「あー。しょうがないね。この私、手塚由子がこの緊張しいの女の子の紹介するね。種子島高校の皆さん、紹介が遅れました。こちらが、遅れて到着しました、
手塚も舌好調じゃないか。私は望より由子の紹介でホッとしたのも束の間。彼女は私の恥ずかしいネタをぶっ込んできた。
「その美少女篠原明里ちゃんだけど、うちら3人の中でもとんでもない変人。頭の中は変な科学の知識でいっぱい。種子島のみんな知ってる?桜の花びらの落ちる速度。秒速5センチメートルなんだって。明里の頭の中はそんな変テコ知識でいっぱい。うちらが考えもしない事に疑問を持って、知識を積み重ねていく、将来はキュリー夫人かナイチンゲールか。渡良瀬女子高の中でも将来が期待されるガリ勉科学少女。でも頭だけじゃないよ。女子バスケでもスーパーサブとして活躍、篠原明里をよろしく、ねっ!」
手塚ぁ…。私は恥ずかしさで泣きそうな顔で、音声入力マイクを握る彼女を見返した。「いいのいいの、音声途切れてんでしょ?」手塚も手をひらひらさせる。佐藤望は笑い転げている。
しかし、その失笑がこだまする放送室に突然入ってきた声ー…。
「…決して変じゃない…。変なんかじゃない。明里、俺だ!遠野貴樹だ!聞こえたら返事してくれっ!そう、明里が小学生時代の俺に教えてくれたんだ。桜の花びらの落ちる距離は秒速5センチメートルだって。それを俺は明里と共有できて嬉しかったんだ。聞いてるか明里!!」
「おい、どうした遠野?」
「遠野くん…。」
田中と水野が同時に声を上げる。遠野貴樹は入力マイクを握りながらバックアップPCのコンソールに向かって一心に画面の中の美少女に向かって話しかけている。
花苗は、いたたまれなくなった。
遠野貴樹の右腕を頼りなくつかんでいた右手。
その右手は、今、花苗の両のまぶたを押さえている。もうそこにうずくまるしかなかった。ー遠野くんがあんなに熱く女の子に向かって語りかけている。当然、私には見せたことのない姿で。そしてそれは私だけでない、田中先輩も理紗さんも見たことがないのだろう。二人の驚き方を見ていたら、わかる、そしてそれは、私には耐えられなかった。ー
花苗は遠野の後ろに後ずさり、そしてくるりと向きを変えて走り去っていった。ー「花苗!」と理紗さんの声がはるか遠くに聞こえる。もう私は遠野くんの本妻だとか彼女だとか冗談でもうれしいことは言われなくなるのだ。やっぱり彼は私にとって遠くにいる星のような人。いつか手が届くかと思ってたけど、やっぱり届かなかったんだ。ー
花苗は水飲み場で顔をくしゃくしゃにして洗った。それでもとめどなくあふれてる涙。屋上にいたままだったら良かった。あんな遠野くんの姿を見ることはなかった。今夜も明日も高校卒業まで何も知らない脳天気なサーファー女で生きていられたのに。花苗は水飲み場に座り込み、容赦なく流れてくる涙が枯れるのをひたすら待った。