妙な知識に詳しい彼女 篠原明里ちゃん   作:藤沢 南

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のろまなネット

その頃、渡良瀬女子高校放送室。

ギクシャクする画像から日焼けの彼女が出ていった。私はその子の顔がちょっと悲しそうな顔をしているのに気づいて、何があったのだろうかといぶかしんだ。

「あ、邪魔な彼女がいなくなったよ。」

望はニヤニヤしながらコップに入っていたジュースを飲み干した。そしてワンテンポ遅れで入ってくる画像。音声。

「あれ、種子島の彼氏、なんか真剣な表情になってる、きゃー」

由子が似合わない悲鳴を上げる。

「そんなに見つめないでえ。」

由子は顔を赤くして笑う。しかし、音声がようやく届いた時に、私達3人は固まってしまった。

 

『…決して変じゃない…。変なんかじゃ★い。明里、俺だ!遠野貴樹だ!聞こえたら★★してくれっ!そう、明★が小学生時代の俺に教えてくれたんだ。桜の花びらの落ちる速度は秒速5センチメートルだって。それを★は明里と共有で★て嬉しかったんだ。聞いてるか明里!!』

 

所々通信不良で音声が途切れているが、やはりPC画面の向こうには貴樹くんがいる。「明里!!なんなの、あんた。あのかっこいい彼と知り合いなの?」望が思い切り私の背中を叩く。「え?うそ!!」由子も私の横で目を見張る。私は心の整理がつかない。「何かいいなよ。明里!!」望と由子の声がユニゾンする。珍しいことだ。しかし私はこのPC画面の中の現実に過去が、そして私の今ちゃんとやれていると思う自分とがうまくリンクしていかない。

 

「…何か言わなきゃ…」

 

私はようやく我にかえるも、うまく言葉が出てこない。

でも、これは現実なんだ。お互い、栃木と種子島で離れ離れで生きてきて、二人ともそれぞれお互いがいなくってもちゃんとやれている、ということだけを信じて生きてきた。それが私の生きる指針だった。私はそう信じて生きてきたし、きっと貴樹くんだってそうだと信じて疑わなかった。

 

「ほら、明里!!しっかりしなさい!」

 

望が私のほおを軽く叩いた。それでも私の不器用な口は震えたままだ。貴樹くんを目の前にして、あの頃の、そう、小学校の時に彼なしでは生きていけなかった自分、そして中学生時代の孤独で東京にいる貴樹くんの存在を思うことでなんとか心のバランスを保っていた頼りない自分にかえってしまったかのように。

 

彼と二人きりなら私は泣いていた。

この放送室が、家の私の部屋で私が一人ぼっちならきっと泣いていた。

でも、今の私には周りにたくさんの仲間がいる。望、由子、そして種子島高校で合宿している天文部の仲間、毎日共に汗を流すバスケ部の仲間。そんな仲間に支えられ、私はようやく「ひとりでちゃんとしていける」自信を得たのだ。

さっきまで貴樹くんの傍にいて、泣き顔で逃げていった女の子は、私が高校入学後、イメージする貴樹くんの姿にいつも寄り添う彼女そのものだった。私のイメージ通りの爽やかで性格の良さそうな女の子。貴樹くんだって私がいなくったってちゃんとやっていけている。だから、だから、私が伝えられる言葉はこれしかない。

 

「貴樹くん、ありがとう。篠原明里です。お久しぶり。」

 

「それだけかよ!明里!頑張れっ。」「そうよ、いつもバスケ部で大声出してるでしょう。いつもの明里に戻れって!」望と由子が運動部さながらのノリで声援を送ってくれる。だけど、私にはこれが限界だ。

 

「貴樹くん。ありがとう。ちゃんとやっているんだって姿を見せてくれただけで。私との約束果たしてくれたんだって。」

 

もう望も由子も黙ってくれている。口は悪いのに、ちゃんと引くべきところは引いてくれる。それが彼女たちの良いところだ。

 

そしてPC画面の中の彼は、…貴樹くんは、微動だにしなかった。何か言おうともしているのかもしれない。だけど私はもうこれで限界だった。これ以上の言葉を貴樹くんからかけられた場合にどうやって返事をしようか、もう発する言葉のストックがない。

 

どうやらPCの中の彼が口をぱくぱくし始めた。「来るよ」望がまた声を上げる。何を言われても受け入れろよ、明里。望か由子かわからないが、優しく耳元でささやく声がした。

 

しかし、音声はいつまで経っても流れてこない。

5秒、10秒、30秒…。

なんと長い間に感じたことだろう。春に咲く桜の花びらがすでに地面に落ちている頃だ。

 

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