蜘蛛のヒーローアカデミア   作:大同爽

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ep.2 「ピーター・パーカー:オリジン②」

 僕がヒーローに憧れたのは保育園を卒園する頃だ。

 その頃の僕は両親が死んだ直後で塞ぎこんでいた。

 そんな時、何の気なしに見たテレビでとある特集番組を見た時、僕は衝撃を受けた。

 

 

 

 その人はその絶望的な状況で高らかに自信に満ちた笑みを浮かべていた。

 大きな災害の起きた町で、炎上し倒壊した瓦礫の中からその人は多くの被災者を抱え上げ、高らかな声とともにその人は現れる。

 

――もう大丈夫!何故って?私が来た!!

 

 聞いた人がその声に奮い立つような希望に満ち溢れる声で高らかに言うその人の名前は『オールマイト』。

 ヒーローと言う職業の歴史の中でも燦々と輝く希望の名前。

 助けた人は数知れず、捕らえた『敵』も数知れず、『ヒーロー』と言う職業の中でトップオブトップ。『ヒーロー』の歴史の中で他の追随を寄せ付けぬ功績と名声の末、着いた称号が『平和の象徴』。

 その雄々しい姿に幼い僕は思った――この人がもしも、僕の両親の事故現場にいたなら、両親は今も僕のそばにいたのだろうか、と。

 でも、それはあくまでも『もしも』の話だ。幼い時分の僕にもそんなことは十分にわかっていた。そして、もちろんそれでオールマイトを、『ヒーロー』達を恨むつもりは毛頭なかった。

 幼少期の僕が思ったのは、どんな困っている人も笑顔で助けてしまうその人のようになりたい、と言うことだった。

 もしも、僕が両親の事故現場のような状況に立った時、この人のように誰かを助けられる、そんな風になりたいと夢想した。

 こうして僕は夢を胸に立ち上がった――が、しかし、その夢も長くは続かなかった。

 両親が死んだどさくさで僕は気付いていなかった。周りの子が次々に『個性』を発現する中、僕には何の『個性』も発現していないことに。

 小学校に上がった頃、流石におかしいと思った沙月おばさん達に連れられて行った病院での診断は『無個性』だった。

 それでも、諦めきれなかった僕は、なんとか『無個性』でも『ヒーロー』になれるのではと思った……が、僕には運動神経というものがからっきしだった。

 両親が死んでから二度目の挫折だった。

 それでも、少しでも夢見た世界に建てる方法は無いかと考えた僕は『ヒーロー』をサポートする仕事に夢をシフトした。

 花形の『ヒーロー』ではなくてもその『ヒーロー』を補佐し、たくさんの人を救う手助けができるのなら、それも悪くないと思えた。

 こうして僕は二度の挫折の末、焦がれる夢に蓋をして現実を見据えるようになった。

 

 

 

 ――でも、これまで全くの可能性0%だった夢に手が届くかもしれない、そんな希望の光が見えてきた。

 理由は不明だが、齢14歳にして遅ればせながらの『個性』の発現。

 叶わぬからこそ焦がれた夢をもう一度目指すことが出来るかもしれない、僕は再び『ヒーロー』を目指すべく走り出した。

 

 

 

 それからの僕は発現した『個性』を正確に把握し使いこなす為に特訓を始めた。

 まずは糸の性能を見るべく自室であれこれやってみたが、ものの数分で部屋中蜘蛛の巣だらけになった。

 いちいち掃除するのも大変だし、何より身体能力などを試すには自室では狭すぎるという結論に至った僕は特訓の場所を郊外の廃工場に移し、学校終わりにそこで日が暮れるまで特訓することが日課となった。

 結果、分かったのは僕の『個性』は言うなれば『蜘蛛』。蜘蛛にできることは大体できる、と言ったところだろう。と言っても主には身体能力と筋力の大幅な向上と両手から糸を出せることだろう。その糸もただの糸ではなく、伸縮性に優れ、しかも硬度は鋼鉄のワイヤー並でかなりの加重にも耐えられそうだ。

 そこまで把握した僕は、次にそれを使ってできることをあれこれ模索し始めた。

 まず発現したその日にやって失敗した糸による移動『スイング』。――これは物理学の応用で比較的すぐにものにした。

 他には糸の活用方法として物を引き寄せたり受け止めたりあれこれトライ&エラーの繰り返しだった。

 そうして、特訓を始めて二か月が経った頃、大きな転機を迎えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて今日は『スイング』をしながら物を引き寄せたりあれこれの応用を――」

 

 学校が終わってすぐにいつもの廃工場に向かっていた僕はあれこれ思案しながら走っていると

 

「まってぇ~」

 

 5歳くらいの男の子が目の前を通りすぎる。

 見れば脇の公園から転がって出たボールを追いかけているようだ。

 男の子はそのままボールを追いかけ、道路へと歩いて行き――

 

「ッ!」

 

「風太!!」

 

 公園から聞こえた絶叫が聞こえると同時に僕は視界の隅にトラックが見えた。その瞬間、僕は動いていた。

 いくら身体能力の上がっている今の状態でも走っていては間に合わない。最適解は――

 

「シッ!!」

 

 プシュッ

 

 僕は男の子へ右手を伸ばして糸を放つ。

 道路に転がったボールを取って顔を上げた男の子は目の前に迫って来ていたトラックにポカンと呆け

 

「くぅッ!」

 

 男の子の背中に糸がついた瞬間、僕は糸を引っ張って引き寄せる。

 トラックの甲高いブレーキ音を聞きながら僕は自分の方に飛んでくる男の子を大きく手を広げて受け止める。

 僕の腕の中でいまだに訳が分からずほおけてる男の子に

 

「だ、大丈夫!?怪我はない!?」

 

 僕は慌てて呼びかける。

 僕の呼びかけに男の子はハッと我に返り

 

「うん!だいじょうぶだよ!」

 

「そっか…よかったぁ~……」

 

 男の子の言葉にホッと安心していると

 

「だ、大丈夫かッ!?」

 

「風太!!」

 

 トラックの運転手らしいおじさんと男の子の母親らしい女性が駆け寄ってきた。

 

「は、はい!無事です!」

 

「そ、そうか……よかったぁ……」

 

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

 

 僕の言葉に運転手のおじさんは安堵し、母親の女性は目に涙を浮かべてペコペコと頭を下げていた。

 お礼を言う女性に頷きながら僕は立ち上がり抱えていた男の子を立たせてあげて

 

「道路に飛び出すと危ないから、今度から気を付けようね」

 

「うん!」

 

 僕の言葉に男の子は大きく頷き

 

「ありがとう!おにいちゃん!!」

 

「ッ!」

 

 満面の笑みでお礼を言う男の子に僕の心臓が高鳴った。

 それはまるで『ヒーロー』に向けられる賞賛のようで――

 

「ハハ、どういたしまして!」

 

 僕は大きく頷いた。

 

 

 ○

 

 

 この事が僕の中で非常に大きな出来事となった。

 これを機に、僕は日課の特訓に新たなメニューを追加した。

 それは、『個性』を使って市街地を周り、何か困っている人がいれば積極的に助けることだ。

 実際に動いてみて分かったが、僕の『個性』には超直感があることが分かった。発現初日に背後から飛んできたボールに気付けたのもこれが理由だろう。蜘蛛の中には予知能力にも近い危機察知能力があるものもいるらしいのでそれに近いものだろう。

 実践に勝る経験なし。廃工場であれこれやっているよりもこうして実際に使ってみる方が何倍も有意義だった。

 何より、助けた人が『ありがとう』と言ってくれることが何より嬉しかった。

 まだ真似事の域を出ないけど『ヒーロー』になったみたいで嬉しかった。

 ただ、一つ問題がある。それは、今の社会で『個性』を資格無しに公共の場で使うのは原則禁止されている、と言うことだ。

 いくら人助けでも注意はされるだろうし、何度も続けば何らかの罰則があるかもしれない。そうなればいろいろと問題になるかもしれない。

 迷った僕は市街地で活動するときは正体を隠すことにした。

 そのためにいろいろ試行錯誤した末、僕はスピードスケートなどで使われる伸縮素材の全身を覆うコスチュームを自作した。

 赤と青を基調に無駄な装飾は着けず顔から全身くまなく覆い隠すようにし、装飾をつけない代わりに蜘蛛の巣と蜘蛛を模様として描いた。

 少しでも夢見る『ヒーロー』に近づけるように、『ヒーロー』のコスチュームのように作った。

 ちなみに装飾をつけなかったのは、あると体の稼働に制限がかかるし、『スイング』してる時に邪魔になるからだ。

 こうして、僕は活動を始めた。

 街を周って見れば困っている人と言うのは意外といるものだ。

 迷子になった子どもを保護者の元に連れて行ったり

 道に迷っている外国人に道を教えたり

 重い荷物を運んでいる老人の手伝いをしたり

 何度か現行犯での自転車泥棒とかひったくりを取り押さえたり

 そう言えば一度マンションの上階から落ちてきた植木鉢がぶつかりそうになった僕と同年代くらいの女の子を助けたこともあった…耳たぶがイヤホンジャックになっていたので覚えている。

 ヒーローは日夜平和のために戦っているし、困っている人がいれば積極的に助けているが、どうしたって手が回らないところは出てくるだろう。僕が手を伸ばすのはそう言う人達だ。

 別に凶悪な『敵』を捕まえてやろうとか、犯罪者たちを取り締まってやろう、なんて思っていない。

 僕はただ、目の前で困っている人がいれば手を伸ばしたい、手が届くのに手を伸ばさなかったらきっと後悔するから……

 こうして僕は今日も全身を覆う自作スーツとマスクに身を包み、困っている人へ手を伸ばし続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~~♪~~~♪」

 

 学校帰り、ウチは耳につけたイヤホンから流れる音楽に合わせて鼻歌交じりに歩いていた。

 仲のいい友人たちは用事で一緒に帰れなかったので今日は一人だ。

 まだ家に帰るには早いし少し寄り道してCDショップにでもと思い、今月発売のCDをチェックしようとスマホを眺めていた時――

 

「危ない!!」

 

「ッ!?」

 

 突如すぐそばで響いた声にハッと顔を上げれば、そこにはウチの頭上から落ちてくる鉢植えが見え、思わず反射的に顔を覆って目を瞑ってしまう。

 が――

 

「……あれ?」

 

 いつまで経っても何も起きないことに、ウチは恐る恐る目を開ける。

 と、そこにはウチの顔の上20cmくらいのところで鉢植えがブラブラ浮いていた。

 

「へ……?」

 

 茫然と浮かんでいる鉢植えを眺めていると

 

「君、大丈夫?」

 

 鉢植えのさらに上から声が聞こえた。それはまだ声変わりしたてのような幼さの残る、ウチと同年代くらいの少年の声で。

 見るとそこには赤と青の全身タイツみたいな服を着た人物がいた。その人物は右手で上から糸で宙づりになったまま左手で鉢植えと繋がった糸を掴んでいた。

 

「なッ!?え…はぁッ!?」

 

 思わぬ光景にウチはパクパクと口を開けて驚いていると、目の前の謎の人物は鉢植えを抱えて降り立った。

 

「うん、大丈夫そうだね。よかった」

 

 全身タイツのそいつは私のことを見て(顔が隠れているので目線も表情もわからない)安堵した様子で言う。

 

「歩きながらスマホ見てると危ないから気を付けてね」

 

「あ、ああ、うん……」

 

 茫然としながらもウチは反射的に頷く。私の返事に全身タイツのそいつは頷き

 

「あ、AC/DC?」

 

 と、少し弾んだ声で言う。

 言われて気付いたがさっき咄嗟に顔を覆った時にイヤホンが外れたらしくそこから聞いていた曲が漏れ聞こえていた。

 

「それ、AC/DCの『バック・イン・ブラック』だよね!」

 

「し、知ってるの?」

 

「僕もその曲好きだよ!」

 

「へ、へぇ…古い曲なのに……」

 

「そうなんだよ!洋楽だし古いしであんまり周りで聞いてる人いないんだ…いい曲なのに……」

 

 と、少し寂しそうに言ってから

 

「だから、ロック好き人に会えてよかったよ!ロック好きなんてカッコいいね!」

 

「ッ!」

 

 そいつの言葉にドキリとする。

 ウチも両親が音楽系の仕事をしている関係で聞くようになりどっぷりハマったが、周りに趣味の合う友達がいなかった。しかも女子で本格的なロックが好きなんているのも少なくともウチの周りにはいなかった。だから、「カッコいい」と言われたことがなんだかむず痒かった。

 

「あ、そうだ、紙とペン借りてもいい?」

 

「え…あ、うん……」

 

 ふと思い出したように目の前の人物に言われ私は背負っていたカバンからルーズリーフとペンを渡す。

 

「ありがとう!」

 

 受け取ったそいつは髪に何かを書き込み私に落ちてきた植木鉢を上に乗せてアパートの玄関口に置いた。

 紙には『上から落ちてきました!ベランダに置くときは置き場所に気を付けて!』と書かれている。

 それ見て満足そうに頷いたそいつは

 

「それじゃ、また会えたら音楽談義でもしようね!」

 

 そう言って駆け出す。

 

「あッ!」

 

 ちゃんとお礼を言えてなったことに気付き慌てて呼び止めようとするがそいつは数歩駆けると同時に右手を前に突き出し

 

 プシュッ

 

 突き出した右手首のあたりから糸のようなものを飛ばし、それを使って大きく跳躍、そのまま左右の手から交互に糸を出してあっという間に去って行ったのだった。

 

 

 

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