───故に、獣は吠え立てる。
世界に危機が迫っている。
この星を侵略せんと我が物顔で。
彼方より飛来する恐怖は、人を随分と幼くさせた。
「だから僕たちがいるんだ。人々を、地球を守るために」
最前線にして最大級の砦。
人類の希望にして唯一。
ああ、我らがスーパーヒーローたちよ!
最も固い防具を纏おうとも、最も鋭い武器を振り回そうとも、最も強大な軍を率いていたとしても。
彼らは、決して逃げはしない。
彼らには、決して勝てはしない。
正義を掲げる彼らの背は常に、人々によって支えられているから。
守るべきものを支え、また守るべきものに支えられる。
続く限り、彼らは膝を屈しない。
屈しないが。
「何とびっくり財政難!ごめん、ちょっと今月は厳しいかなぁ!」
「騒ぐなバリー…うわ、共有の預金残高が見るに堪えない程に少なくなっているぞ。どうする、ダイアナ?」
「とは言ってもねぇビクター。戦いの余波で破壊した街の修復とか、孤児院への寄付とかで消えちゃうもの。仕方がないわ」
「俺としちゃあ、行き当たりばったりの戦略をどうにかしたい。今は個々の力で如何にかなっちゃいるが───」
「ああ。このままだといつか、各個撃破されておしまいだ。優れた軍師が必要だと僕は思うよ」
財政難。戦略不足。
彼らだけではどうしようもない現実に、直面した。
「だったらさ、やっぱり‘彼’を仲間に入れよう。ビクターは‘彼’の街に住んでるだろう?僕、近々仕事で行くから、その時に勧誘しようかなって」
「だがクラーク、俺は‘彼’を実際に見た事がないぞ。行動パターンが分かり辛いから、街中の監視カメラをハッキングしないと接触のしようがない」
「そこまでしないといけないの。‘彼’、本当に用心深くて隠れるのが上手なのね」
「へー、じゃあ、クラークさんの仕事に合わせて、皆でゴッサムシティに集合する感じでいいの?いや僕は別にいつでも駆け付けられるけど」
「なら、後で日にちを教えろよ。海が騒いでる、早く現状打破しねぇと不味いことになりそうだ」
彼らが思い浮かべるのは同じ人物だ。
真っ黒なケープ、蝙蝠を模したカウル、機能性と防御力に優れたスーツ。
ゴッサムの闇に潜む影にして、沈黙を守る暗黒の騎士。
バットマン。
ジャスティスリーグが欲する、ただの人間だ。
───故に、これらは必然である。
「ごめんダイアナ、待たせたね」
「あら、予定より10分も前よ、クラーク?」
世界は歪み、獣の咆哮が呼び覚ます。
「ちょっと待って、あの人僕の動きについてきたんだけど!?」
「気を抜くんじゃねえ来るぞ!!」
宇宙は目覚め、頭蓋に溜まった呪詛が漏れ出す。
「貴方が、バットマン…否、ブルース・ウェイン」
「…君はサイボーグだったな。ジャスティスリーグの」
彼方への呼びかけに応えるものは、果たして何を齎すのだろうか。
感応する精神。
此度の侵略者は、最も固い防具も、最も鋭い武器も、最も強大な軍もなく。
ただ純粋な、狂気のみで。
青白い神秘が、冒涜的な思想が、正常な思考を悉く滅していく。
内側から湧き上がる衝動は、憤怒か、憎悪か、それとも悲哀か。
分からずとも、それ等が全て‘破壊衝動’となることに変わりはない。
苗床よ。
「なに、あれ」
さあ、なんだろう?
理解してはいけない。そういった類のものが、相手となった。それだけだ。
血の赤子を抱くために。
赤子を。
瞳の宿る、へその緒を。
───故に、獣は吠え立てる。
「出ていけ」
冷たい声が響き渡った。
「此処は私の───俺の、街だ」
ずっと遠くで、次元を跨ぐ鐘が響いた。