「何言っているの?花苗。あなたが切った通信線は遠野くんの使っていたPCのもの。仮にそっちを切ったところで私のメインPCが生きているから通信が途絶えることはないのよ。だから、気にしないで。」水野理紗は気を取り直して澄田花苗に説明した。
「…そうなんですか?」
「私と秀才遠野くんが組んだネットワークにプログラムよ、いろんなトラブルに対する準備は完璧よ。だから安心して。そして、優しいあなたの良心がとがめるかもしれないけど、遠野くんにこの事は言わなくていいからね。」
「え?…」花苗の表情が変わっている。赤みが差しているようだ。
「いい?約束して。このことは遠野くんに言わないこと。」
「でも、私…理紗さんと遠野くんや田中先輩があんなに一生懸命取り組んでた通信機械をわざと切ったことには変わりないんです…。」
そう言っている花苗はまた目に涙を溜めている。…そうか、この女の子が種子島高校に受かったこと、そしてサーフィンに一心に取り組んでいることの大きな要因は遠野くんだったか。私は花苗の髪を優しく撫でた。
「花苗。あなたを妹だと思って言うのよ。このことは絶対に他人に言わないで。あなたと私の姉妹の秘密と思って。そして明日からも明後日も遠野くんと今までと同じように付き合いなさい。いいわね。返事は。」
「…そ、そんなこと、できません、理紗さんのお願いでも。…私、理紗さんと遠野くんを裏切ってしまったのです。」
「くだらないことにこだわらないで、今を遠野くんと生きなさい。そして、種子島で楽しい思い出を作りなさい。彼と。」理紗は花苗の目を見て、丁寧に繰り返した。
「…私、あの画面の中の女の子にすら負けてるんです。たとえ波の上に立てたって、遠野くんの横に立つ権利なんてない。」
「そうやってうじうじしてこれからの高校生活を無駄にするつもり?それでは遠野くんと一緒でしょう。あの男、過去の女に囚われて今の幸せすらつかめない状態なんでしょう、…それを助けてあげられるのは、花苗、あなただけなのよ。私に言わせれば通信ケーブルを蹴り飛ばして切ったことなんて大した話じゃない。むしろ、そこまでして遠野くんを奪おうとしたあなたの積極性を褒めてやりたいぐらいよ。私は知ってる。あなたがとても素敵な女の子で、遠野くんのことを強く強く思い続けて、受かりそうになかった種子島高校にだって受かったし。サーファーしてるのだって、彼に告白できない弱い自分に自信をつけたいんでしょ。
いいじゃない。あなたは紛れもない種子島高校の遠野くんの本妻よ。私にとっては、あの画面の中の女の子だって栃木の可愛い仲間ではあるけどさ。彼女が切れた通信の向こう側でどんな事を遠野くんに言っているかわかんないけど、そんなこといいじゃない。誰が何を言おうと、あなたはあなたなんだから。」