すみません、少し遅刻して投稿します。
そんなわけで最新話です。
「――ぁ…」
目が覚めて真っ先に見えたのは真っ白な見知らぬ天井だった。
「知らない天井……どこ、ここ…?」
一人困惑しながらぼんやりと見上げていた僕は――
「――目が覚めたようだね」
「……誰、ですか?」
横から聞こえた声に僕はぼんやりとした思考のまま顔を向けると、そこには三十代くらいの特徴は薄いが人のよさそうな男の人がいた。
「警察の塚内だ」
「警察……警察ッ!?」
ぼんやりとした思考に流されそうになったがその単語に一瞬で覚醒した。
慌てて身を起こそうとすれば――
「ッ!?」
寝ていたベッドに縛り付けられていたせいで身動き取れなかった。
「え?なッ?何コレッ!?」
「すまない、だが悪いが君を拘束させてもらうよ。罪状は…わかってると思うが、とりあえず目下の案件は二日前の廃工場でのグリーンゴブリンとその手下たちとの一件だ」
「廃工場……ッ!?」
いまだあやふやだった記憶が「グリーンゴブリン」「廃工場」の単語で一瞬で繋がる。そして同時に最悪の光景を思い出す。
「……あの、こんな事僕の立場で言うのはおかしいっていうことは重々承知してるんですけど、それでも、それでも一つだけ教えてほしいことがあるんです」
僕は恐る恐るその男の人――塚内さんに視線を向けて訊く。
「伯父さんは……ベン・パーカーはどうなったんですか?」
「ッ!」
僕の問いに塚内さんは困ったように眉を顰める。
「……ねぇ、どうなったんですか?生きてるんですよね?」
「………」
「ねぇッ!!」
言い淀む塚内さんに僕は縋る思いでさらに問いかける。が――
「大変言いずらいが、君の伯父、ベン・パーカーさんは、あの晩我々警察やヒーローたちが駆け着けた時には、もう…手の施しようがなく――」
塚内さんの口から告げられたのは――
「そのまま息を引き取ったんだ」
――最悪の答えだった。
「――と言うのが君のこれまでの活動だ。間違いないかな?」
「はい、間違いないです」
あれから詳しく検査を受けた。
詳しい話を聞けば、どうやら僕は丸二日寝ていたらしい。だいぶ痛めつけられていたがどうやら回復力も上がっていたのと病院での治療が良かったらしく回復していた。爆風を受けた顔の火傷も軽度だったらしく痕も残らないようだ。
そんなわけで医者からの許可も出たようで僕は警察病院から場所を移して警察の取調室に来ていた。
現在僕の目の前に座る塚内さんは書類を開きながら僕がこれまでにしてきた活動を参照しながら確認をし終えたところだ。
「そして、一昨日の廃工場の件でこうして逮捕となったわけだが……」
「……あの、一つ訊いてもいいですか?」
「なんだい?」
塚内さんの言葉をおずおずと遮って聞くと塚内さんは書類から顔を上げて頷く。
「あの時僕が戦ってた敵――グリーンゴブリンは捕まったんですか?」
「……いいや」
僕の問いに塚内さんは首を振る。
「残念ながら君や奴の手下たちを取り押さえた時、同じように奴を捕まえるためにヒーローが向かったが、あの暴走状態のグライダーを逃げながら立て直してね。寸でのところで捕らえ損ねたんだ。目下全力で捜索中だよ」
「そうですか……」
「……すまない、君の伯父さんを手にかけた相手なのに」
「いえ……」
塚内さんの言葉に首を振って応じる。
「すみません、もう一つ訊いてもいいですか?」
「ああ、いいよ。なんだい?」
「………僕は、僕はこれからどうなるんでしょうか?」
「…………」
僕の問いに塚内さんは少し言い淀み
「……正直上も決めかねているらしくてね」
ため息交じりに苦笑いを浮かべて言う。
「君の活動は確かにヴィジランテのそれだし、一番の違法行為は公共の場での『個性』の無断使用だ。でも、逆に言えばそれ以上の罪に問えないともいえる。いくら公共の場での『個性』の使用が禁止されているからと言って交通事故に遭いそうになった居る人を救うのに使うな、とは言えないし他にも君が使った場面は君の『個性』無しには助けられなかった人たちもたくさんいた。君が捕まえた犯罪者たちも現行犯ばかりだからそれも違法とは言えないしね」
でも、と塚内さんは区切り
「だからと言って君の行動すべてを許すわけにはいかないんだ。いくら人を助けるためとはいえ積極的に自発的に『個性』を使用し無資格にも拘らずヒーロー活動をしていたことは、良しとすることはできない」
「……はい、重々理解してます」
塚内さんの言葉に僕は頷く。
「言い訳はしません。伯父さんにもさんざん言われましたから……伯父さんの言っていたことは正しかったんです。それなのに…僕は……」
そこが限界だった。
塚本さんに教えてもらった伯父さんの死の事実、ずっと押し込んでいた気持ちが涙と一緒に溢れてくる。
「………少し休憩にしよう。飲み物でも持ってくるよ」
そんな僕に塚本さんは優しい声音で言って部屋を後にした。
どれくらい経ったのか、一人ですすり泣いていた僕の目の前にそっと湯気の立つお茶の入った紙コップが置かれ
「使うかい?」
一緒にハンカチが差し出された。その声は塚内さんとは違った。
「ありがとう…ございます……」
僕はそのハンカチを受け取り涙を拭って顔を上げ――
「へ?」
目の前にいたのは予想に反した見た目の人物(?)だった。
その人物は真っ白な毛に覆われた1mくらいのネズミのような見た目だった。だが、僕が驚いたのは見た目のせいではない。
『個性』が当たり前の世になり、『個性』が現れる以前の人間の様相とかけ離れた姿――俗に異形型と言われる人たちも珍しいものではないし、他の動物の特徴を持った人たちもたくさんいるので、今目の前にいるように完全に動物のような見た目の人もいないわけではないだろう。
ただ、僕が引っ掛かったのはそこではなく、この人に対して働く僕のスパイダーセンスが、この人を普通の人間とは違うと告げている。というかどっちかと言うとネズミとか犬とかそう言う方面の動物に近いようなそんな感じがする。
「どうしたんだい?」
「あ、いえ…その……」
目の前の人(?)は唖然とする僕に机から顔しか見えていないまま小首をかしげて訊く。僕は訊くべきかどうかと言い淀み
「その…塚内さんは……?」
訊かないことにした。
「おっとすまないね!ちょっと君と話したくて塚内君に頼んで代わってもらったのさ!」
僕の問いにその人は応え
「僕の名前は根津!よろしくね、ピーター君!」
「ど、どうも……」
異様にフレンドリーな雰囲気と共に差し出される右手におずおずと握手する。
「それでピーター君、君の今後の扱いを決めるためにいくつか訊きたいんだけどいいかな?」
「は、はい」
根津さんの問いに頷く。
「そうだね…まず、君は何故ヴィジランテ活動していたのかな?」
「……そうですね、ヒーローになりたかったんです。少しでもヒーローみたいに誰かの助けになれたらって、困ってる人を助けたかったんです」
「そうか、やり方はどうあれその気持ちは個人的にはいいと思うよ!じゃあ何故ヒーローになりたかったんだい?」
「……僕のように両親と死に別れる人を減らせればと思ったんです」
根津さんの問いに僕は応える。
「僕の両親は僕が保育園の年長の頃に交通事故で死んだんです」
「そうか……それはさぞ寂しかっただろうね」
「ええ、そうですね。でもベン伯父さんと沙月おばさんが両親の分も愛情注いでくれたので孤独ではなかったです。……でも、そうは言っても両親が死んですぐの頃はすごく落ち込んでいたんです。そんな時にテレビでヒーローの…オールマイトの活躍を見たんです」
根津さんの言葉に頷きながら続ける。
「凄いと思いました。どんな困っている人も必ず助けてしまえるその姿が眩しくて、もしもこの人が僕の両親の事故の現場にいれば当たり前のように助けたんじゃないかって。僕もオールマイトほどは無理でも、目の前で困っている人がいれば助けられるような、そんなヒーローになりたいと思ったんです」
「そうか……」
僕の言葉に根津さんはゆっくりと頷き
「じゃあ、どうしてヒーロー養成高校に行ってちゃんとしたヒーローになる前に活動してしまったんだい?」
「それは…困っている人を見てみぬ振りできなかったから……」
少し考え自分の中の答えを言葉にしていく。
「初めて僕が『個性』で助けたのはトラックに轢かれそうになっていた子どもでした。その子を助けた時、考えるより先に身体が動いていました。そして、思ったんです、ヒーローが頑張ってもどうしても手が回らない人がいるんじゃないかって。幸い僕の『個性』には危機察知の超直感みたいなものがあったので何か事件とかがあれば察知できましたし、そう言うので察知できなくても街中を周っていれば意外と困っている人はたくさんいたので……」
「なるほどね」
根津さんは僕の答えに頷き
「……なんか、あの時と同じだ」
「どうしたんだい?」
言葉を漏らした僕に根津さんが首を傾げる。
「いえ……伯父さんにも似たような話をしたんです」
根津さんの問いに僕は苦笑いを浮かべて答える。
「伯父さんに僕がヴィジランテ…ヒーローの真似事しているのがバレた時同じように話して…伯父さんは僕のことを心配していってくれたのに、僕はそんな伯父さんにひどいことを言って……」
「…………」
「伯父さん、言ってたんです。僕はまだまだ子どもで、まだまだ未熟だから……『大いなる力には大いなる責任が伴う』って」
「それは、いい言葉だね。僕も背筋が伸びる思いだよ」
「でも、頭に血が上ってたのか僕にはそれが伯父さんが説教臭く思えて酷いことを言ってしまって。伯父さんが正しかったのに…伯父さんの言う通り僕が未熟で考えが足らなかったせいで伯父さんは……」
「……お悔やみを申し上げるよ」
僕の言葉に頷きながら根津さんは言う。
「今君は伯父さんを亡くし、自分の行いに迷っていると思う。そんな君にあえて訊くが――」
と、根津さんはそこで言葉を区切り
「もしもこれから君が困ってる人に出会ったら、君はどうする?」
新たな問いを投げかけてきた。
「…………」
その問いに僕は少し考え
「これを言うと反省してない様に思われるかもしれませんけど……たぶん僕は、また困っている人に会ったら…きっと、手を伸ばすと思います」
「ほう?」
僕の言葉に根津さんは興味深そうに僕を見る。
「僕は、残念ながらヒーローじゃありません。でもだからって、目の前で困っている人を見捨てていい理由にならないと思うんです。なにより、そこで見捨ててしまったら、僕は一生後悔すると思うんです。だから、僕はその時やるべきことを後悔しないようにやりたいんです」
「…………」
僕の答えを聞いた根津さんは考え込み。
「フフ、やっぱり君はこのまま終わらせてしまうのは惜しい人材だね!」
「は……?」
笑いながら朗らかに言われた言葉に、僕は呆ける。
そんな僕に根津さんはにっこりと微笑み
「最後にもう一つ質問をしよう――ピーター・パーカー君」
言いながら僕の眼をじっと見つめ
「もしも君にヒーローになるチャンスをあげると言ったら、君はどうする?」
「え……?」
ポカンと呆ける僕に根津さんは僕にそっと顔を向け
「君、『雄英高校』に来ないかい?」
「なんッ!?ゆう…えい…ッ!?」
登場した単語に僕は唖然とする。
「な、なんで…?」
「なんでって、そりゃ僕が雄英高校の校長だからさ!」
「は…校長ッ!?」
再びの衝撃に僕はあんぐりと口を開ける。
目の前の人は思った以上に偉い人だった。
「ヒーローの根幹は人助け。そして、人助けを、正しいことをする人間を排斥するヒーロー養成高校なんてあっちゃいけない、だろう?そして、君の行動の根幹にはちゃんと人助けの、ヒーローの精神があったはずだ。君には見込みがある。ここで切って捨ててしまうには勿体ない」
「でも、僕は……」
「無論君の行動の全てを肯定することはできない。だから、君へのチャンスには制限をつける」
「制限…ですか?」
僕の問いに頷いた根津さんはスッと手を出し
「一年間の期限付き。一年間の間の君の様子を観察し見込みがないと判断された場合、悪いけどこの話はおしまい。君はヒーローになる道を失う。その代わり、一年の間に君がヒーローになれる成果を見せることが出来れば残りの学生生活を送ることが許可される、と言うわけさ」
言いながら手を伸ばし僕へと向ける。
「さあ、どうする?」
「ッ!」
僕は根津さんの言葉に言葉を失い、何度も頭の中で今の根津さんの話を反復する。
考えに考えた末、僕は――
「少し…時間を貰えませんか?」
そっと目を伏せた。
「構わんが、どうしてだい?」
そんな僕に根津さんは問いかける。
「正直に言えば、僕は今すぐにでもあなたの手を取りたい気持ちはあります。でも、その手を取る前に、僕はちゃんと向き合わなければいけないことが…会って話をしなきゃいけない相手がいるんです」
「ほう?それは誰かな?」
根津さんの問いに僕は頷きながら顔を上げ
「おばさんに…沙月おばさんに会って、ちゃんと話しておきたいんです」
覚悟を決めて口にした。