お待たせしました最新話です!
「…………」
「…………」
入学初日の帰路。
僕はクラスメイトとなった耳郎さん――耳郎響香さんと共に歩いていた。
相澤先生に呼び出され遅くなった僕のことを待っていたらしい耳郎さん。何か僕に用があったらしく一緒に帰ろうと提案されよくわからないまま頷き学校を出てから約10分ほど経って今に至るわけだが……その間終始無言。
話を促そうと視線を耳郎さんに向けてもそっぽを向かれるし、かと言えばやはり何か言いたいことがあるようでチラチラと僕に視線を向けながら所在無さげに特徴的な耳たぶのイヤホンジャックをクルクルと指でいじくっている。……というかこの耳――
「……ねぇ」
と、意を決した様子で耳郎さんが足を止めるので、僕も数歩遅れて足を止め振り返る。
「アンタ……ホントにスパイダーマンなの?」
「えッ…?」
その問いに僕は少し虚を突かれながらも、耳郎さんの表情が興味本位とかではなく何か強い思いがあるらしいことは察せられた。だから、僕も真剣にその質問に答える。
「……そうだね、自分で名乗ったことは無いけど、世間一般からそう呼ばれてたよ」
「……そう」
僕の答えに耳郎さんは目を閉じ少し考える素振りを見せながらすぐに顔を上げる。
「……ねぇ、アンタ…ウチのこと覚えてる?」
「え……?」
耳郎さんの思わぬ問いに僕は呆ける。それに自嘲気味に笑った耳郎さんは
「……ごめん、そうだよね。覚えてるわけないか」
「いや、耳郎さ――」
「いいの。アンタはあの当時たくさんの人を助けてたから、ウチのことなんか覚えてなくてもしょうがないよ」
僕の言葉を遮って耳郎さんはそう言って微笑み歩き出す。
僕もそれに合わせて並んで歩く。
「別にいいんだよ、覚えてなくても。ウチはただ、あの時やり残したことをちゃんとしておきたかったってだけだから」
「やり残したこと?」
耳郎さんは僕の顔に視線を向け少し照れた様子で頬を掻き
「その……ありがと、あの時ウチを助けてくれて」
「………え?やり残したことってそれ?」
「何?なんか文句ある?」
そのお礼の言葉に僕が呆けているとギロリと睨まれる。
「い、いや、わざわざ僕のこと待ち伏せて、『やり残したこと』なんて言われたら何かとんでもなく大事なことかと思ったから……」
「ウチにとっては大事なことだったの。下手すれば死んでたかもしれない事故から助けられたのにお礼も言えなかったから、ずっと心残りって言うか、モヤモヤしてたからさ……」
そう言って照れ臭そうに言った彼女は
「と言うか、お礼言う前にアンタがさっさと行っちゃったせいでもあるんだけどね」
「ウッ……な、なんか、すみません」
「フフ、冗談だよ」
思わず謝ってしまった僕に耳郎さんは笑う。
と、そこで駅近くの大通りまでやって来る。
「ウチこっちだけど……」
「あ、僕はこっち……」
耳郎さんの指さす方向を見て僕はおずおずと反対の方向を指さす。
「そっか……じゃあここで解散だね」
僕の言葉に耳郎さんは頷き満足そうに言う。
「急にごめんね。でも、アンタとクラスメイトになるならスッキリさせときたかったんだ」
「いや、別に僕は大丈夫だよ」
「ありがと。それじゃ、明日からクラスメイトとしてよろしくね」
「うん……」
そう言って手を振って去って行こうとする耳郎さんを見送ろうとして
「あ、そうだ」
僕はふと思い出し
「次はロックの話もしようね」
そう言って自分の家の方に歩き出そうとして――
「ちょ、待って!!」
「えぇッ!?」
グイッと肩を掴まれ呼び止められる。
「な、何ッ?」
「何、じゃないよ!あ、アンタ今ロックってッ!?」
「え?うん……前の時に言ったから、次は音楽談義しようねって……あの時AC/DCの『バック・イン・ブラック』聞いててそう言う話したよね?」
「それは言ってたけど……え、待って…覚えてるのッ!?」
「え…うん……流石に全員のことを覚えてるわけじゃないけど、同年代だったし、同じ音楽の趣味だったし、あとその耳たぶの……」
言いながら右手で耳郎さんの耳を指さし自分の耳たぶを左手で触る。
そんな僕の言葉に耳郎さんはアワアワと口を震わせながら自身の耳たぶを触る。心なしかその顔が赤く染まっていく。
「え、えっと…耳郎さん……?」
「~~~~ッ!!」
顔を染めた耳郎さんはキッと僕を睨み
「お、覚えてるなら先に言ってよ!!」
「ええッ!?だ、だって言おうとしたら耳郎さんが遮るから……」
「それはッ!そう…だけど……ッ!」
怒りながら、しかし、自分でもその通りだと納得してしまったらしい耳郎さんは苦悶の声を漏らしながら頭を抱える。
そんな彼女の様子に僕は
「えっと……なんかごめんね」
「謝んないでよ!謝られちゃったらなんか余計に恥ずかしいじゃん!!」
思わず謝ってしまい、耳郎さんに顔を真っ赤にして怒鳴られてしまったのだった。
〇
あれからそのまま帰ってしまった耳郎さんを見送り家に帰った。そして翌日、つまり今、僕は雄英高校の門をくぐり教室に向かっていた。
昨日はファースト・コンタクトが悪かったし、個性把握テストの後も職員室に行っていたのでクラスメイトと交流できなかった。唯一交流できた耳郎さんも最後に不機嫌にさせてしまった。
昨日できなかった分今日こそは友達を作る!と意気込んだ僕は目の前の教室の扉を見る。
「ふぅ~……よしッ!」
僕は気合を入れ扉に手をかけ開く。そして――
『ッ!』
「ッ!?」
教室にいた全員の視線が向いたことで僕の気合いは吹き飛んだ。
余裕を持って登校したので教室には全員いるわけじゃなかったが、それでも僕を除いて20人中12、3人くらいはいそうだ。その視線がすべて今教室に入った僕に向けられている。
中学では普段注目されない存在だったからこういうのは苦手を通り越して怖い。あと、扉を開けるまで聞こえていた話し声が水を打ったように静まり返っているのもだ。この独特の空気感がダメだ、凄く怖い。
僕は意気込みはどこへやら、そそくさと視線から逃れるように自分の席に座り――
「ねぇ!ねぇ!ねぇ!」
と、横から呼びかけられる。慌ててそちらに視線を向ければ
「……?」
女子制服だけがそこに浮いていた。その異様な光景に一瞬呆けた僕だったが
「ねぇ、えっと…パーカー君だったよね!私、葉隠透!よろしくね!」
その制服から女子の聞こえた。よくよく思い出せば昨日もちゃんといた。恐らく体を透過させる個性なのだろう彼女――葉隠さんが朗らかな声で言う。
「あ、えっと…ピーター・パーカーです。よろしく……」
そんな葉隠さんの言葉に僕も返す。
「それでねそれでね!ホントは昨日すぐに訊きたかったんだけど、相澤先生に呼ばれて行っちゃって訊けなかったからずっと気になってたんだけどね!」
「う、うん…」
葉隠さんは続けてピョンピョンと側で飛び跳ね両手を振って言う。そんな彼女の言葉に頷きながら促す。彼女はそんな僕に一歩さらに踏み込んで
「パーカー君って、『スパイダーマン』なのッ!?」
興奮した様子で訊く。
その質問は半ば予想通りだった。
昨日の爆豪君を拘束した(してしまった)ことでクラスのみんなは殆ど確信していたようだったし、恐らくこれはただの最終確認なのだろう。遅かれ早かれ聞かれるだろうと思ったし先生には昨日確認しておいた、僕がスパイダーマンだと明かしてもいいのか、と。
先生の答えは――
――別に構わねぇよ。というか一緒に授業受けてりゃ遅かれ早かれ『個性』見られて気付かれれるだろうからな。
ということだったので、僕は葉隠さんの問いに
「えっと…一応、はい…世間からはそう呼ばれてた、かな」
「やっぱりそうなんだッ!!」
頷いた僕の言葉に葉隠さんが興奮した様子――身振り手振りのみ――で叫ぶ。
そして、そんな会話を聞いていたらしい他のクラスメイト達も集まってくる。
「すっごい!本物なんだ!」
「俺お前の動画何回も見たぜ!」
「俺も!事故で突っ込んできた車から通行人助けたやつとか!」
「あ、いや…あの……」
口々に言うクラスメイト達の勢いに押され一体どれから答えればいいのかと慌てていると
「うわッ、何の騒ぎ?」
教室の扉の方から声が聞こえ視線を向けると、そこには耳郎さんが立っていた。
「あ、耳郎さん、お、おはよう…」
「……おはよう、パーカー」
昨日のことを思い出しながら恐る恐る声を掛けると少し素っ気ないものの耳郎さんも挨拶を返してくれた。
と、そんなやり取りに違和感を覚えたのか
「ケロッ…二人は知り合いなのかしら?」
カエルっぽい子――蛙吹さんが僕と耳郎さんを交互に見て訊く。
「あぁ、彼女とは――」
「前に一度会ったことがあったってだけ。ほとんど初対面みたいなものだよ」
答えかけた僕の言葉を遮って耳郎さんが答える。
……まあ嘘ではない、か。僕とじゃなく、『スパイダーマン』と会ったことがあるってことを言ってないだけで。
なんでそこをぼやかしたのかはわからないけど、騒がれるのが嫌だったのかな?よくわからないけど僕の方から助けたことを吹聴する気は無いし、別に言わなきゃいけないわけでもないから訂正しなくてもいいか。
「まあ、そんな感じです」
「ふ~ん……」
僕も頷いたのを見て蛙吹さんは納得したようでそれ以上は訊いてこなかった。
「じゃあさじゃあさ!私も気になってたことがあるんだけどさ!」
と、今度は角のある子――芦戸さんが手を上げて訊く。
「パーカー君って『スパイダーマン』だったんだよね?どういう経緯で雄英高校に来ることになったの?」
「そう言えば私達と一緒に入学したって言うわけじゃないのよね。相澤先生も『転入』とおっしゃっていたし」
芦戸さんの言葉に蛙吹さんが付け足す。
「ん~…なんていうのか、僕は入学はしたけど、扱いではまだ『入学(仮)』なんだよ」
『カッコカリ?』
苦笑いで言った僕の言葉にみんな首を傾げる。
「相澤先生も言ってたけど、僕のしてたヴィジランテ活動は資格無しで『個性』を使ってるわけだから完全に違法行為になる。でも、僕はまだ未成年だったし、自分で言うと自慢っぽくて嫌だけど僕のことを評価してくれる人もいたらしくて、条件付きで入学できることになったんだ」
言いながら僕は右手の人差し指を立てる。
「一年生の間にヒーローとしての資質を証明することが出来ないと除籍、僕は雄英を卒業できないんだ」
「そうなんだ……」
僕の言葉に芦戸さんは言い淀み、他のみんなも驚いた様子で僕を見る。
「ま、まあこれは無資格でやってた自業自得だし、本当なら機会すらもらえないはずだったんだから僕は恵まれてるよ」
みんなの様子に僕は慌てて言い
「それに、せっかくもらったチャンスなんだからみんなと一緒に二年生になれるように全力で取り込むつもりだから、どうかこれからも仲良くしてくれると嬉しいな!」
努めて笑顔で言った。
僕の言葉にみんなは好意的に返してくれた。
こうして僕の新たな学校生活は一日遅れていいスタートを切ることが出来たように思うのだった。
というわけでピーター君が1年A組のクラスメイトとちゃんと会話をすることが出来ました。
これから交流を深めていきますのでお楽しみに!