私の中で、中学時代の記憶がよみがえる。目の前にいる水野理紗、そして慕ってくれた中学時代のバスケ部の後輩。彼女達が姉妹という事で一本の記憶の糸がつながっていった。しかし、彼女、水野理紗について触れてはいけない事が二つある。一つ目は、2年前の天文合宿で起きたこと。これは顧問の先生も口をつぐんでいるようで、3年間、私はただ黙って気にしなければいいのだろう。…しかし、不祥事と思しきそれがあったのにそれとは別に栃木県から表彰されたというのはどういう事なのだろうか。そして二つ目。これは私の中の問題だ。種子島での彼女の生活。彼女が離島留学していた高校はきっと貴樹くんと一緒の高校のはず。優秀な渡良瀬女子の生徒が長期留学するような学校だ。きっと種子島でも一番の学校なのだろう。たった半年間だけども、彼女…水野理紗さんと貴樹くんは同じ世界にいた可能性が高い。貴樹くんが中学時代に落ちこぼれていれば、その仮説も崩れるが、それは私が想像できることではなく、そんなことは断じてあるはずが無い…。そう思いたかったし、逆に真相を知りたくもあった。だけど、私はここでひとりでちゃんとして生きて行くんだ。
ずっとずっと貴樹くんを好きだったという事実とは別に。私は頭をぶんぶんと振って、初恋の男の子の面影を消し去った。
しばらくして、その水野さんが、夏合宿の企画に、ちょっとアイデアを出したようだ。
「今年はもう間に合わないけど、私の留学していた種子島の高校の屋上に、ちょっとした天文台があるの。来年はそこで天体観測をしない?それに、種子島にはロケットの発射場もあるから、見学するのもいいと思うんだ。」
水野さんの過去を知らない1年生と2年生は色めきたった。夏休みからは引退してしまった3年生がオブザーバーとして参加していたが、会議中は何も言わず、彼女らは会議後に水野さんと少し言葉を交わして去っていった。
水野理紗は、それに少し怪訝な顔をしたが、すぐにまたあの不思議な魅力の笑顔に戻り、1年生と2年生の会話の輪の中に入っていった。
「先生、私をまた天文部に呼んでくださってありがとうございます。」
水野は部活の終わりに顧問にそう短くお礼を言い、しかしそれ以降ダラダラせずに、荷物をまとめて天文部の部室に戻っていった。
私はそんな事は知る由もなく、その天文部での会議のあった日もバスケ部の練習に明け暮れていた。体育館でマーカーを引きはがしてシュートを放つのに悪戦苦闘していた。
「今日の成果…リバウンド3、シュート2、フリースロー2」
流れる汗もそのままに、頭の中で今日の成果を反芻する。まだ上手くなれないだろうか。もっと改善できるところはないか。乱暴に汗を拭う。私は無心でボールを追っていた。