魔女と人形と異端審問官   作:しぃ君

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 その人が思う世界は、その人と大切な人しかいないもんだよ。


九話「見つけちゃった」

 ◇糸依◇

 わたしが所属している家庭科部の活動は活発的で、基本週五で部員が集まって各々の作品製作に勤しんでいる。部活の本番はバザーや文化祭などのイベントなので、それを目指してがんばるわけだが……部長はおおらかな人で、最低週二日来ていれば文句は言わないし、部活に出る日も各自の自由だ。

 

 

 これでなんだかんだ部活を成立させて、部費まで貰ってるんだから、やり手の部長なのは確かなんだけど。神出鬼没でどこからともなく現れたと思ったら、部費で変な材料を買ってくることもしばしばあり。部員からは尊敬半分呆れ半分で見られている人だ。

 もっとも、そんな人のお陰で、わたしも自由に動けてるんだけど、今重要なのはそれじゃない。

 

 

 今日は金曜日。なんとか、璃々ちゃんに借りた本も終盤に差し掛かり、彼女にお願いして部活に合流できたわけなんだけど、空気は最悪もいいところ。

 美術部がお休みで、わたしと一緒に帰るために部室である家庭科室を訪れた鈴ちゃんと、一度家庭科部の見学に来たかったという璃々ちゃんが鉢合わせて、衝突。

 

 

 呪いに使うぬいぐるみの試作品作成をするわたしを挟んで睨み合っているのが現状だ。

 

 

「あー……わたしが作り終わるまで暇になっちゃうし、二人ともなにか作ってみれば? 材料は、今テーブルにあるやつだったらわたしが買ってきたやつだから自由に使って平気だし……ね?」

 

「私は別に──」

 

「勉強も運動もそつなくこなす空金さんでも、こういうの苦手なんだね。意外かも」

 

「……違うわ。ただ、人のを使うのが申し訳ないだけ」

 

「糸依ちゃんは使っていいって言ってくれてるんだし、気にし過ぎると失礼じゃない? まぁ、あなたがやらなくても、鈴はやるけど」

 

「……っ」

 

 

 先に動いたのは、鈴ちゃん。適当な布やら糸やらを取って、何かを作り始める。綿も少し取ったし、針山か小物を作る気なんだろう。対して、少し出遅れた璃々ちゃんはわたしを見習ってか、過去を思い出しながら小さいぬいぐるみを作り始めた。

 共通の話題になればと思って勧めたが、どうやら選択ミスだったらしい。そもそも、壊滅的な美的センスを発揮した璃々ちゃんに縫い物をやらせるなんて……やってしまった。

 

 

 無言のまま、徐々に重く伸し掛る雰囲気を肌で感じながら、時間は過ぎる。十六時過ぎから始まったこの静寂の争いは、長身が一周しても続き。わたしと一緒になって縫い物をする機会も多かった鈴ちゃんは、手のひらサイズの動物クッションを量産し、ボタンやら縫い方を工夫して可愛らしい小物に仕上げていた。

 

 

 けど、璃々ちゃんは──

 

 

「痛っ」

 

「璃々ちゃん!? ……もう、これで三回目だよ? 無理しないで、簡単なやつを──」

 

「別に、何を作ろうと私の勝手じゃない」

 

「はいはい。ほら、指見せて? 絆創膏すぐ貼っちゃうから。その子に血がついちゃったら嫌でしょ?」

 

「ん……」

 

 

 わざとじゃないんだろうけど、焦ってるからかミスが多い。急ぐことはないのに、変に鈴ちゃんを意識してしまってるんだろう。

 折角、今日の部室は貸切で、三人しかいないのに進歩は見られない。なんというか、二人からは歩み寄ろうとする意思が感じられなくて、ただただ互いを拒みあっていることだけがわかっていく。

 

 

 何度会話を重ねても、尖った感情だけを向けあって、バチバチと叩きつけるかのような感覚。

 きっと、その根底にあるのは『魔女』だから。『異端審問官』だからっていう根付いてしまった考えで、間に立っているのに何もできない自分が悔しい。

 

 

 結局、最終下校時刻まで二人は互いを敵視しあって、何も変わらなかった。最初の会話以外、目を合わせようとすらしなかった。

 心が折れるまで続けるつもりだけど、友達同士が憎みあっている様子は見ていて辛くて、自分の行動が正しいのか正しくないのかわからなくなる。

 

 

 あとどれくらいで終われるのか、わたしには想像もつかなかった。

 

 ◇鈴◇

 また、まただ、またあのオンナばっかり。

 ずっとずっと、糸依はあのオンナばかりを見て、アタシを見てくれなかった。あんなにがんばったのに。あんなに可愛く作ったのに。怪我をする空金璃々を見守って、アタシの方は全然。

 

 

 帰り道だって、怪我のことを心配してアタシとはあまり話してくれなかったし、なにが悪いの? 

 あのオンナは魔女なのに。アイツがアタシから少しずつ、少しずつ糸依を奪っていく。糸依も糸依だ。アタシの方が長い付き合いで、アタシの方があなたを理解してるのに、振り向いてくれない。

 

 

 今日、少し髪を切ったの気付いてくれた? 

 前までは気付いてくれたのに、何もなかった。褒めてくれなくていい、前の方が良かったと言われても良い。ただ、気付いて欲しかっただけなのに、なんで? 

 

 

 魔女の怪我には気付いたのに、ズルい。

 もっと見てもらいたい。はやく、早く、あのオンナを追い詰めて、魔女だと白状させて、消す。絶対に、消す。あのオンナは糸依を犯す癌だ。アタシと彼女だけだった領域にズカズカと踏み込んで、穢そうとする。

 どんなに証拠がなくても、アイツは魔女だ。そうに決まってる。人のものを奪って、影で笑ってるに違いない。

 

 

 見つけ出せなかったら、でっち上げる。それくらい難しくないことだ。この際、その後がどうなろうが知ったことじゃない。アタシと糸依だけが居て、二人だけが幸せなら世界の行く末なんて興味の欠片もない。

 

 

「……刺殺、絞殺、毒殺、なんでもいい。でも、できるだけ苦しむように殺さなきゃ。見せしめにすれば、糸依だってもう他の人の所に行ったりしない……ずっとアタシだけのもの」

 

 

 だから、丁寧に丁寧に道具を整える。審問道具の手入れは欠かさない。暗器はもしも、外で何かあった時に服に忍ばせるのに役立つし、ノコギリもナタも出番は少なくない。

 殺したあとは、そうだ。

 昔のように燃やしてやろう。

 住んでるって言う屋敷ごと、燃やして、燃やし尽くして、灰だけにしてやろう。

 

 

 そうすれば、アタシに寄ってくる魔女はいなくなる。糸依を奪い、穢し、傷付ける存在は消える。他の異端審問官にも示しがつくし、一石二鳥の作戦だ。

 

 

「っ! 油切れた……ヤスリもそろそろ替えが欲しいなぁ。パパに相談しないと。確か、予備の油は──ん?」

 

 

 棚に置いてある予備の油を取ろうとしたその時、偶然にも、アタシの目に不自然な光景が止まった。いつもより、棚の位置がズレている。まだ、それだけなら大した問題じゃない。パパが重い審問道具を置く時にズレたんだろう、それだけの事。

 でも、微かにズレた棚の後ろに隙間が見えた。

 本来なら壁が見えるはずなのに、闇があった。

 

 

 アタシに内緒の隠された場所。実験用の毒や審問道具でも置いてあるのか、少し、ほんの少し気になった。きっと、パパに聞いてもママに聞いても誤魔化されるだろうから、ちょっとだけ悪い子になるつもりで中を覗いた。

 暗く、まるで今いる空間だけが時代から取り残されたように、蜘蛛の巣が張られ、酷く埃っぽい。家の中でも特に異質な部屋。

 

 

「……こんな所に、何置いてるんだろ」

 

 

 スマホのライトを使い近くを照らせば、部屋にあるのは木の机と、その上にある一冊の本に紙の束。埃をかぶったそれらを拾い、文字が見えるように手で払うと──ある文字が見えた。一つは、『禁術書』と書かれた呪いの本。恐らくだが、魔女の一人から奪い取ったものだろう。

 もう一つは、

 

 

「『魔女の一族、空金家に関する資料』……」

 

 

 みつ、けた。

 見つけた見つけた見つけた! 

 やっと、やっと動き出せる。

 これで、ハッピーエンドだ。




 次回もお楽しみに!

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