「ちっ。このタイミングで音声エラーがまた!」
種子島高校放送室。田中が異変に気づいた頃には、遠野貴樹が椅子に座って放心状態になっていた。というと聞こえが悪いが、長距離マラソンを走り終えた後のような無心の表情にも見えた。
メイン機をいじっていた水野理紗が、マウスを投げ出した。
「エラーコード1601が出てる。これは相当きついわね、田中さん。私、ちょっと作業前に飲み物買ってくる。」
「ああ。遠野にも何か買ってきてやってくれ、この故障は一晩かかるかもな。」
「もう今夜の復旧は無理でしょう。通信は諦めて、画像処理だけしない?星空の画像さえあれば、それを後で一斉送信もできるし。」
「…そうだな。」
田中も放心状態だった。あれだけ入念に準備したのに、プログラムのミスか何か他の要因が原因か、ここで通信が止まってしまった。
「遠野。少し休め。しばらく通信は戻りそうにない。」
田中はそう言って、窓の外の星空を見上げた。
「今日も、空はきれいだな。俺には何もわからんが。」
田中も水野も、PCの中に画像が残っている渡良瀬女子の美少女の一件については触れなかった。いや、触れるのをあえて避けていた。
水野理紗は、自販機にとぼとぼと足を運んだ。通信云々よりも、花苗の事や遠野の事が気がかりで、一気に気が重くなった。
『私の種子島への感謝の気持ちでこの合宿を計画したのに、この合宿のせいで、花苗や遠野くんの気持ちを壊してしまったのかもしれない』
水野が3本のジュースを抱えて放送室に戻ろうという時に、ふらふらと歩いている花苗を見つけた。理紗は「花苗!」と声を明るくかけられず、3本のジュースを持ったままの手を軽く上げるにとどまった。
「理紗さん!」
花苗は水野理紗の前に立ち、そして理紗に抱きつく。
「理紗さん。私。…。」
花苗は涙を流しながら、「ごめんなさい。」と短く言った。
「どうしたの花苗。あなたは何も悪くないよ。」
理紗はジュースの缶を地面に置いて、花苗の背中を優しくさすった。
「私、遠野くんが画面の中の女の子に熱く話しかけているのを見て、悲しくって、つらくって、それで、…。」
理紗は次の言葉を待った。この子は、何か言おうとしている。
「足元の通信ケーブル、蹴り飛ばして抜いちゃったんです!」
「ええっ?」
「だから、遠野くんの告白?ですか、その後の、その女の子からの返事は届かないです。私が、切ってしまったから。」
なんて事を…。しかし理紗は花苗を責める気になれなかった。なんと言っても私の可愛い妹分だ。理紗の頭はフル回転を始める。この子、花苗に罪を着せてはいけない。私がこの子の罪も被って栃木に持って帰る。そして篠原からも非難されればいいんだ。私は人から誤解を受けるのには慣れている。顔に似合わない押しの強さで周りを苦しめた事もあった。