妙な知識に詳しい彼女 篠原明里ちゃん   作:藤沢 南

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コスモナウト

「篠原さん」

 

6月の梅雨に入る直前に、私は天文部の顧問に呼び止められた。

 

「バスケ部、忙しい?」

 

その顧問先生は、にっこり笑って問いかける。私は天文部の校内合宿すら参加できない状態の自分を少し恥じながらも、先生に笑顔で返事した。

 

「あのね。あなたの事をちょっと見込んで話をしたいんだけど…。」

 

先生は理科準備室に私を誘い、紅茶を出しながら話し出した。

 

「あなたの隣のクラスに、留学中の女の子がいるって聞いてるかな?」

「あ。…一応話だけは。」

 

そう、その子の事なんだけど。先生は重い口調で話し始めた。

 

「実は彼女は、離島留学から来月帰ってくるんだけど。…元々この学校の天文部に所属していたの。責任感の強い子だったのね。ただ、2年前の天文部の合宿の時にちょっとトラブルがあって。それの責任を感じて。ちょっと不登校気味になってしまったの。」

 

「はぁ」私はどう返事していいかわからず、曖昧に答えた。

 

「でも元々行動力もあって、頭もいい子だったから、しばらく学校を休んだ後で、離島留学したいなんて言い出した時には私達も驚いてね。ただ、彼女は天文部で明らかに浮いてしまっていたから、私も積極的に止めるわけにはいかず、結局彼女の離島留学を認めた格好になったの。元々は1年間留学の予定だったんだけど、よっぽど留学先が自分に合っていたのでしょうね。結局2年間彼女は種子島の高校に留学して。で、今年帰ってくる、と。」

「その人、私から見たら年上ですよね?」

「ええ。もし不登校…いや、離島留学していなかったら3年生かな。でも、もう来月になれば彼女の事を知る3年生は全員引退する。そうは言っても、私は彼女がうまく天文部に溶け込めるか心配でね。で、今まだ校内合宿にも定例の栃木の科学館での勉強会にも参加できていない篠原さんが天文部では似たような立ち位置だから、彼女が戻ったら仲良くしてあげてくれないかな?」

 

 私はどんな表情をしていたのだろう。仕方なく「はぃ」と消え入りそうな声で返事をしていたのだと思う。やはりどんな素晴らしい環境でもはぐれてしまう人間はいるようだ。そして私が天文部での活動にまともに参加できていないという弱みをつかれて彼女のお守り役を任されそうになっている。…天文部に真面目に参加していればこんなことにはならなかっただろう。私は今更ながら、バスケ部を優先しすぎていた自分を戒めた。でも、天文部を辞めるという考えには至らなかった。こんな私でも天文部の一員として受け入れてくれる優しい先輩方、そして同学年の仲間たちがいたからだ。

 

 顧問の先生はそんな私の性格を見ていたのだろう。あまり天文部に参加していなくても皆から受け入れられている。またそんな私のわがままを認めつつも天文部の活動に積極的に参加しない事に釘を刺した、とも言える。私は見事にはめられたとも言えるが、それほど嫌な気はしなかった。だって、不登校の生徒とか転校生の世話役はいい加減な生徒では務まらない事を知っているからだ。

 

 しかし、種子島高校という彼女の留学先には少々胸にちくりとくるものがあった。その微かな痛みが何なのか…私には分かる。しかしそれを深く考えるのはやめた。もうあの頃の私でない。ひとりでもちゃんとやっていけるのだ、私・篠原明里は。この栃木県立渡良瀬女子高校で。

 

 8月になるとバスケ部の練習はますます激しさを増す。しかしそのハードな練習の中で、バスケ部の仲間が熱中症でフラフラと体育館に倒れ込んだことがちょっと問題となった。バスケ部の活動が少しだけ緩くなったのは不幸中の幸いだった。私はそのバスケ部の仲間のお見舞いに行った後で、その天文部の留学帰りの歳上の同学年の女の子に会いに行く事になった。

 

 彼女と初めて会った時の印象は、私の想像していたより顔色も良く、また大人っぽい立派な体格に私は驚いた。天文部顧問の先生の話から想像するに、神経質で悪い意味で繊細で、か細いひょろひょろした女生徒を想像していたからだ。ただ、種子島に留学していたにしては日焼けも控えめで、色白の綺麗な肌だなとの印象を持った。

 

「水野理紗です。よろしくね。」

「篠原明里です。初めまして。」私はペコリと頭を下げる。

「篠原さん、私はちょっと歳上だけど、タメ口でね。お願いよ。」

 

 そう言って彼女は素敵な笑顔で私に微笑みかける。何だろう、南方系の屈託ない自然な笑顔に、日本人女性の魅惑的な微笑を混ぜたような感じだった。

 

「それから篠原さん、私の妹が中学時代にお世話になったみたいだね。妹、素敵な先輩に出会えてとても楽しかったって言ってたわ。」

 

…そうか。あり先輩、あり先輩ってまとわりついてきたあのバスケ部の後輩のお姉ちゃんか。

 

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