妙な知識に詳しい彼女 篠原明里ちゃん   作:藤沢 南

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放送室

篠原明里(しのはらあかり)手塚由子(てづかよしこ)佐藤望(さとうのぞみ)、兼部組の中で3人は種子島合宿不参加、と。」

水野理紗は顧問に提出する合宿計画表の最終チェックをしていた。

 

「手塚と望は県支部大会のレギュラーだから仕方ないとはいえ、サブメンが定位置の明里が不参加とは、…」

 

「水野さん。私からも一言言っておくから、あなたからはもう篠原さんに働きかけなくっていいわよ。」 作業中に入室してきた天文部顧問に言われ、水野理紗はそれ以上篠原明里の事を考えるのをやめた。彼女は合宿計画表と参加生徒の名簿を顧問に渡した。

 

「はい、確かに。ところで水野さん、あなた1人でいろいろ抱え込んでいない?」顧問は優しく問いかける。

 

「大丈夫です。昔のような事には致しません。」

 

 昔と変わらず、断定的で隙のない物言いが気になったが、すっかり天文部の中心人物として欠かせない存在になった水野理紗に、顧問はそれ以上は言わなかった。

 

 種子島高校では澄田花苗が放送室に出入りしているようで、毎日のように放送室のPCスピーカーに彼女の声が流れてくる。水野理紗も放送室に入り浸り、彼女とPC通信で言葉を交わしながら天文部の合宿について準備を進めていた。次の週からは落ち着いた男の子の声が流れてくるようになった。遠野貴樹。理紗も名前だけは聞いたことがあった。…理紗はたった半年しか彼と一緒の種子島高校にいなかったのだが…。彼は去年の入学直後、高1最初の定期テストで離島留学生の水野理紗を抜いて学年トップだった男の子だった。しかし理紗はすでに栃木に戻る決意を固めており、その秀才の遠野少年と交流する機会はなかった。

 

「初めまして遠野くん。花苗から話は聞いているよ。優秀な子がお手伝いに加わってくれて嬉しいわ。」

「よろしくお願いします、水野さん。遠野です。」

 口数は少なく、落ち着いた声音の少年だった。その後、水野理紗は彼とも徐々に言葉を交わした。そして高校の屋上に登る許可と大型のビデオカメラを回す許可を彼を通して種子島高校に認めさせた。

 

「おい遠野。お前、澄田花苗と夏休みに合宿するらしいな。」

 7月末。種子島の高校で期末試験が終わる頃には、下世話な興味から、いや、栃木の名門女子高校の天文部が我が校にやってくる、との話を聞きつけて男子たちが遠野貴樹にいろいろ質問するようになった。しかしその概要を遠野貴樹から伝えられると、みんな微妙な顔をした。

「水野さんかー。あんまり覚えていないけど。メガネかけたガリ勉風の人だったっけ?」

「俺もよくは知らないよ。澄田と仲がよかった人らしい。」

「そうか」

 男子生徒の関心は、水野理紗の名前を出すと急速にしぼんでいった。短い間しか接点がないから、彼女、水野理紗の事をどう扱っていいか分からなかったのだろう、そして、例によって淡々と女関係の話題をあしらう遠野貴樹。しかし、そんな彼が、一瞬だけ顔の強張りを見せたことがあった。それは、たまたま放送委員会との合同での昼食での時だった。もちろん澄田花苗もいる。

「しっかし遠野くんがこんなによその学校の天文部のことに熱心だったとはね。弓道部には真面目に参加していたのは知ってたけど。」

「昔、宇宙とか天文とか興味あったんです。」

「ふぅん、とかなんとか言って、実はその栃木の女子校とやらに昔の彼女がいたとか。だからいつになく熱心なのだとか。」

 放送委員会のMC担当の男子、田中先輩だ。彼は下世話ないじり方が得意だ。澄田花苗は一瞬箸を落としそうになったが、我に帰って遠野貴樹の顔を見返した。

「…そんなことないですよ。水野さんとはこの学校にいた時は話したことなかったですし。」

「遠野くん。相変わらず真面目な答えだなぁ。視聴者はそんなの求めていないんだよなぁ。君、確か中学校の時に関東の学校からやってきたんだよね。その栃木の女子校にその頃の彼女とかいたりして、とか。そのへんはどう?」

「…どうと言われましても。そんな女の子はいなかったので。」

「うーん、悪かったね、でも放送委員会としてはそんなゴシップネタがあると、盛り上がるんだけどな。」

「田中先輩!!」花苗はついに声を上げた。

「や、本妻に叱られちゃった。ごめんね、遠野くん、気にしないでくれよ。」

「ええ。気にしませんよ。」遠野貴樹は淡々と答えた。

 珍しく不機嫌になった澄田花苗は口をとがらせた。そして田中先輩と何やら言い争う構えを見せたが、田中先輩も放送委員会の司会としては実力者だ。相手に憎まれないギリギリの部分で引く。それは彼の危ない話術というよりも、彼のおおらかな笑顔と体型で誤魔化されているところが大きかった。花苗は、ふっ、と息をついて、ヨーグルッペを飲み干した。

 

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