黄金の風   作:ボンゴレパスタ

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CLOUDY HEART2

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どうやってお前…雷を受けて生きてるんだよ~~?」

 

 

男は苦悶の表情を浮かべながら自身をこんな目に追いやった張本人である目のまえの男……ジョルノを睨みつける。その立ち振る舞いは、最早一介のトレーナーではなく、組織を抱えるギャングのボスそのものだった。

 

 

 

「確かに君の能力は強力だ。だが、僕のスタンドはゴールド・エクスペリエンス!雷によって受けた血管や臓器のダメージも、時間はかかるが修復することができる……さて」

 

 

 

ジョルノはそう言うと、身動きがとれない男に歩み寄り、その首を掴むと、徐に口を開いた。

 

 

「……君には話してもらいたいことがたくさんある。組織のメンバーは残り何人なのか。どうやって麻薬のルートを開拓しているのか。被害者はどうやって裁定しているのか……全て答えてもらおう」

 

 

そう質問という名の尋問を行ったジョルノだったが、返ってきた返答は彼の望んだものではなく、不穏な代物だった。

 

 

「……いいのかよ?俺にかまけててよぉ~~。」

 

 

 

「………?どういうことだ?」

 

 

「俺がいつ!一人でここに来たって言ったんだよぉぉ~~?俺はお前と戦って時間を稼ぐ…始末はできるようならしてもいい、そう言われただけなんだぜぇ~~?アイツは絶対に成し遂げるだろうなぁ!お前たちのこと、殺したいほどに憎んでるんだからよぉ~~!」

 

 

…この男の言う通りならば、自分とここで戦ったのは足止めのためということになる。そしてそれが本当なら、奴らが狙うのは……

 

 

「……タキオン」

 

 

タキオンが危ない。そしてこの男が言っていた「自分たちを憎む」敵というのは、タイシンに手痛くやられた泉とみていいはずだ。奴は強力な酸を使う以上、手放しにできる相手ではない。

 

 

「……行ってきなよ」

 

 

 

「タイシン…?」

 

 

 

傍にいたウマ娘の言葉に、ジョルノは大いに悩んだ。既にこの男は拘束されている状態とはいえ、無力化できているわけではない。もしもこの男が反撃に転じたら、タイシンは勝つことできるのだろうか?ジョルノのそんな不安を感じ取ったのか、タイシンは眉を八の字にして不満を表すと、言葉を口にした。

 

 

 

「こいつの能力は大体把握した…アタシのスタンドより力は弱いし、攻撃されても倒すことができる。」

 

 

 

「……でも」

 

 

「……助けてあげて。タキオンのトレーナーはアンタしかいないんだから」

 

 

その言葉に、ジョルノは思いなおすと、タイシンに例を言って競技場の方へと走り出していった。その背中を見送ったタイシンだったが、突如背後から聞こえた下衆な笑い声にその意識は引き戻されることになった。

 

 

「……アンタ。何がそんなにおかしいの?」

 

 

「おかしくてたまらないからさ…これでここにいるのは、俺とお前だけになったからなぁ……ナリタ…タイシン。今の状態であれば…お前だけが相手だったら!俺にも勝ち目がある……!」

 

 

「フゥン?身動き取れないアンタに、勝ち目があるとは思えないけど?」

 

 

タイシンは、まるで養豚場の豚を見るような目で男のことを見つめる。一方で彼女は男の瞳の中に、確かな勝機と、悪党には似つかわしくない覚悟が宿っていることに気が付いた。

 

 

「身動きが取れない……?確かに今はそうだなぁ~~?だがこれで俺を倒したと思っているのであれば、甘く見るな…」

 

 

「……ッ!」

 

 

「クラウディ・ハート!」

 

 

男はクラウディ・ハートを再度出現させると、その顔を苦悶と恐怖の表情にゆがめるとスタンドの手を手刀の形にすると…

 

 

 

 

 

 

その脚を断ち切った。

 

 

 

「うおおおおおおおがあああああああ!!!」

 

 

トンネルには絶え間ない男の絶叫が響き渡る。タイシンはまるでおぞましいものを見つめるような目つきで男のことを見つめた。自分は少々、この悪党を過小評価していたのかもしれない。脂汗がさらに額から吹き出し、痛みにその手は異常とも言えるほど震えながら、男は胸ポケットに入っているなにやら白い粉末の入った袋を取り出すと、その中身を全て摂取した。

 

 

「……アンタ。それ……」

 

 

それを摂取した男は、不自然に身体が痙攣すると、しばらく白目を向いていたがやがてその表情は恍惚としたものへと塗り替えられていく。

 

 

なにかマズイ。

 

 

この男に、一刻も早くケリを付けなければ。タイシンが自身のスタンドを繰り出して攻撃を加えようとすると、その瞬間に男は自身のスタンドで攻撃を受けとめた。

 

 

「俺はもう助からない。恐らく今外で行われているレースが終われば、俺の命も尽きる……だがそれまでに、作戦の成功!そしてお前を始末することぐらいはやってやるぜ~~~!」

 

 

男は自身のスタンドによって発生させた雲を切断面に繋ぎ、まるで即席の義足のようにこしらえてその場に浮かんでいた。その表情には、最早苦しみも恐怖も微塵も感じられない。あるのは僅かな覚悟と、狂気だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……クソッ!」

 

 

奴は…泉は一体どこにいると言うのだろうか。競技場内を隈なく探していたジョルノだったが、何万人もの観衆がその場に押し寄せている以上、最早その姿を探し出すことは困難を極めていた。先程ゴール付近には泉がいないことを確認しているため、近距離で忍び寄って攻撃を加えようという意思はなさそうではあるが、却ってそれが泉の思惑が全く読めず、どうやって彼が攻撃の隙を伺っているのか疑念を深めていた。

 

 

「さぁ……一番人気は……」

 

 

競技場のスピーカーからは自身の心の嵐とは裏腹に、着実に進行を促す実況の声が聞こえてくる。焦る気持ちを何とか抑えつつ、ジョルノは一体泉がこの中のどこに身を潜めているのか、冷静に分析を始めた。

 

 

あの男は必ず、特等席でその悲劇を見ることができる場所にいるはずだ。

 

 

タイシンの攻撃を受けて、まともな治療を受けることができない以上、その身体には深刻なダメージが蓄積されているはずだ。その痛みの分、あの男は自身をこんな目に遭わせた自分やタキオン、タイシンを激しく恨んでいるに違いない。恐らくタキオンがそのゴールを通過した瞬間に命を理不尽に刈り取られるシーンも、その様子を見て悲鳴を上げるであろう観衆も、そして命を奪われた自身の担当ウマ娘を見て絶望する自身の姿も。その全てをつぶさに観察し、あざ笑うことができる場所にいるはずだ。

 

 

……だとしたら考えられるのは。

 

 

ジョルノはその視線を上に向ける。僕の考えが正しければ、やつはきっと……

 

 

いた。

 

 

競技場のターフを観戦することができる、観客席のさらに上。その傍に備える建築物の屋上に奴の姿があった。そしてその頭上には、自然に発生したと呼ぶには聊か不自然な雲が発生していた。

 

 

見つけたはいいが……

 

 

奴のいる場所に行こうとすれば、その時間はおよそ5分以上を要する。あの雲が攻撃に関連しているとするならば、奴の攻撃は間接的にタイシンが足止めしてくれていることにはなるだろうが、それもどうなるかは分からないし、今にもレースが始まってしまえばその攻撃が始まってしまうかもしれない。

 

 

どうすれば……

 

 

このままだと、タキオンが。

 

 

最早打つ手なしと思われたその時。ジョルノはとある人物の姿を視界にとらえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、菊花賞がスタートしました!1番人気アグネスタキオンは好調な走りだしです!マンハッタンカフェはその後方に控えています!この展開、果たしてどうなのでしょうか?」

 

 

 

「どちらも彼女たちの脚質にはあっているように思えます。タキオン選手は先行策、カフェ選手は差し策なので、それぞれの今の位置について息をためて、自身のタイミングでそのギアを上げていくつもりなのでしょう」

 

 

 

興奮気味な実況、解説の声からも、そのレースの白熱具合はうかがい知ることができる。タキオンは久方ぶりのレースの感覚に、声には出さずとも今この瞬間に走り駆けることができていることに歓喜していた。

 

 

…私は幸せ者だねぇ。

 

 

諦めかけていた今この場所に、このプランにしがみつくことができている。もう戻れないとばかり思っていた。何度も涙した夜の数を、途方もない想像と絶望を超えてきた。そんな私が、あきらめ悪く今この場に立って走ろうという阿呆に成り下がってしまったことに、表面上は呆れつつ、内心は喜びを隠しきれていなかった。

 

 

 

……スピードのその先。ウマ娘の限界。

 

 

 

その大志のためだったら、私は殉じても構わないと思っていた。そのためだったら、自分のこの身など取るに足らない駄賃だと思っていた。

 

 

 

…でも彼に出会ってしまった。

 

 

 

イタリアからやってきた、その目的はあまつさえトレーナーとしての本懐を遂げるためではなく、自身の組織のためだという代物で、この学園の門を叩いたその男は、独りで戦い続けてきた私の覚悟を理解し、その道を照らしてくれたのだ。

 

 

……彼といれば、何も怖くない。彼といれば、自分の道が「正しい」ことだと思えるのだ。

 

 

幸い脚も好調だ。今なら、自分の積み上げてきたものは瓦解することなく、走り切ることができるかもしれない。

 

 

後方からは凄まじいほどの圧迫感を感じる。それは自身の友人の「勝ちたい」という確かな執念から発せられるものだった。漆黒のステイヤーは、その息を整えると、ラストスパートに向かって脚を思い切り繰り出していく。マンハッタンカフェは瞬く間に前方に塞がっていたウマ娘たちのバ群をすり抜けると、前方に躍り出てきた。

 

 

……さぁ、泣いても笑っても。ここが正念場だ。

 

 

タキオンはその口角を僅かに引き上げると、自身の繰り出す足を加速させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先程の男のスタンドとは比較にならないほどの重厚な攻撃が、絶え間なく繰り出されていく。

 

 

 

やっぱりこんなに強くなったのって……

 

 

タイシンのスタンドそのものの攻撃力は、非常に強力なものだったが、今目のまえで対峙している男のスタンドは、それを大きく上回っていた。叩き込まれる拳を寸でのところでスタンドの腕を繰り出してそれをガードしていくが、そのたびに自身の腕の骨が軋むのを感じ取った。

 

 

攻撃に転じようとして拳を繰り出しても、直前で男のスタンドが発生させたスタンドの雲によってその攻撃はクッション材に弾かれてしまい、また防戦を強いられることになる。

 

 

男の鼻からは鼻血が噴き出し、口から泡まじりの血がその両端からあふれ出している。彼はいわゆる、ODしている状態だ。その作用が彼のスタンドにも一時的に強化させているのだろう。男のスタンドがその拳を大きく引いたのを視界にとらえたタイシンは、両腕をクロスさせてその攻撃をガードしようとしたが、その攻撃を受けたタイシンの身体は後方に吹っ飛んでいった。

 

 

背中を強かに打ち付けたタイシンに男は徐々に近づいていく。その脚は最早まっすぐ歩くことさえできない状態であり、「作戦を成功させる」という目的によってのみ突き動かされている状態だった。

 

 

「て、てててめ~~を殺せば、ミッション完了だぁぁ~~~!」

 

 

タイシンに止めの一撃を放とうと、男はその拳を大きく振りかざした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……奴は何をやっているのだ。

 

 

最早満足に歩くためには肌身離せなくなってしまった補助器具である松葉杖にその身を預けながら、泉は競技場を静かに見下ろした。

 

 

自身の仲間の一人である蔵王の雲の能力に、自身の能力である酸を混ぜ合わせて、自然に発生させるような、長い時間と歳月をかけて草木を枯らすようなものではなく、瞬時にその身体を溶かすような強力な酸性雨を発生させる雲を、レースを終えた直後のアグネスタキオンに食らわせる。

 

 

……多少巻き込まれる奴も出るだろうが、そんなことは知ったことではない。精々、戦いの尊い犠牲と納得してもらおうじゃあないか。

 

 

もしも彼女を失えば…自身の担当ウマ娘の命を無残に奪われてしまえば、あの金髪の男は絶望することだろう。そしてその光景は多くの者にとってトラウマとなって残り続けるはずだ。その瞬間が楽しみでならない。自身をこんな目に遭わせたやつに、それ以上の絶望と恐怖と痛みを味わってもらわなければ気が済まないというものだ。

 

 

この男には、自身の身に起こったことが自分の行いによって振りかかった、つまり自業自得の類であるのではないかと考える心など、微塵も持ち合わせてはいなかった。

 

 

それにしても、蔵王は何をやっているというのだろうか?既に菊花賞のレースは始まってしまっている。レースを終えた直後にアグネスタキオンに攻撃する算段だが、酸入りの雲をゴール付近に動かすことはアイツにしかできない芸当だ。

 

 

……一体なにをやっているんだ。

 

 

苛立ち気に杖を地面に打ち付けながら泉は唸り声をあげる。その時、競技場に絶え間なく響き渡る歓声とは別の音が遥か遠くから聞こえてきた。

 

 

…なんの音だ?

 

 

その音は、まるで排気音のようだった。その音は低く唸り声をあげてこっちへと近づいてくる。音のする方へと首を向けると、そこには驚愕の光景が広がっていた。

 

 

ア、アイツは!!

 

 

そんなまさか。こんなこと、ありえるはずがない。

 

 

それはジョルノ・ジョバァーナだった。彼はバイクを運転しているウマ娘の背中に2人乗りの要領でしがみつくと、建築物の斜面となった部分を走り勢いをつけ空中を飛び出すと、大空を舞った。

 

 

驚愕の表情を浮かべる泉を余所に、バイクは建造物の屋上に乗り上げる。ジョルノは着地したバイクから降りると、傍に控えているウマ娘に声を掛けた。

 

 

「……ありがとう、ウオッカ」

 

 

「お安い御用っすよ…これでこの前の貸しはナシでお願いしますっす。」

 

 

「もちろんだ」

 

 

ジョルノはそう言うと、敵である泉の方へと視線を向ける。その瞳に宿る表情は、唯一つ。自身の担当ウマ娘に危害を加えようとした男に対する静かな「怒り」それだけだった。

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