「訳のわからないこと言わないでよ。私はあんたの好きな人?彼氏なんて知らない。私は好きな人があんたに取られたことが悔しい。返してほしければ返すって!だったら今すぐに断ってよ!彼の告白を!あんたには好きな人がいるんでしょう。東京にいるんでしょう。だったらいいじゃない。さっさと断ってよ卑怯者。いつまで彼をキープするのよ。私の彼を振り回すのはやめて!」山内は涙声で訴える。
「私の好きな人はもう東京にはいない!」
そこで私は我慢していたものが切れてしまった。無念さと切なさで目から涙があふれるのに気づいた。…東京に今も貴樹くんがいてくれたら、今すぐにでも彼に会いに行ってこのモヤモヤした思いを彼に聞いてもらえるのに。私は体育館に膝をつき、とめどなく流れる涙と怒りでいっぱいになりながらも、泣きじゃくる山内の肩を抱いていた。
『安心して。私、あなたの好きな人は断るから』
私は、翌日、水泳部の彼、ミキトくんを呼び出し、告白を正式に断った。
それからしばらくして、その水泳部の彼とバスケ部女子のレギュラーに内定した山内がよりを戻したと人づてに聞いた。
しかし、私の中でもこの事件は大きく影を落としていた。
貴樹くんを思い続ける気持ちに、偽りはないだろうか。
あの時、水泳部の彼の告白に対し、即答で断ったところまではよかった。それならそれで、貴樹くんへの気持ちにウソはなかったことになる。なのに私は、断った後で、余計なことを口走った。姑息にも「少しだけ待って」と時間をもらってしまった。この保留期間に私は貴樹くんの気持ちを確かめようと何度もペンをとった。が、
『こんなこと書けるわけがないよね。』
と便箋に走り書きして終わってしまう。
そして2ヶ月も、その水泳部の彼の気持ちと山内の気持ちを弄んだ格好になった。そんな自分が貴樹くんを今でも純粋に好きであるとは言い切れなかった。後ろめたい気持ちが生まれてきてしまったのだった。
とうとうそれ以降、私が貴樹くんに手紙を書くことはなかった。何度も書こうとペンをとる。だけど…。この栃木の中学校の一件があって、私はその後これに対する罪悪感を抱えながら生きていくことになる。
最後に届いたのは彼からだったから、私が書く番だったのに。
確かその手紙の中には、彼の種子島での生活の様子とともに、携帯電話のアドレスが追記されていた。私は種子島のような遠いところとも携帯電話で一瞬で繋がれると言うことにいささか不思議さを覚えながらも、そのひとつ前に彼に出した手紙で私のアドレスを書いたのに、そこへメールを送ってこなかった彼の気持ちを測ることができない自分にも自信が持てなかった。