こんじょう色、そして空騒ぎ   作:よくかんさん

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 ティファ・アディールは夢を見た。

『青い巨大なロボットが怪獣と戦う夢』

 言葉で表すと平和な時代の特撮に憧れる男児が見るような夢だが、ティファが見た夢となれば話は別だ。

 

 ティファの夢は現実となる。

 彼女は『ニュータイプは宇宙で発現する』というセオリーから外れた『地球上で自然覚醒したニュータイプ』だ。彼女の力は思念を心で感じ取り、近い未来を予知夢として見るというニュータイプでも高レベルの感応力を持っていた。しかし、戦いを望まない少女にとってその人間離れした能力はただの足枷でしかなかった。

 少女の見る夢は『悲しい夢』。戦火と死、ニュータイプを欲望のまま欲する者達の邪心が作り出す逃れられない悪夢。ニュータイプという言葉に縛られた者たちの渦巻く怨念は少女の人生を大きく狂わし、少女はその怨念から少しでも逃れる為に自意識を心の奥へと深く押し込めた。

 しかし、MS狩りを生業としていたガロード・ランの出現により少女の運命は変わっていく。これ以上心を傷つけられないよう封じていた自意識が、少女に恋した少年の純情により小さくも大きな変化を起こし始める。

 そんなティファのターニングポイントの折に見た『青い巨大ロボットの夢』。それが、魔都に現れた。

 彼女が乗船する戦艦フリーデンはメンテナンスの為、目的の拠点基地がある日本国を前に上海に寄港することとなった。

 光化学スモッグにより星の見えない夜。朧月の薄白い光さす街に、恐竜帝国は人類の歴史に再び新しい爪痕を成す。突如、上海の街がハチュウ人類の侵攻を受け火の海となった。

 ハチュウ人類は激減した戦闘員の確保のため、強靭な人間を拉致し、尖兵に作り変え操ろうとしていた。そこで選定されたのが闇プロレスの覇者、一文字號だった。

 興行で上海までやってきた號を『捕獲』しようとハチュウ人類達がメカザウルスを待機させる中、時を同じくして一文字號を『確保』しようとする男がいた。男の名は、神隼人。號は襲いかかるメカザウルスから立ち向かおうとする中、隼人の導きによりプラズマ駆動のゲッターロボ『ネオゲッターロボ』に乗る。

 隼人が迫った死か地獄かの選択肢もお題目も関係ない。理由があって戦っているのでもない。目前の敵を倒すという芯から燃え盛る闘争心、それが號の身体を突き動かしていた。

 青い巨大ロボット『ネオゲッター1』を持ち前の戦闘センスで駆り、見事に怪獣の如き機械竜『メカザウルス』を屠る。

 少女を知る者達は言った。ティファの夢が本当になったと。だが、少女にはそれが自分の見た夢と違うザラッとした引っ掛かりを感じていた。

 

―もっと、青いロボットは『青』かった。でも何処か赤みが差してて深く、鮮やかで、触れるものを溶かしてしまいそうな……青の色……そして……。

 

 その事象から数ヶ月が経ち、ティファは忘れかけていた『青い巨大ロボット』の夢に続きがあった事を知る……のだが、こうも出だしが重い話になるのも難だ。ここで、春をひた走る少年の迷走恋模様を少し覗いてみようと思う。

 

 

「一緒!?ティファと號が一緒!??トニヤそれどういう事!???」

「さあ?でもなかなかいい雰囲気だったわね〜。ティファーったら號の目をじぃーっと見て珍しくニコニコーって笑ってたもん」

 トニヤに見られまいと背に隠した星見野アミューズメントパークペアチケットが、ガロードの手からひらりと落ちる。しかし、今のガロードにはチケットが落ちた事よりも、トニヤの『爆弾発言』が投下されたことで頭がいっぱいいっぱいになっていた。

 

 ガロードは閉じこもりがちのティファに少しでも楽しんでもらおうと、アミューズメントパークフリーパスチケット争奪戦でペアチケットを勝ち取る事に成功した。

 ガロードのツテを使えば裏から手を回す事もダフ屋に頼ることもできただろう、しかしガロードは一切そのような事はしなかった。ティファには何も後ろ暗い事なく、遠慮なく心から遊びを楽しんで欲しい。真心と、『好きな子の笑顔が見たい』という青い男心をチケットに託して、ガロードはティファのいる船室へと足早に向かった。だが少女はいなかった。フリーデンの船医テクスのメディカルルームにいるのかと行ってみたが又してもティファの姿はない。ではティファが目的地への夢を見た時に絵を描いているラウンジにいるのだろうかと走ってきたが、そこにも少女はいなかった。

 何があったのではないかと不安と落胆に肩を落としていたその時、トニヤがひょっこりとラウンジにやってくる。焦ってチケットを隠し、何でもないと慌てふためくガロードにトニヤは目ざとく探りを入れ、一つ一つに初々しく反応する様を楽しんでいた。

 そこにサラの言伝を伝えに来たウィッツがトニヤを呼び戻し事を収め、いつも通りの平時のフリーデンの日常がやってくる……はずだったところに『號とティファがミーティングルームに一緒に行っていた』とのトニヤの爆弾が落ちたのだ。

 確かに一昨日からスーパーロボットとMSの連携強化のためにネオゲッターチームがフリーデンへ出向して連携会議をしていたのはガロードも知っている。でもだからといってティファに號と接点を持つなど思いもよらなかったガロードは目を白黒させ狼狽した。

「ガロード、おちおちしてたらティファーとの初デート、號に先越されちゃうわよ〜?じゃあねー!」

 パチンと長いまつげがのっかったまぶたをウィンクで決めて、トニヤはサラが欲している帳簿を渡しにブリッジへと行った。ウィンクの先にウィッツへの何かしらの期待が多分に乗せられていたのは気のせい、ではない。

「……ど、ど、ど、どうしよウィッツ!」

―来るんじゃなかったぜ……。

 そうウィッツは冷静さを失くしたガロードを見て貧乏くじを引いてしまったと苦い顔をした。この状況、大目に見てもトニヤの焚き付けに巻き込まれたのは確実だった。

「俺に聞くな!そういうのはロアビィに聞いとけ!」

「ここにロアビィいないから聞けないじゃんなあミーティングルームまででいいからついてきてくれよ俺もうどうしたらいいかわっかんない」

―完っ全にトニヤの掌の上じゃねえかバカ。

 気が動転してフライトジャケットの裾にしがみつくガロードを引っぺがし、もうこうなったらトニヤから絶対に何かしらをふんだくってやろうと内心毒吐きつつウィッツは腹をくくった。

「ああったく!わあったよ!チッ、トニヤのヤツこうなるの分かって爆弾落としやがって……!」

 

 ガロードの人生で初めて経験する初恋の空騒ぎ。少年はどう自身の勘違いを解いていくのか……。

 さて、號とティファの勉強会がそろそろ始まる頃だ。そちらも見ていこう。

 

 

「今日の講師を勤めますホシノ・ルリです。よろしく」

「はい、よろしくおねがいします」

 少し緊張気味な面持ちでティファはミーティングディスプレイに映るホシノ・ルリへ返事をする。彼女の手前にあるデスクには、いつも使っているチャコールとスケッチボードではなく、芯が綺麗に削られたグラファイト鉛筆と角を揃えられたテキストプリントが数枚置かれていた。背筋をしゃんとし、真っ直ぐに講師であるルリを見つめる姿から、彼女が強い勉学意欲を持っている事をニュータイプでも超能力者でなくても、感じ取ることだろう。

「ティファさん、勉強会と言っても今回は通信教育体験ですので、まあ気負わずに。……そこの號さんのようにダラッとしてるのが丁度いいですよ」

 ルリの口調は淡々としているものの、その声音の後半は呆れが漂っていた。

 後ろの席で號を監視していた翔は堪らず片手で頭を押さえ、剴は號に近寄っては肩を小突いてカラカラと笑ってみせた。

 勉強嫌いな不良生徒に呆れ返る先生。そんな関係がすでに出来上がってしまったのが剴にはあんまりにもおかしく、翔にはあまりにも情けなかったからだ。

「あははは!號、早速ルリちゃんから指摘入ったぞ?」

「うっせ!そもそも俺は勉強する気も必要も無えってのに、なァんで今更!」

 適当に削られた鉛筆と散らばったテキストそのままに、指摘なんて知ったことではない號はべったりとデスクに突っ伏し、やる気のなさを態度で表明する。その態度を翔が許すはずもなく、ガタンと椅子を引くと大股で近づき間髪入れず號の耳をグイと引っ張った。

「真面目にしろ、號。何の為にここにいると思っている。すまないティファ、できる限りこれを抑えつけると約束する」

「あでででで!や、やめろ翔!耳がーッ!?」

 ラウンドナイツ結成からこの『號の耳を引っ張り注意する翔』はよく見られる光景になっていた。ある意味、ネオゲッターチームの名物である。

「いえ、私は……」

「ティファちゃんも何かあったら言ったほうがいいぜ。一応號も反省くらい出来るヤツだからさ、なあ?」

 剴はティファにはニコニコと気のいい顔をしてみせるが、そのまん丸い目を號に移すとその視線の中にはふんだんのアイロニーが込められていた。

「いっつー……なんだよ剴!その言いたげな感じの目はよ!」

「あ、ティファちゃんゴメン無理かも。だって號って日光の出身じゃあ無いもんな」

「ンだとォ!」鼻息荒く號は激昂する。だが、一拍置いて返って来た言葉は「……日光って何処のなんなんだ?」だった。

 まさかこれ程とは。唖然、憮然、呆れの気持ちが剴、翔、ルリの心の内で一つとなり、3つのため息がミーティングルームを満たした。今ならこの三人でゲッターの100万パワーを引き出せるだろうか?

「……いやホントにさ、日光くらい知ってろって」

「猿まわしの某より劣る、か……」

「……バカ」

 ティファは目を丸くしながらも、まるでコメディのような息のあったやり取りに微笑ましさを感じ取り、柔らかくにこりと笑っていた。

 

 ここで先程のトニヤがガロードに誤解を招いた表現の訂正をしたい。

 トニヤは『號とティファがミーティングルームに一緒に行っていた。いい雰囲気であり、ティファは號の目をじっと見てニコニコと笑っていた』と言っていたが、それは大幅に事象を切り取った表現だ。

 ガロードは『ティファと號の二人だけでミーティングルームに行った』と誤解をしている最中だが、実際には『ティファはネオゲッターチームの號、翔、剴の三人と一緒にミーティングルームへ行っていた』が正しい。そこで何故ティファとネオゲッターチームが一緒にいるのだろうか、という別の疑問が湧くと思う。

 もったいぶらずに言えば、今日はティファのネルガルが発信する通信教育の体験学習があったのだが、前日訓練をすっぽたした號がペナルティを受ける事になり、それを聞きつけたネルガル重工のプロスペクターが咄嗟の発案で號を急遽、半ば強引に体験学習に編入させたのだった。

 突然の決定に戸惑っているだろうティファに剴がミーティングルームへの道すがら號の体たらくを可笑しく取り沙汰し、號がそれに反発して騒ぎ、翔が叱責し……そんな騒がしい彼らの表裏のないコミニケーションにティファは思わす笑みを溢す。

 そして偶然にもトニヤがそのやり取りを帳簿の回収をしていた際に見かけ、こう思った。

『ちょっとガロードに発破をかけるのに使えるかも……!』

 悪戯心が芽を出してしまったのだ。

 メッセンジャーボーイの役目をウィッツに課せて、トニヤは今頃ガロードがどんな顔をしているのか首を長くして報告を待ち焦がれているに違いない。いつの女性も恋話、こと苦みばしった話には堪らない魅力を感じてしまうものだ。

 しかし、ガロードはそんなトニヤの意図を知らない。ティファの隣に號がいるというトニヤの情報が事実なのかを確認するためにウィッツとミーティングルーム前までやってきた。

 ミーティングルームは使用されているためにロックがかかっていた。窓はなく、中は見えない。鍵穴はあるが、ここで強制ロック解除の器具を使ってまでこじ開けてしまうのはフリーデン所属乗組員のラウンドナイツにおける信用を下げかねない。

 ガロード本人は冷静を心がけていたつもりだった。ルーム内の雰囲気だけでもどうなっているのかを調べるため、ウエストポーチの中から特殊吸盤がついた小型の集音器を取出す。

 ドアに集音器を設置し、イヤホンをセットする。その姿は紛れもなく、盗聴犯罪者そのものだった。

「オイ、何すんのかと思ったら盗聴かよ!」

 事の成り行きを見ていたウィッツが小声で、しかし張り付いた表情でガロードを静止させようとする。さすがの面倒嫌いなウィッツも、ガロードの突飛な行動にどう止めようか考えあぐねていた。

「だってこっちからじゃなにも見えないんだ。これくらい!」

 懸命に冷静な思考を巡らせようと努力はしたが、やはり冷静ではいられない。心の隅にチクリとどこかティファを裏切っているような罪悪感があるものの、それ以上のパニックがガロードを襲う。もはや形振り構っていられなくなっていた。

 戦争孤児としての我武者羅なバイタリティが、フリーデンに所属するパイロットとしての立場を追い越してしまったのだ。非常時の臨機応変さは少年の良いところの一つでもあるのだが、この場においては悪目に出てしまった。

「バッカかおめえ!ジャミルやゲッターのとこの司令官に知れたらタダで済むか!」

「で、でもさ。もしあんな事こんな事があったら……」

 少年の空回った想像は妄想へとシフトアップし、ギアを上げ猛加速する。

 脳内で繰り広げられるソープオペラめいた男と女のイケナイやり取り、甘い空気……。心臓がそのまま潰れてしまいそうな焦りがガロードの思考のヒューズをフッ飛ばした。

 少年のたくましい妄想力が、もうどうにも止まらない。

 

『ダメです……私、まだ誰とも付き合ったことがないんです。それなのに……』

 二人だけの締め切られたミーティングルーム。非常灯の仄かな明かり、それでも見て取れる色づくティファの頬。構うことなく號はティファの顔を覗き込み薄く笑う。

『いいじゃねえか初めてが俺だってさ。目をじっと見てきてよ、気になってたんだろ俺のこと。それとも、誰か好きな奴いんのか?』

『それは……』

 ティファと號の視線が交わる。ティファは視線を外そうとするが貫くような獣の熱視線に身体が言うとこをきかない。怯え竦んでいるのならば、なぜ頬がさらに火照り始めているのだろうか。

『優しくしてやるよ、ゆっくりとな』

『號……あっ……』

 ティファの華奢な細身が強く引き寄せられ、號が着ている作業着越しでも分かる厚い胸板に埋もれてしまいそうになりながら、そのまま抱きしめられる。

『ティファ、俺だけを感じてくれ……』

 その言葉に応えるようティファは號に身を預け「どわぁー!?お、おれだめかもしんない。どうしよウィッツ!!」

 

──ゴンッ!

 ウィッツの拳がガロードの頭上に落ち、鈍い音を立てた。

 冷や水代わりの鉄拳だったが、まだガロードを抑えるには足りない。「いってー……」と呻きながらも、ガロードの手は集音器から外れなかった。

「だァから俺に聞くなっての!!つか自分の妄想でパンクしてんじゃねえ!!」

―トニヤ!本っ当に余計な事してくれたぜッ……!

 鉄拳制裁でも暴走が止まらないガロードをどう抑えつけようか、このままでは連座して自分まで罰せられてしまう。ここにいないトニヤへ悪態をつき、ウィッツはもらっている報酬以上の苦渋を散々なまでに味わっていた。

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