夜明けを望むけものたち   作:メリケンです。

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後書きに聖歌隊ちゃんの狂気に満ちた独白があるのですが読まなくて大丈夫です。


暗闇を飲み込む狂気

「狩人、かぁ……」

 

 クラークの呟きがその場の雰囲気を重くさせる。日付が変わった深夜、クラークの泊まっているホテルの一室。少々手狭だが、ジャスティス・リーグ全員がこの場に集っていた。

 

 アーサーとバリーが邂逅した、狩人という存在。人間と評するにはあまりに人からかけ離れている彼等が、謎の殺人事件の犯人で間違いないのだろう。

 

「アーサー、傷の調子はどう?」

「全く問題ねぇな。薬だけで十分だ」

 

 逆袈裟の刀傷に薬を塗り終えたアーサーは、着替えのTシャツを身に纏っている。役に立たなくなった鱗鎧は、着替えの入っていたバッグに無造作に詰められていた。その様子を見つめる表情は忌々し気に歪んでおり、受けた屈辱を物語っていた。

 

「ふん、相手がお喋りで良かったぜ。お陰で色々と情報が手に入った」

「そうね。でも更に謎が増えたわ、驚く程に」

 

 男が残した情報を整理すると、こうだ。

 

 ゴッサムシティで起こっている謎の殺人事件は、狩人によって引き起こされた。更に突き詰めると、狩人が危険視する‘獣の病’がゴッサムシティに蔓延しつつあるのだ。

 

 ‘獣の病’と称されたそれに罹患すると、見た目だけでなく思考回路すら獣に近付く。更に瞳孔がどろりと蕩け、血に酔った状態となり、他者の血を求める様になる。

 獣の病の罹患者は血を求めるあまり他者を襲い続け、蔓延し、やがて全ての人間が獣になる。そうなる前に罹患者を殺すのが、狩人という訳だ。

 

 今まで獣の病の罹患者に襲われた者がいなかった理由は、狩人が素早く狩っていった為だろう。

 

「被害者、もとい、罹患者が多種多様な殺され方をしているのは、狩人が複数人いたためか」

「うーん、それなら納得。そういえばビクターって、聖歌隊って単語に覚えがあるんだよね?」

「……ああ、まぁ」

 

 男が誰かの罵倒を口にした際、‘聖歌隊’という単語があった。聞き覚えがあり過ぎる言葉にビクターは驚きと落胆を隠せないでいる。彼が日のあるうちに訪れた聖堂を拠点とする合唱団が、聖歌隊という名であった。

 聖歌隊、という言葉自体は何の変哲もないありふれたものだが、ゴッサムシティにおいて現在、‘聖歌隊’を名乗る合唱団は片手の指の数程であり、その中で出処の怪しい人間が運用しているとなれば1つしか当てはまらなかった。

 

「…リーダーを務めている女性は最近ゴッサムに引っ越したと聞いていたが、ゴッサムに来る前の足取りが全く掴めない。黒と見ていいだろう」

「じゃあその人も狩人ってやつなのかな。気を付けないと」

「その子に話を聞いた方が良さそうね。ちょっと手荒になったとしても、許してもらいましょう」

 

 男が同じ街にいることを嘆く程であるため、かなりの重要人物と仮定。未知の手段で抵抗する事を想定し、全員で聖堂を訪問するとした。

 正体不明、という事もあり、少女が獣の病の蔓延を引き起こしたとも仮定しつつ警戒心を強める。

 

 ───うっわ有り得ねぇ。獣を逃がすとか、現役ならマジで有り得ねぇ大失態。最悪。調子悪い。あの糞サイコ聖歌隊女の仕業だろ絶対気持ち悪りいなおい。いんのかよこの街に。処刑だ処刑──────…

 

 この言葉を信じるなら、男が本調子でないのは‘聖歌隊女’の仕業であり、それに対して男は殺意を向けている様だ。仮に、万が一、聖歌隊の少女が全くの無関係だったとしても、聖堂で張り込めば少なくとも男ともう一度会うことが出来る。

 

「出来るならバットマンにも情報を渡しておきたいと僕は思ってるけど、どう、ビクター?」

「君のスピードなら十分間に合うだろう。きっと港にまだいるさ」

「あー、でもものすごく警戒されそう。犯人は現場に舞い戻る、っていうし、犯人と疑われるかも。もう少し情報揃えてからの方がいいかなぁ」

 

 しかし、問題は狩人への対処だけではない。

 獣の病の原因。どうしてゴッサムシティで蔓延するに至ったか。

 酷似する病気は記者のクラークや永きを生きているダイアナですら記憶にない。だが男はさも昔から存在する様に語った。アーサーに対して、海に関連することを匂わせる発言もした。考えれば考える程、謎が深まる。

 

 狩人同士が敵対していることも、奇妙ではある。獣の病の蔓延を押し留めるために罹患者を殺す者同士、協力関係にありそうなものだ。だが男は他の狩人を殺すと明言し、乱入者の女は全ての狩人を狩り尽くすと豪語した。目的が見えてこず、一同は首を傾げるばかり。

 

「そういえばクラーク、貴方最初っきり話してないけど、大丈夫?」

「ん?ああ、いや。狩人、狩人…何か記憶に引っかかる気がして……」

 

 腕を組み静止していたクラークは、ダイアナの声で漸く我に返った。

 

「狩人自体ありふれた単語だろうよ。聞き覚えねぇ訳がねぇ」

「そうじゃなくて、うーん、何だっけ。こう、喉まで出かかってる感じ…」

「あ、分かるその気持ち。でもそういうときって大抵出てこないよクラークさん」

「うーん……、うん。よし。諦めよう。明日…いやもう今日か。とにかく、昼に件の聖堂に訪れよう」

 

 パン、と手を打ち、クラークは結論づけた。

 戦闘になることを考慮し、全員がスーツを着こむ事に。最初は対話を試み、戦闘となった場合はバリーとアーサー、ビクターが一般人の避難、クラークとダイアナが戦う事とした。アーサーが采配に不満を漏らしたが、護りの要である鱗鎧が使えないため、渋々と了承した。

 

 実際に狩人と戦った2人から戦闘スタイルを聞き出しつつ、クラークは再び思考の海へと沈んだ。やはり、どうも気になるのだ。

 狩人、という単語だけではない。

 

 異常な程の移動速度。

 銃と近接武器で相手を翻弄。

 獲物に対しての苛烈な殺気と執着。

 闇に融けそうな程に黒く統一された装束。

 

 獣と称し、人を狩る。

 

 殆どの特徴が、今回遭遇した狩人と一致するのだ。だがやはり情報の出処が不明だ。確か誰かから聞いた様な、気が。

 

 一般人に見つからない様に全員がベランダからこっそり出ていった後もクラークは悩み続け、結局朝日を迎えるまで眠らずにいたのだった。

 

 

     ◇

 

 

「もの凄く気分が悪いわ…」

「同じく…」

「タチの悪りぃ安酒を飲んだ翌日の気分だ」

「つまり酷い2日酔い。皆大丈夫?ビクターは問題なし?」

「恐らく」

 

 ダイアナ、クラーク、アーサーが揃って不調を訴えた。ただの体調不良の可能性を考えたが、ダイアナは半神のアマゾン族、クラークはクリプトン星人、アーサーは半人のアトランティス人であり、人間ではない者が共通しているとなると、やはり何か異常なものがこの先にあるのだろう。

 

「主戦力が皆体調不良なら、作戦を変更した方が良いと思う。俺もバリーも戦えない訳じゃない」

「…いや、問題ない。行こうか。僕とダイアナが先頭、ビクターとバリーが真ん中で、アーサーは殿を」

「任せろ」

 

 陣形を組み、聖堂を見上げてから歩き出した。やはり、見た目は廃れた何の変哲もない聖堂だ。

 微かに聞こえる歌声と楽器の音。惑わす様なそれに聞き入らないようにしながら、僅かな段差を踏みしめ大きな扉の前に立った。

 聖堂の外景と同じく古びた扉に力を入れると、見た目に反して音もなく開いた。途端に響き渡る混声合唱と、支える演奏。宇宙を望み、静かに祈りを捧げる星の娘。美しい彼女を讃える歌。聞いてはならない遥かなる神秘の讃美歌。

 

 聖堂の中はどうやら平気らしく、外で待機していた頃よりも3人の顔色がマシになっていた。

 煌びやかなステンドグラスの前で一心不乱に歌い続ける合唱団を横目に、ビクターから聞いた特徴と一致する少女を探す。

 だが、いない。ざっと見渡しただけではあるが、白い装束の少女の姿は見つからなかった。

 

「一体何処に───、」

 

 埒が明かないと、クラークが合唱を無理矢理止めて聞き出そうとした時。

 

 

「あら、そろそろ来ると思っておりましてよ?」

 

 

 音もなく閉まる扉と、その前に立ちはだかる可憐な少女。

 同時に、合唱が鳴り止む。

 

「ふふ、意外にも役に立ったと言いましょうか。それとも事件への取り掛かりが遅いと嘆きましょうか。ともかく、本当に世界を代表するヒーロー達ですか?愚かしさにも程があるというものです」

 

 コツコツと尖ったヒールを響かせながら、石造りの床を優雅に歩く。口元には笑み、手元には白い杖を携えて、驚きに固まるジャスティス・リーグの間を堂々と通っていった。

 

 否、ただ固まっている訳では無い。

 少女から漏れ出ている、異常な気配。聖堂の外で感じたものとは段違いの濃密な重み。恐ろしいまでのそれは、少女が人間でないことを明確に物語っていた。

 

 その気配を、ダイアナは知っていた。

 遥か昔。ダイアナがまだ出身島のセミッシラしか世界を知らなかった頃。遥か宇宙より飛来したその残骸(・・)が、美しいその島を冒涜し尽くしたことを。

 

 或いは、アーサーのアトランティス人としての遺伝子に深く刻まれていた。

 アトランティス人でさえ到底辿り付けぬ深海にて眠り続ける、未知なる神秘を所有する異形の冒涜神を。

 

 そしてクラークの、優れたクリプトン星人としての本能が警鐘を鳴らしていた。

 生命を須く冒涜せしめんと胎動する、歪な程に無垢な夜の星の遺志を。

 

 ただの人間である筈のバリーでさえ、吐き気にも似た胃のムカつきが治まらない。少女を直視さえ出来ず、口元を押さえて立ち尽くすばかりであった。

 

「さて皆様方。改めて自己紹介を」

 

 ある程度歩いたところでくるりと振り向き、合唱団を背にした少女は軽く指を鳴らす。

 すると、合唱団は隠し持っていたナイフを素早く構えて自らの首に当てた。音を立てて床に落ちる楽器など目もくれず、虚ろな目をしたままに。

 

「「!!!」」

 

 驚きに息を呑む。

 これ程までの異常な気配に、一般人が耐えられる筈も無く。合唱団は既に少女の支配下にあり、ジャスティス・リーグへの人質に仕立て上げられていたと瞬時に察した。

 

「医療教会の一派‘聖歌隊’の、最期の一員にございます。最早‘聖歌隊’はわたくしのみを指す言葉。美しき星の娘の涙を拭うのは、このわたくしだけ」

 

 カン、と杖の先を床に叩きつけ、笑みを一層深くした。

 

「───故にわたくし、‘星謳い’の狩人、と呼ばれております」

 

 異様な雰囲気の場を支配しているのは、間違いなく少女───の形をした、ナニカ。

 

「さぁ皆様方。気を確かにお持ちになって?折角誂えたこの場を台無しにしたくありません。交渉といきましょう。拒否権はありません。協力をしましょう。わたくしの言葉は絶対です。ただ、はいと頷きなさいな」

「交渉に、協力…?」

 

 クラークの絞り出すような声をきちんと聞き取れたのか、星謳いの狩人は微笑みを返した。

 

「はい、その通り。内容は極々単純ですから、そう身構えなくてもよろしいです」

 

 ジャスティス・リーグはメタヒューマンの集いだ。主戦力であるクラークやダイアナ、アーサーはもとい、サポートのビクターとバリーまで、たった1人で国を滅ぼしうる程の戦闘力を有している。

 生命の冒涜者、あらゆるものの天敵、少女の形をしたナニカは、彼等を使って何をさせようかを考えている。その内容は、明白だ。

 

「…まさか、僕達を操って世界を滅ぼそうと───」

「はぁ?そんな下らないことしませんけど」

「へ?」

 

 星謳いの狩人の心底呆れた声に、クラークは素っ頓狂な声を上げた。

 

「な、なら君は何をしようとしているんだ。ゴッサムシティに獣の病をばら撒いて、」

「前提から間違っておりますわ、ミスター・ストーン。お察しの通りわたくしは人間ではありませんが、それ以前に狩人です。わたくし自身が上位者となった以上、獣なんて増やす訳ないでしょうに」

「上位者?」

「その辺りの説明は追々、ということで」

 

 当たり前の様にビクターの本名を言い当て、カンカンと何度も杖を床に叩きつける。

 途端、ふっと身体が軽くなった。圧し掛かっていた重圧が一気に霧散したのだ。同時に身体の不調も良くなり、ジャスティス・リーグは一斉に臨戦態勢をとった。

 星謳いの狩人はそれを一切意に介さず、再び指を鳴らして後ろに振り向いた。

 

「先程からの態度を見る限り、皆様方には誠実な対応をした方が協力を得られると判断しました。ので、どうぞご帰宅下さいなー。まだお昼過ぎですが、本日はもう終了でーす」

 

 合唱団は指の音を合図にナイフをしまい、やはり虚ろな目をしたままに荷物を手早くまとめ、裏口からぞろぞろと出ていった。

 

「これで合唱団はきちんと自宅に帰ります、ええ。何の被害も及びません」

「は、はぁ」

「こうした方が、言う事を聞いていただけるでしょう?少ぉし遠回りしましたが、本題に入りましょう」

 

 合唱団が全員退出した頃を見計らって、咳払いを1つ。星謳いの狩人は真剣に言葉を発した。

 

「ゴッサムシティに蔓延する獣の病の撲滅、及び宇宙より飛来する上位者の撃退を、手伝ってほしいのです」

 

 

     ◇

 

 

 最初に獣の病の罹患者が発見、殺害されたのは1ヶ月半前。だとすれば異変はその付近から起こったと推測できる。

だが、彼女が宇宙より飛来した2ヵ月前には既にゴッサムシティを上位者の神秘が覆っていたという。

 

「上位者、というのは…まぁ、そういう地球外の種族だと思って下さい。得意技は生命の冒涜です」

「うわ、えぇ…?生命の冒涜って、具体的に何するの?」

「ミスター・アレン、その話は後に。詳細を話せば発狂死しかねないので」

「発狂して死ぬって何!?」

 

 星謳いの狩人はそれを異常事態と捉え、直ぐにゴッサムシティを自身の領域で塗り替えるべく神秘で覆い始めた。完全に覆い尽くした時点で協力者たる狩人と共に獣の病の罹患者を狩り尽くし、後に飛来する上位者を狩り殺す、という計画であった。

 彼女曰く、神秘で覆い尽くす間は他の狩人が一時的に弱体化してしまうのが難点だが、それ以外は完璧な作戦であったという。

 

 しかし結局、作戦は失敗に終わった。彼女の想定以上に事態は進行していたという。最早小手先では通用しない程に、深く根付いてしまっているのだ。

 

「獣の病の蔓延は、上位者が飛来…いえ、完全体で降臨するための苗床作りのようなもの。これ以上進行させてしまっては、わたくしや協力者の狩人では太刀打ち出来なくなってしまうのです」

 

 そこで目をつけたのが、ジャスティス・リーグだ。

 人間の限界を超えた身体能力を優に超えた超常的な力を持つ彼等を兵力として数え、飛来する上位者を迎え撃つ。

 

「上位者は先程のわたくしの様に、心身に異常をきたす程の強烈な神秘を放っています。わたくしはかーなーり手加減しましたが、本来は気配を捉えただけで発狂死しかねないのですよ」

「発狂死はこの際置いといて、じゃあ僕達にはどうしようも出来なくない?さっきのだって、まともに動けなくなるくらいだったのに」

「わたくしからはそれに抗う術を授けましょう」

「そんな簡単に出来んのか?いったいどうやって、何を俺等に授けんだよ」

「ミスター・ストーン、他の方は動けない程参っていたにも拘わらず、何故貴公だけは平気だったのでしょうか」

「俺、か?」

 

 ビクターに視線が集まる。

 確かに、彼女の発する神秘とやらにビクターだけは平気そうであった。全員の視線を受けながら彼は一瞬思案し、呟くように答えを口にした。

 

「…マザーボックスか」

「ご明察。ミスター・ストーン自身はただの人間でしかありませんが、融合しているマザーボックスがわたくしの神秘を防いだのです」

 

 マザーボックスとは生きたコンピュータであり、宇宙の果てにあるソースウォールにアクセスすることが出来る、夢の様な機械である。3つあるそれを揃えればどんな超常現象も思うまま、宇宙の支配者にも簡単になれてしまう代物。その内の1つが、過去のダークサイド軍勢との戦闘の果てにビクターと融合を果たしたのだ。

 

 ソースウォールとは並行世界を隔てる壁であり、同時に接続者に様々な恩恵を齎す源である。ビクターの中に息づくマザーボックスが、宿主を守ろうと働きかけたことで、ビクターのみ無事でいられたのである。

 因みに、1度目の訪問ではマザーボックスを刺激しない様にビクターのみを対象とした洗脳攻撃を仕掛けたため、ビクターは軽く洗脳されてしまい、星謳いの狩人を怪しむという思考を奪われたのだという。

 

「マザーボックスは、‘啓蒙’をミスター・ストーンに付与したみたいですね」

「けいもう…?」

「はい、‘啓蒙’です。夢にだけ存在する人形すら正しく認識できない程微々たるものですがね」

 

 啓蒙とは、正しい知識を人々に与え導くこと。転じて、新たな知識を授け、未知を既知へと切り拓く業である。

 彼女の言う啓蒙とは、即ち神秘への探求の術であり、物事の隠された本質を正確に捉えるための知識である。

 

「啓蒙は触れてはならない知識であり、上位者より大きく劣る低次元生命体が理解できる筈も無く。つまり、啓蒙を与えすぎると発狂して死にます」

「また発狂死!?」

「発狂死とは啓蒙の過剰供給によって引き起こされます。要は脳が膨大な高次元知識に耐えられなくてパンクするのです。物理的に」

「怖っ!?」

 

 星謳いの狩人から大方の事情を聴き終え、大きな溜息を吐いたダイアナが訝し気に問いかけた。

 

「話がとっ散らかってしまったから、纏めましょう。ええと…何て呼べば良いかしら?」

「お好きにどうぞ」

「なら星謳いと呼ぶわ。今ゴッサムシティでは獣の病が蔓延してて、それをしでかした上位者が今後現れるのね?」

「その通りです。本来はわたくしと協力者で狩り殺すつもりでしたが、わたくし達だけでは対抗出来ない可能性があります」

「だから私達を此処に呼び寄せて、上位者に抗うために啓蒙というものを私達に与え、戦えということね」

「その認識で構いません。共に頑張りましょう!」

「そこ、引っかかっているわ」

 

 星謳いを睨みつける様に、ダイアナは吐き捨てた。

 

「貴方も上位者なのでしょう?態々同族を殺すって訳ね」

 

 嘗てセミッシラを襲った上位者の残骸。たったそれだけでも、アマゾン族は3分の2の同族を失った。ダイアナは当時の怒りを一瞬たりとて忘れることはなく、故に目の前の上位者に最大限の警戒を露わにしていた。

 

 そんな事情を知ってか知らずか、星謳いは無邪気に笑みを浮かべて答えた。

 

「人間やアマゾン族、アトランティス人でさえ同族で殺し合っているのに、何故おかしいと思うのでしょうか?」

 

 絶句。

 

「ミズ・プリンス。貴公の過去に何があったかは大方の予想が付きますが、わたくしには一切関係のない事。そして今回の件でこの星の生命体がどうなろうとも、どうでもいい事。協力者の頼みで一般人を巻き込まないようにしておりますが、別にゴッサムシティが壊滅したって構いません」

 

 笑みを更に深くし、星謳いは高らかに告げた。

 

「同族が頑張っているところって、踏み潰したくなるものでしょう?」

 

 思考回路が別物だ。星謳いにとって地球の生命体は何処まで行っても下らないものでしかなく、自身が楽しむ為だけに行動しているのだ。

 だが───彼女のそれは、古代より知性体が持ちうる傲慢である。

 他人の不幸は蜜の味。

 他者を蹴落とすことで愉悦を見出す人間などごまんといる。理解できてしまったからこそ、ジャスティス・リーグは誰1人として反論することが出来なかった。

 

 星謳いに一般人を巻き込まないことを約束させた協力者に、心の中で感謝をした。

 

「さて、答えを聞きましょう。協力するか、否か。断れば無理矢理洗脳して使い捨ての駒に致しますが、いかがでしょう」

「…拒否権なんてないじゃないか」

「ふふ」

 

 消え入るようなクラークの言葉を肯定と捉え、星謳いは再び口角を釣り上げた。

 そう、拒否権などない。最初から、全て、彼女の掌で転がされていたのだ。

 

「とはいえ、協力していただけるのなら最大限の譲歩は致します。わたくしが持つ知識は…啓蒙を与えない程度になら全てお教え致しますし、協力者にも口添えしておきます」

「あの狩人が言った通りのクソ女だぜ、アンタ」

 

 散々虚仮にされたせいか、アーサーは星謳いに暴言を吐く。協力関係とは名ばかりの束縛に不満を通り越して殺意を抱いているのだ。

 やはりというべきか、そんな暴言でさえ彼女はどこ吹く風で、弾む声のまま再び問いかけた。

 

「ああ、皆様方が遭遇した狩人についてお伺いしたく」

「あら、てっきり彼等が協力者かと思っていたのだけど」

「残念ながら彼等はわたくしが把握出来ていなかった狩人です。ゴッサムシティにいることは分かっていたのですが、どのような者かまでは。なんせ腐っても夢に生きた狩人、私の‘内なる脳の瞳’に中々映らなくて」

「脳の瞳?また新しい言葉ね」

「千里眼の一種と思って下さい。それで、どのような狩人でしたか?」

 

 この質問には、実際に遭遇したバリーが答えた。

 

「ええと、貴族みたいな煌びやかな服装の男の人と、羽みたいなヒラヒラの服の女の人?だったよ。‘呪血’と、‘濡羽’って呼び合ってた」

「ああ、やはり‘カインハーストのイカレ血狂いマラソン廃人’と‘同族殺し獣殺しなんでもござれ糞女’でしたか。道理で獣の死体がぐちゃぐちゃの筈です」

「口悪っ」

 

 先程までの様子とは一変、忌々しい様子で悪口の芸術的な羅列を披露する星謳い。如何やら、狩人同士の仲は想像以上に険悪らしい。

 今の今まで、星謳いは呪血と濡羽を把握出来なかった。その事実が悔しいのか、周囲に聞こえる程に歯ぎしりをしていた。

 

「確実にわたくしの邪魔をするでしょうから排除しておきたかったのですが」

「物騒だな。彼等とこそ協力関係を結ぶべきと俺は思うが」

「百害あって一利なし。特に濡羽は悪名高い狩人狩りの狩人ですから、上位者より先に此方が狩られてしまいます。…ですが、背に腹は代えられませんね」

 

 溜息を吐きながら星謳いはジャスティス・リーグを見渡す。隠された瞳に全て見透かされている様で、怖気が全身を軽く蝕んだ。

 

「皆様方に最初のお願いです。呪血と濡羽を仲間に引き入れて頂けませんか。今は戦力を揃えられるだけ揃えたいのです」

 

 星謳いやその協力者が交渉に向かえば、確実に敵対し戦闘になるという。だからこそ、敵対する可能性が僅かながら低いジャスティス・リーグに任せるというのだ。

 一度交戦してしまったが、大して問題にならないそうだ。呪血は複数人で囲めば直ぐに戦闘を放棄し、濡羽は狩人と獣、上位者以外なら基本的に襲わないとのことだった。

 

 上位者なるものとの戦いは、ダイアナ以外は未知の領域。戦闘にあたり経験者は多いに限る。

 星謳い曰く、上位者が完全に根付いてしまえば、その時点で地球生命体は滅びを確約されるそうだ。人類を守るべく結成したジャスティス・リーグにとって、見過ごせる問題ではない。

 

「分かった。呪血と濡羽、2名の狩人を此方で仲間に引き入れるよう尽力する」

「有難う御座います、ミスター・ケント。上位者の具体的な撃退方法はその後に共有いたします。わたくしは皆様方が尽力している間、原因究明に勤しみます」

 

 星謳いが飛来するより以前、ゴッサムシティを覆っていた神秘。それは間違いなく上位者のものではあるが、何故ゴッサムシティに定着するに至ったか、星謳いは調べるという。

 

「では、ご武運を。皆様方に暗き血の加護があります様に」

「呪われている様にしか聞こえねぇな」

「あら、ふふふ。‘呪いと海に底はなく、故に全てを受け入れる’、ですよ?呪いと貴方の親和性は抜群、一瞬で死にますが、本当に呪いましょうか」

「…おい、その言葉…」

 

 何か言いたげだったアーサーだったが、結局は言葉を切ってそっぽを向いてしまった。

 暫定リーダーのクラークは彼のその様子を心配しながらも、声をかけずに外へ繋がる扉を開いた。後に続く仲間は皆沈んだ表情をしており、今回の件が如何に物騒であるかを物語っていた。

 

 歪な協力関係。ジャスティス・リーグは星謳いに翻弄されながらも、迫る危機に備えるために重い足を踏みしめた。

 




星謳い「麗しい娘。可憐で可哀想な美しい星の娘。わたくし、低い身分の生まれでしたので医療教会に所属する事さえ一苦労でしたが、彼女に出会った途端今までの辛い思いが全部報われたと実感いたしました!嗚呼、あの時の感動は筆舌に尽くし難いのです!白い肌、優美な曲線を描く肢体、円らなエメラルドの瞳、冒涜的なまでの触手、健気に祈りを捧げるその姿!!運命とはかくも衝撃的なものなのでしょう。変形後の石槌に打たれたような物理的な衝撃さえ覚えましたとも!ええ、ええ!所謂一目惚れです。愛を与えたくなったのです。祈りを捧げ、しかし応えるものが現れず、無為な日々を過ごすだけの娘。愛おしいとは正にこのこと!美しい娘、とてもとても可愛らしくて、愛おしくて──────1つになりたくて。だから食べました。血の一滴すら、細胞の一片すら、残さずこの腹に収めました。残念ながら味は覚えていません。でもとても幸福でした。わたくしが幸福なのですから、彼女もきっと幸福だったのでしょう。星の娘、エーブリエタース。美しい彼女と1つになり、わたくしは‘星謳い’と呼ばれる様になったのです」

えぶたそを食べて上位者になったサイコ聖歌隊女。自身より圧倒的に体積のあるえぶたそをどうやって食べ切ったのでしょうね。
ところで作者はえぶたそを本気で可愛いと思っているので悪しからず。可愛いよね、えぶたそ。

誤字報告ありがとうございました。
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