【完結】閃光と隼と風神の駆ける夢   作:そとみち

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83 同期の桜

 

 

 

「……で、晴れ着を着て初詣行こうぜって話になったんだよ。俺の実家が呉服屋でさ、ちょうどいいやって実家に連れてって服選ぶついでに年越ししたんだけど、その時にウララが思いのほか着物を気に入って…それで、勝負服もそれをモチーフにしたってわけ」

 

「あー、成程…初咲さんの実家絡みだったんだ、道理で。いや、マジで似合ってたなあの勝負服」

 

「だろ?へへ、結構自信作だぜ。ウララもかなり気に入ってくれてさ、徹夜でデザイン組んだ甲斐があったわ」

 

 俺は9月上旬のカフェテリアで、目の前に座る同期のトレーナーと二人で昼食を取っていた。

 初咲トレーナー。

 ハルウララの担当にして、トレーナー2年目にしてGⅠも獲得している、若き精鋭トレーナーだ。

 なお、円形テーブルの対面に座る俺たちの横の椅子の上では、オニャンコポンがもっちもっちと猫缶を食べている。カフェテリアでオニャンコポンがエサを食べてると結構なウマ娘が頭を撫でていったりする。

 

「つってもそっちのウマ娘だって勝負服可愛いじゃん。エイシンフラッシュなんかあれ、相当攻めてるよなー。あれ立華さんのセンス?」

 

「残念ながら俺じゃないよ。服をデザインするセンスは全く自信がなくてね、彼女たちとスタッフさんにデザインは任せてた」

 

「…ってことはあれ本人のデザインなのか…意外だ…」

 

「そうかな?彼女らしい素敵な勝負服だと思ってるけど」

 

「いやキレイではあるんだけどさ。まぁ…そうか、ドイツ出身だもんな。似合ってるのは間違いない」

 

 俺の方から振った勝負服のデザインの話でだいぶ盛り上がる。

 ウララの勝負服、最初に見た時に見事に俺が脳破壊された晴れ着の理由については話を聞いて納得した。

 彼の実家が呉服屋を経営しており、それを見たウララが着物の素晴らしさに目覚めて、という流れだったようだ。

 なるほど納得。そのうえで、呉服屋育ちでそういうセンスにも明るい初咲さんが彼女にピッタリの勝負服をデザインした、という事なのだろう。

 服飾センスがあるのが羨ましい。

 後でそういう女性向けの服に関する選び方のコツとか教えてくれねーかな。

 

 ちなみに。俺と初咲さんは同期のトレーナーであって、当然だが仲は悪くない。

 ウララ関係は俺の一方的なヘコみも一時期あったが、愛バ達のおかげで落ち着いて飲み込めた。それに彼もまた熱い心を持つトレーナーで、ウララのことも心配はいらないし、これまで通り同期として仲良くやっていけている。

 

「ところでさ、立華さん」

 

「ん、どうした急に小声になって」

 

「いや、ほら…9月からそっち、サブトレーナーがついたじゃん。どうなのかなって思って…あのサンデーサイレンスだろ?噂じゃ気性難とか聞いたけど…」

 

「ああ…そりゃ根も葉もない噂だよ。トレーナーとしての熱い想いもあるし、走りやトレーニングについての造詣も深い。日本で頑張ろうって気持ちも見えるし、素直で素敵ないい子だよ?こないだ飲みに連れてった時は可愛い所も見れたしな。気の置けない妹って感じ」

 

「……俺、立華さんの事トレーナーとして尊敬してるけどさ。そういう所だと思うよ…ウマ娘を相手にするときのその距離の詰め方とか…そういうさぁ……」

 

「どうして急に俺への酷評になった…?」

 

 初咲さんから新たに話題が出されて、俺はSSへの素直な感想を零す。

 ここ2週間弱共にチームの仕事をしたが、彼女はやはりその強い想いの通り、熱意をもってトレーナー業に努めていた。

 頭の回転も素晴らしく早く、要領が良くて物覚えもいい。現役時代は一人で何でもしてきた、という自負は言葉通りなのだろう。そうでなければ3か月弱で日本の中央トレセン編入試験を合格していない。

 

 それに、チームメンバーとの仲も良好だ。

 先週末には俺の出した言いつけ通り、彼女たちはSSの部屋の荷解き、整理を手伝ったらしく、随分と生活感にあふれる部屋の写真がLANEで送られてきているのを見て俺もほっこりとした気持ちになった。

 ちょうど今日も、カフェテリアの俺達からだいぶ離れたところで、4人で揃って食事をしているのが見えた。

 

「…なぁフラッシュよォ。お前の食べてるそれ、なんだ?結構な匂いがすんだが」

 

「これは日本の文化的食材、納豆です。美味しいですよ?大豆が原料ですから栄養も満点です」

 

「ウマ娘で納豆好きな人って結構珍しいよね…☆私も嫌いじゃないけど…匂いが強くて」

 

「あたしは実家でよく食べてたから慣れてるけど。サンデーチーフは海外ウマ娘だしどーだろ、お口に合わないかも?」

 

「いや…試す。大豆は肉が食えねェアタシにとっちゃ貴重な栄養源だ。フラッシュ、ちょっと分けろ」

 

「ええ、どうぞ。よくかき混ぜて、ご飯の上に載せて食べてみてください。こう、ねりねりと」

 

 遠目に観察していると、どうやらSSが日本で初めて納豆に挑戦する所のようだ。

 どうだろうか。フラッシュは海外ウマ娘にしては本当に珍しく納豆を好みとしているウマ娘だが、SSの口にはあうだろうか。

 無心でねりねりしているSSが随分とあの場になじんでいる。身長がチームのウマ娘の中では一番低いこともあって、最年長には見えないな。

 まぁウマ娘はいつでも若く見えるのが種族的特徴ではあるが。

 

「ねりねり……こうか?」

 

「サンデーチーフ、箸の使い方上手なの」

 

「こんなんペンを弄るのと変わらねぇだろうが…どれ、あん、んむ………んん!?」

 

「ダメかな☆?無理しなくていいよサンデーさん?」

 

「……いやッ!美味ェ!はは、なるほどこりゃいいや!パンに載せてもイケそうだぜ!味噌汁といい、日本は大豆料理が美味ェのばっかりだな!」

 

「美味しさが分かっていただけて良かったです。ふふ、納豆仲間が増えました」

 

「大豆料理だと豆腐なんかも有名だね、日本だと☆」

 

「今度大豆パーティでも開く?」

 

 どうやら気に入ったらしく、早速納豆を追加注文に行くSSの姿が見えた。

 チームメンバーの仲が良くて何よりである。

 思わず俺もほっこり笑顔。

 

「…なんか、マンハッタンカフェそっくりの顔であんな感情豊かにしてるの見ると脳がバグるな」

 

「そう?確かに髪型とか顔は似てるけど…よく見ると全然別人だぞ?」

 

「いやそりゃ一部(胸元)は明らかに別人だけどさ。…まぁいいや、立華さんがついてりゃ問題ないだろ多分。今度実際にレースを走った立場からの、色々な話を聞きたいな」

 

「ちゃんとお願いすれば問題ないと思うよ。口利きしてもいいし」

 

「ああ、その時は頼むわ」

 

 なぜかそんなSSの様子を見て憮然とした顔をする初咲さん。

 だが彼女は付き合えば付き合うほどカフェとは違う人だというのはわかるし、何より今中央トレセンにいるトレーナーの中でも、実際にGⅠレースを勝ち抜いたレジェンドウマ娘、という経験を持っているのは彼女しかいない。

 ウマ娘のトレーナーはベルノライトもいるし、サブトレーナー資格を持つウマ娘も複数人存在するが、現役を退き専門的な知識も有するとなれば、SSが初めてのトレーナーとなる。

 彼女の持つ経験は他のトレーナーからしても垂涎ものだろう。もっと学園に馴染んだら、色々アドバイサーとして他のチームに派遣とかして経験を積んでもらってもいいかもしれないな。

 

「…そういえばさ、立華さん。聞こうと思ってたことがあったんだ」

 

「ん、何だい?答えられることなら答えるけど」

 

「気遣って言ってくれてるんだと思うけど、マジで答えにくければノーコメでいいからな。…JBCだよ。そっちのファルコンがどれに出るのか、って話」

 

「……あー………そうね……」

 

 俺は初咲さんから問いかけられたそれに、どう答えたものかと思案した。

 先日のミーティングでJBCレディスクラシックに出走することを決めてはいたものの、まだ世間には公表していない。

 今のところウマッターや記者を通じて出走を発表しているのは、フラッシュは神戸新聞杯から菊花賞へ、ファルコンはとりあえずシリウスステークスへ、アイネスは紫苑ステークスから秋華賞へ、そこまでの予定だ。

 特にファルコンのJBCの出走レースについては、他のウマ娘がどのレースを選ぶか、対策を取ってくるかに大きな影響を与えるところとなるため、10月前半のころには発表しようと思っていたが…。

 

「…ああ、いや。別になんつーか、それを知ったことでウララの出走レースを変えようとは思ってないんだ。ただ、実際ぶつかり合うってことになれば早めに心構えをしておきたいなと思って…なにせ世界の隼だしな」

 

「んー。…気持ちはわかるけど、ここで初咲さんだけに伝えちゃうのも他のトレーナーやウマ娘に不公平だからさ。10月前半には発表する予定だから、それでいい?」

 

「ああ、そうだよな…いや悪い、浅はかな質問だったな。気にしないでくれ」

 

「大丈夫。気持ちはわかるしね」

 

 ウララの為に備えたい、という想いがあるからこそこうして質問をしてきているのは理解している。

 無理に聞き出そうなどともしていないし、怒ることでもない。俺は頷いて初咲さんへ返した。

 

「ちなみにウララは地方重賞を2つ出てからJBCスプリントに出走するから」

 

「ぶっほ!……初咲さんから伝えてくるのはズルくない?」

 

「ズルくないさ、明日には発表する予定だったしな。もしファルコンが短距離に出てくるなら望むところだぜ。…まぁ、俺の読みではファルコンは次のチャンピオンズカップに備えるためにレディスクラシックに行くんじゃないかと思ってるけど」

 

「いい読みだ、とだけ答えておくよ。…ってことは、ウララもチャンピオンズカップには?」

 

「勿論。得意距離だぜ、狙わない理由がない。…そこでリベンジの機会が出来そうかな?」

 

「ノーコメントでフィニッシュです」

 

 俺は肩を竦めて初咲さんの言葉をのらりくらりと躱す。

 初咲さんの方からウララの出走レースを言ってきたのには驚いたが、まぁ俺の様に発表をギリギリまで焦らす方針ではないのだろう。そこには駆け引きというよりも、宣戦布告の様な清々しさすら感じられる。

 もしJBCスプリントに来るならいつでも来い、という闘争心だ。

 とはいえ、それを聞いたからと言って、俺からファルコンに出走変更するかと問いかけるつもりはない。公式にウララの出走レースが出た時点で、それを目にしたファルコン自身がどう考えるか、それに尽きる。

 前のミーティングでも言った通り、いずれチャンピオンズカップでぶつかることも予想されるし、JBCには他にもカサマツ組など強豪ウマ娘が集結する。

 あえて得意距離ではないスプリントに出ていく事をファルコンは選ばなそうだが、後で話だけ通しておこう。

 

「はは、あの隼がダートのGⅠレースを我慢できるもんか。…俺もしっかりウララの脚を整えて挑むからよ。万全の状態で頼むぜ、立華さん。そんな隼に勝つのが目標だからな…余計な心配だろうけど」

 

「誰にモノ言ってんだい。俺だぜ?安心しろよ、最高の状態で隼を送り出してやるから」

 

「ひぇ、怖い怖い。…でも、いつか絶対勝ってやる。それじゃ立華さん、俺はこれで。ごっそさん」

 

「ああ。ウララにもよろしくな」

 

 俺たちはそうして最後に、お互いのウマ娘が競い合うレース…そこへの想いをぶつけ合い、カフェテリアを後にした。

 彼らとの再戦は近い。チャンピオンズカップで戦う事になる季節外れの桜に、砂の隼が勝つ様に。

 俺も一層の熱意をもってファルコンを、他の二人を、しっかり仕上げていこう。

 

 

 

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