【完結】閃光と隼と風神の駆ける夢   作:そとみち

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【慣用句】雨降って地固まる
トラブルが発生したが、それが解決してしまうと、それが発生する前よりかえって良い状態になっていること。又は、往々にしてそういうものであるという達観。



なおタイキは120連でお迎えしました。
髪型(パイオツ)がね。よかったからね。髪型(パイオツ)が。



80 地固め(雨)

 

 

「「「────────すみませんでした!!」」」

 

 SSとの飲み会の翌日、俺は午後にチームハウスにきた愛バ達3人が、声をそろえて謝罪し頭を下げた光景を見て、鳩が豆鉄砲を食らったような顔を浮かべてしまった。

 ソファに座り、俺が持ってきた二日酔い対策のみそ汁入りの水筒を、味が気に入ったらしくぐびぐび飲んでいたSSは、それを見て小さくため息をついていた。

 

「…え?急にどうした?謝られる心当たりが全くないぞ?……フラッシュ、説明してくれるか?」

 

「…はい。実は……」

 

 俺は3人のなかで、恐らく一番冷静に事情を説明できるであろうフラッシュに確認を取り、彼女たちの謝罪の理由について聞いた。

 そうしてフラッシュが躊躇いがちに、しかしはっきりと伝えた内容を咀嚼する。

 

 話はこうだ。

 昨日、チームハウスを出た後に、SSを誘う俺の声が聞こえて、彼女たち3人もそれを聞いた。

 俺たちがどんな話をするのか興味があり、悪戯心で隠れてついていった。

 そのまま店にも入って、かつてのバイト先であったアイネスの伝手も使って、自分たちに壁越しの隣の個室に3人はいたらしい。

 そこで俺たちの話を盗み聞きしてしまい、そうして、彼女の過去の話を聞いてしまったというわけだ。

 

「……はぁ。別に気にしちゃいねェんだけどな、アタシは」

 

「え。SS、君は気付いてたのか?」

 

「当然だろ。アタシだってウマ娘だぞ?隣にいるのが分かってて、あの話をした。…ソイツらに責任はねぇよ」

 

「ですが…!あのお話は、あのような形で聞いてよいお話ではありませんでした!」

 

「私達も、あんな、悪戯心で聞いちゃって…本当に、申し訳なくなっちゃって…!」

 

「そもそも、隠れて付いていったのだってよくない事だったの。反省してるの…ごめんなさい」

 

 俺は4人がそれぞれ、自分の過失について述べていく姿を見て、恐ろしく心が痛んだ。

 フラッシュ達の話は分かった。

 確かに、こうして親密な関係となっている俺達とは言え、尾行して話を盗み聞きしよう、と言うのはよいことではない。

 そこはいかに彼女たちがお年頃のJKとはいえ、咎められる謂れはある。

 

 しかし、だ。

 そもそものところまで話を戻せば、この件は俺に全て責任がある。

 

「…3人とも、話は分かった。けど、まず言わせてほしい。……これは俺の責任だ」

 

「っ!トレーナーさんは、何も悪くは…!」

 

「違うんだよ。…俺がもっと気を配れていれば、起きない話だった。まず話の発端からして、そもそも()()()()()()()()()()()()()()()。別に、お酒がメインの席ってわけじゃないんだ、一緒に誘えばよかった」

 

 そう、まずもって俺が彼女たちも誘えばよかったのだ。

 これまでのループでは、担当ウマ娘は基本的に一人で、外食と言えばどこか食事をメインとするところに連れて行くのが基本だった。

 逆に、他のトレーナーやたづなさんなど、大人の誰かと呑みに行くときには、当然話の内容が酒やウマ娘の講評などになるため、担当ウマ娘は連れて行かなかった。

 その延長線上で、今回の飲み会を考えてしまったのだ。

 

 しかし、今回のSSとの飲み会は、チームの仲を深めるためのそれに尽きる。

 であれば食事会という形に切り替えて、みんなで食事に繰り出してそこで話を聞けばよかったんだ。

 そうなればゼロの領域のような深い話はできなかったかもしれないが、それはまた後で聞けば問題はない。

 俺は初めてのサブトレーナーがチームに入るという事態に視野が狭まってしまって、急いでSSの事を理解しようと焦った結果、担当ウマ娘の事を見てやれていなかったのだ。チームトレーナーとしての経験の浅さが出てしまった。

 

「そうだな…どう考えても俺が悪い。事の発端だって、君たちに秘密にしたいならきちんと帰してからSSを誘えば、君たちは俺の声が聞こえることもなかっただろうし。勿論そんなつもりはなくて、だったら君達も誘えばよかった。いわゆる他のチームトレーナーとの飲み会とか、それと同じノリにしちまった。悪い。謝るのは俺のほうだ」

 

「いいえ、それでも…それでも私達も決してよい行いをしたとは言えません」

 

「好奇心で黙ってついてっちゃって…隣の席にまで入って、盗み聞きしようとしてたんだもん」

 

「悪戯にしては度が過ぎてたの。お咎めなしとはいかないの」

 

 俺が彼女たちに頭を下げると、しかし彼女たちも譲らずに己の非を主張する。

 彼女たちは時々俺相手に掛かり気味になることもあるが、それは彼女たちの信頼の表れでもあると思っている。そして普段の彼女たちはとてもまじめなウマ娘で、だからこそ今回、SSの話を聞いてしまったことについて深く反省しているのだろう。

 どうしたものか、と俺が悩んでいると、しかしSSがそこに言葉を挟んできた。

 

「…なァ。アタシだってこいつらが聞いてることに気付いた上で話してんだ。んで、聞かれたことについちゃ気にしてねぇ…むしろ聞いてもらいたかった所もあるしよ。早い段階で知ってもらったんで気が楽になってるんだぜ?」

 

「SS…」

 

「誰にも悪意がなくて、んで結果的にいい方向に転がるような話だろ。スパッと切り替えようぜ」

 

 俺は彼女のその言葉を受けて、内容に深く頷いた。

 確かに今回の件、結果的に愛バ達は反省して謝罪もした。

 話を聞かれたSSも気にしておらず、むしろ過去を共有できたことには感謝しているという。

 俺だって、自分の至らなさを改めて自覚したうえで、今後に生かしていきたいと思っている。

 

「だ…な。うん、今回の話は、それぞれに過失があって、でも悪意はなかった。全員で反省しよう。それで終わりにします」

 

「…ですが…」

 

「頼むよ。ここで君たちを一方的に叱責できるほど、俺は人間が出来ちゃいないんだ。俺にも反省の機会を与えてほしい。…それに、俺は君たちのそういう悪戯も好きだったんだ。甘えてもらっているような感じがしてね。だから、今回の件でこれから変に委縮とかしないでほしいって言うのが俺の本心です」

 

「…うー。でも、トレーナーさんがそういうなら…」

 

「わかったの…」

 

「…ってか、マジで気にすんなよなお前ら。アタシの事理解してくれて、その上で頭まで下げてくれてんだからアタシとしちゃ有難いまであるんだぜ?この件で変な遠慮とかいらねェぞ。…聞いてくれてありがとな」

 

「サンデーさん…はい、わかりました。そう言っていただけましたら、そのように」

 

「盗み聞きしちゃった事は反省だけど…お話の内容を聞いて、ファル子、サンデーさんを応援したくなったの!これから頑張るからね!」

 

「サンデーチーフが立派なトレーナーになれるように、あたしたちも脚で応えるの!」

 

「嬉しいこと言ってくれるじゃねェか。頼むぜ、これからも」

 

 SSがソファから立ち上がり、愛バ達それぞれの頭をぽんぽんと撫でる。

 彼女は身長がチーム内で一番低いので、アイネスには背伸びをするような感じになってしまったが、しかしそれを受けて3人もようやく表情を緩ませてくれた。

 SSも、彼女なりに頑張ってウマ娘達とコミュニケーションを取ろうとしてくれている。

 であれば俺も、この件を後に引きずらない様に尽力すべきであろう。

 

「OK。それじゃ、それぞれ何かしら罰を受けてこの話はおしまい。…まず俺ですが、次にSSや誰かと食事に行くときには必ず君たちに事前に連絡を入れます。いっしょに行けるときは誘うし。秘密にはしない、それを誓う。その上で1か月チームハウスの掃除当番やります」

 

「トレーナーさん…」

 

「事前の連絡は…まぁ、その、ありがたいけど。掃除は大変じゃない?」

 

「トレーナーがさらに忙しくなっちゃったら本末転倒なの。手伝うの」

 

「ああ、手伝ってくれるのまでは断らないさ。SSにも教えながらってなるだろうしね。つまりはそれくらい軽めの課題を君達にも課すよって話。…とはいえ、急には思いつかないな…」

 

 指導者のけじめとして、まず自分の罰を設定する。その上で同じくらいの重さのそれを、彼女たちにも課そうと考えた。

 これまでにも何度か反省していたが、それでもなかなか治らなかった自分の悪癖。

 ウマ娘を相手にするときに、説明不足になる癖。

 これを少しずつ改善するために、まずは彼女たちとの報連相をもっとしっかり枠組みとして定めようと俺は考えた。

 

 まず今回の件で改めて実感した件、俺の行動を愛バ達が把握しきれていない事。

 これはよくない。俺がどこで何をしているのか、知らない部分が増えれば彼女たちも不安に思う所もあるだろうし、だからこそ今回の様についてきたりするわけだ。

 なので今後は、本当にプライベートな休みの日などを除いて、俺は彼女たちに俺の予定をしっかりとLANEで伝えることにした。

 俺がどこで何をしているのか把握していれば、彼女たちの不安も払拭されるはずだ。

 中々悪く無い塩梅に落とし込めたんじゃないだろうか。

 

 なお掃除当番については、これは我がチームのみの特有の問題と言える。

 他のチームでももちろんハウス内の掃除は必要だが、その頻度は多くても週に1回程度だろう。毎日隅々まで掃除をする必要はない。使う時間もそんなに長くはないのだから。

 しかしうちのチームにはオニャンコポンがいる。猫が歩き回ることで猫の毛は我が家と同じようにそこそこ落ちるし、トイレや猫草などの処理もある。

 そのため、他のチームよりも掃除の必要が増えており、それを俺を含めたローテーションを組んでやっていたというわけだ。

 

 今後はそのローテーションにSSも入ってもらうため、掃除の仕方やコツなども教えつつ…しかし今回の罰として俺が掃除を1か月担当することにした。

 練習前の午前中に終わらせればいい話でもあるので、大したことはない。チームハウスと言っても広くはないしな。

 

「SSは…そうだな、君が気付いていて、俺が気付いてなさそうなことがあったら遠慮なく言ってくれ。昨日は遠慮とかあったかもしれないが、このチーム内では不要だ。風通しよく発言しやすいチームにしよう」

 

「…OK。そもそもそんな遠慮する性格じゃねェし、そうさせてもらうわ。言い過ぎたら指摘してくれよ」

 

「ああ。……そして、3人には…そうだな…」

 

 SSについては特段の罰を与えるほどではない。そもそも彼女には非がないのだ。

 強いて言うなら、尾行に気付いていたことを言わなかったことのような、遠慮の部分だ。まだ勤務し始めたばかりだし緊張もあったと思うが、彼女だって俺たちチームの一員になるのだから、話す内容に遠慮が有ってはいけない。

 お互いに考えを述べやすい風通しの良いチームが理想である。

 彼女がこれから立派なトレーナーになるためにも、俺はそうして彼女に課題を出し、了承を得た。

 

 そうして問題の、愛バたちであるが。

 彼女たちへの課題は何にしようか。俺はかなり首をひねって悩む。

 自分に課題を出すのはウマ娘のためならばいくらでもできるのだが、俺はウマ娘に甘い。正直に言えばあまり酷な内容にはしたくない。するつもりもない。

 しかし何も出さないというのもよくない。彼女たちもお咎めなしでは納得しないだろう。お互いに罰を受けてこそ、雨降って地固まるというもの。

 

「…少し時間くれるか?君達も着替えがあるし、ちょっと外に出て君達への課題を考えてくるよ」

 

「はい。…そうですね、着替えなければ。今日も練習があるのですから」

 

「レース出走のプランを組んで、その後は器具トレーニングだったよね今日は」

 

「謝る事ばっかり考えて忘れてたの。急いで着替えるの!」

 

「あー、んじゃアタシも着替えっかァ。生徒用のとは違う黒いジャージ支給されてんだよなァ」

 

 3人ともまだ制服のままで、しかし俺の言葉にそうだと思いだしたようで慌ててロッカーに向かう。

 SSはウマ娘だしそのままここにいてもらおう。俺がいないところで改めて彼女たちだけで話したいこともあるだろうしな。

 3人とも昨日のSSの話を聞いて、彼女への応援と期待の気持ちを深めたようだ。よい関係を今後も築いていけることだろう。

 俺は彼女たちがより仲良くなってくれることを期待しつつ、チームハウスの扉に手をかけた。

 女性の着替えは時間がかかるものである。いつも通り10分くらい時間を潰して…ん。

 

 そういえばSSって着替えどうしてるんだ?

 俺はふと考える。いや、今日も彼女は黒のコートを羽織っており、彼女用のジャージもロッカーに準備されていると聞いて、それに着替えてもらうことになるわけだが。

 俺が気にしたのはそれでなくて、彼女の私的な服だ。昨日彼女の部屋を見た限りでは、まだろくに荷ほどきもできていない状況で…

 

 

 ────その時、ふと閃いた!このアイディアは、愛バへの課題に活かせるかもしれない!

 

 

「思いついた」

 

「え?」

 

「ん☆?」

 

「課題?」

 

「ああ。…みんなでSSの部屋を整理してあげてくれないか?まだ日本に来たばかりだし、荷解きもできてない状況なんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()。今度の休みにでも、彼女の部屋に行ってみんなでSSが生活に困らない様に助けてやってくれ」

 

「はい!それでしたらぜひ………………は?」

 

「オッケー!……………ん☆?☆?☆?」

 

「はいなの!……………へぇ?ベッドしか???」

 

「…オイコラ、ちょっ…!?」

 

 皆から了承の声が返ってきたことに満足し、扉を後ろ手に閉めて俺はチームハウスを出た。

 

 うん。これはなかなか名案だったんじゃないだろうか。

 SSは、まぁあの部屋の状況を見ても、普段の様子を見ても、恐らく私生活にあまり力を入れないタイプだ。

 修道院で生活していたころは周りの目もありしっかりしていたと言っていたが、一人暮らしになったことでズボラな生活になるかもしれない。

 なのでまずは愛バ達を部屋に派遣して、みんなで荷解きしたり、ウマ娘として、女性として必要な物を買いそろえて…それでお店なども4人で一緒に回ってもらえれば解決だ。

 部屋の片づけなどはそこそこ重労働にもなるし、ウマ娘の力があれば家具を運ぶのも容易であろう。

 みんなでお手伝いをするから尊いんだ。絆が深まるんだ。

 

 なぜか扉の向こう、チームハウス内から急に謎の圧を感じるようになったが気のせいだろう。

 俺は自分の閃きに満足しながら、チームハウスから離れていった。

 

 

────────────────

────────────────

 

 

 俺は校内をぶらぶらと歩いていた。

 途中でセイウンスカイと一緒に昼寝していたオニャンコポンを拾っていき、そうして肩に乗せて花壇でも見に行くかと足を向けたところで、見知った方々に出会った。

 チームスピカの、沖野先輩とヴィクトールピスト、そしてゴルシだ。

 

「お、立華君。お疲れ!どしたいこんな時間に。今日は練習じゃないのか?」

 

「いえ、練習はあるんですけどね。みんな着替え中なんでハウスから退散したところですよ。お疲れ様です、沖野先輩。ヴィックとゴルシもこんにちは」

 

「こんにちは、立華トレーナー。…着替える時に普通はトレーナーは席を外しますよね。普通は…」

 

「よーっす!聞いたぜー、新しいサブトレが入ったんだってなー?しかもとんでもねぇ大型新人!」

 

 俺はみんなに挨拶し、そうしてオニャンコポンをヴィックに渡してほわほわしてもらう。

 お互いに、お互いの情報を知っていた。聞きたいこともあり、軽くお話をさせてもらうこととした。

 

「ああ、SS…サンデーサイレンスが新しく配属になったよ。アメリカじゃ気性難なんて噂もあったけど、話してみたら全然、しっかりとした子だったからさ。学園内であったら仲良くしてやってくれ」

 

「ふふ…オニャンコポン可愛い。…昨日は、学園内ですごい噂になってましたよ。サンデーサイレンスさんの事」

 

「調べたらまぁとんでもねぇレジェンドウマ娘だったからよー。アタシも色々聞いてみてーことあるぜ…たこ焼きの好みの具材とかよ…!」

 

「全く、立華君のチームは本当に話題性に事欠かないな。レースで走った経験のある貴重なトレーナーだ、俺も後で挨拶させてもらうよ」

 

「お願いします。…しかし、話題性って意味ならそちらだって負けてないでしょう。聞きましたよ、ヴィックの次走。…ニエル賞から凱旋門だと」

 

 俺は我がチームの話題性に触れられて肩を竦めつつ、しかしお返しと言わんばかりに沖野先輩に言の葉を返した。

 昨日、チーム『スピカ』のウマッターで公表された、チームメンバーの次走。

 その中に、ヴィクトールピストが菊花賞へ出走せず、何と海外遠征、フランスへ行き…ニエル賞と凱旋門賞に挑むことが書かれていた。

 

「ああ、夏合宿前から決めててな。今週から早速飛んで、向こうの芝に慣れていくつもりだ」

 

「なるほど。…で、今日はその打合せといったところですか?」

 

「そーゆーこったー!向こうにゃアタシが基本的に付き添う予定だぜ!ゴルシちゃんサブトレ資格も持ってるからよー!」

 

「ゴルシ先輩がフランス語まで話せるのは驚きました。でも頼りになります…立華トレーナー、私は、貴方たちチーム『フェリス』に負けません。フラッシュ先輩の様に、アイネス先輩の様に…そして、アメリカで勝ったファルコン先輩の様に。私も、レースの頂へ挑戦します」

 

「…そうか。頑張ってな、心から応援してる。そしてフランスの、凱旋門のトロフィーを持った君と…うちの子達が、お互いのプライドをかけて最高の勝負を見せてくれるのを、楽しみにしてるぜ」

 

「はい!皆さんにも、よろしくお伝えください!」

 

 俺は凱旋門賞に挑むヴィクトールピストのその表情から、これまでにレースで見せたそれをさらに上回る灼熱の想いを持っていることを読み取った。

 熱い。どこまでも熱い、挑戦するという想い。

 これは、期待できる。間違いなくいい勝負になる。

 

「ああ、立華君…今週中どこかで時間取れるか?俺だってスズカの件もあるし海外は初めてじゃないが、君は直近で海外に行って結果を出してるからな。よければ遠征時の注意点とか気にしてたこととか聞ければと思うんだが…いいか?」

 

「当然OKですよ、遠慮しないでください先輩。俺たちがあの結果を残せたのは…先輩の、先輩から預かったスズカのおかげでもあるんですから。俺なりに気を遣ってた事とか海外ウマ娘の情報収集とか、いくらでも手伝います。明日の午前中とかどうです?」

 

「助かる!やっぱ最高の状態でレースに出走させてやりたいからな…明日の午前でOKだ、それじゃ頼む!後でまたLANEするよ」

 

「了解です」

 

 俺は沖野先輩の依頼に快諾する。

 当然だ。俺は少なくともこの世界線で、この先輩とスズカには頭が上がらない。彼らの尽力のおかげで砂の隼は世界に羽ばたけたのだ。

 同じ想いは東条先輩とタイキにももちろんあって、こちらにも夏にお礼をさせていただいていた。

 タイキが好むであろうバーベキュー大会を私費で合宿中の砂浜で開催したのだ。リギルとフェリス、他にもウマ娘が集まってだいぶ盛大なパーティーとなっていた。

 いつか沖野先輩にも、という想いはあったので、これくらいならお安い御用である。少しずつ借りを返していけるようにしよう。

 

「それじゃあ時間もいい感じなんで、俺はこれで…ヴィック、頑張ってな。ゴルシも。…行くよ、オニャンコポン」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「おー!フェリスの奴らにもよろしくなぁ!」

 

「お疲れ、立華君」

 

 そうして俺は時間もいい感じに経過したため、それぞれに挨拶を交わし、オニャンコポンをヴィックから受け取ってチームハウスに戻るのだった。






以下、閑話。

────────────────
────────────────


「…サンデーさん?」

「昨日の夜、飲み会の後…どうなったの、かな?」

「いま私たちは冷静さを欠こうとしているの」

「何もしてねェって!マジで!」

 衝撃的な発言を立ち去る寸前に残した我らがトレーナーの、その内容が余りにも肉感的なものを含んでいたため、目の色が変わった掛かり気味のウマ娘3人に対してサンデーサイレンスは慌てて取り繕った。
 それぞれがジャージに着替えながらのそれなのでいささか緊張感に欠けるそれではあり、お互いの距離が昨日より幾分も縮まっているからこその問い詰めであることは間違いないのだが、サンデーサイレンスはこういう男絡みで問いただされるシチュエーションの経験に乏しく、3人娘から人生で初めて感じるタイプの圧を受けて戸惑っていた。

「違…違くてだな。そう、昨日はあの後随分タチバナと話が盛り上がってよォ…トレーニング理論とか、ああ、改めて話したらやっぱアタシの眼から見てもスゲーやつでよ…で、盛り上がりすぎてちっとアタシ飲みすぎちゃったんだよ…」

「ふむふむ」

「ほうほう」

「なのなの」

「で、恥ずかしい話なんだけどよ…肩貸してもらって、トレーナー寮まで送ってもらったのは覚えてんだが…その後寝ちまって記憶がねェ。朝起きたらベッドの上だったから多分部屋まで運んでくれて……いや待てって!そんな目で見るんじゃねぇ!そういうことは一切なかったから!朝起きてアタシも確認したから!」

「おっと失礼。殺気が漏れました。いえ、でもまぁお話を聞けば、成程といった具合ですね」

「お酒に付き合うのはまだ私たちできないもんね☆いいなー、ちょっと憧れちゃうシチュエーション…」

「あのトレーナー(クソボケ)が手を出すはずないし…それで、それじゃあサンデーチーフ、例の話の後はトレーナーと楽しく吞めたんだ?」

 サンデーサイレンスの語る話が若干怪しい方向に向かった段階でウサ美ちゃん目ェ怖ッな表情を浮かべた3人だが、しかし着地点を聞いて、かつサンデーサイレンスの初心な取り繕いを見た時点で「あ、何もされなかったな」と急速に理解を得る3人。
 同じウマ娘、女性として色んな感情(主に同情)を持ちつつも、しかし彼女たちがもう一つ懸念していた、あの話の後にちゃんと二人で楽しく呑めていたのか、という点については、サンデーサイレンスの前段の話から読み取れたため、それは安堵の部分だった。
 3人とも、既にサンデーサイレンスのことについてはチームの一員として受け入れている。修道誓願済のため恋のダービーの走者にもならないと聞いてもいたし、今の話の事を聞いて、二人が仲を深めることについてはむしろ喜ばしい事だった。

 だがそれは今のところである。

「ああ、やっぱアタシが見込んだトレーナーなだけあるわ。自分の事棚に上げて言うけどよ、あの若さだってのにトレーナーとしてとんでもねぇ知識量を蓄えてやがる。純粋にリスペクトだよ。アタシも話してて楽しかったな…ああいう男って、初めてだし……」

 ん?
 急に湿度が増してきたな?
 3人は訝しんだ。

「…あー、それに、アタシって結構外見にコンプレックス持っててよ…まぁアメリカじゃ気性難だとか言われてて、どちらかっつえばヒール側で…それなりに暴言吐かれたこともあって…でも、そんなアタシも褒めてくれたな、アイツ…」

 おっとぉ~…?
 事情が変わってきた。

「…男に面と向かって褒められるの、初めてだったからな…嬉しかった。…ああ、お前らが狂う気持ちもわかるってもんだ。あ、でも安心しろよ?前も行ったけど修道誓願してるのは間違いねぇしその気はねェ。…でも、ふふっ。涙、か…」

 照れる様子で何故か自分の髪、流星のあたりを撫でるサンデーサイレンス。
 その表情を見た彼女たち3人の想いは一つだった。

ちょろい女(クソザコ)…」

「昨日ファル子が注意喚起したばかりだよね?絆されるの早すぎない?」

「うちのトレーナーにウマ娘に対する適切な距離感を求めてはいけないの…一気に距離詰めてくるから。ソーシャルディスタンスがなってねぇの」

「やかまし!いいだろ別に、ちょっとくらいときめいたって!こちとら青春をトレーニングにしか費やさなかった喪女だぞコラ!」

「喪女って☆」

「どこでそんな日本語を覚えてきたんですか…?」

「オベにずっとそう呼ばれてた。…ん?あれ?これもしかして悪い意味合いの言葉か?」

「オベさんちょっとお茶目が過ぎるの…後でサンデーチーフに蹴られても知らないの…」

「オイ待てェ。アイツ『淑女って意味の日本語だよ』って言ってたけど違うのかこれ!?」

 いつもの3人に、一人が追加されただけで随分と(かしま)しくなるものだ。
 着替えに普段の倍くらいの時間を費やしながら、彼女たちチーム『フェリス』のウマ娘はコミュニケーションを深めたのだった。
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