夜明けを望むけものたち   作:メリケンです。

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原作をザ・バットマンとしてはいますがJLも出てくるしオリジナル設定も入り混じりと混沌としておりますので注意されたし。


暗闇を導く月光

「ごめんダイアナ、待たせたね」

「あら、予定より10分も前よ、クラーク?」

 

 ゴッサムシティ。その最も賑わっている大通りに面しているカフェに、クラークとダイアナは集合していた。開店したばかりだからか客が少なく、好きな席を選ぶことができた。

 

「いいカフェでしょ?仕事仲間が、此処だけはおすすめだって言ってくれたの。会合の次の日にゴッサムシティに来たけど、1日に2回も通っちゃうほど良いところ」

「じゃあ今で…11回目?」

「昨日は3回来たから、12回目よ」

 

 ホワイト編集長に交通費を握らされた5日前。

 

『例の件でゴッサムシティに行くんでしょ?だったら私も、』

『絶っっっっ対に駄目』

 

 恋人のロイス・レインを説得した3日前。

 

『‘丁度ゴッサムシティで仕事が入ったよ’、っと…』

 

 仕事が入ったとジャスティス・リーグに伝えた昨日。

 

『あらクラークさん、おはようございます。今日も仕事、頑張ってください』

『おはようございますアリアさん。実は今日から出張なんです』

 

 そして朝、隣人に挨拶をしてからバスに乗ってゴッサムシティに辿り着き、クラークはダイアナが指定したこのカフェに直行したのである。

 

「今回は運が良かったな。丁度ゴッサムの事件の取材が長期で入るなんて。ダイアナは仕事大丈夫かい?」

「ええ、大丈夫よ。ちょっと前から長期休暇を貰ってるの。あと1ヶ月は問題ないわ。注文決まった?」

「コーヒーとサンドイッチかな。ビクターは今日の夜に僕等と合流して、アーサーとバリーは明日の昼に一緒に来るそうだ」

「全員揃うまでは活動を控えましょ。変に動くと更に警戒されてしまうでしょうから。注文いいかしらー?」

 

 ダイアナの呼び声に反応したのは若い男だった。物静かな印象を受けたが、ダイアナの注文を慣れた様子で聞き、クラークをちらりと見て奥に引っ込んでいった。流石に12回も通っているだけあって、既に店員とは仲が良いらしい。

 

「ありがとう、ダイアナ。でも、僕、彼に後ろから刺されないかな。仲が良いんだろう?」

「そうしたら怪我をするのは彼だわ。注意しておかないと」

 

 つい漏れ出た本音に、冗談だと思ったダイアナが冗談で返した。思わず吹き出す。

 

「笑いすぎよ。本題に入って?」

「ん、ああごめん。これなんだけど」

 

 カバンから新聞を1部取り出し、ダイアナに渡す。彼女は怪訝そうな顔を隠しもせずに新聞を受け取り、クラークがつけた赤い印の部分を読み始めた。短い記事であるから、読み終えるのに5分もかからないだろう。

 予想通りすぐ読み終えた彼女は、綺麗な形の眉を寄せていた。恐らく、クラークの言いたいことを察しているのだろう。

 

 ゴッサムシティで起きている謎の殺人事件。

 殺人であれば(他の街では絶対にありえないことだが)ごく当たり前の出来事だが、これは多くの謎を残しているのだ。

 被害者は共通して体毛が異常に伸びている。遠くで蹲っていれば、獣と見間違える程に。だがその特徴が一致する人物は、死体が見つかる直前まで発見できない。

 そして殺害方法が多種多様だそうだ。刃物で斬られ、鈍器で潰され、何か強い力で捩じ切られ、或いは焼かれ、銃で撃たれている。

 被害者は何故殺されたのか。奇病の蔓延を防ぐためか、はたまた何かの実験の口封じか。

 殺害方法が何故被害者によってバラバラなのか。複数犯と撹乱させるためか、複数犯か、そもそも被害者に偶然共通点があるだけで実は全く別件の殺人事件なのか。

 

「僕が記事を担当する事件の内容だ」

「…そして、バットマンも追っている?」

「大正解」

 

 ダイアナの眉間の皺が更に深くなった。

 

「へぇ?じゃあ、貴方の仕事を手伝っていれば、自ずと彼に近付けるって寸法?」

「え、あ、ちが、違うよ。手伝ってほしいとかそんなんじゃない」

「分かっているわよ、冗談だわ」

「お待たせしました、コーヒーとサンドイッチ。それからダイアナ、君にはいつものを」

「あら、ありがとう」

 

 目の前にコーヒーとサンドイッチが置かれる。コーヒーからは良い香りが漂っており、サンドイッチはみずみずしい野菜が隙間から覗いている。成程、ダイアナが通うだけある。とても美味しそうだ。クラークはコーヒーを飲み、それからサンドイッチを一かじりした。

 

「うん、おいしい!」

「でしょ?ランチも美味しいのよ、此処」

「値段も相場よりかなり低い。倍の値段を取られたって僕は文句を言わないよ」

「店主の意向ですって。あの子、きっと喜ぶわ」

 

 店主とは、厨房から少しだけ見えた老人のことである。ダイアナから見れば、誰だって子供同然なのだろう。

 

「あ、ごめん、話が逸れたね。ええと、とにかく」

 

 バットマンは、ゴッサムシティで起こる全ての犯罪の解決に関わっていると言っても過言ではない程に事件の介入に積極的だ。この事件もゴッサムシティで起きているのだから、捜査に彼が介入していても何ら不思議ではない。

 だがクラークは、何かの違和感を覚えていた。超人的な身体能力と引き換えにあまり機能しなくなった危機感が、警鐘の様なものを発しているのだ。

 ゴッサムシティに来る前、集めた資料の中に混じっていた被害者の写真を見たときから、鳴り響くそれ。

 

「もしかしたらこれ、人間じゃ手に負えない案件かもしれない」

「…どういうこと?」

「僕もうまく言えない。ただ、こう、うーん、勘というか。腹の底から冷えるような、背筋が凍るような…」

「珍しいわね、大抵の事には動じない貴方が」

 

 ダイアナが紅茶を一飲み。その様子を何となく見つめたまま、クラークはこの事件について考える。

 たった一瞬感じた、それだけだった。だがそれをどうしても見逃すことができなかった。暗闇に見つめ返されるような、何とも言えない恐怖を。

 その恐怖の根源が何処にあるのかは分からない。だがそれは、ダークサイドと対峙した時の様な緊張感をクラークに齎した。いや、もしかすると、もっと。

 

「そういえば、なんだけれど」

「うん?」

「ゴッサムシティ、何か良くないものがいるわ。私もはっきりとは感知できないけれど」

「本当かい?ダイアナが言うなら、間違いないだろうけど」

「ええ。もしかすると、その良くないものが、その事件に関係しているのかも。あまり大きくない気配だけど、確かに人間の手には余りそうだわ」

「そうか。なら、事件を追っているバットマンや警官が危ないかな」

「ベストタイミングで手を貸せば、彼に好印象を与えられそうね」

 

 少しだけ残ったコーヒーを飲み干せば、ダイアナも丁度良くスコーンを食べ終えたところだった。同時に立ち上がり、同時に財布を取り出す。

 

「僕が払う。素敵な場所を教えてくれたお礼さ」

「今度は皆でどう?その時は私が払うわ」

「はは、皆で来るのは賛成だ」

 

 おつりが出ないようぴったり支払って、外に繋がるドアへと手を掛けた。

 

「ダイアナ、今からデートか?」

「あら、そんなところよ」

「ちょっと、ダイアナ」

 

 そんな彼らを呼び止めたのは、あの若い男の店員だ。あまり手入れされてない黒髪から覗く右の瞳は、暗い翡翠色をしていた。

 クラークは直ぐにデートを否定する。彼にはロイスという心に決めた女性がいるのだ。ダイアナは大切な仲間であるが、そういった関係ではない。…ただ、ダイアナは彼の反応を面白がっているだけである。勿論理解しているが、心臓に悪い。

 

 店員がダイアナの冗談をどう受け取ったかは定かではないが、彼は幾つかの観光名所を教えてくれた。犯罪率が異常に高いこの街でも、安全に楽しめる場所だそうだ。

 ダイアナが興味深そうに聞いている中、彼はふと、例の事件について愚痴を漏らした。それのせいで観光客が減り、客足も遠のいたと。事件が起きるごとにそうなってしまうのは最早日常茶飯事であるため、それ程ダメージはないと付け足して。

 

「あ、あの。少しだけいいですか。僕、実はデイリー・プラネットの記者でして」

「あ、記者の人だったんですね」

「ええ、それで、その事件…体毛が獣の様に伸びている被害者、多種多様な殺害方法。それを、追っているんです」

 

 クラークの言葉を聞いた途端、店員は顔を思いっきり顰めた。顔の殆どを髪が覆っているにも関わらずその様がはっきりと分かった。

 どうやら彼の嫌な思い出に触れてしまったらしい。クラークが急いで謝ると、彼は軽く首を振って俯いた。

 

「…その、僕、その事件の1つの、第一発見者なんです」

「え、そうなのかい!?」

「はい。警官に朝から晩まで事情聴取されたし、あの蝙蝠の男と何時間もにらめっこ。うう、辛かった」

「あー…、それは、ええ、辛いわね」

 

 ダイアナが同情の目を彼に向ける。何とも言い難い、気まずい空気が流れた。

 クラークとしては、このまま彼を取材してしまいたい気持ちが心中の大半を占めていた。だが既に、警察やバットマンのみならず、ゴッサムシティの取材班に追いかけ回されているのだろう。その心労が見て取れた。

 疲れ切っている彼に、更に別の街の記者の取材を受けてほしいという都合の良い願望を受け入れてもらうのはとても心苦しい。どうしたものかとうんうん唸っていると、彼が控えめにクラークを見つめた。

 

「…良ければ、取材を受けましょうか?」

「あ、その、此方としては有難い。でも君、良いのかい?」

「構わない。あ、構いません。僕としては、今のこの状況こそ好ましいものだ」

「確かに、デイリー・プラネットの発信力はそれなりに強いわ。もしかしたら、事件の早期解決に繋がるかも」

「…、あ、うん。そんな感じだ。ただ今日は夕方までシフトを組んであるから、それが終わってからになります」

「すごく助かるよ、本当にありがとう!」

 

 時間がきたらこのカフェを訪れることを約束し、クラークとダイアナは大通りに出た。

 まさかこんなにも早く第一発見者を取材できる、かつ取材に協力的だなんて、運が良い。バットマンとも顔を合わせたときた。

 

「運が良すぎて怖いくらいよ。誰かの仕込みかしら」

「考えたくないな」

 

 大通りを走る車の群れを横目に歩く。これからクラークはホテルに行き、時間まで取材のための書類を整理しようと思っている。対しダイアナは、クラークの取材が終わるまで、店員から教わった観光名所を回るつもりだそうだ。

 その後、ビクターと落ち合うことにしよう。その一言で会話を区切り、ダイアナと別れようとしたとき。

 

 近くの車道を、1台の車が通った。

 

 超がつく程の高級車である。ゴッサムシティでそれを乗りこなす者は限られており、加えてクラークの動体視力では運転席にいた人物を難なく確認できた。

 

 ブルース・ウェイン。

 大企業‘ウェイン・エンタープライズ’のオーナーであり、アメリカで1,2位を争う程の億万長者。18年前から慈善活動を積極的に行い、ゴッサムシティの発展に大きく貢献している人物だ。ただ性格に少々難があり、それが彼の評価を下げている。

 ケチのイメージが纏わりつく金持ちだが、ゴッサムのために金を落とす。しかし他人を寄せ付けない警戒心の強さと、本人の病弱さ、オーナーでありながら企業の経営に殆ど口を出さない無関心さから、クラークは彼を変な金持ちの道楽者程度にしか認識していなかった。

 

 少なくとも、彼の裏の顔を知るまでは。

 

「どうしたの?」

「さっきの車、ブルース・ウェインが乗っていた」

「あら。気付かれてないと良いけど」

「ビクターが‘彼の情報網は舐めない方が良い’って言っていたし、案外気付かれているかもね」

「考えたくないわ」

 

 想像もつかないような真実。

 数年前の自分に、‘冷酷無比なバットマンの正体はブルース・ウェインである!’と言っても、きっと信じてはくれないだろう。

 

 

     ◇

 

 

「ごめん、お待たせしました。改めて、デイリー・プラネットのクラーク・ケントです」

「ご丁寧にどうも。どうぞかけてください」

 

 約束の時間。

 言われた通りに訪れたカフェは‘CLOSE’の看板が掲示されていた。勝手に開ける訳にもいかず、とりあえずノックを数回。直ぐに扉が開き、中からあの店員が顔を出した。

 店主からはカフェを取材の場にすることについて許可を取っている。有難いことにコーヒーまで用意してもらい、クラークはチップと共に心からの感謝の言葉を伝えた。

 

「…取材を受ける、と言っても、僕の持っている情報は既に全部マスコミや警察に明け渡しました。目新しいものはきっとないですが」

「構いません。僕としては、世に出た情報は書き手の思想が混じっているものであり、真実から僅かでも遠のいていると思っています。だから、なるべく当事者の口から体験を聞きたいのです。…あ、でも、トラウマがあったりするのなら、絶対に無理をさせません。遠慮なく拒絶してください」

「きょ、拒絶って」

 

 店員に漂う緊張感が少しだけ和らぐ。クラークの冗談めいた口調が功を奏したようだ。

 とはいえ、事件の第一発見者であるならば、確実に被害者の死体を目にしている筈だ。その光景がトラウマになっていないとは言い切れない。慎重に質問を選びながら、クラークは口を開いた。

 

「第一発見者と言いましたが、被害者のみ目撃したということでよろしいでしょうか。犯人が今まさに!ってところを見た訳じゃないですよね」

「あ、はい。1ヶ月前くらいのことです」

 

 早朝、カフェに出勤するために家を出て、その先の路地裏を何となしに覗いた時。店員は直ぐに後悔したという。

 異常に毛深い体毛が、夥しい程の血に塗れていた。コヨーテかアライグマか、それにしては大きいなと考えていたら、人間の手足がはっきりと目に映り、次いで服を身に纏っていることに気が付いたという。

 

「その後は直ぐに通報しました。店主に事情を話して休暇にしてもらって、それからは夕方まで聴取のためずっと警官に囲まれていました。思い出すだけでも疲れる」

「あぁ…それは何とも…」

 

 心拍数は正常。一定を保っている。

 嘘を言っていないことを確認し、手元の資料を見る。恐らく彼が目撃した被害者は、最初の事例が確認されてから3件目の事件のものだろう。当時の記事との齟齬も見当たらなかった。

 

「あの死体、妙な傷口でしたよ。確かに刃物で斬られたような傷だったんですけど、爛れていたんです。傷口に態々薬品を塗った様な、いや、何かしら肉体が拒絶反応を起こして?とにかく、普通に斬っただけじゃ絶対にそうならない筈なんですけど」

「え、傷を直視したのかい?」

「はい。それに凶器もかなり特徴的です。普通のナイフや木を切る鉈じゃ全然足りないぐらいの、それこそ肩に担ぐくらい大きくて重い大剣じゃないと、人間を両断出来ないです」

「ま、待って待って待って。やたらと詳しいね??」

 

 あ、と間の抜けた声が聞こえる。店員は話の展開についてこれていないと判断したらしく、丁寧な説明を始めた。

 

「僕、昔は獣を狩猟する仕事をしていて。だから獣の死体は見慣れているんです。その、人間と思わなければ問題ないです」

「はぁ」

「傷口についても、僕だけじゃなくて警察やバットマンのお墨付きです。正当な検死の結果ですので、ご心配なく」

「バットマンも駆け付けたんですか」

「早朝だったので、少しだけ。でも夕方近くに警察署に押しかけて、僕に質問しては警官と話して、を数時間繰り返していました。大勢の警官から解放されたと思った途端にそれだ。本当にうんざり」

「あ、あはは」

 

 丁度バットマンの話題も出たところで、クラークは方向性を変えてバットマンに関する質問を投げかけた。

 

「バットマン。ゴッサムシティのヒーローですね。ゴッサムシティでの事件だから、当然彼も追いかけていると思っていました」

「実物にあったのは初めてでした。こう、凄く威圧感があって。でも不思議と親近感が…あ、いや、なんでもない。向こうは僕が犯人である可能性も視野に入れていたみたいですけど、結局疑いは晴れて、夜も更けた頃に解放されました」

「彼は過激な方法をしばしば取るらしいですが、何かされませんでしたか?」

「いえ、特に。彼が過激なのは犯罪者に対してのみであって、僕の様な、疑わしいだけの人間には暴力を向けてくることはないです。会話の中で感じましたが、彼はとても理性的な人だ」

 

 ふむ、と唸る。バットマンをジャスティス・リーグに引き入れるにあたり懸念していた暴力性は、現時点では問題ないように思えた。

 理性的、という点にも好印象を覚える。世界で最も偉大な探偵の1人として見做されることもある彼は、頭の回転が非常に速いのだろう。此方が敵意を見せず対話に徹しようという姿勢を見せれば、話くらいは聞いてくれるかもしれない。

 問題はどう邂逅するか、である。ブルース・ウェインとして振る舞う間は決して近付けないだろうし、バットマンとして活動している間は決して動向を掴ませないだろう。さて、どうするか。

 

「あの、大丈夫ですか?」

「あ、ごめん!少し考え事をしていました。ええと、そうだ。今回の事件で、何か思うことはありますか。時間も迫ってきているので、これで最後の質問にいたします」

「はい、分かりました。…とにかく、早く解決出来る日が来ることを願っています」

 

 最初に確認された事例は、郊外にある廃聖堂の近く。その次が人の立ち入らない港。そして店員が目撃したそれ。一番新しい事件は、4日前に発見された8件目のものだ。

 犯行そのものを直接見た者はおらず、監視カメラにも映らない場所に限定されている。加えて、被害者は体毛が異常に伸びているという共通点を抱えているにもかかわらず、直前まで共通点が当てはまる人物は見つからないのだ。殺害方法までバラバラ、目的も不明。気味の悪い事件だ。

 

「僕もです。きっと、必ず」

「…ありがとうございます」

 

 店員が僅かに微笑み、すっかり冷めたコーヒーを飲み干した。少し苦そうな顔をしていたのは見なかったことにして、クラークは席を立つ。残念ながら目新しい情報は無かったが、十分に話を聞くことが出来た。

 

「さて、本日はありがとうございました。長くお時間をいただき、感謝いたします」

「此方こそ、助けになれたのなら幸いだ。あ、幸いです。良い記事、書けるといいですね」

「はは、頑張ります。今後此処には客として来る予定ですので、その時はよろしくお願いします。僕の友達と一緒に」

「ありがとうございます。店主も大喜びだ。…、あ、」

 

 不意に店員が声を上げた。クラークが振り返ると、眉を顰めた彼が声を潜めて言葉を発した。

 

「その、役に立つかは分かりませんが」

「おや、何か?」

「バットマンと仲の良い、ゴードンという警官がいるんです。その人がふと零した独り言なんですけど」

 

 ゴードン、と言えば、ゴッサムシティ警察の本部長がその名前だった筈だ。あまりにも捜査に行き詰った場合、バットマンの力を非公式に借りているとの噂だ。となると、バットマンと店員との面会に立ち会ったのは彼なのだろう。

 

「バットマン、今回の事件に妙に積極的だそうです。常より警戒が強いとか、度が過ぎる程に慎重だとか」

「じゃあバットマンは、この事件をかなり危険視しているということですか」

「みたいです。彼なら、事件の全てに関わっている筈ですから、もし会えたら聞いてみるのも手かもしれないです」

「運が良かったらね」

 

 最後にとても良い情報を得た。バットマンがこの事件に熱心ならば、いつか確実に彼と邂逅することが出来る。懸念事項が解消されて、クラークは少しだけ気分が上がった。

 しかし浮かれてばかりいられない。バットマンの捜査に対する姿勢が常と違うのなら、彼もダイアナと同じような良くないものを察知しているのかもしれない。人間の手に余ると予想されるそれを。

 そしてジャスティス・リーグとして、これ以上の被害を看過出来ない。人外の力が関与しているのなら猶更だ。クラークは改めて気を引き締め、店員に別れを告げ───ようとして、店員の名前を聞いていないことに気付いた。

 

「ああっ!ご、ごめんなさい!名前、窺っても!?本当は取材の最初に聞く筈だったのに」

「あ、大丈夫です」

「本当にごめんなさい。名前は基本的に匿名で、記事には決して載せませんが、念のために」

 

 年下に醜態を晒してしまい、クラークは顔が熱くなった。ものを忘れ、直ぐに慌てるのは己の悪癖である。店員に止められるまで、申し訳ないと何度も頭を下げた。

 完全に緊張感を失った店員は、ダイアナと話していた時の様な気安さを漂わせていた。どうやらクラークの大人の余裕と引き換えに、心の距離は縮まったらしい。

 

「ああ、僕の名前ですね」

 

 あまり手入れされていない黒髪の隙間から覗く暗い翡翠色が、2、3度瞬いた。

 

月光(ムーンライト)です」

 




月光「自作自演」
ゴードン「18年の歳月で警部補から本部長に昇進」
クラーク「何なんだこの事件。バットマンに意見を聞きたい」
ダイアナ「あのカフェは本当にお気に入り」
店主「儂は特に何もないんじゃよ」

つまりそういうこと。因みにゴードンさんの登場はこれ以上ないです。何ならマルティネスも出てこない。
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