黄金の風   作:ボンゴレパスタ

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CLOUDY HEART3〜Report「達成」

 

 

 

 

 

 

 

「君のことは決して許さない」

 

 

ジョルノの口から発せられた、その一言。たった一言だが、その言葉は怒りや決意が十二分に窺い知れるほどの激情を孕んでいた。泉は松葉杖を脇に抱えて、まるでペンギンのようによたよたと逃げようとしたが、ジョルノが放ったG・Eの拳が頬を打ち付けると、彼の身体は後方へと吹っ飛んでいった。

 

 

「かはッ……!」

 

 

口から血を吐きながら、泉の身体は地面に崩れ落ちる。ジョルノの読み通り、彼は先の戦いでタイシンから手痛い攻撃を受けており、最早五体満足でジョルノに迎え撃つほどの状態ではなかった。倒れた拍子に何処かへと吹っ飛んでしまった杖を探して、泉はあたふたと地面をはいずるその姿は、惨めと表現するほかないものだったが、この男がこうなってしまった経緯は、間違いなく「自業自得」と呼べるものである。

 

 

その前に回り込むとジョルノは淡々とした口調で泉に言い放った。

 

 

「さて……君には話してもらいたいことが沢山ある。まず初めの質問だが、君のチームは残り何人だ?正直に言えば、組織の目を盗んでここまで活動をしてきたんだ…そこまでの大所帯ではないとは予測しているが。」

 

 

「どうせ答えても、答えなくても…どうせお前は僕を殺すんだろう……?ならこのまま話すことなんて何もない……」

 

 

「……もしも必要な情報を洗いざらい話してくれると言うのならば、君には再起不能にはなってもらうが、命までは取らないと約束をしよう」

 

 

「……わかった。いいだろう。私と、お前が先程戦ったであろう男を含めて、チームはあと4人だ」

 

 

ということは、自身が戦ってきた刺客の男たちを入れても、その人数は全部で6人ということになる。たった6人でトレセン学園を表沙汰になることなく、よくここまで巣食うことができたものだと感心したが、それも偏にチームが計画的で、そして統制されていたことに由来するだろう。

 

 

「お前たちのチームのリーダーは、どんな奴なんだ?」

 

 

「……」

 

 

その名前を出すことに、泉の瞳に恐怖の感情を宿していることにジョルノは気が付いた。だが、ここではいそうですかと引き下がるわけにもいかない。ジョルノは泉の肩を強い力で握りこむと、もう一度同じ質問を繰り返した。

 

 

「……本来ならば、同じことを二回質問するなんて「無駄」なことは嫌いなんだが、聞こえなかったようだからもう一度質問してやる。お前たちのチームのリーダーは、どんな奴なんだ?」

 

 

「……学園には教会が付設されている。そこの神父がチームのリーダーだ。」

 

 

確かに学園には世界各国からやってきて日常を送るウマ娘たちが多数在籍している。そしてそのウマ娘たちの多様性を遵守して、ウマ娘たちのために様々な施設や施策が存在する。そして教会も、その中のプログラムの一環で学園に付設されていて、学園付きの神父というものも学園に在籍していた。そしてその神父が学園内に蔓延っていた組織のリーダーだったとは。

 

 

「そいつの……そいつの能力は?」

 

 

「……それが、知らないんだ。アイツがどんな能力なのか、何が目的で僕をチームに誘ったのかは皆目検討が付かない……本当なんだ!本当に僕はアイツの能力について知っていることは何もないんだ!」

 

 

泉の瞳の中には、嘘の表情には怯えこそあったが嘘の表情はなかった。今までギャングとして幾度となく死線を潜り抜けたジョルノは、同じような者でもない限り、ある程度本当のことをついているのか嘘をついているか否かは判断できるようになっていた。かつての自身の友であり、上司だったブチャラティは、相手が流した汗を舐めとることによって、その話の真偽を確かめるという芸当をやってのけていたが、その必要がないことはある程度助かることではあった。

 

 

確かにこの男は、嘘はついていない。

 

 

……だが。

 

 

その時だった。

 

 

「うわッ!」

 

 

後方から悲鳴が聞こえ、その方向へと振り向くとウオッカの後方に泉のスタンド…「AJICO」の姿があった。その腕はウオッカの喉元を狙い、寸でのところで止められている。

 

 

「……お前」

 

 

「どうやら僕の話に聞きほれて、周囲に目が届かなかったようだなぁ~~~!」

 

 

泉は杖を持ってフラフラと起き上がると、ジョルノと距離を取る。初めから話をするふりをして、ウオッカを人質にしてここから逃走を図る算段だったようだ。ジョルノは泉を睨みつけると、徐に口を開いた。

 

 

「……このゲスが」

 

 

「君が……いやてめ~がべちゃくちゃと話し込んでいる間に、僕が狙ってたのはこ、これだったんだぜ~~!!僕を追えば、そこにいる女の喉元に酸で溶かしてやる……ッ!」

 

 

形勢が逆転したことに、満面の笑みを浮かべて泉は逃走を図ろうと数歩下がる。この男もバカではない。既にジョルノとの決着をつけることは諦めがついていて、逃げることだけに注視していた。ボスである神父の素性を話してしまった時点で、チームに戻るという選択肢も存在しない。今まで稼いだ金を持って、このまま海外に出国して逃げ切る算段だった。

 

 

「じゃあなぁ~~!僕の勝利だぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

男は自身のスタンドの腕を振り上げ、タイシンに攻撃を繰り出そうとする。スタンドの拳を上にありったけの力を込めて振り上げそのまま振り下ろそうとした時、男は自身の身に起きている異変に気が付いた。

 

 

「な……」

 

 

肺から酸素を吐き出そうとしても、うまくいかない。排出しようとする空気はまるで自身の意思に抗わんばかりに、外気の空気が強制的に自身の顔にまとわりつき、絶え間なくその体内に浸出してくる。

 

 

「グ、苦しいッ…!てめ~~何をしやがった……!」

 

 

声にならない、か細い声で男は自身の喉をかきむしりながら後方へとうろつき下がる。タイシンは苦しそうにせき込みながらゆっくりと立ち上がると男を睨みつけながら徐に口を開いた。

 

 

「アンタ……よっぽど戦いに夢中で気が付かなかったんだね。アンタの能力で発生した雲は、残り続ける……それこそアタシが払いのけた雲たちも」

 

 

その時になって初めて男は、自身の身が置かれている状況を俯瞰的に理解した。自身のスタンド能力によって排出されたはずの雲が、自身の顔にまるで引っ付き虫のようにまとわりついてくる。スタンドで払いのけようにも、移動して逃れようにも雲はまるで自身にくっついてしまっているかのように、ぴたりとその動きに応じて静止し、そして動き自身の鼻や口に侵入しその呼吸活動を効果的に阻害していた。

 

 

「ナッ……カハッ」

 

 

酸素を求めてしばらく喉をかきむしっていた男だったが、やがて白目を剥くと泡を吹きながら仰向けに倒れ、そのまま動かなくなった。

 

 

タイシンはすくっと立ち上がると、口元についた血を拭い取りながらトンネルの出口の方へ顔を向けた。

 

 

「さて、そろそろ向こうも片付いたかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この身を包み込む恐怖と戦いながら、タキオンはそのガラスのように繊細な足を文字通りバ車ウマ娘の如く懸命に走らせていく。

 

 

「さぁ!最終直線で最初に立ち上がったアグネスタキオン!驚異的な末脚だ!その後方からマンハッタンカフェ!マンハッタンカフェも追いすがる!」

 

 

後方から立ち眩みを覚えてもおかしくないほどの覇気がにじり寄ってくる。耳をすませばカフェの足音さえも聞こえてきそうだ。

 

 

ここで負けたくない。トレーナー君と誓い合ったのだ。ここで私はプランAを、そして自分のことを信じると。その阿呆な私という泥船に乗り込んだトレーナー君を、最後まで信じ切ると。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

この想いが。この想いこそが。

 

 

その非科学的な代物ともいえる、研究者としてはデータとして算出することができないような代物。

 

 

しかしその想いが最後の最後。彼女の背中を力強く押し込んだ。

 

 

その刹那。自身が常世とは明らかに異なる感覚を得たのを感じる。このレースにいるはずの…それこそカフェすらも存在を許さない、そんな世界。自身が今まで積み上げてきた代物では到底説明のつかないような……それでも、そんな涙と焦燥を押し殺して積み上げてきたものがあったからこそ、たどり着いたであろうその境地。

 

 

これは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アグネスタキオン!一着でゴール!まさに神速です!そのタイムは昨年までのレコードタイムを遥かに更新したタイムとなっています!今ここに!伝説が誕生しました!」

 

 

その瞬間、会場からは溢れんばかりの歓声が響き渡る。その激闘を制したウマ娘に。その世界に瞬間入門したウマ娘に。彼女はゆっくりとその速度を減衰させて立ちどまると、茫然と空を仰ぎ見ていた。

 

 

「これは……ここが」

 

 

上を向かずにはいられなかった。そうしなければ、決定的な何かがこぼれ出てしまうから。会場に響き渡る歓声の中、彼女は自身の研究の実証が完了したという事実を受け止めることに精一杯だった。

 

 

「トレーナー君……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジョルノから数歩後ろへと引き下がった泉に冷ややかに視線を送りながら、ジョルノは徐に口を開いた。

 

 

「君のために親切で言ってやるが、それ以上後ろに下がらない方がいい。」

 

 

「……あぁぁ~~~?何言ってんだ、てめぇ?」

 

 

苛立ち声を上げる泉をよそに、ジョルノは淡々と言葉を続けた。

 

 

「そろそろトンネルにいた男と、タイシンの勝負に決着がつく。そして能力者が死ねば、同時に能力は解除される。つまりあの男が作った雲も、解除されるというわけだ」

 

 

しばらくジョルノの発言の意図を理解することができず首を傾げた泉だったが、やがてその真意に気が付いた泉は驚愕の表情を浮かべて声を発した。

 

 

「AJICO!戻って僕を守るんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

頭上にあった、タキオンたち選手に降り注がせる予定だった雲が消失し、泉が酸性雨が自身の頭上にスコールとなって降り注いでくる。自身のスタンドで何とか身体に掛からないようにしようとした泉だったが、そのいくらかの酸を自身の身体に浴びることになった。

 

辺りに泉の絶叫が響き渡るが、その声は競技場の歓声によって瞬く間にかき消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辺りには、肉の焼ける匂いが立ち込める。ジョルノが酸性雨の後の黒ずんだ床に蹲る泉に冷ややかな視線を送ると、泉はゆっくりと…まるで芋虫のような鈍重な動きで起きながら、ジョルノに対して恨みつらみを吐きつけた。

 

 

「て、てめ~……なんて野郎だ……し、知ってやがったのか。こうなることを……」

 

 

その話し方さえも、最早酸で身体が解けた影響で満足に話すことさえままならない。ジョルノはそんな男をみつめながら、徐に口を開いた。

 

 

「お前がたとえ話そうが話さまいが、こうなる予定だった。お前に確実にトドメを刺す。それ以外の選択肢なんて初めからありえない」

 

 

「……さ、さっき……隠さず話せば……な、何もしないと……言ってたくせに……」

 

 

「……自分を知れ。そんなオイシイ話があると思うのか?お前のような人間に」

 

 

「なんて野……」

 

 

最早肉塊のようになった泉はフラフラと、まるで地獄で悶える亡者のように信念で立ち上がると、ジョルノにつかみかかろうとする。しかしジョルノはその様子を冷ややかに見つめる……その瞳には確かな怒りを秘めてスタンドを繰り出すと、その拳は泉の身体をとらえた。

 

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼‼‼‼‼‼‼」

 

 

 

「ヤッタァァァァァァァバアァァァァァァァァ!!!!!!」

 

 

絶え間なくG・Eの拳の連撃が泉の身体を絶え間なく打ち据えるが、その勢いはとどまることを知らない。自身の酸も相まって、やがて人の形を留めぬほど身体が変形すると、彼の生命は吹き飛び、情けない断末魔をあげながら身体は後方に吹っ飛んでいった。

 

 

肩を上下させて呼吸を整えると、ジョルノは後方にいるウオッカへ声をかけた。

 

 

「大丈夫かウオッカ!」

 

 

「あぁ、大丈夫っす!」

 

 

ウオッカの身体にケガがないことを確認すると、ジョルノは競技場へと視線を送る。勝負は、レースは一体どうなったのか。

 

 

ターフの中央に、彼女の姿があった。そして彼女に割り当てられていた番号は、掲示板に一着の場所に掲げられていた。戦闘での緊張から解放されてその場に座り込むと、誰に聞かせるでもないその言葉を、たった一人の自身の担当に向けて発した。

 

 

 

「……おめでとう。そして、ありがとう。タキオン……アグネスタキオン」

 

 

 

 

 

 

CLOUDY HEART

破壊力:Bスピード:B射程距離:C(雲はA)持続力:D(雲はA)精密動作性:E成長性:E

能力者:蔵王元孝

名前の由来は日本のロックバンド、「BOOWY」の楽曲から。手に付いた噴出口から雲を発生させることができる。その雲から雷を発生させて敵を攻撃したり、雲を自身に変容させて身代わりとして活用したり、敵の攻撃をガードするために用いたりと極めて汎用性の高いスタンドである。

 

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