【完結】閃光と隼と風神の駆ける夢   作:そとみち

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89 トレーナーズカップ ②

 

 

「では一着となりましたオニャンコポンさんにインタビューですッ!オニャンコポンさん!今のお気持ちはッッ!?」

 

 ニャー。

 

 ────────ドッ。

 

 インタビュアー役のサクラバクシンオーが構えるマイクに向けて呑気に鳴き声を返し、そうしてまた観客席が大爆笑に包まれる。

 この学園でオニャンコポンを知らないウマ娘はいない。一番人気のネコ娘だ。*1

 俺は勝利者のお立ち台、その真ん中の一着の席で「トレーナーズカップ一着」と書かれたタスキを体に掛けられたオニャンコポンを壇下から眺めて、苦笑を零す。

 

 いや、全く信じられない決着となってしまった。

 俺だってまさかあの瞬間にオニャンコポンが飛び出すとは思わなかった。

 あいつ頭いいからな。何度も何度もウマ娘達の練習やレースを俺の肩で眺めているうちに、どこがゴールなのか察していたのだろう。

 学園祭のイベントとしては最高のオチがついたってもんだ。

 

「やれやれ…まさかオニャンコポンにやられるとはなぁ…」

 

「沖野先輩はいいじゃないですか、賞品はチーム『スピカ』に送られるんですから」

 

「そうですよ。私なんてなんとか3着にはなるまいと思ったのに、まさかのこれですからね」

 

 壇上、2着の位置に立つ沖野先輩と、3着の位置に立つ南坂先輩が苦笑と共に呟いた。

 俺はオニャンコポンに出し抜かれたので見事に4着だ。忸怩たる思いである。

 ゴール後、後ろから追いついてきたエイシンフラッシュがものすごい笑顔で俺の尻をパコーンと叩いていったが、ふがいない順位を取ったこともあり、甘んじて受け入れることにした。

 やっぱりすげぇぜ…先輩方!

 

『見事なレースだったな。改めて、素晴らしい勝負を見せてくれたトレーナーの皆様に、皆、万雷の拍手を送ろう!』

 

『おー!!めちゃくちゃ面白かったぜぇー!!ありがとよー!!!』

 

 ────────ワアアアアアアアアアアッ!!

 

 そうして俺たちの頑張りは、彼女たちウマ娘からの拍手で讃えられた。

 ああ、成程。全力で走った後に受ける拍手とは、こんなにも気持ちが良いものなのか。

 そして、同時に負けた悔しさもこみあげてくるものなのか。

 本当にこのレースは様々な学び、ひらめきがあった。

 この経験は間違いなくこれからの指導に活かせることだろう。

 

「…ふー、いや、でも楽しかった。それじゃ、これで終わりかね…」

 

 俺は壇上のオニャンコポンを肩に戻した。先輩方もそれぞれ壇から降りる。

 もう終わりか、と若干の寂しさも漂わせながら、そうして去ろうとしたところで。

 

『─────さあ、それじゃ続きましてトレーナーズカップ()()()()()!!始めていくぜェーーーーーッッ!!』

 

 ……なんて?

 俺はゴールドシップの実況を、聞き間違えたか、と首をひねる。

 

 今の俺たちのレースは第一レースだったのか?

 そうなると、何か?もう一度やるのか?レースを?

 

 いや、しかし言っちゃなんだが、大手チームのトレーナーはさっきのレースで大体走った。

 1人だけ担当を持つ専属トレーナーはまだまだ人数はいるが、しかし先ほど初咲さんがカメラを回して裏方に回っていたことを見ると、今回のレースはチームトレーナーだけを対象にしたものだと思ったのだが。

 

 …いや、待て。

 よく思いだせ。観客席を。

 ここに至るまでに、本来いるべき人たちがいなかったのを。

 

 そう、俺たちは先ほどレースを全力で走ったが。

 そこにいたのは、()()トレーナーだけだった。

 

『第二レース、芝800mの左回り…そして参加するトレーナー方は……こちらの方々だ!!』

 

 いつの間にか移動していたゲート前に、中を包み隠すタイプの天幕が張られていた。

 それがウマ娘達の手によりばさぁっ!!と開かれる。

 その中から現れたのは。

 

「……………はぁ………帰りたいわ…」

 

「……すみません。なぜ僕だけ園児服なんでしょうか」

 

「…キツい……この年齢でこの格好はキツいってぇ…!」

 

「ふふ、体育着を着るのも久しぶりですね!よーし、負けませんよ!」

 

「桐生院トレーナー、どうしてそんなに元気なんですか…?…私は、まず走り切れるか……」

 

 女性のチームトレーナー達が、体操着(若干一名は園児服)を身にまとい、そこにいた。

 

『名付けてレディストレーナーズカップ!!さぁっ!!思いっきり走ってもらうぜぇーーーっっ!!』

 

 ────────ワアアアアアアアアアアッ!!!!

 

 

────────────────

────────────────

 

 

 …うわキッツ。

 

 などと失礼な思考は勿論していない。本当です。

 その天幕の中にいたのは、チームを担当する女性トレーナーの皆様方だ。

 次は彼女たちがレースを繰り広げるという話なのだろう。

 

 しかし、装いが違った。

 俺たちは私服…とはいってもスーツ*2などのトレーナーも多かったが…とにかく、特に着替えなどせずそのまま走らされていた。

 だが、女性トレーナーたちは全員着替え済みであり、そうして着用しているのはウマ娘達が走る時に着る体操着だ。

 練習中などにジャージを着るトレーナーは多いが、体操着は基本的に着ない。

 大人が体操着を着るのは一般的にヤバい。

 

 しかし、なぜか今、そのヤバい光景が目の前に繰り広げられていた。

 

 ────────東条トレーナー脚キレー!!ファイトー!!

 ────────奈瀬ちゃん可愛いぃぃ!!いい子でしゅよぉ~~~~~!!!

 ────────コミっちゃーん!!きばれやぁ!!

 ────────桐生院トレーナー、ふぁいと、おー。

 ────────樫本トレーナー!!頑張ってくださいッッ!!

 

 ウマ娘達は思い思いに応援するが、大人の男性である我々としてはかなり目のやり場に困る。

 目を向けていいものか?逸らしたほうがいいものか?

 両隣の先輩方を見てもやはり同じような様子だ。いや南坂先輩はそのいつもの微笑みでどこを見ているかわからない。やるなパイセン。

 

『今回は女性のトレーナーが走る事になるが、男性陣とは違って洋服に伸縮性がない方も多かったからね。事前に体操服に着替えてもらっている』

 

『おー!!結構似合ってるじゃねぇかよー!!でもなんで奈瀬トレーナーはスモックなんだ?準備してねーぞあれ?』

 

「……クリーク!!クリーーーーーーク!!!」

 

 その中で唯一、体操着ではなく園児服*3を着用している奈瀬先輩が急によろしいならばクリークだと言わんばかりに愛バの名前を叫び出す。

 おいたわしや奈瀬先輩…。

 きっと奈瀬先輩をドナドナするというシチュエーションにスーパークリークの母性が暴走してしまったのだ。魔王が降臨し、強制的に園児服に着替えさせられてしまったのだろう。あの時の俺と同じだ。

 強く生きてください…奈瀬先輩…!

 

「はーもーまったく!!私たちは男どもと違ってか弱いんだからねー!!まさかお尻ひっぱたこうなんて悪い子はいないわよねー!?」

 

『ああ、安心してほしい小宮山トレーナー。流石に今回は後ろから追いかけるウマ娘は準備してないよ。あれは男性トレーナーだけのイベントだ』

 

『まーそれでも全力で走って貰いてーけどなー!!もちろんこっちのレースだって同じく賞品を準備してるぜー!!』

 

「む、賞品がある…!よーし、頑張りますよミークの為に!」

 

「頑張ってください桐生院トレーナー。私は貴方にチーム『ファースト』の勝利を託します。…しかし、こんな企画、いったい誰が考えたのか…」

 

 彼女たちのやり取りを聞くに、どうやら今回はケツハリセン部隊は派遣されなかったらしい。

 何よりである。俺も女性トレーナーの尻を狙って走るウマ娘の姿は見たくない。

 いや男性トレーナーの尻も狙ってほしくなかったが。

 

 しかしそんな会話の応酬の中で、樫本先輩がぼそりとこの企画についての疑問を零した。

 確かに。いや、この企画自体は面白いものだと思うが、いったい誰がこんな企画を考えたのだろうか?

 これまでの世界線では一度もなく、今回が初めてだ。つまりこれまでのループではなかったような、突拍子もない発想をしたウマ娘がいたという事になる。誰だろう?

 

『ああ、樫本トレーナーの質問に答えよう。この企画は────チーム『フェリス』からの立案だ。企画書を見て即採用し、実行委員長になったのは私だがね』

 

 へー。『フェリス』とかいうチームのウマ娘がこの企画立てたのかー。

 

 ・

 ・

 ・

 

 俺んところやろがい!!?

 

「ちょっとぉ!?初耳なんだけど!?フラッシュ!?ファルコン!?アイネス!?どうなってんのぉ!??!?」

 

 俺は思わず叫び、そうして観客席にいる俺の信頼する愛バたちへ目を向ける。

 全員目を逸らしやがった。君達。

 

「……立華トレーナー?」

 

「……どういう、ことですか?」

 

「立華君?ちょっと??」

 

 東条先輩と奈瀬先輩と小宮山先輩と、他桐生院さんを除く全女性トレーナーからの視線が俺に突き刺さる。

 

 お、俺が悪いってのか…?

 俺は…俺は悪くねえぞ。

 だってチームのウマ娘達がやったんだ……そうだ、たぶんファルコンあたりがやれって!*4

 こんなことになるなんて知らなかった!誰も教えてくんなかっただろっ!

 俺は悪くねぇっ!俺は悪くねぇっ!

 

 脳内でそんな現実逃避からくる責任逃れを叫んでいると、東条先輩が指笛をピィー!と綺麗に鳴らした。

 するとどこから飛んできたのか、エルコンドルパサーの相棒にして今はチームリギルのマスコットとして周知されている鷹のマンボが俺の頭上にやってきて、その鋭い爪で攻撃を仕掛けて来た。すごい飼いならされてる!

 グワーッやめろーっ!!マンボの爪地味に痛ぇー!!

 オニャンコポン…ガード頼む!!あっ駄目だあいついつの間にか沖野先輩の肩に逃げてやがる!!グワーッ!!

 

「立華トレーナー。…今度、僕のチームのウマ娘全員を誘って、高級寿司の奢りで手を打ちます」

 

「ハイヨロコンデー!!」

 

「立華君、私はチームメンバー全員にスイーツおごりね!最高級のやつね!もちろん私のも!!」

 

「ハイヨロコンデー!!」

 

 俺は他にも女性トレーナーから様々な依頼を受けて、全て快諾した。

 後で男性トレーナーからも言われるような気がするがその時はレースの勝敗を引っ張り出して断ってしまおう。

 

「立華君。うちのチームメンバーにも奢り頼むわ」

 

「カノープスにもお願いします。うちの子達は舌が肥えていますから、良い店を選んでくださいね?」

 

「ハイヨロコンデー!!」

 

 この二人から言われたら断れない。

 俺は随分とたまった貯金がごっそり軽くなるであろうその将来を予想してげーっとため息をつくのだった。

 

 

────────────────

────────────────

 

 さて、そうして俺はマンボとも和解して右肩にオニャンコポン、左肩にマンボを携えて、ゲート入りが完了したスタート地点を眺める。

 それまではまぁ一悶着もあったが、しかし彼女たちだって中央が誇るトレーナーだ。

 ゲートの前に立った瞬間に表情は極めて真剣なものとなり、この経験から育成のヒントを見落とすまいと気を引き締めているのが見えた。

 

『全員ゲート入りが完了したな。…トレーナーズカップ第二レース……スタートだ!!』

 

『さぁけっぱりやがってくださいましお前らーっ…ってあーっとスタート直後に転倒!!転倒です!!』

 

『樫本トレーナーがやられたか…!彼女はトレーナーの中でも一番の運動音痴…!』

 

 ────────樫本トレーナー!!大丈夫ですか!?!?

 ────────樫本トレーナーをバカにするなよ皇帝ーーーっ!!

 

 スタート直後に見事にすっころんだ樫本先輩を見て、俺はあぁ、と天を仰ぐ。

 やると思っていた。

 なんならスタート前にどうやって走り出すか、手と足どっちを前に出すかで悩んでいたので、かつての世界線で彼女のチームのサブトレーナーをしていた時の記憶が蘇ってきた。

 うん。理子ちゃんらしい。

 そして彼女の愛バであるリトルココンとビターグラッセがそれぞれ叫んでおり、謎の懐かしさが俺の中に溢れるのだった。

 

『怪我はなさそうだな!しかしそれを助け起こしに桐生院トレーナーが戻っていったぞぉー!?レースで逆走は初めて見たぜぇー!!』

 

『いいスタートだったが、これも麗しき師弟愛と言ったところか…!他のトレーナーもそれぞれいい位置についたようだ。800mだから位置取りは極めて重要になる』

 

 スタート直後のトラブルの後は、各トレーナーがそれぞれ自分の担当ウマ娘の得意な位置取りを選び、走る中で表情をさらに真剣なものに変えていく。

 

「あー、そうなるよな、そりゃそうなるよ。おハナさんめちゃくちゃ真剣な表情だな…」

 

「他の方々も、鋭い眼差しですね。…奈瀬トレーナーはお洋服のおかげで少し威厳が薄れていますが」

 

 先程実際に走った俺達だからわかる。

 このレースは、トレーナーにとってあまりにも学びが多い。

 当然ながら今走っている彼女たちも、位置取り、牽制、圧、ペース配分など、己のウマ娘の為になるだろう経験を貪欲に吸収しながら走っていた。

 走りも当然真面目な物へと変化していく。性差はあるので先ほど走った俺達よりもだいぶタイムは遅いが、しかしこれだって女性のマラソンペースとしてはかなり早い。

 みんな全力だ。

 わかる。

 

『これはっ…中々、デッドヒートの様相になってきたな!奈瀬トレーナーがここで大きく深呼吸し、スタミナを温存しながらコーナーを回る!』

 

『だが最後方の位置から小宮山トレーナーがアガってきたぜぇー!!滝登りみてぇな速度で先頭を狙っていくゥー!!』

 

『負けじと他のトレーナーも速度を上げていく…!東条トレーナーがここでギアを変えたかのように加速した!頑張れ、東条トレーナー!』

 

 ────────カッコいいーっ!!

 ────────素敵ーーーーっ!!

 ────────負けないでぇーーっ!!

 

 実況の熱も高まり、ウマ娘達も男性トレーナーを応援している時よりも、大人の女性たちのその本気の姿に惹かれるものがあるのだろう、凄まじい歓声が彼女たちを包んでいた。

 そして残り200mに差し掛かる。

 最後にぐんっと位置を上げた小宮山先輩が、先頭の東条先輩と2番手の奈瀬先輩を差し切らんとさらに加速を果たし、しかしそれに負けまいと二人も歯を食いしばり、速度を落とさない。

 これは3人の勝負になるか…と、俺達も、観客も、実況解説も思っていた。

 

 その時だ。

 

『さあ残り100m…ッな、なんだと!?』

 

『なんだーっ!?最後方から吹き上がる一陣の黒い風ッ!!内ラチギリギリに、なんてこったぁ!?』

 

『なんとっ、ここで桐生院トレーナーが!!樫本トレーナーを背負ってぶっ飛んできたぞ!?!?』

 

 う…うぁぁぁ!

 き…桐生院が最終直線を練り駆けている!

 何だあの加速!?人を背負った人間が出していい速度じゃないが!?

 

「嘘だろオイ…」

 

「あの加速は…私でも、あれほどは…」

 

 流石にそれを見た沖野先輩も南坂先輩も驚愕に目を見開いた。

 なんなら観客席のウマ娘全員だってそうだ。

 

『すんげぇ速度だ!!見る見るうちに差が詰まっていくぜぇ!!ウマ娘並みの加速だぁ!!残り50m!!』

 

『これは……止まらない!!今、他のトレーナーを撫で切ったッ!!』

 

『そのままの勢いでゴーーーーーーーーーーーーールッッ!!!…いやー、伝説しか生まれねぇわこのレース…』

 

 そうして桐生院トレーナーが、背負われて死にそうな顔をしている樫本先輩と共にゴールラインを割った。

 しかし、その猛スピードに振り落とされないよう必死にしがみついて背負われていた樫本先輩は、かなり高い位置、桐生院トレーナーの肩に腰を置くような体勢であった。

 それは、頭が背負う側よりも前に位置するということを意味する。

 桐生院トレーナーよりも樫本先輩のほうが身長が高いこともあり、頭の位置が樫本先輩のほうが前にあった。

 

 そして、掲示板にレース結果が表示される。

 

 

 

 

 【トレーナーズカップ 第2R レース結果】

 

 

 1着  樫本トレーナー

 2着  桐生院トレーナー ハナ差

 3着  東条トレーナー  1バ身差

 4着  小宮山トレーナー 1バ身差

 5着  奈瀬トレーナー  クビ差

 

 以下  タイムオーバー(生還)

 

 

 

 

 

 

「駄目だ…こんなレースばっかり見てたら頭おかしくなる…!!」

 

 ゴール前、その衝撃の光景をばっちりカメラに捉えた初咲トレーナーの慟哭に、しかし周囲のウマ娘も同意をもってざわつきを返すのみだった。

 

 

────────────────

────────────────

 

 凄まじいレースだった。

 走っていないのにおぶさって揺さぶられた酔いと衝撃でへたりながらも1着のタスキを壇上で受け取る樫本先輩に、ウマ娘達から拍手が送られる。

 そして2着のトロフィーを受け取る桐生院トレーナーに対しては、ざわつきと共に万雷の拍手が送られた。

 いや俺もそうするわ。

 桐生院トレーナーの身体能力は、まぁ、これまでの世界線でもトップアスリートレベルだとは知っていたが、しかしまさかこれまでの世界線で全力を見せていなかったとでも言うのか?

 コワイ。

 

『うむ…まさか、ここまで衝撃的な結果になるとは思っていなかった、な…』

 

『ぶっちゃけるぜ?アタシ、人ひとり背負ってあの速度で走れる自信ねぇわ。桐生院トレーナー、もしかして耳とか尻尾とか隠してたりする?』

 

「してませんー!!本気で走っただけですー!!」

 

 ぷりぷりと怒る桐生院トレーナーだがその佇まいに鬼を感じるのは俺だけだろうか。

 そうして準備されていた賞品を無事ゲットしたチーム『ファースト』の優勝ということで、第二レースは幕を閉じた。

 

 しかし、これでようやくトレーナーズカップが終わったと思っていいだろう。

 うちのチームの誰かが発案した企画である。無事に終わって何よりと言ったところだ。

 色んなトレーナーに奢る約束をしたのは財布が痛むが、そもそも俺の財布なんぞ掘ればいくらでも出てくる油田みたいなものだし、これを機にまたトレーナーやウマ娘と交流を深められると思えばプラスまである。

 

 そしてこの企画、俺たちが実際にレースを走るというのは、とても楽しかった。

 学びが多かったし、トレーナー同士の仲も深められた。ウマ娘達もとても楽しんでくれたみたいだ。

 いいな。これはファン感謝祭の恒例にしてもいいかもしれない。

 レギュレーションや距離などを煮詰めれば、更に面白くなるだろう。素晴らしい経験を積むことが出来た。

 

 男女それぞれが走り終えたので、あとは今マイクを握ったルドルフが、閉会の挨拶をするのを聞くだけだ。

 ────────と、思っていたのだが。

 

 

『────────さて。では、本日の最終レースにして、メインレースを始めるとしようか』

 

 

 …そこにいたのは、ルドルフではなかった。

 いや、シンボリルドルフであることは間違いない。ただ、生徒会長としての彼女ではない。この企画の実行委員長としての彼女では、ない。

 

 そこにいたのは、絶対の皇帝。

 

 バチッ、と足元から稲妻が迸るような幻覚が見える。

 その戦意を己の内に抑えきれず、溢れさせている。

 それを見ていたウマ娘が、俺達トレーナーの体が、震える。

 

 そして、その変化は隣のゴールドシップも同様だ。

 彼女たちウマ娘は今日というファン感謝祭に備えて、勝負服を着たまま一日を過ごしている。

 そんな勝負服の彼女らが、明らかにレースに臨む前の雰囲気を見せて、新たにゲートに向かっていく。

 

 俺は、そこでようやく思いだした。

 シンボリルドルフ。ゴールドシップ。

 

 この二人は────────チームの、()()()()()()()だ。

 

 

「へへ…自分のチームで()()()()()()()()()()()()()()、全員出てきな。あたし達で決めようぜ、トレセン学園最速のトレーナーをよ」

 

 

「さあ────────夢のレースの始まりだ」

 

 

 

 最終レース。

 チームのサブトレーナーを務めるウマ娘達による、夢のレースが始まろうとしていた。

*1
異議ッ!!私の猫も可愛いぞッッ!!

*2
体を動かすことも多いので基本的にストレッチスーツを愛用するトレーナーが多い。

*3
なぜかサイズがピッタリである。

*4
主犯はフラッシュである。

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