放送室では、田中・水野・遠野の3人が必死で復旧作業を行なっていた。そこへやってきた花苗。鬼気迫る表情をしていたのは理紗さんと遠野くんだ。あのいい加減な田中先輩までもが真剣な顔をしている。
「水野さん、これでどうだ?」
田中がキーボードを叩いて確認を促している。
「バックアップの方でも、動かしてみて!」
理紗さんは遠野くんに強く指示を出した。
「まだまだ」
遠野くんが画面をチラリとみながらも、キーボードを叩く手は止めない。
花苗は場違いの所に来てしまったと後退りした。放送室から出て行こうときびすを返した、その瞬間…画面に映る、見知らぬ高校の夏の制服を着た美少女。花苗はその画面の中の少女と目が合う。
「遠野くん!!」
「澄田!?」遠野は驚いて彼女の名を呼んだ。「花苗?来てたの?」水野も復活した画像を確認して、安堵した表情で花苗を迎える。「やった。とりあえず。画像は復活か。」田中も首から掛けたタオルで汗を豪快に拭いた。
PCの画面に映る美少女は、何か言いたげにしている。
「向こうから、多分こっちは聞こえるのにな。音声がダウンしているから、こちらは、この可愛い子が何言っているかわかんないよ。」
田中先輩は肩をすくめて両手を上げた。お手上げの表情だ。
「ま、でも、自己紹介ぐらいしましょうよ。こんばんは、渡良瀬の留守番のみんな。おつかれさま。水野理紗だよ、おぅいー。みんな、わかる?画像復活したよ。」水野は大声を出したり手を振ったりして画面の中の天文部仲間に語りかけた。
画像の中の美少女が口をぱくぱくさせている。そして彼女を挟むように、先ほど軽快なトークを展開した佐藤望、手塚由子が真ん中の彼女を両側からいきなり圧迫した。真ん中の美少女は二人に突っつかれて苦笑している。
「どうやら真ん中の可愛い子が、遅れてきた子らしいな。」
田中は画面を見ながら顔を崩した。
「こんばんは、種子島高校3年の放送委員会、田中です。よろしく、渡良瀬の皆さん。おい、遠野、澄田、お前らもこっちきて自己紹介しろ。」
しかし遠野貴樹は、バックアップPCのコンソールを凝視したまま、微動だにしない。バックアップPCにも渡良瀬女子の左から佐藤、真ん中の美少女、手塚は映っているのだが…。
遠野貴樹はその真ん中の美少女、髪の長い、気品漂う美少女から目を離すことができなかった。そして彼の傍らに立つ花苗は、その美少女を見つめる遠野貴樹の真剣な表情に、驚いて、一歩もそこから動けなかった。彼女は、思わず遠野貴樹の腕をとってしまった。
「どうした?」
ふと我にかえり、花苗を見つめる遠野。花苗は、思わず涙腺がちくりと痛むのに気づいた。