…時は流れていく。 1年後、篠原明里・水野理紗(離島留学から復帰)は渡良瀬女子高校2年に進級し、澄田花苗は種子島高校2年に進級した。
渡良瀬女子高校では、高2になった水野理紗が、天文部での夏合宿を種子島に持って行くことに過半数の承認を得ることに成功した。
そして、長年続いた小学生を招待する夏休みの天文合宿はこの年から当分中止ということになった。また以前話題になったカノープスは、冬しか見られないということで、この合宿の目的からは外れることになった。その代わり、合宿の目的の一つとして種子島宇宙センターの見学が入ることになった。
この種子島合宿は例によって兼部組の意向は反映されていない。そもそも彼女たちは運動部での厳しい練習を課せられており、そんな定例会議にいちいち参加できるほどの時間的な余裕もなかった。ただ、合宿とあれば天文少女の端くれとばかりに都合がつけば参加はするのだった。
しかし、篠原明里は翌日この決定を聞いた途端、顔色をまだらにした。
『今更種子島に行っても。もし彼に会ってしまったら、私、どうなってしまうんだろう。文通はどちらから止めてしまったのかも、もう思い出せない。ただ、私が彼に求めることは彼が種子島で幸せになっていることだけ。』
『だけど、彼が種子島で現地の女の子と話しているのを偶然見てしまったとする。私は平然としていられるだろうか。』
聞くところによると、この件については水野理紗がものすごく積極的に動いているようだ。去年夏まで彼女が留学していた学校で天文合宿。種子島の宇宙センターも近くにある。貴樹くん…の好きだった分野だ。
久々にその名を意識した。だめだ。私、多分平静ではいられない。合宿の場所は変えられないだろうか。でも、もう会合で決まったこと。あとは私が行くか行かないかだけ。でも考えてみれば、去年もバスケ部の忙しさにかまけて天文合宿はサボってしまった。今年は小学生を招待する天文合宿だけでも参加したかったのに、当分中止とは。…
私は少し不覚をとった。この時になるまで水野とは付かず離れず、いい距離感で接してきたつもりだったが、水野はいつの間にか天文部を掌握してしまっていたのだった。考えてみれば、留学していた彼女は歳がみんなより2つ上だ。いざとなれば年上の権力でゴリ押しもできる。天文部はなんだかんだ言って大人しい子が多いし。
『いずれ、水野理紗とはじっくり話し合う必要がある。』
私は、彼女の色白の顔、特徴あるメガネ、地味に目立つ大きな胸を思い浮かべ、ぐっと拳を握りしめた。
「花苗?聞こえる?理紗だよ。久しぶり。」
種子島の高校に、水野理紗の声が届けられた。
「わぁあ何だこれ!TV電話みたい。」
種子島の高校の放送室にあるパソコンを使っている。パソコンの画面にスローモーだが理紗の顔が映る。
「そちらからもしゃべってみて。」
放送機器に詳しい男の子が、花苗の声を拾う。PCの画面にはかなり画像が荒いが、花苗の顔が写っている。
「厳しいけど、これが今の通信技術の限界かな。でも、やってみることに意義があると思うの。」
水野理紗は、種子島の天文合宿に備え、天文部の実況放送を計画しているという。両校に人脈のある彼女だから実現可能な計画だった。が、それを実用化できるか否かは種子島側の学生の協力、そしてかなりその知識がある生徒の協力が必要だった。