亡き妻が残した愛犬をかつて雇われていたロシアンマフィアに殺され、怒りに震えたジョン・ウィックの壮絶な復讐劇から数日後、彼の元へとある男が訪ねてきた。
「やあ、ジョン。久しぶりだな」
彼の名はサンティーノ・デズモンド。イタリアのマフィア『カモッラ』の幹部である。
「……ああ」
「入ってもいいか?」
ジョンが扉を開けてサンティーノを中へと入れた。突然の来訪に彼は途轍もなく嫌な予感を覚えた。
「コーヒーでも」
「ああ、いただこう」
差し出したコーヒーを一口飲んでテーブルに置くとサンティーノは悠然とした態度で口を開いた。
「ジョン、君が殺し屋家業を辞められたのは他ならぬ私のおかげだ。その借りを返す時だぞ」
「……悪いが力になれない。俺はもう殺し屋ではないんだ」
「誓印の掟を忘れたのか?」
誓印とは殺し屋などが利用できるコンチネンタルという機関特有の規則で相互の交換条件を血の捺印をもって契約として交わしたメダル状の証の事である。この契約は絶対遵守であり拒否したり相手の契約者を殺すと規約違反になり抹殺されてしまう。
「……俺に誰を殺させたい」
「私の兄であるドノバン・デズモンドを殺して欲しい」
「何……!?」
サンティーノの兄は東人民共和国(オスタニア)で国家統一党の総裁として絶大な権力を持つ人物で裏の顔は『カモッラ』のボスとして、そして様々な犯罪組織が集まって出来た組織『主席連合』の代表の一人でもある。
「父が私ではなく兄を後継者として指名したおかげで私は末端の幹部に成り下がっている。それは耐え難く苦痛だ。私が総裁として主席連合の代表になれば組織をもっと大きくできる」
「……期限は」
「今すぐにでも殺してくれ、といいたいところだが流石に
「……分かった」
「ありがとうジョン。君なら必ず依頼を受けてくれると思っていたよ」
初めから拒否権はない。もし逆らえば大切にしている自宅や新しい飼い犬を平気で壊すだろう。サンティーノはそういう男だ。
「方法は何でもいいが、私が指示した事を知られないようにしてくれ。頼んだぞ」
「ああ、分かった」
サンティーノが自宅から去った後リビングのソファーで横になり天井を見上げながら思案に耽っていたジョンは思い出したかのようにポケットからスマホを取り出すととある人物へ連絡をとった。
「ヨル、手を貸してくれないか?」