「篠原、付き合ってくれないか」
「…ごめんなさい」
即答だった。私には何も迷いはなかった。彼ら彼女らの幼なじみという関係に割って入って、人間関係でもがくのはつらすぎる。しかし、彼の落胆した表情を見せつけられた私は、
「あ 違うの」
私の口が勝手に言葉をつないでいく。待ってくれ私の声…
「少しだけ、返事待ってくれないかな?」
何をしているんだろう。私には貴樹くんがいる。だけど、山内さんが肘打ちをしてまで私から奪い返そうとした男の子だ。その山内さんの気持ちも、そして目の前の彼の思いも両方ともなかったことにするつもりなのか私は。結局、半ば衝動的な感じで私は告白の答えを引っ張ることになってしまった。これが正しいのだろうか。私は出口のない迷路に入ってしまったような気持ちになった。そして家で一人の時には貴樹くんから届いた手紙を読み返す。返事を出さなきゃ。しかし、この一件の直後から私の筆は進まなくなってしまった。
私はバスケ部に復帰したが、流石に山内との対峙は怖くなってしまったのか、彼女の前からはパスで逃げるようになっていった。そして昔からコツコツ練習していた3ポイントシュート、長距離砲を磨くことにした。これならDとの接触は最小限ですむ。
その様子を山内は見ていた。そしてある日、私の袖をつかんだ。その時たまたま体育館には私達2人しかいなかった。
「あり、私と向き合って」
彼女は自分の好きだった男を私に取られた形になったが、私はまだその彼に告白の返事をしていない。だから私も含めて山内と水泳部の彼の3人は宙ぶらりんの状態のまま2ヶ月を過ごしていたのだった。そして私はスリーポイントシュートに磨きをかける。山内は強引な突破で先週も隣町の中学との試合で相手選手をノーファールで跳ね飛ばして見事なゴールを決めた。
この時点で山内はレギュラーに一番近く、私はサブメンに入るのがやっとだったと言えるだろう。
「私だって。私だって、あなたと同じなのよ…山内!」
山内に私は言い返した。山内は「何が言いたいのっ!」といい返すも、思いがけない展開に彼女は私の腕から手を離した。
「しゃべってもらうわよ。あり。」
「…あなたが彼を、ミキトくんだったっけ?つなぎ止められなかったから。私も、あのミキトくんの告白のせいで、…!貴樹くんに手紙が出せなくなったのよ!あんたたちがしっかりしないから、あんたがあの彼をモノにしていれば、私がこんなに悩むことはなかった!元に戻してよ!ねえ山内。私と貴樹くんの関係を!私はあんたの幼なじみを奪いたくって奪ったわけじゃない!あの男の子はいつでもあんたに返すから。ねえ。なんとか言ったらどうなの!山内!」
私は山内の両肩をつかみつつも、胸のつかえが言葉を発するごとに消えていく事を感じた。ふと気付くと、我にかえると、山内が泣いている。