「なんかやっぱり天文部といえどさすが運動部兼部組。水野さんに比べて豪快なトークだな。」
「それは嫌味かしら。褒め言葉かしら。」
通信を切った後、兼部組のコメントを聞いて早速田中は軽口を叩き、たまたま放送室に戻っていた水野はそれに対して辛辣に返した。しかしそれに田中は長々相手はせず、遠野貴樹の方を向いた。
「遠野、さっきからまた通信入っているんじゃないか、つないでくれ。」
「それが。なかなかうまくいかなくて。」と言いつつも、通信は数秒後に復活した。音声が流れてくる。
『…がどうやら到着が遅れるようですね。全く何をやっているんでしょうか。今日はバスケでスリーポイントを決めたと言うのに。機嫌よく登場するかと思っていたんだけどなー。仕方がないからこの佐藤望が彼女のことを紹介します。えー。バスケ部と兼部の彼女は、私たち3人の兼部組の中では一番変だよね。』
『うーん、変というか。妙なこと詳しいよね。だってさ、私彼女から教わったんだよ。桜の花びらの落ちる速度は秒速5センチメートルだって。そんなこと、考えた事ないよね。私たちバカだから。』
『あんたと一緒にしないでよ。私一応理科の追試免れたんだし。』
『それをいうなら私だって。でもあいつは変な科学の知識をたくさん溜め込んでるから、ホント理科強いよね。私たちの年齢だったらさ、アイドルとか好きな男の子のこととかで頭いっぱいじゃない。あいつの頭の中に科学の図鑑が一冊入っているかとも思えるわ。変人よ。』
『まあうちら3人の2年生兼部組の中では一番天文部らしい生徒かもね。オリオン座の一等星が数年後に一時的にひとつ減るとかそんな知識は彼女から聞いたものだし。これには一応天文部の私もびっくりしたわ。それ以来冬の空でオリオン座が気になってしょうがない。』
『実はあいつも種子島行きたかったんだろうな。』
『バスケ命だから種子島なんて行っている暇ないなんて強がってたけど。』
『そうよ、今種子島にあいつがいたら、うちらよりもずっといろいろ役に立っただろうね。』
「しっかし、この子たち遅れてくる子にいいたい放題だな。呼ぶよりそしれ、ってか。」田中は呆れ顔で兼部組の2人の会話に聞き入っている。
「…あれ、また通信途切れた。いいところだったのにな。水野さん、遠野。そっちはどうだ?」
「だめ、こっちも。画像はなんとか判別できなくはないけど。」PCの画面をのぞいていた水野が声を上げる。
「…こちらもです。音声拾えません。」次いで遠野も立ち上がった。
「うーん、とりあえず画像から復旧させようか。とりあえず種子島の星空が渡良瀬女子に届けばいいんだろ?音声は最悪、切り捨てよう。遠野も、PCフォローに入ってくれ。水野さん、バックアップPCを通信に繋げてくれ。遠野はそれで画像を復活させてくれ。」
田中は意外にも的確に指示を出していく。
水野機のPCが不調のまま、遠野機(バックアップPC)の方で画像処理を行うことになり、水野は画面の確認をする。
屋上でも、音声が途切れたまま入ってこないことに天文科学部の部員も澄田花苗も気付き始めた。天文科学部員はそれでも星空の写真撮影やら流星探しに没頭していたので、誰も不平を鳴らさなかったが、花苗はひとり、心配していた。
「理紗さん、遠野くん、何かあったのかな?私なんかがいても役にたてないかも。だけど…。」
逡巡する花苗の脳裏に、ついこないだ遠野貴樹からかけられた言葉がよみがえる。
『いて欲しいんだ。澄田には。…』
そうだよね、私、遠野くんに必要な女の子だもの…
澄田花苗は、星座早見盤をそっと屋上に置いて、放送室へ駆け出していた。