魔女と人形と異端審問官   作:しぃ君

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 前世があるなら、なんだったら嬉しいですか?


十二話「魂の呪縛」

 ◇糸依◇

「『魔女集会(サバト)』?」

 

「そう。本来の意味とは違うけどね。現代の魔女集会は月に一回、日本各地に住む魔女が都内の魔女協会支部に集まって、研究成果や異端審問官の動向を報告する会議なの。日本以外の各国でも行われてるわ」

 

「今日は一日その集会に出るってこと?」

 

「……えぇ。本当ならあなたも連れて行きたいけど、まだまだ課題が山積みの状態で外には出せない。わかってくれる?」

 

「もちろん。大人しく待ってるよ。行ってらっしゃい」

 

「お土産、買ってくるから」

 

 

 玄関前。敷地内から出で行く璃々ちゃんを、ぬいぐるみたちと一緒に見送り、背中が見えなくなったタイミングで中に戻る。鈴ちゃんの様子が変わってから、かれこれ四日が過ぎ、また週末。

 魔女集会という催しに出る璃々ちゃんからクマタロウに代わって、わたしが家の留守番を預かった。たった一人居なくなるだけで部屋が広く感じることなんてないはずなのに、少しだけ物寂しいのは、不思議な感覚だ。

 

 

 きっと、最近は一人でいる時間の方が短かったからだと思う。三人で、ないし二人。鈴ちゃんか璃々ちゃん、二人のどちらかがいつも隣に居て、他愛ない話から難しい話、色々なことを時間を忘れて話していた。

 時間が経つごとに、現実が夢に追いつこうとしている感じがして、毎日はあっという間に過ぎ去っていく。

 

 

 わだかまりが完全に溶けたかと言われれば、きっとまだなんだろう。璃々ちゃんは未だに鈴ちゃんを警戒してるし、鈴ちゃんは璃々ちゃんに負い目を感じているように思える。

 けど、それも時の流れが解決してくれるはずだ。

 友達だからこそ、二人の良いところは知っているという自負がある。鈴ちゃんは感情が先に行きがちだが、根は優しい子だし。璃々ちゃんだって、素っ気ない態度の裏では相手のことを慮っている。

 

 

「明日……聞いてみよっかな」

 

 

 明日の日曜は、久しぶりに鈴ちゃんと二人だけで遊ぶ日。璃々ちゃんに了承を取り勝ち取った、お休みの日。可能なら、今度は三人で遊ぼうと誘ってみよう。

 流石に二人きりじゃ難しいだろうけど、わたしが間に立てば問題はないはずだ。初めての思い出さえ作れれば、あとは自然と増えていって、わたしを抜きにした関係も構築されていくだろう。

 

 

 うんうん、悪くない作戦だ。

 

 

「!!」

 

「……クマタロウ? どうかしたの?」

 

「!!!」

 

「……着いて来いってこと?」

 

 

 ボディランゲージで会話をするクマタロウに連れられ、階段を上っていくと、辿り着いたのは開かずの部屋。璃々ちゃんにはあまり入らないように言われていたが……仕方ない。

 意を決して中に入ると、想像していたのは違う、入口側の本棚に収められた本がほとんど床に落ちてしまっているという惨状が広がっていた。

 

 

「うわぁ……やっちゃったねぇ」

 

「!?」

 

「なるほど、下に埋もれちゃった子達も居るから、退かすのを手伝いながら、本棚に本を戻して欲しいの?」

 

「!!」

 

「よーし、がんばろっかクマタロウ」

 

「!」

 

 

 他の部屋から呼んできたぬいぐるみたちと協力しながら頑張ること数十分。大方の本を戻し終わった頃、他の本とは明らかに年代が違う一冊を見つけた。シンプルな装丁のそれは、表に見たことのない国の文字が書かれており、どうしてか懐かしさを感じる。この部屋の本はほとんどが見たことのない国の文字ばかりなのに、何故かこの本の文字の意味だけは、自然と頭に浮かんできた。

 

 

「日記……? 誰のだろう?」

 

 

 悪いと思いつつも、パラパラとページを捲ってしまう。

 名前は……書かれてない。他人に読ませる気も、もしかしたらこうして残す気もなかったんだろう。

 読み進めれば、読み進めるほど、少しずつある二人の名前が出でくる。一人は、日記の主の子供。もう一人は、子供の友人だろうか。文章を見れば、三人の関係がどれだけ親密で、幸せなものだったから手に取るようにわかる。

 

 

 けれど、ある日を境に、日記の日にちが飛び飛びになり。ある日のページにはたった一言『魔女狩りが始まった』と、書かれていた。

 その先の内容は地獄そのもので、子の友人は異端審問官となり、日記の主は魔女という立場がバレて、子が──処刑された。

 

 

『〇月✕日。

 私だけが許された。

 私だけが残された。

 見せしめにあの子だけを殺されて、私だけが生きている。焼かれていくあの子が最後に見せた笑顔が、忘れられない。何故、何故あの子なんだ! 悪くないのに、悪いのは私なの! 彼女もそうだ!! 友人を売って、好いていた友人を殺して!! 許せない、許せない、許せない。

 でも……私には力がない。帰って来ないあの子の服を抱きながら、泣いて終わり。──死にたい』

 

「……酷い」

 

『〇月□日。

 見つけた!! 

 お母様が残していた本の中から、見つけた! 悪魔との契約が記された禁断の書を!! これで、これで取り戻せる! 私の愛しい娘を。私の存在の全てを。取り戻せる!! 

 だけど、この地にいてはまた捕まって、殺されて、その繰り返しだ。逃げて、逃げて、逃げて、絶対に叶えてみせる。友人に聞けば、極東にある島国は魔女という文化がまだない土地らしい。そこに行けば……あるいは……』

 

「これが……璃々ちゃんのご先祖さまが、日本に来た理由?」

 

 

 日本人離れした容姿。

 長く続く家系。

 歴史を感じる日記に記された情報。

 もし、わたしの想像が事実と同じなら、この本の主は空金家の初代当主。悲願を後の夜に託した張本人。でも、でも、それが本当なら、悲願は変質してしまっている。

 

 

『娘を生き返らせる』

 

 

 これこそが、本当の悲願で、今の『人形に魂を宿す方法』探求するというのは、そこからズレた願いだ。……璃々ちゃんは、多分、これを知らない。夢を見て、過去のその光景を見たわたしだから、繋がっていく。

 わたしと瓜二つの人形。

 きっと、これに魂を宿すつもりだったんだ。亡くなってしまった、娘さんの。

 

 

「じゃあ……それじゃあ……わたしは誰なの?」

 

 

 開いてしまった、真実の箱。

 開かずの部屋に隠された事実。

 自分が、本当の自分が誰かわからない。

 亡くなった娘さんの魂がわたしにあるとしたら、わたしは彼女なのか、それともわたしなのか? 

 

 

 息が苦しくなって、思考が追いつかなくなって、恐怖に心が支配されていく。

 

 

「!!」

 

「……だい、じょうぶ。大丈夫……だから」

 

 

 擦り寄ってくるぬいぐるみたちに誤魔化すように笑い、自分に言い聞かせるように大丈夫と零す。

 やめよう。考えないようにしよう。

 わたしはわたし、それでいいはずだ。過去なんて、今更どうしようもないことを思い出さないで、今に視線を向ければいい。

 

 

 幸せなんだ。

 楽しいんだ。

 ずっと、この先も三人で生きていけるはずなんだ。

 だから、大丈夫。大丈夫。

 

 

「……ごめんね、璃々ちゃんには言わないで? 心配させるの、嫌だから」

 

「…………」

 

「お願い」

 

「……!」

 

「……ありがとう。ほら、下に行こう? 解れちゃった子も居るだろうし、治してあげるから」

 

 

 そう言って、わたしは解れた子を抱えて階段を下りる。熱く光る紋章に、気付かないふりをして。 




 次回もお楽しみに!

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