肩口を掴んでむん!と気合を入れる子猫。
いつでも準備はばっちりなようだ。
…………………うーん。
まぁこんだけ賢ければ大丈夫だろう。多分。なるようになれ。
「よし、行くか。勝手に離れたりすんなよ」
理事長の許可を朝一で得てしまえばこっちのもんだと腹をくくって、俺はオニャンコポンを肩に乗せながら出勤した。
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「驚愕ッ!!私のほかに猫を連れているものがいるとは!?」
「あら…随分となついておられますね、その子猫さんは。トレーナーさんの飼い猫ですか?」
肩にオニャンコポンを乗せたまま朝一番に理事長室に向かい、理事長とたづなさんに経緯を説明したうえで了解を取る。
二人とも、ウマ娘の生徒の気持ちを汲んだ対応に感心していただけたようで、問題が起きなければOK、と一先ずの許可を得ることができた。
「トイレや猫草の予備はあるので自由に使ってくれて結構ッ!猫缶は購買にあるのでそちらも活用してほしい!」
「ありがとうございます。猫缶はこの後さっそく買いに行かせていただきます」
「ふふ、理事長以外にも猫缶を購入してくれる人が初めて現れましたね!…本当に!…ようやく、入荷している意味が…!!」
満面の笑みで猫グッズを準備してくれる理事長と、なぜか遠い目をして頷くたづなさん。
そういえば購買でいつも売ってる猫缶、理事長が買っているシーンしか見たことなかったな。これまでのループの中でもずっと。
あれ、なんで仕入れてるんですか?それをこの場でたづなさんに聞く勇気は俺にはなかった。
そんなわけで肩にオニャンコポンを乗せながら校内を歩いていると、それはもう生徒から声をかけられまくる。
何といってもここは女子の学び舎である。可愛いものと甘いものには目がないJCJK達の集まるトレセン学園だ。
理事長以外に猫を連れているトレーナーがいる、となればそれは注目の的にならないはずがない。
「わ、猫ちゃんだー!すっごい可愛い!ね、ね、お兄さん、一緒に写真撮っていーい?ウマスタにあげたいの♪」
「構わないよ。ただ、まだ人慣れしていないからね。1枚だけにしてくれるかな?」
「おや~?これは可愛い猫ちゃんですねぇ~。………へぇ、トレーナーさんの。じゃあ今後も学内でいっぱいお会いしそうですねぇ、昼寝スポットで。よろしくね~子猫ちゃん」
「はは、昼寝もいいがあんまり授業はサボるなよ?」
「む、貴様。なんだその猫は…………ふむ、理事長にも話が通っているならいい。ただし、花壇はトイレでないことはしっかりと躾ておけ」
「大丈夫、賢い猫でね。勿論しっかり言い含めておくよ。花壇の手入れ、いつもお疲れ様」
「ふんぎゃろぉぉぉぉおー-!?!?!?今日のラッキーアイテムの三毛猫様がこんなところにぃぃ!?!?これがシラオキ様のお導きですかっ!?!?はぁ~ありがたや~~!!」
「すまん。鼓膜がイカれて何も聞こえない」
俺はその日はずっと、集まってくる生徒たちにオニャンコポンの説明をしたりして、珍しく忙しい一日を過ごすのだった。
なお、帰宅後にフラッシュとファルコンからLANEのメッセージが届いて、どうやら
まぁいいか。可愛いものが周知されるのはいいことだ。
これからもオニャンコポンは学園で愛される系の子猫ちゃんになるだろう。
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そんなあわただしい一日が終わると、その後はフラッシュとファルコン、二人の選抜レース出走…第四週の末まで、特段大きな出来事はない。
そう、大きな出来事はない……のだが、小さい問題が発生した。
もちろん、これまでの周回で経験したことがなかった、猫の飼育に関する問題である。
最終の選抜レースを5日後に控えた現在、家の掃除を行っていた時にその問題と直面した。
「結構家ン中にオニャンコポンの毛が落ちるな…そうなるとはわかってたんだけどさ」
粘着質の筒のついたコロコロでソファーやカーペットの掃除をしながら、俺はそこにへばりつく少量の俺の髪の毛と、それ以上に毛量の多いオニャンコポンの毛を見てうーん、と首をひねる。
家で猫を飼うと、当然だが猫が家にいる間は自由に家の中を歩き回る。
飼育サイトでは、猫の毛が落ちるのでこまめに掃除しましょう、と書いてあったが…
「こまめに、ねぇ……掃除面倒なんだよな…」
俺は掃除が好きではなかった。
いや、もちろん普通にできる。苦手というわけでもない。
ただ、トレーナー業に全力を注ぎこみたい都合もあって、定期的に掃除をするのがどうにも習慣にならなかった。
掃除をするとしても2週間に1度くらい。忙しいときは月1程度。もちろんトイレや水回り、ごみ出しなどは別として。
男の一人暮らしで、しかも大半が仕事で家にいることも少ない。これまでの周回では、そのペースで困ったことはなかった。
……いや、一度だけあったか。エアグルーヴの担当をやっていた時だ。
あの時は「月に1回くらいかな」と掃除の回数を伝えた瞬間に、般若の如き形相になったエアグルーヴに「たわけ!!」とめちゃくちゃ叱られ、その後は毎週末にエアグルーヴが掃除をしに来てくれていた。
あの時はまぁ楽だった。掃除の後にエアグルーヴの調子もなぜかよくなってたからレースでも勝てる勝てる。
あの世界線の俺はあの後どうしているのだろうか。ちゃんと掃除ができるようになったのか、はたまたエアグルーヴに尻に敷かれているのか…懐かしい、たわけな頃の自分の記憶を思い出す。
…いやあの頃の思い出に浸っていてもエアグルーヴが掃除をしに来てくれるわけではない。彼女は花壇の手入れと生徒会で忙しいのだ。
話を戻そう。
そんなわけで、俺はこれからの掃除事情に若干頭を悩ませていた。
その様子をなんだか申し訳なさそうな顔で見てくるオニャンコポンと目が合った。
「…心配すんなって。お前といるのは楽しいからな、何とかするさ」
1週間も一緒に過ごしていれば、情というものもそれはもう猛烈に湧いてきていた。
そもそもオニャンコポンは素直で言うことも聞くし、手間もかからない。最高の猫だ。*1
なんなら顔は整ってるし、目は宝石のようにきれいだ。どこかの猫雑誌に掲載されてたって違和感はないね。うちの猫が一番かわいい、そうだろう?*2
そりゃあ学園で人気も出るってもんですよ。理事長の猫と美猫グランプリやってみようか?絶対勝つぞうちのオニャンコポンは。*3
…また話が逸れた。
俺はひとまずの掃除を終えて、オニャンコポンに猫缶を与えてやりながら、さてどうするかと掃除問題に改めて思考を向ける。
掃除をする時間は仕事に充てたいので取れない。
だが掃除はしなければならない。
エアグルーヴはこの世界線では掃除に来てくれない。
つまりだ。
「雇うか…家事代行!」
俺は周辺地域の家事代行の業者を調べるべく、スマホを手に取るのだった。
…色々調べていると、今の自分にかなり合っている条件を見つけた。
毎週清掃を実施、ペット可、交通費と日当で月7万~8万程度。
金額面だけ見ると割高に感じるかもしれないが、都内の一軒家で毎週の清掃である。こんなもんだろう。
そもそもお金を使う分には困ることはない。俺の所有する株式は今も指数関数的にお金を増加させている。
こういう時に有効利用をさせてもらうくらいはループ系トレーナーの特典として許してほしいものだ。
もう少し調べると、どうやらこの業者は業者側で登録しているハウスキーパーを斡旋してくれる仕組みになっているらしい。
ウーマーイーツの家事代行版みたいなもんか。
これでいいや、とさっそく業者に電話をかけて、労働条件を伝えていくのであった。
そして翌日。
今日は家事代行の業者から斡旋された我が家担当のハウスキーパーが来てくれる。
挨拶と業務内容の確認、および簡単に清掃をしてくれる予定となっていた。
オニャンコポンと遊びながらハウスキーパーを待っていると、指定された時間に家のチャイムが鳴らされた。
「はーい、今出ますよっと」
さてどんな方がいらっしゃったかな、と玄関に迎えに行く。
玄関のドアを開けると、そこにはなんと、ウマ娘が立っていた。
しかもだ。
「おはようございますっ!家事代行の斡旋で来ました!立華さんですね、よろしくお願いしますなのっ!」
元気よく挨拶する、その独特な口癖。
サンバイザーを被って髪を片側に結った、特徴的な黒鹿毛の髪型。
その走りはまさに名が体を表すがごとく疾風怒濤。マイルから中距離のレースを風の吹くままに駆け抜ける、『怪物』マルゼンスキーに並ぶ俊足の逃げ足を持つウマ娘。
そのウマ娘の名は、
「アイネスフウジンです!これからお世話になります!」
風神の名を持つウマ娘が、ハウスキーパーとして我が家の玄関に立っていた。
このトレーナーの顔は一般的にイケメンと称される程度の顔です。クソボケトレーナーの固有スキルみたいなもん。
そんなのが子猫を肩に乗せて学園を練り歩いている。これはもう事件ですよ。