昼下りのローマは、やはり観光都市ということもあってか観光客でごった返していた。指定された待ち合わせ場所…およそ倉庫やアジトのように人目の付かない場所での交渉になると予想していたが、今自身がいるのは街角の一角にある、どこにでもあるようなレストランであった。このような白昼堂々とこのような不法行為が行われるということは、それだけ組織の力が強大ということに他ならないだろう。すると目の前に一人の人物……組織の仲介役が座っていたのだった。一体何時から彼は座っていたのかと疑念を抱いたが、凡そ彼が仲介役であることは間違いないだろう。儂は彼のことを只の気弱な少年だという印象しか受けなかったが、彼が組織の連絡役ということは多少なりとも組織のボスからは信頼を受けていたということであろう。その組織は欧州で最大の反社会的組織であり、その組織から薬物の売買ルートの日本への流通に一役買ってほしいと言われた時、これは大きなビジネスになると心躍ったものだ。
ところが目の前の少年はどうだろう。辺りをキョロキョロと忙しく視線を動かしながら、まるでおびえるように時々視線をこちらに向けてくる。彼は紫色の、少し出した前髪と残りを後ろに纏めた長髪に、大胆なデザインのセーターを着用しており、自身をドッピオと名乗るのであった。彼のような人物を寄越すような組織なんて、果たして信用していいのだろうか?そう疑念を抱いた儂だったが、それはあまりにも過小評価であることは直ぐに判明するのだった。
「……もしも僕のことを信用できなければ、これを見せろとボスから」
少年の胸ポケットから数枚の写真が出され、横並びにテーブルの上に写真が並べられていく。そこには筆舌尽くしがたい、組織への敬意をないがしろにした者たちの末路が映し出されていた。そのうちの一人の姿は全身がまるで北極に放置されたかのように氷漬けにされており、またある者は喉元に、まるでそこから湧いて出たように鋏やカミソリがねじ込まれているのだった。いずれにしても、人智を超えたその力によってその者たちは葬り去られており、これは組織からの警告であり、最早ここの交渉の場へと出席した時点で自身らが逃れられない立場に身を置かれていたことを暗示していたのだった。組織との契約が終わりその場を後にする時、その男…塩竃信敏は重圧から解放されたかのようにため息をこぼすのだった。我ながらとんでもなく危ない橋を渡ろうとしているものだ。だが、自身が経営していた不動産会社も不況の煽りを受けて倒産し、今後どうするかも路頭に迷っていた手前、最早自身に逃れる手はないことは明確であった。
「最早手はやるしか残されていない。それに儂らにはあれがある」
先ほど見せられたあの写真。人智を超えた力とは言ったが覚えがあった。それは一般人には決して視認することができないが、確実にこの世に存在する不思議と言わざるを得ない、そんな能力。そして自身は才能ある者にその能力を授ける代物を所有しているのだった。それは自身と同じ境遇であった男。数年前、自身と同じように会社を経営していたのだが、不況の煽りを受けたその男。確か名前は「虹村」といったか…その男はある時突然裕福になり、金回りがよくなったのだった。訳を尋ねるとその男は自身を自室に招き、とあるものを見せるのだった。
それは一本の「矢」であった。まるで時代の流れの中で置き去りにされたかのような、骨董品のような形状の矢であった。彼は自身が所有している2本の矢の内、1本を売ってやると持ち掛けてきたのだった。何処でその矢を手に入れたのか。その矢はどんな力をもたらすのか。詳しいことは教えてはくれなかったはただ一つ。
「その矢で射られれば、力を手にできる」と
当時すでに自棄になっていた自身は、騙され半分で残った金をかき集めてその矢を購入するのだった。購入後しばらくして、虹村との連絡が取れなくなってしまい騙されてしまったことを悟ったが大金はたいて購入してしまった手前、捨てることもできないため、部屋に飾っていたのだが、ある時掃除をしていた時に矢を運ぼうとした際、手元が滑って矢尻の部分で指を傷つけてしまった……しばらくすると、自身に普通の人間とは異なる、特別な能力を身に付けていることに気が付くのだった。
そのおかげか。自身に運が向いてきたのか。組織を介して自身も利益に肖ることができるようになってきた。そういえば、矢を買った際に虹村からこう言われたことも思い出したのだった。
「……お前が幸運であるならば。「才能」というモノがあるとするならば、きっと恐らく同じような奴らにも出会うことだろう」と
ジョルノは目の前の敵…清掃員のような服装に身を包んではいるが、その目つきはおよそ一端のギャングのような顔つきの男を見据えながら徐に口を開くのだった。
「……仲間は何人いるんだ?」
「それを知ったからどうだっていうんだ?お前はこれから死にゆく運命だというのに」
そのしわがれた声からは、情けや温かみという代物は一切合切窺い知ることができない。確かな冷酷さと覚悟が源流となって発せられていた。ならばこちらもそれ相応の覚悟で出向かなければならないようだ。こちらも組織の面子と将来を背負って遠い日本までわざわざやってきたのだ。彼が望んだ…覚悟と勇気のもとに殉教したブチャラティを初めとした面々…彼らの魂の安寧のためにも、目の前の男のような連中がいてはならない。ジョルノは側に自身の分身ともいえるスタンド…その身体は黄金色に輝いており、身体の節々にはテントウムシのような装飾が施されているのだった。
「ゴールド・エクスペリエンス」
その姿が現れると塩竃の目は細められ、衝撃的な言葉を口にするのだった。
「やはり君もスタンド使いだったのか」
その言葉に、ジョルノの目は大きく見開く。およそ以前のパッショーネ…ディアボロがボスであった頃は、刑務所にいた幹部のポルポという、いつでも組織の力を用いて出所することができるというのに歩くことさえ困難のほど巨体であるため、進んで刑務所に入っている男という何とも変わった男がいた。彼は刑務所にいながらも組織に入団したいという者に対して、面会を使って入団テストを行う試験官の役割を果たしており、その際にスタンド能力をもつ適正があるのか否かを見極めていた。しかし彼は既に刑務所内で拳銃自殺し(実際のところ真実は別であるが)、その際の流れ弾によって矢は破壊されたものであると報告を受けていたし、何より彼らは組織の入団テストを受けたわけではない。つまり組織の正式な手段によってスタンド使いになったわけではない、ということになる。すなわち彼はいつスタンド使いになったのか?彼に聞かなければならないことがまた一つ増えたということになる。
「……どうやってスタンド能力を?」
「それも先ほどと同じ答えだよ。君に教えるつもりはない。既に君は儂のスタンド……「going steady」の術中にはまっているんだよ」
そのスタンドは機械で拵えられたアメンボのような姿をしていた。その頭部には排出管のようなものがつけられており、そこからシャボン玉のようなものが噴き出してくるのだった。ジョルノは少なくとも、今までの戦闘経験から敵スタンドによって繰り出されるシャボン玉に触れてはいけないということをわきまえており、前方へと視線をやると一直線に向かっていくのだった。シャボン玉が繰り出されるたび、その攻撃に波を躱しながら着実に塩竃との距離を詰めていくが、彼は全く動揺することなく笑みを向けるのだった。
「確かに儂のスタンドは、それ自体に戦闘能力はない。君のスタンドに向かってこられたら、恐らく勝利は君の物だろう。だが、それをみすみすさせるほど儂も甘くはない」
パチンッ!
G・Eの射程距離まであと数歩というところまで迫ったジョルノであったが、その時足元で何かがはじける音が聞こえた。そんなまさか。恐る恐る音のした方向に目をむけようとしたジョルノであったが、その時視界が突然真っ暗となり、何も視界から情報を認識することができなくなるのだった。
「……こ、これは!」
「儂のスタンドは、「シャボン玉に触れたものから何かを奪うスタンド」。今回は視力を奪わせてもらったよ。人間は情報の9割を視力によって入手している。それを突然奪われたら、君は果たして戦うことはできるのかな?最も、そうなった時点で始末したのと同じようなものだが、今から仲間を呼んで確実に止めを刺させてもらう」
どうやら本当にまずいことになってしまったようだ。ジョルノは最後に声がした方に攻撃を向けようとしたが、その拳は攻撃が当たった感触は全くなかった。塩竃は当てずっぽうに攻撃を振り回すジョルノをみて、さも面白いものをみたかのように口を開くのだった。
「親切心で言ってやるが、あまり身体を動かさないほうがいいぞ?まだシャボン玉はあたりに舞っているからな」
パチンッ!
今度は右ひじが何か弾いたような音が聞こえ、ジョルノは自身が再びシャボン玉に触れてしまったことを悟るのだった。すると体表から何かがこぼれ落ちていく。最初は雨でも降ったのかと思っていたジョルノであったが、自身の身体から急激に力が抜けていき、自身の肌から潤いが奪われ、ひび割れていくのを感じるのだった。
「どうやら次に奪ったのは水分のようだな。身体から汗のように水分が流れ落ちているぞ?人間の身体の内70%は水分で構成されている。あと数分もこのままでいれば、君はもう死んでしまうだろう……もっとも、これで仲間を呼ぶ手間が省けたといったところか」
ジョルノは最早立っていることもできず地面に崩れ落ちるのだった。ジョルノの側に控えていたG・Eは徐々に姿が薄くなり、やがてその姿は見えなくなった。その様子を見届けた塩竃はつかつかと歩み寄ると、淡々と言葉を投げかけるのだった。
「君は何処か爽やかな印象があるし、でもその裏に狡猾さもあるような……そんな手ごわい奴と思ったが、案外大したことなかったな。残念だよ。」
「……だ。」
「……どうした?最期の台詞くらい聞き届けてやろうじゃあないか」
「……僕の能力は「触れたものに生命を与えるスタンド」、ゴールド・エクスペリエンスだ」
「先ほど地面に流れた水分は、もう僕のものではない……ただの物質と化している。つまり生物へと変えることができる」
……なに?
その言葉に塩竃は辺りを振り向くと、そこには目覚めするような斑模様がひしめきあっているのだった。それはおよそ日本に生息していることはない、青い皮膚に、黒い斑…しかしその姿には見覚えがあった。
「きっとアンタの周りには、やばい色をした蛙がひしめき合っているはずだ。その蛙は「ヤドクガエル」といってね。その奇抜な色は「警告色」と言って、主に有毒な生物が捕食者に対する警告のためにそんな色をしているそうだ…勿論そこの蛙たちも例外ではない。ヤドクガエルの毒はかつて先住民が毒矢の先端に塗り込むほど強力なものだったそうだ」
蛙たちは一斉に襲い掛かってくる。スタンド自体に防御できるほどのパワーがない塩竃は、その悲鳴を上げながら蛙たちの波に呑まれていくのだった。
「き、貴様は……一体…?」
既に能力を解除され、力を取り戻したジョルノは、ヤドクガエルの毒が回って呂律が回らず、身体中が醜悪な形へとはれ上がっている塩竃へと視線を向けると、徐に口を開くのだった。
「……汐華初流乃。いや、本名はジョルノ・ジョバァーナだ」
「ジョルノ・ジョバァーナ……ま、まさかパッショーネの…」
そんなバカな。組織のリーダーが直々に始末しに来たということなのか。組織の裏切り者を始末し、当時僅か16歳の少年がその正体を公表したことは先に潜入し、始末した調査員を尋問したことによって知ってはいたが、動揺と恐怖と、毒による心肺機能の低下によって息も絶え絶えになりながら、塩竃は恐怖の表情をジョルノにむけるのだった。
「さぁ。答えてもらおう。組織からの供給が途絶えた今、どうやって品物を仕入れているのか。仲間は何人いるのか。そいつらの能力は何なのか?そしてどうやって能力を引き出したのか」
すると突然、塩竃の身体が震え、口元から血の混じった泡を吹き出し、白目を剥いてぐったりとするように倒れこむのだった。急いで彼のもとへと駆け寄りその身体を起こしたが、既に男は事切れた後であった。其の身体はぐったりとしており、口からは何かを嚙み潰したようなカプセルが転がり落ちるのだった。
……どうやら秘密は墓までもっていくつもりだったようだ。
こいつから話を聞くことができなくなってしまった以上、今考えるべきなのはこいつの遺体をどうするべきかである。協力しているSPW財団に協力を仰ぐとしようか。電話を掛けようとしたジョルノであったが、その時突然後ろから声を掛けられるのだった。そうだ。すっかり彼女の存在を忘れてしまっていた。観念したかのように後ろを振り向くと、そこには耳をすっかり絞った自身の担当ウマ娘が立っているのだった。
「これは…これは一体どういうことなんだい?説明してもらおうか…モルモット君。いや」
「ジョルノ・ジョバァーナ」
Going steady
能力者;塩竃信敏
破壊力:なしスピード:なし射程距離:C持続力:C精密動作性:E成長性:C
アメンボのような姿をしたスタンド。頭に排出管がついており、そこからシャボン玉が排出される。そのシャボン玉を割ってしまったものは何かを奪われる。そのスタンド自体には、攻撃や防御するといった戦闘力はない。