黄金の風   作:ボンゴレパスタ

4 / 23
光速の貴公子2

 

 

 

翌日、誰もいない教室…正確には2人のトレーナーとウマ娘のみが存在するその空間。外界からは隔絶され、その至高なる目的を遂行するために、研究者・アグネスタキオンがその活動の根城としている実験室…と言ってしまえば体裁は良いが、実際はタキオンによって不法占拠されている教室で、ジョルノは彼女によって拵えられた、目覚めするような独特な蛍光色の液体の入った三角フラスコを片手に、この後自身の身体に起こるであろう悲劇を想像してため息をつくのだった。

 

 

歯の一部をクラゲにすることによって、このフラスコの中の液体を吸収させることによって飲んだふりをすることはやろうと思えばできる…普段であれば躊躇なくその選択をしていたはずだ。気分で言えば、昔アバッキオに排出物を飲まされそうになった時よりも気は進まない。だが目の前の少女、タキオンが絡むとなれば話は別である。彼女はこの液体を飲むことによってその治験データを欲しがっており、自身が実際に飲んでその経験を事細かに彼女に伝えなければ、それは無意味となってしまう。それに自身が薬品を口にすることを、まるでおもちゃを買い与えられた子供のように目を輝かせながら待つ彼女のこと考えれば、それを無下にできるトレーナーなどいないだろう。ジョルノはやがて意を決したかのようにフラスコを口元に運び、目を閉じてその容器を一気に傾けた。

 

 

 

途端に口内を形容し難い、珍妙な味が広がっていく。この世のどんなものにも形容し難いそんな味であったが、とどのつまり「マズイ」ということには何ら変わりない。脳は無意識に生命危機を感じ取り、危険物をこれ以上体内へと侵入させないように食道は痙攣するように萎縮して液体が胃へ入らないようにしていたが、彼女のトレーナーとしては身体の懸命な抗議を退けても尚身体にこの液体を取り込まなければならないため、ジョルノは一気にその液体を無理やり身体へと押し込めるのだった。

 

 

しばらくすると、身体が大量の汗を垂れ流し始める。昔インフルエンザに罹ったことはあるが、その時でさえここまでの発汗はなかったはずだ。途端に頭は異物が入り込んだことによって悲鳴をあげるように頭痛を発し、吐き気が催いてくる…タキオンはその様子を淡々と眺めながらデータを書き込むようにバインダーに挟んだ紙に、目の前の事象を取りこぼすことがないように一心不乱に何やら記入していく。ジョルノはあまりの体調不良と、恐怖のために教室から逃れようと試みたが、その時初めて自身が拘束具によって身動きが取れないことに気が付くのだった。

 

 

「今度は逃げられないように、きつく縛り上げておいたよ。君にはまだまだ試して欲しい薬品がある!」

 

 

そう言うと、タキオンは両手に薬品の入ったビーカーを両手に持って、じりじりと近づいてくる。拘束から逃れるために、初めて彼女の拘束から逃れた時のようにスタンドを使用しようとする…しかしいくら願っても、自身からいつものようにスタンドが発せられることはなかった。まさかの事態に動揺するジョルノとは裏腹に、タキオンは加虐的に笑いながら自身の口元にビーカーを押し付けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

 

 

 

 

 

ジョルノの悲鳴が、辺りに響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて暗闇だった視界は徐々に明瞭となりやがてクリアなものとなると、ジョルノは先ほどまでの出来事は全て夢の中のものであることを認識し、安心したようにため息をつくのだった。どうやらここはトレーナー室で、気が付かぬうちに寝入ってしまったようだ。すると突然横から言葉を投げかけられるのだった。

 

 

 

 

「どうやらお目覚めのようだねぇ、モルモット君」

 

 

 

ぎょっとしたジョルノは弾かれたように横を見ると、そこにはタキオンがいたずらっ子のように微笑みながら自身の顔を見つめているのだった。驚いているジョルノとは裏腹に、タキオンはまるで面白いものをみるかのような目つきで言葉を続けるのだった。

 

 

「先ほど君は大分心労極まる様子だったね……どうやら疲れて眠っている内に大層な夢を見たらしいな。いったいどんな夢を見たというんだい?」

 

 

どうやら先ほどの悪夢は、自身の慣れない業務の産物だったようだ。ジョルノがタキオンにその夢の内容を子細伝えると、彼女はニヤニヤとした顔つきでこちらを見つめてきた。それに先ほどの「モルモット」とは何なのか。まさか自身のことをそう呼んだのか?

 

 

 

「とにかく、起きたのなら実験だ!今日は心肺機能の上昇を助ける試薬βを試したい。もしかしたらこの間のように身体が発光するかもしれないが…」

 

 

 

どうやら夢も現実も、大して変化はないようだ。どうせ断ったとしても無理やり口に押し込まれてしまう以上、自分の腹積もりで飲んだ方が幾分かマシだと判断したジョルノは、ビーカーを受け取るとそれを口にあてがうのだった。

 

 

 

あっという間に夕暮れ時となり悪夢騒動と試薬によってもたげそうになる頭を押さえ、ジョルノは廊下を歩いていた。すると目の前から一人のウマ娘が歩いてくる。彼女はまるで人目を避けるように、心の内の闇を人に悟られないようにおびえながら廊下を歩いていたが、ジョルノはその彼女の様子に見覚えがあった。そのウマ娘は、既に夏服でなければ少し暑さを感じる季節だというのに、腕を捲ることなく長袖である冬服を着ていた。ジョルノは急いで横をすり抜けようとするウマ娘の腕をつかみ取ると、「やめて」「何するんですか」と口走っている彼女を尻目に、その袖をまくり上げるのだった。そのウマ娘の、何処か焦点の定まらないようにせわしく動く視線と、その青白い顔には見覚えあった。自身がネアポリスで浄化作業を行い、もはや街ではその姿をした者を見ることは激減したが、自身がパッショーネに入るまで、その光景は日常の唾棄すべき1つであり、見慣れたものであった。そのウマ娘の腕には予想通りの、この学園で連中が蔓延る証が刻み付けられていたのだった。

 

 

「……これはどうしたんだい?」

 

 

その言葉に、彼女は伏し目がちに、快楽と罪悪感に浸かった末に、突然現れたその男の指摘からも逃れようと僅かな抵抗を試みようとする。しかしながらジョルノの有無を言わさぬ視線にやがて観念したかのように肩を落とすと、やがて徐に口を開くのだった。

 

 

「ど、どうか…学園だけには。い、言わないで下さ……」

 

 

「……とにかく誰から入手したのか、それだけ教えて欲しい」

 

 

およそウマ娘が身を投じる競技の世界というものは、厳しい世界であることは周知の事実である。勝利を収めてスポットを浴びるウマ娘がいるということは、その裏で涙をこぼすウマ娘がいることは、どうしようもない事実であることは言うまでもない。そして何も成績を残すことができない状態が続くと、やがて学園を去らざるを得ないウマ娘がいることはどうしようもないことであり、それは家族や友人の多大な期待を背負った彼女らからすれば、大きな重圧となり、その世界しか知らない彼女にとって、それは死刑宣告に近い苦しみとなるであろう。その心理的な重圧に付け込んで、自身の私服を肥やし、ウマ娘たちの将来を踏みにじる者が実際にいて、被害もこうして生じてしまっている。

 

 

「……わ、わかりました。場所は…」

 

 

 

 

 

 

そのウマ娘から聞いた取引場所は、普段生徒が使うことのない旧校舎の玄関口であった。ジョルノは彼女から聞いた場所のブリキの靴箱の蓋を開けると、そこにはクシャクシャにまとめられた、決して少なくない紙幣が置かれていたのだった。やはりいつも連中はここを受け渡し場所としていたようだ。代金を靴箱に入れておくと、その交換かのように受け渡される。彼女たちも後ろめたい気持ちがある以上、連中のことを追求しようとすることもないだろう。ジョルノは物陰に隠れながら、代金を回収に来るであろう人物を待つために茂みへと身を隠すのであった。代金を受け取りに来た人物を取り押さえて、仲間の所在や正体を吐かせるために。ジョルノが前方の靴箱を見据えていると、唐突に隣から声を掛けられるのだった。

 

 

 

「こんなところで何をやっているんだい?モルモット君」

 

 

 

 

その言葉に規則性を崩された心臓を抑え、何とか外部にその動揺が排出しないように懸命に勤めながらジョルノが横を振り向くと、そこいたのは自身の担当ウマ娘・アグネスタキオンであった。ジョルノは彼女を茂みの方へと引っ張りこむと、小声ながらも非難するように彼女に言葉を投げかけるのだった。

 

 

 

「タキオン…!どうしてここに…」

 

 

 

「それはこっちの台詞というものだよ。どうして覗きみたいに誰もいない靴箱を凝視していたんだい?まさかストーカーなんてことを……」

 

 

 

 

そこまで言いかけていたタキオンであったが、その言葉の続きはジョルノに口を押えられたことによって、口内に曇った音として霧散していくのだった。ジョルノはタキオンの口を押えながら前方に視線を凝らす……そこには一人の人物がまるで人目を避けるかのように靴箱に近づいていくのだった。

 

 

 

 

「……ここにいるんだ。絶対にここから動くんじゃあないぞ…」

 

 

 

いつになく真剣なジョルノのまなざしに、タキオンも首を縦に振らざるを得ないのだった。その様子に安心したかのように笑顔を漏らすジョルノであったが、直ぐにその口を引き締めると茂みから身を躍らせてその人物に声を掛けるのだった。

 

 

 

「……お前にはいくつかのことをしゃべってもらおう。お前の仲間について。そしてこの学園内で行っているお前らのゲスな行為について」

 

 

 

その人物はおどけたように振り向くと、ジョルノの言っていることを理解できないといった様子でかぶりを振るのだった。

 

 

 

「一体何を言っているんですか?私はただここに清掃に来ただけで…」

 

 

 

その男はこのトレセン学園が外部委託している清掃業者の服装をしていた。年齢はかつてパッショーネを支えた幹部、ペリーコロさんよりもやや若干年下ではあるのだが、壮年といって差し支えない男で、その顔つきや物腰、態度いったものからは全く下衆な一面を兼ね合わせた犯罪者である素振りは全く窺い知ることができない。それでもジョルノは、この男が「黒」であることを直感していた。ジョルノは無表情でその男を見据えていたが、やがて徐に口を開くのだった。

 

 

 

「……今組織からの密輸もなくなったっていうのに、どうして商売を続けてられるんだい?」

 

 

 

その言葉に、男の顔は途端に氷のように凍り付き、さながら犯罪者にふさわしい顔つきに戻る。男は底冷えするような声でジョルノに言葉を投げかけるのだった。

 

 

 

「……お前何者だ」

 

 

 

「汐華初流乃。ただのトレーナーだ」

 

 

「……ふん。差し詰め組織からの追手といったところか?俺らはしっかり組織への上納金を収めていたっていうのに。急に貴様らの都合でお役御免とは、都合がよすぎるんじゃあないか?」

 

 

やはりこの男、良心を持ち合わせているような輩ではなかった。ジョルノは口を固く結ぶとその男に向けて一歩足を踏み出したのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。