「……あいつをスタンド使いにしてよかったのか?」
「私達の顔は見られていないし、彼女には素質があった……もっとも、ウマ娘っていうのは元来執念や欲望というものが人間とは比べ物にならないほど強い。そんな彼女たちが無理やりスタンド使いになっちまうと暴走してしまうんだよ。軟弱な機体に強力なエンジンを無理につないでも、その機体は耐えられないだろう?それと同じだ」
「……なるほどな。でも一体なんのために?」
「塩竃のオッサンが言っていただろう?スタンド使いとスタンド使いはひかれあうってな。追手が私達を追っているというのなら、きっと追手と戦うことになるはずだ。あわよくばそいつを始末してくれれば……」
「でもそれだったら他のカモみたいにアレで飼いならしてしまえば……」
「ブツを売りつけてるカモどもとは違って、あいつはその素養が見込まれているウマ娘だ。重賞に出ることさえできないやつらと一緒にするんじゃあない。もしもブツを打ち込めば、オレらの犯行自体が世間に露見する可能性もある……それこそ、ここで商売をすることさえできなくなるかもしれないんだぞ?」
「あのスタンド……イージューライダーはオレもぶるっちまいそうなスタンドだ」
「ど、どうして!確実に奴は僕を見失ったはずなのに!」
教室内で耳を劈くような轟音が鼓膜を震わせ、地面に抉れたようなタイヤ痕を刻み付けながら、バイクスタンドはジョルノの下へと迫っていく。そのスタンドを迎撃するためにジョルノは再びG・Eを繰り出すと、前輪を受け止めてその攻撃を辛うじて防ぐのだった。手のひらの激痛に顔をしかめながら、ジョルノは状況について冷静に分析するのだった。
……どうして敵は僕の居場所が分かったのか?
敵は何らかの方法で自身の居場所を把握している。そうでなければ、自動操縦型の敵スタンドが2階へと姿を消したはずの自身の居場所を正確に把握し、回り込んできたことへの説明がつかない。かつてのポルポのスタンドは影を踏み込むことによって、そしてノトーリアスB・I・Gは動きに反応した……つまりそれらの自動操縦型スタンドと同様に、自身を追跡しているそのメカニズムを解明しなければこのスタンドから勝利をもぎ取ることはできないだろう。
「ゴールド・エクスペリエンス!」
ジョルノはスタンドに命じ敵スタンドの攻撃を受け止める傍らで、胸についているブローチに手を伸ばす……するとそのブローチは瞬く間にツタと化し、そのバイクスタンドを雁字搦めに縛り上げるのだった。何とか攻撃を躱したジョルノは、今度は教室の窓から飛び降りと、スタンドを用いて1階の窓枠に掴まるのだった。学園の1階の廊下へと飛び降りたジョルノであったが、その足で廊下を駆け出していく……のではなく、廊下に降りた時点でその場を動かず留まるのだった。しばらく時が流れたあと、敵の姿が現れないことを確認すると、ジョルノは小さくため息をつくのだった。
「……やはり敵は、音を頼りに追跡してくるってわけか」
どうやら敵スタンドは、目星をつけた対象……それは恐らく、自身が先ほど拾い上げた便箋がその引き金となったのだろう。かつてのライターのように、それを拾い上げたものを執拗に付け回し、攻撃を加えるスタンド……何とも強力なスタンドだ。ジョルノが慎重に立ち上がり、一歩踏みだそうとする…しかし、その時ジョルノは自身が敵の術中に陥っていることに気が付くのだった。
「こ、これは……!!」
それは床一面に垂れ流された、油だった。丁寧に、足を踏み出せば確実に足を踏み入れてしまう…しかもジョルノがそれの存在に気づきにくくするために、天井の蛍光灯の明かりは丁寧に消されてしまっていた。夕暮れ時の西日は校舎の一角のここには届かず、既に辺りは薄暗いものとなっていた。敵の罠にはまったジョルノは油に足を取られると、大きく体のバランスを崩してしまうのだった。
「っく…!!」
何とか背中を床に打ち付けることは防いだ…しかし手を床に付いたことでわずかではあるが、音を生じさせてしまった。すかさずジョルノの背後から、凄まじい音を立てる何かが自身の背後に訪れたことを感じるのだった。
「……こ、この敵。想像以上に厄介な奴だ。自身のスタンドの弱点を理解している!そのうえで、その弱点を補強する策を巡らせている!」
ジョルノが背後を振り向くとそこには予想通り、バイクスタンドが待ち構えているのだった。
「うわおおおおお!!!!」
ジョルノが再び自身に襲い掛ってくるであろう衝撃に備え、スタンドを繰り出す…しかし敵スタンドはジョルノの身体に突っ込む直前、その動きをテレビリモコンで急停止ボタンを押したかのように静止させるのだった。
「ま、まさか…どうして……どうして戻ってきたんだ!?」
ジョルノは信じられないといった顔つきで前方に立っている……敵スタンドを隔ててそのの背中越しに立つ少女の姿を見据えるのだった。
「タキオン!!」
アグネスタキオン…その少女は、その手に先ほど床におち、ジョルノが拾い上げた便箋を片手に立っていたのだった。そしていつものように余裕に満ち溢れた笑みをジョルノに向けると、その引き上げた口角を保ったまま、徐に口を開くのだった。
「やぁモルモット君!随分と苦戦しているみたいじゃあないか!手を貸そうか?…ってもうこれを持っている時点で私もきっと標的になってしまっているだろうがねぇ!」
すると彼女の言葉通り、バイクスタンドは後方にいるタキオンへと踵を返すと、唸り声をあげて向かっていくのだった。
「私が惹きつけておく!その間に君はこの敵を何とかする手段を考えておきたまえ!」
タキオンはその言葉を残すと、ジョルノがいる反対方向へと駆け出していくーーーその背後を追うように、バイクもエンジンを吹かしながら彼女のもとへと向かっていくのだった。彼女は敵のスタンドを視認することはできない…しかしそのスタンドが発する圧力、そして音を六感で情報を受け取り、そのおおよその位置を確認することはできたのだった。
「……だいたい10メートルか」
恐らく自身が、敵をこの距離を保ったままで走り続けることができるのはスタミナを鑑みても2000メートルがやっとのところだろう。自分で言ってしまうのもなんだが、自身はそれなりに才能や、今までの研究の成果もある……だが、まだデビューして間もないウマ娘だ。有馬記念や2500メートルや菊花賞の3000メートルを走り切ることほどのスタミナはまだ有していない。それでもタキオンは、自身が死力を尽くして走り続けなければならないことも理解していた。タキオンは廊下の端までたどり着くと、踊り場から階段を駆け上がっていくのだった。
……果たしてもつだろうか……
しかしジョルノが死んでしまったとなれば、今自身が研究を続けることはできなくなってしまう。彼に死んでもらっては困るのだ。彼には可能性がある。自身の更なる跳躍のため、そして自分の……
タキオンは階段を昇ることによって予想以上のスタミナ消費に顔をしかめながら、階段を駆け上がっていく。そして最上階、屋上へとたどり着くと扉を急いで閉めるのだった。屋上へとたどり着いた彼女は、ため息をつく…しかし、直ぐに後方から何かが吹っ飛ぶ音が響き渡るのだった。
「……なっ」
先ほど閉めたはずの扉はまるで紙切れのようにいとも簡単に破壊され、その入り口付近には先ほどと同様にエンジン音に似た轟音がこだましている。タキオンはその姿を見ることはできないが、敵が扉を破って侵入してきたことは明白な事実であると悟ったタキオンは自嘲気味に笑みをこぼすとフェンスにもたれかかるのだった。
「……まぁ。私にしては上手くやったほうか」
敵スタンドは、まるで闘牛士に目掛けて飛び出さんとする闘牛かのようにタキオンに向かって向かっていこうとしていた。そしてその時、背後から声が聞こえるのだった…今一番聞きたかった声。不覚にも、タキオンの胸には安堵が染み渡るのだった。
「よくやった…タキオン。君が稼いでくれた時間で、奴を倒す方法を見つけたよ。」
そこには、先ほど敵が扉を破った箇所にジョルノが立っているのだった。すっかり辺りが暗くなったというのに、彼の姿は太陽に照らされているように輝いて見えた。タキオンはその姿を認めると、非難するように言葉を漏らすのだった。
「……少し遅いよ。モルモット君」
「すまない……そして君の覚悟には感服したよ。
そう口にするジョルノの身体は、何処か輝いて見えた。控えめな態度を日ごろ見せているが、彼の行動には希望があるのだ。ギャングのボスだというのに、彼の瞳は、そして彼の意思や行動は「正しい」ことへと突き動かされている。その眩い光の中にいられることは何処か心が安心するのだ。
ジョルノは敵が動き出す前にその横をすり抜けると、タキオンを抱えてフェンスを飛び越えるのだった。そして何のためらいもなく屋上から飛び降りるのだった。
「な……!何をやっているんだ!ジョルノ!二人して死ぬつもりか!!」
「この間言ったと思うが、僕の能力は「触ったものに生命を与える」ものだ。先ほどブローチを屋上の縁に置いてきた…直ぐに成長すると思うんだが……」
すると空中に落下している二人の身体は、急停止するのだった。タキオンが状況を掴みかねていると、ジョルノは言葉を続けるのだった。
「ブローチはツタに変化した…これで何の問題もなく奴から逃れることができる...」
ツタを掴んだジョルノが再び階下の廊下へと足を踏み入れると、タキオンはジョルノに言葉を投げかけるのだった。
「だが、今のも追跡を一時的に躱したに過ぎないんじゃあないか?」
その言葉に、ジョルノは頭を横に振るのだった。
「もう大丈夫…一度僕たちを見失った時点で、僕たちの勝利だ」
ジョルノが言った意図を図りかねる言葉に、思わずタキオンも首を傾けざるを得なかった。
「……?」
首を傾げるタキオンをよそに、ジョルノは言葉を続けるのだった。
「さっき敵スタンドの……バイクの部品の一部を生物に変えた……電気を自ら発するデンキウナギにね。デンキウナギはスタンガンなんか比にならないほど強力な、電圧800ボルトもの強力な電気を自ら放つ…僕らを見失ったスタンドは、一度本体のところへと戻るはずだ。」
「ぎゃああああああああああ!!!!」
校舎内に、デンキウナギの放電を受けた敵の大きな悲鳴が響き渡る…ジョルノとタキオンは急いでその声のした方向へと駆け出していった。そして二人はとある教室の一角へとたどり着くのだった。二人は顔を見合わせると、教室のドアを引き開けるのだった。そこには一人のウマ娘が気絶した状態で床に倒れこんでいた。
「彼女は…」
右目を覆い隠すほど長く、流星模様が入った前髪に、機械チックな装飾が施されたヘッドギア。トレセン学園に来たばかりで倒れている彼女とは面識がなかったジョルノであったが、一方タキオンは彼女の顔に見覚えがあり、徐に口を開くのだった。
「…ウオッカ君じゃあないか……」
「……知っているのか?彼女を」
「あぁ。友人と寮が同室のウマ娘だったはずだ。まさか彼女が……」
目下危機であった敵スタンドを退けたジョルノとタキオンであったが、目の前に倒れているスタンド使いがウマ娘であることは、また新たな一つの危険が及んでいることを彼らは悟るのだった。
一体どうして彼女がスタンド使いとなったのか?
目の前に横たわる少女は、ジョルノ達にまた新たな疑問を提示していた。
イージューライダー
能力者:ウオッカ
破壊力:Bスピード:B射程距離:A持続力:A精密動作性:E成長性:A
自動操縦型スタンド。標的を、音を頼りにどこまでも追跡して攻撃を加えるスタンド。その他の自動操縦型スタンド同様、非常に強力なパワーを有しており、一度定めた標的を見失ったとしても、その標的が音を発すれば再びその位置を追跡することができる。