「最近、魔理沙が私を避けてる気がする」
真昼間の縁側で私はそう呟いた。
「魔理沙さんがですか?」
「そう」
短い返答と同時に寝っ転がっていた体を起こし、隣で座っている早苗と同じように私も縁側に腰かけた。
最近、魔理沙が私を避けている気がする。
以前は神社に上がり込んでは勝手に茶を沸かしてきて菓子を食べたり、賽銭箱の中身をまさぐったり、良く分からない薬を持ってきたりして
わが物顔で神社の境内を闊歩していた。慣れとは恐ろしいもので、そんな彼女の横暴さに少し積もるものはあったが、特に咎めたりすることなく私の日常として受け入れてきた。
ある時、彼女は全く来なくなった。初めのうちは風邪か何かで体調を崩しているのだろうと考え、なんとも思わなかった。
ある日、警備がてら里を散歩しようと思い、ふらふらとあてもなく歩いていた所、ばったりと魔理沙に出会った。
お互いに気づかなくてどちらも驚きの表情をしていたのを覚えている。
「あら、奇遇ね。最近...」
「ごめん!!急用を思い出した!!」
と急に駆け出してそのまま人ごみに紛れて見えなくなってしまった。呆気にとられて私は一人そのまま立ち尽くしていた。
それから彼女は、私と会うたびに何かと理由をつけてどこかへ行ってしまうようになった。
それが魔理沙との距離が明らかになった瞬間だった。
私は彼女のいない日常にどこか心のほんのひと欠けらが抜け落ちた気分になり、皮肉にも在りし日の魔理沙の様に暇を持て余しては守矢の神社に用もなく訪れるようになった。
「なんででしょうね」
「どうしてだかさっぱりよ」
妖怪退治とは勝手が違って、うまく勘が働かない。いろいろ自分なりに答えを出そうとしたが、どれも適当とは思えない。
「本人に聞いてみるのが一番早いと思いますが」
「そうだけどまともに取り合ってくれるかしら」
一方的に会話を打ち切られたり、そもそも話もせずに去っていく彼女の行動は意味不明で少々不快だったが、どうにも無理に捕まえて問い詰めても解決するようにも思えなかった。
「それもそうですね。怯える野ウサギと虎が対話出来ましょうか」
「誰が猛獣よ」
アハハと軽快な声が青空に響いた。ひゅうと吹いた快風は私の周りの湿った空気を吹き飛ばすには足りなかった。
「そう重大にお考えなさらずに。いずれ戻ってきましょう」
「あんたは気楽でいいわね」
「はい。楽天家です」
はあとため息をついてあきれて見せる。早苗は意に介さず笑顔をつくっていた。
「こうみえて結構辛いのよ...友人に冷たくされるのは」
「じゃあね」
「さようなら。お気を付けて」
短い挨拶をお互いに交わし、私は神社を後にした。
--------------
私は暫く参道を下った。足元に気を付けながらも私は魔理沙の事をずっと考えていた。
なんでだろう。私、なにかしたかな。
いつか慣れるだろうと過去の私はそう思っていた。どうにも日に日に心の穴は広がっているようでちょっとした合間にも彼女の事を考えてしまうようになった。
このままずっと続けばおかしくなってしまいそうだ。一人でいると余計に心が蝕まれるようで、一歩一歩下るたびにどんどん穴は大きくなっていった。
やっぱり魔理沙に聞いた方が早いかな。
いや、無理に聞き出そうとすると、もしかしたら彼女を傷つけるかもしれない。
でもこのままの関係で納得できない。
グルグルと巡る思考の螺旋階段。先の見えない階段はあっちともこっちとも結論の出せないままの私を下へ下へと。
トボトボ道を歩いていると、いつの間にか博麗神社の石階段にたどり着いていた。
俯きながら私は階段を登りきると
『あ』
二人の声が重なった。やはりお互いに驚いた表情をした。
「魔理沙...」
友人の姿に安堵を覚えて思わず彼女の名が口をついて出てきた。
「...」
しかし彼女はぐっと口を一文字に結んだままだった。やがて口を開き
「話がある」
と一言。まっすぐ私の方を、少し不安気ながらも彼女の瞳は見つめている。おそらく
向こうから切り出してくれてこれ幸いと感じたが、今の私に取り合える話なのだろうかと思った。だがわざわざ彼女の方から決心してくれたのだ。
無下にはできない。私の答えは初めから決まっていた。
「わかった」
私も彼女に同じように見つめ返した。
続きます